フィジーク・オンライン

クリーン・アンド・ジャーク

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1969年6月号
掲載日:2018.02.19
記事画像1
記事画像2
記事画像3
東京オリンピック・フェザー級4位
福田 弘
記事画像4
 重量あげ3種中、最も体力と気力を要する種目であり、最も重い重量をあげられるのが、このクリーン・アンド・ジャークです。競技の勝敗を決する最後の種目でもあり、競技の盛り上がりをみせ、観衆を興奮させるのもクリーン・アンド・ジャークです。

 この種目の成否で逆転勝ち、逆転負けのエピソードを生み、名勝負の思い出には必ずクリーン・アンド・ジャークの激烈なせり合いが浮かんできます。

 東京オリンピック大会の時のバンタム級でソ連のワホニンが142.5kgの世界新をあげ、ハンガリーのフェルディに逆転勝ち、ライト級はソ連のカプルノフが激しくポーランドのバシャノフスキーに追いすがり、167.5kgに失敗し体重差で惜しくも負ける。へビー級では本命であるソ連のウラソフを同じソ連のザボチンスキーが217.5kgの世界新をあげ番狂わせの逆転勝ち、等々は日本の重量あげファンの脳裏にはっきり刻まれていることでしょう。

ルールと反則

 運動々作としてはバーベルをオーバー・グリップ(フックしてもよい)で握り、一気に引きあげ両脚を前後に開くか、曲げるかして胸、鎖骨辺りにのせ、普通は一度直立し、胸、鎖骨辺りにのせたバーベルをひざを曲げ全身の反動を利して両脚を前後に開くか、曲げるかして頭上にあげ、両腕を頭上に伸ばしたまま、両足を同一線上に戻し静止して、レフリーの「ダウン」の合図によりバーベルをおろす。

 反則としては、両足以外の体の他の部分が床に触れた時、バーベルを引きあげる際体のどこかに触れた時、明らかにさしあげようとして胸上からバーベルが離れジャークを中止した時、さしあげる際両腕の伸びが不均等であったり、おしあげる動作があった時、最終姿勢に戻す際、一たん伸ばした両腕をゆるめた時、ジャークを反復した時等があります。

 プレス、スナッチの項と一部重複しますが、3種目の共通した反則及び注意としては、レフリーの「ダウン」の合図前にバーベルを降した時、レフリーの「ダウン」の合図後にバーベルを後方に落した時、レフリーの「ダウン」の合図後に故意に頭上又は胸上よりバーベルを放し床上に落した時は、その試技は無効になり、これを再度くり返した時は退場を命ぜられる。

 競技者として不適当な態度をとる者、大声で異議を唱える者は注意され、2度目の注意で退場させられる。それが侮辱的内容であった時は即時除外される。クリーンをする時バーベルが胸にのせられない者(肘がよく曲らない者)、肘がよく伸びない者は事前にレフリーに申し出る事。

 クリーン・アンド・ジャークの反則では他の種目同様ひきあげる際脚部、腰部に触れるリフターが多い。ルールからすれば反則であるが、実際ほとんど反則をとられていない。それと時折みかけることでリフターがジャークしようとして胸上からバーベルが離れていないうちに、一度中止してジャークしなおそうとしてレフリーに「ダウン」を命ぜられたり、逆にジャークしようとして胸上からバーベルが離れたにもかかわらず、レフリーが「ダウン」の合図をしないで成功したりすることがある。このようなことはレフリーの勉強不足でありよく研究して公正な判定をすべきである。

トレーニング法の参考

 クリーン・アンド・ジャークを強化するには、クリーン(ひきあげる)する力と、立ちあがる力と、ジャーク(さしあげる)する力がバランスよく発達していなければなりません。特に要求されるのが強力な脚力であり、クリーン・アンド・ジャークの強弱を決定する重要な要素であるといっても過言ではないでしょう。

 クリーン・アンド・ジャークの得意なリフターは大抵強力な脚力を持っており、メキシコ・オリンピック大会でバンタム級ジャーク150kgの世界新を樹立して優勝したイランのナシリは、220kgのスクワットを行い、ライト級の強剛バシャノフスキーは170kgの世界記録を保持し、スクワットは220kg以上行う。

 ミドル級の〝怪物クレンツォフ〟はメキシコ大会で187.5kgの驚異的な世界新を樹立したが、スクワットでも240kgとかなり強力な脚力を持っている等クリーン・アンド・ジャークの得意なリフターには常に強力な脚力の話題があります。

 勿論脚力が強ければ絶対に優秀なクリーン・アンド・ジャークの記録を収められるとは限らず、ひく力、ジャークする力も必要である。しかしよく考えればひく時も、ジャークする時も脚は常に重要な働きをしている事が分かると思います。

 脚力の強化法に関しては近年多角的にトレーニングされるようになり、スクワットを行う以外に、ダッシュ、立巾とび、ジャンプ等フィールド・トレーニングが行われるようになり、脚部の瞬発力を養成する事が盛んになっている。

 背筋群の強化には、ハイ・クリーンスクワット・クリーン、ハイ・プールハイ・デッド・リフト、等が良く行われるが、軽量で素早く行うグッド・モーニング・エクササイズも背筋の瞬発力養成にとり入れられている。

 挙上力、支持力を養成するには、プッシュ・ジャーク、プッシュ・プレスバック・ジャーク等がよく行われている。このようにクリーン・アンド・ジャークは多角的に強化しなければならないので、クリーン・アンド・ジャークを分析して行っているリフターが多い。少なくともスクワット・クリーンとジャークとに分けて行うのが一般に多い。

 一般にクリーン・アンド・ジャークはかなりの体力、気力を要するため疲労感が大きく、この点分析したトレーニング法は疲労感が減じられる割に効果が望めるように思える。お分かりのようにクリーン・アンド・ジャークは多角的にトレーニングしなければならず、トレーニング法又はトレーニング種目の選択は各人の長所を伸ばすか、欠点を補うかによっても変えなければならない。

 ここで紹介するトレーニング・スケジュールはクリーン・アンド・ジャークの強化のためのもので、特に長所も欠点も無いような平均的なリフターのトレーニング・スケジュールと思ってください。ベスト記録130kgとしたもの

① クリーン・アンド・ジャーク 60×3 80×2 90×2 100×2 110×2 120×1 125×1×2
② ハイ・デッド・リフト 100×3 110×3 120×3 130×3×2
③ プッシュ・ジャーク 80×3 90×3 100×3 110×2 115×1×2
④ スクワット 80×5 100×3 110×3 120×3 130×3 140×3 150×3 160×1
⑤ フロント・スクワット 80×3 100×3 110×3 120×3 130×3×2
⑥ 巾とび、ジャンプ、ダッシュ等適当に行う。

 このスケジュールはかなりきついものですので、連日行うようなものではありません。このスケジュールに限らずどんなリフターでも激しいトレーニング日、中程度のトレーニング日、軽いトレーニング日と変化を与えるべきです。そして過度の疲労をさけるよう疲れを感ずる日及びトレーニング中に疲労を感じたりした時はトレーニングを中止すべきです。

 クリーン・アンド・ジャークの補足技術としてはひざ、股関節の硬いリフターはかかとの高目のリフティング・シューズを用い、柔軟なリフターは低目がよい。クリーンしてスクワットした時両足の巾は広すぎても、狭すぎてもいけない。そしてつま先が外を向きすぎても並行になりすぎてもいけない。

 経験的に自分に適したものを選びバランスをとり筋力を有効に使うとよい。ひざ、股関節の硬いリフターはスクワット・クリーンの際多少不利になるので出来るだけ柔軟にするよう心掛ける。肩の硬いリフターも同様に挙上を容易にするために柔軟にするよう心掛けること。クリーンする寸前にあまり大きく呼吸すると目まいを起しやすい。

 尚脚力養成に参考になると思われるもので中共選手のトレーニング法の一部で次のような方法も面白いと思います。スクワットを行う際、両足の巾を広く保つ。逆に狭く保つ。つま先を外に向けて行う。逆に内側に向けて行う。このように単純な方法で脚部の筋肉を多方面から強化するのも以外と効果があるかも知れません。

 ランニングやマラソンは持久力の養成として行うよりリフターはむしろ脚部の刺激転換に行った方が良いのではないかと思われる。つまりリフターとしての持久性は3種目及び補助トレーニングの時間内に養成されなければならない性質のものであり、ランニングやマラソンの持久性とは異っている。そのためランニングやマラソンを行って持久力を増そうとするよりは、重量負荷の刺激に慣れている脚部の刺激転換に利用した方が適切と思われる。(一般に気分転換といわれるが、これは精神的なもので、ここでいう刺激転換は肉体的な転換と思って頂きたい)
ミドル・へビー級 パリンスキー選手(ポーランド)のジャーク

ミドル・へビー級 パリンスキー選手(ポーランド)のジャーク

月刊ボディビルディング1969年6月号

Recommend