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重量あげ3種目のトレーニング法(1)

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月刊ボディビルディング1969年7月号
掲載日:2018.04.28
福 田 弘
記事画像1
 前号まで3種目について述べてきましたが、重量あげはあくまで3種目から成っている以上、3種目を合理的に強化させななければなりません。そこで今月からは3種目のトレーニング法と記録向上に関して、初心者、中・上級者に分けて述べたいと思います。

初心者のトレーニング法とその注意点

トレーニング・スケジュール例
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 従来、初心者は基礎体力を養成してから3種目の技術に移れとよくいわれていますが、必ずしもそのようにしなくても良いと考えられ、むしろ初心者は妙な癖をつけないうちに、3種目の挙上技術を一応マスターすべきではないかと考えられます。

 というのは、3種目の挙上技術を学んでいるうちにある程度挙上力も強化されるものであり、基礎体力と3種目技術向上が別個のものではなく、むしろ3種目技術をマスターしながら得た体力は最も3種目に必要なものである筈だからです。

 そして逆説的ないい方になりますが3種目の基本的技術のマスターと、それにより得た体力こそ基礎であり、それからは自分に合ったより高度な挙上技術、体力を養成するトレーニング法を実践、研究するのが順序であるといえると思います。

 しかし基礎体力の養成が先か、3種目技術のマスターが先か必要以上にこだわることはありません。ただここでいいたいことは、基礎体力養成にこだわっても記録向上に思うような成果は望めず、却って遠回りになり得るということです。尚、初心者が3種目技術をマスターするに当っては、正確な動作を身に付けることが難かしいので、ある程度の経験者に指導してもらわなければならない。

3種目技術の基礎的注意点

 プレス
 ○握り幅は肩幅か、それよりやや広目。○初心のうちはミリタリー・プレス以外は行なわない。○極端なバック・ベンドは行なわない。○押し上げる際真直ぐに最短距離で上げる。○肩、腕部の筋力だけでなく全身の筋力を使うように心掛ける。○正確な動作でくり返し、いい加減なプレスは行なわない。○反動はつけない。

スナッチ
 ○握り幅はプレス、ジャークより広く、引きやすく、頭上で支持しやすい幅で。○初心のうちは軽量にて動作をマスターすること。○引きあげる際は腕に必要以上に力を入れないで体にできるだけそわせて行なう。○素早く引きあげる。○充分に引いたら素早くバーベルの下に体を入れる。○バーベルの下に体を入れた瞬間から立ち上がる間のバランスをマスターすること。

ジャーク
 ○握り幅は肩幅かそれよりやや広目。○スクワット・クリーンの際できるだけ体にそわせて引く。○スクワット・クリーンに必要なだけ充分引き上げ素早くバーベルの下に体を入れる。○ジャークを行なう際手先ではなく、全身、特に足、腰を充分使うよう注意する。○前、後開脚姿勢をマスターする。○バーベルは真直ぐつき上げる。

その他
 ○3種目共通の注意として、引き上げる際は常に体にそわせて引くこと。○プレスはオーバー・グリップ。○スナッチとジャークはフック・グリップで行なうと良い。○補助種目のスクワットを行なう際腰を充分下げ運動中は背中を丸めない。

トレーニングに関する注意
 ○トレーニング頻度は週に3回、1回につき1時間半程度。○トレーニングの1時間前後は食事はしない。○セット間の休息は2~3分程度又は呼吸が平静になるか、意欲がわくまで。○準備運動は関節部分を充分動かすことを念頭に入れ適当に行なう。○いきなり重い重量は使用しない。○ベスト記録の試みはいつでも良いが、週に1度程度で充分。○疲労している日はトレーニング中止。トレーニング中疲労感があまり強くなった時はトレーニング中断。○トレーニング用具は着衣を含め清潔に○運動中プレートが外れないよう、油類がシャフト、プレートについてないか、及びカラーがしっかり締めてあるか注意する。○周囲の人に怪我をさせないよう注意する。○挙上中は真剣に。○極端な無理はしない

日常生活における注意点
 ○食事に関しては特別に気を配ることもないが、ある程度栄養価を考慮すると良い。○睡眠は8時間程度は必要。睡眠不足はさけること。○トレーニング日記をつけること。

 上記のようなものが初心者に対する注意点です。他にもまだまだあることでしょうが、基本的にはこの程度でよいでしょう。

 尚上記のトレーニング・スケジュールもあくまで一例であり重量、回数、セット数等この通りにする必要はありません。又3種目、スクワット以外にフィールド・トレーニング(ダッシュ、ジャンプ等)も適宜行なうと良いでしょう。

中、上級者のトレーニング法とその注意点

 中、上級者ともなると各自に合ったトレーニング法を用いなければならないが、この位になると一応自分なりのトレーニング法になっているので特にトレーニング・スケジュール例は記さず、参考になれば幸いと思う点を記したいと思います。

 中、上級者(経験3~4年でかなり優秀な成績を収めているリフターを対象とする)にとって問題なのは、この位になるといわゆる記録の伸び悩みというか頭打ちというか、要するに記録を破ることが困難になる時期です。

 重量あげ競技では経験3~4年目位からが本当に難かしくなります。「石の上にも3年」という諺がありますが、重量あげも同じようなもので、3~4年間一生けん命トレーニングを続ければ、一応のリフターになれるものです。しかし1人前になってからそれ以上になることーーそれが難かしいのです。

トレーニング法の参考

 トレーニングとは何か

 トレーニングとは何か。少々突飛に聞えると思いますが、実は案外充分には分かっていないのです。

 さてそれではどのようなものかというと、トレーニングで最も重要なのはくり返しであること。そして負荷量(重量、回数、セット等)の質の問題であることです。さらに忘れてはならないのは負荷量に対する肉体的、精神的な抵抗です。いくら負荷量が決定されても肉体的、精神的な抵抗をさして必要としないような軽度のものでは不充分であるし、逆に抵抗できないような強いものでも勿論いけない(抵抗できないようなトレーニングは実際には行なわれない)。

 つまり、ここで考えて欲しいのは単に漠然とマンネリ的トレーニングを行なうのは中、上級者の向上を妨げるものであり、トレーニングは何故するのかという単純な疑問を持ち、トレーニングの意義を研究することにより、一段と進歩したトレーニング法を創意工夫できるということです。


 特性を生かし、欠点を改めること

 3~4年も経験をつめば自分のリフティングの長所、短所が充分わかっているものです。しかし欠点を改めようとするリフターは意外と少ないものです。絶対矯正不可能な欠点は兎角可能な限り矯正すべきです。少なくとも筋力の欠ける部分は絶対強化しなければなりません。勿論技術的な欠点を矯正するのはいうまでもありません。

 日本のリフターは欧米リフターより上体が弱い

 日本のリフターは欧米リフターに比ベ足、腰は劣らないが上体はやや弱い。しかしこれは先天的なものとは考えられない。恐らくトレーニング法の差異によるものと考えられる。

 実際日本のリフターのトレーニングをみていると上体強化の補助トレーニングが実に少なく、時には全く行なっていないリフターさえいる。日本のリフターはもっと上体強化法を研究すべきであると考えられる。


 最も重要なのは脚、腰の鍛錬

 上体の強化は日本のリフターの弱点矯正の意味で必要と考えられるが、やはり最も重要な鍛錬部分は脚、腰である。3種目いずれを行なっても脚、腰は常に重要な働きをしている。

脚、腰を強化するにはスクワットが代表的であるが、一般にスクワット・クリーンの際フル・スクワットの位置から立ち上がらなければならないので、スクワットとして行なう場合はハーフであってならない。


 「科学的」という言葉にこだわるな

 東京オリンピックの時選手強化のために科学が取り入れられるようになりましたが、その後科学的トレーニングという言葉が流行し、科学的なトレーニングを行なえば記録が向上するかのように考えられていますが、果して科学的という言葉をどのように理解しているのか疑問である。

 私の知る限りでは、いわゆる科学的トレーニングは少なくとも開発中の段階に過ぎず、せいぜいいえるのは合理的トレーニングと思われる程度でしかない。しかし科学的なものが無用というのではなく、こだわらない程度に科学的なデータをもとに科学的に考えることは必要である。

 トレーニングして記録を伸ばす人体そのものさえまだ知り尽されてはいないのです。現在間違いなくいえるのは「飽くことなく熱心にトレーニングすること」この言葉の方がはるかに信頼できるものです。
月刊ボディビルディング1969年7月号

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