肉体美の研究 プロポーションについて
-プロポーションとは-
しかし、いくらわれわれの身長が急速に伸びているからといっても、まだそこまで日本人は実際に到達しているわけではない。現実には、せいぜいスタイル・ブックの中の女性か、マネキン人形くらいのものである。
ところでこの頭身美人というのが、実はプロポーションのことなのである。美術解剖学や生体学でプロポーション(Proportion、比例)というのは、「からだのある部分の長さを基準としてその基準と身長との比を求めたもの」である。基準になるものはいろいろあり、それを頭(頭高)にした場合だけがX頭身というのであって、たんに、プロポーションが良いといった場合にそれをただちにX頭身の比例をもった人と考えるのは間違っている。したがってプロポーションを考える場合には常に何を基準にしているかを確かめなくてはならない。
古代エジプト時代には、手の中指の長さが基準として用いられたし、また、ギリシャ時代には手のひらの幅が用いられている。後のルネッサンス時代にフランス人のクウザンが鼻の長さ(鼻高)を基準にし、また19世紀にドイツ人のツァイジングは、へその位置を基準にして、へそからかかとまでと頭頂までの間に黄金率が成立することを指摘している。
このように、頭や手や足などいろいろな部分が基準として用いられているが、西洋では美しい人体比例を求めるためにプロポーションが考えられている。これに対して中国では、灸や鍼のためや、仏教像をつくるためのプロポーションが考えられている。
しかし、プロポーションは、たんに長さだけにあるのではない。量や重さについても同じ比例関係が成立するのであり、度量衡のすべてにわたらなければならない。前述したように、普通そのうちの長さ(尺度)のみが取り出され、美しさとの関係について述べられている場合が多いのである。
リシッポス作「汗を拭き取る青年」(8頭身像)
-頭 身 指 数-
8頭身美人といわれるように、一般に8頭身が美しいと思われているかもしれないが、けっしてそうときまっているわけではない。
古代ギリシャの古典期(B.C.5世紀)には、7頭身が最も美しいとされ、ポリクレイトスの槍持ちの像(3月号掲載)がその代表的表現だとされている。しかし、それからわずか1世紀後の爛熟期になると、美の理想も8頭身へと移り変わる。リシッポスの汗を拭取る青年の像が、その8頭身の美を表現している。有名なミロのビーナスも、この文化的影響を受けて、頭身指数が大きく優美に表現されている。
西洋ではこのように美の理想がプロポーションに影響を与えたのであるが現実にはプロポーションの変化は、年令や性別や人種等によっても異なってくる。
(1)年令
人間でも他の動物でも、子供はたんに大人を小さくしたものでないことは誰にでも一目でわかるだろう。生まれたばかりの赤ちやんが最も少なく、成長するにしたがって増加する。
満1才の男児-4頭身
満4才の男児-5頭身
満9才の男童-6頭身
満16才の少年-7頭身
満25才の青年-7.5頭身
(ポール・リッシェ博士による)
(2)性別
男女別でいうと、どこの人種でも男性の方がいくぶん背が高く、したがって指数も多い。
(3)人種
西洋人と日本人とでは、もちろん背の高い西洋人の方が指数が多いが、中でも北欧系の人種が最も多いと思われる。しかし、その限度は8頭身までであろう。アフリカには背の非常に高い人種と、低い人種がいるが、ホッテントットやブッシュマンのような人種では6.5頭身前後であろう。
I嬢のプロポーション
-頭身指数と美的効果-
多い場合は、非常に背が高くなるから、垂直の方向への美的効果が大きくなり、スムーズですらりとした感じを与える。優美ではあるが、その反面、繊細できゃしゃになり、力強さに欠けることになる。
少ない場合は、反対に背が低くなるから、がっちりとした力強さを与えることになり、女性や子供の場合には豊満でかわいくなるのである。
7.5等身のプロポーション(リッシェによる)
-美しいプロポーション-
したがって実際には、何頭身目が身体のどの部分を通過するかが問題であり、それが良いと頭身指数が少なくても美しいプロポーションになりうるのである。
フランスの美術解剖学者リッシェは西洋人の平均を7.5頭身におき、その比例図を示している。胴長(頭頂から尻の下端まで)は4頭身、脚長(床から尻の中央まで)は同じく4頭身、腕長(指先から肩まで)は3頭身、肩幅は2頭身となっており、また、各頭身目は次のような部分を通過する。
第1頭身目-あごの先
第2頭身目-乳頭
第3頭身目-へそ
第4頭身目-しりの下端
第5頭身目-大腿下部
第6頭身目-下腿上部
第7頭身目-くるぶし
第7.5頭身目-床
-日本人の平均的なプロポーション-
つぎに日本人男子の平均に近いと考えられる7頭身のプロポーションを示す。これは美術解剖学者の西田正秋氏の作図を模写したものであるが、ポリクレイトス作の槍持ちの像を基準にしているので、一般の推計学的平均値とは一致しない。身体の中央の3.5頭身目は骨盤の恥骨結合部にあたるが、この部分が3.5頭身目より上になると脚が長くなり、反対に下になると脚が短くなる。各頭身目はつぎのような部分を通過する。
第1頭身目-あごの先
第2頭身目-乳頭
第3頭身目-へそ
第4頭身目-手の親指のつけ根
第5頭身目-膝頭上
第6頭身目-下腿中央
第7頭身目-床
前述のリッシェの7.5頭身とこの西田氏の7頭身を比較してみればすぐわかるが、頭身指数が多くなるにしたがって、脚が長くなる傾向にある。そして8頭身では、ますますこの傾向が強まって、腕や脚が非常に長い。すらりとした感じになるわけである。
7頭身のプロポーション(西田氏による)
-ボディビルダーとプロポーション-
したがって、ボディビルダーの場合にも、常に筋肉の発達に注意して、屈筋と伸筋との発達の割合、胴においては肩・胸・腹・臀部のプロポーション、また、腕や脚では、上腕と前腕、大腿と下腿というように部分と部分の比例を考えるとともに、それがまた、全体的にどのようなプロポーションを保っているかを知らなければならない。そして、美しいプロポーションを保つためには、どの部分の筋肉を改善しなければならないかによって、トレーニングのやり方も考えなければならないことになる。
一般的に初心者のうちは、目立つ筋肉を強調しがちであるが、常にプロポーションに注意して筋肉の調和的発達をはからないと、肉体の必然性からかけはなれた、いかにも取ってつけたような身体になってしまう。
では、優秀なボディビルダーは、いったいどのようなプロポーションの持ち主であろうか。残念ながらコンテストや写真でその美しい肉体を観るだけで、資料に値するものはほとんど残されていない。実際には鏡を利用して、自分の目を頼りにトレーニングを行なうことができる。また、美的感覚のすぐれている経験者にときおり観てもらうとなおよろしい。それにしても、正確な数値が残されていないのがいかにも残念である。
つぎに、その乏しい資料の中から一例をあげるが、まあおよその傾向を知るのには役立つかも知れないと思う。
アーノルド・シュワルツェネガーのプロポーション。約7.7頭身で8頭身に近い
◇日本とアメリカのボディビルダーの形態値
この表の数値は、日本のビルダーについては1970年度ミスター日本上位入賞者5名の平均値、アメリカはAAU主催の1964年から1968年までの5名の平均値である。(資料はボディビルディング誌およびJ・Raschによる)#midash◇日本とアメリカのボディビルダーのプロポーション
この表は身長に対する比を求めたものである。アメリカのビルダーでは首位と上腕囲と下腿囲がともに身長の約1/4であり、胸囲が腹囲の1.5倍以上になっているのが特徴である。
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