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世界のビルダー●トレーニングの比較④ 腕のトレーニング

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月刊ボディビルディング1971年7月号
掲載日:2018.03.10
高山勝一郎
 太い腕は男性美の象徴である。

 上腕の太さが22インチ(56センチ)のアーノルド・シュワルツェネガー、20インチ半(52センチ)のデイブ・ドレイパー等々欧米のビルダーには腕の逞しいのが非常に多い。

 とくに腕の種目を重ねなくても、他の部位のトレーニングをしていたら、腕の筋肉も自然についてきたというボイヤー・コーのように羨ましいケースもあるが、たいていのビルダーは、この腕に必死の鍛練を加えるのだ。

 腕には、手根伸筋、同屈筋、深指屈筋等のややこしい筋肉群があるが、大別すれば上腕二頭筋・同三頭筋・前腕筋・手首の四部門からなるとみてトレーニングを行なえばよいと彼等はいう。それでは、とくに腕の太さでは定評のある欧米のビルダー10名ほどを選んで、ここにその練習法を公開することにしよう。

-デイブ・ドレイパーの“白い枕カバー”-

 ドレイペーの腕は、彼が練習を開始しはじめた頃「白い枕カバー」と仇名されていた程ブクブクで、脂肪を皮がつつんでいるという状態だった。

 彼の体で一番きらっていたこの部分が、やがて彼の最大のトレードマークとなったのだから皮肉である。

 彼は上腕二頭筋と上腕三頭筋を日をわけてトレーニングするが、通常時では、それぞれ3種目ずつをトライ・セット(3種目を1セットずつ続けて行なうやり方)に組み、8セットくり返す。また、集中時では、二頭筋に4種目、三頭筋に4種目をあて、それぞれスーパー・セット(2種目ずつ組む)を2組構成し、8セットずつ行なうというやり方を採用した。

 通常時の種目は次のようである。

◇上腕二頭筋
① スタンデイング・オールターニット・カール

 ダンベルを手首をそらせて持つことにより、効果が二頭筋に集中的におよぶように工夫している。

② ツーアーム・ダンベル・カール

 両手を同時に上下させるが、手のアングルを各セットごとに変える。

③ スタンディング・パーべル・カール

 最大重量を用い、動作の一時期にチーティング(体の反動を使って上げる)が入る。


◇上腕三頭筋
① フレンチ・プレス・ウイズ・ダンベル

 肘を動かさぬよう固定して行なう。

② ラットマシーン・プッシュダウン

 ラットマシーンのグリップを垂直に引き下ろすが、その時上腕部は体側に固定しておくこと。

③ バーベル・トライセップス・エクステンション

 ベンチに寝、グリップを肩巾より狭く持ってゆっくり行なう。

 回数は各種目とも8回前後である。
トレーニングにはげむデイブ・ドレイパー

トレーニングにはげむデイブ・ドレイパー

-二頭筋はカールが第一-

 上腕二頭筋を鍛えるには、カール種目が何よりとすすめるのは、シュワルツェネガーであり、ビンス・ジロンダであり、フランコ・コロンボである。

 カールには、そのバリエーションとして十数種目が含まれる。

 その中で何が一番効果的だろうか。シュワルツェネガーとジロンダは、それはプリーチャー・ベンチ・カールだと断言する。

 プリーチャー・ベンチは、別名スコット・カーリング・ベンチと呼ばれ、肘をのせるインクライン・ボードのついた台を指すが、これにはスタンディング用とシッティング用があり、後者の方がより効果的だという。

 これを同一の高さでやると、一部にしか効かないので、高さと斜角を変えて行なう必要がある。

 シュワルツェネガーの二頭筋種目は

① スタンディング・バーベル・カール

② シーテッド・ダンベル・カール

③ コンセントレーション・カール

④ プリーチャー・ベンチ・カール

 の4種目である。

 これを7セットから8セット行なうが、いうまでもなく、上腕三頭筋には別に4種目をあて、同じ日に二頭筋につづいて行なっている。

 ところが、上腕二頭筋に効くのは何もカールだけではないと反論するのがターザン・ヤコブである。

 彼も50センチの上腕をほこるべテラン・ビルダーである。

 彼がカール同様、あるいはカール以上に効果があると認めるのは、チンニング、ローイング・モーション、プーリー・ウェイト等で、この場合グリップは当然逆手(リバース・グリップ)となる。

 ターザン・ヤコブの二頭筋種目は

① チンニング 10回5セット

② バーベル・カール 10回5セット

③ インクライン・ダンベル・カール 8回5セット

④ コンセントレーション・カールまたはスタンディング・ロー 10回5セット

-フランコ・コロンボはチーティング多用-

 腕角力の世界チャンピオンになるのが夢というフランコ・コロンボは、ウェイトを1ヵ月に5キロずつ増加して、腕囲が1センチずつ太くなっていくことを経験している。

 もしバルクを望むなら、自分に可能な最大重量に挑戦すべきであり、またその最大重量は当然日をおって増えていくべきであると彼は力説する。

 上腕二頭筋を週2回。三頭筋を週2回、日をちがえて鍛練しているが、二頭筋だけでも次のように6種目各5セットと相当な練習量である。

① リバース・カールバーベルを用いリバース・グリップでゆっくり胸へカールする。

 前腕にも効果がある。

② チーティング・ハンド・カール

 最大重量のバーベルを中間グリップでにぎり、上体をわずかにふってチーティングし持ち上げる。

③ シーテッド・ダンベル・カール

 重いダンベルでやはり軽いチーティングが入る。

④ コンセントレーション・カール

 前かがみになり片手ずつ行なう。

⑤ インクライン・ベンチ・カール

 スティーブ・リーブスも好んでこの種目を行なった。最大重量のダンベルで肘を動かさず行なうこと。

⑥ プリーチャー・ベンチ・カール

 前述。これはラリー・スコットの好んだ種目でもある。

 回数は各種目とも8回である。
“白い枕カバー”といわれたドレイパーの腕は、今や彼最大のトレードマークとなった

“白い枕カバー”といわれたドレイパーの腕は、今や彼最大のトレードマークとなった

-ラリー・スコットは前腕重視-

 ラリー・スコットは、上腕に6種目前腕に5種目を採用し、比較的弱かった前腕筋をとくに重視していたようである。

 彼の前腕鍛練は次の5種目を5セット平均で続ける。

① バーベル・リスト・カール

 ベンチの後に膝をついて座り、ベンチに両手の肘をのせて手首だけでバーベルをカールする。

② ダンベル・リスト・カール

 ①と同じ姿勢。ダンベルをアンダー・グリップで握り手首の力で上げる。

③ リバース・バーベル・リスト・カール

 ①と同じ。グリップだけが逆手(オーバー・グリップ)となる。

④ リスト・ロール・アップ

 壁にセットされたリスト・ロール・マシーンを廻す。

⑤ レバレッジ・バー・ムーブメント

 ダンベル・シャフトの一方にウェイトをつけ、片手ずつ交互に、手首を使って上下させる。

 彼の上腕トレーニングは参考までに種目名をあげるにとどめる。

◇上腕二頭筋

① シーテッド・ダンベル・カール

② シーテッド・バーベル・カール

③ プリーチャー・ベンチ・カール

 またはシーテッド・リバース・カール

◇上腕三頭筋

① ライイング・トライセップス・プレス

② ウォール・プーリー・トライセップス・エクステンション

③ ワンアーム・リアー・エクステンション
ラリースコットは、比較的弱かった前腕筋をとくに重視してトレーニングをした(リバース・バーベル・リスト・カールで前腕を鍛えるスコット)

ラリースコットは、比較的弱かった前腕筋をとくに重視してトレーニングをした(リバース・バーベル・リスト・カールで前腕を鍛えるスコット)

スタンディング・バーベル・カールで上腕を鍛えるシュワルツェネガー

スタンディング・バーベル・カールで上腕を鍛えるシュワルツェネガー

-二頭3種目・三頭3種目-

 ラリー・スコットがそうであったように、上腕二頭筋に3種目、三頭筋に3種目を採用しているビルダーが多くいる。

 クリス・ディカーソン、J・グリメック、フランク・リチャード、デイブ・ドレイバー等々枚挙にいとまがない。もちろん、腕に6種目というやり方は通常時のもので、これが集中時ともなれば、それぞれ5種目ずつに前腕部4~5種目の計15種目ぐらいにはなるのである。

 英国の生んだミスター・ユニバース、フランク・リチャードは

◇上腕二頭筋

① バーベル・カール 8回8セット

② コンセントレーション・カール 12回4セット

③ ナロー・グリップ・カール 10回6セット

◇上腕三頭筋

① トライセップス・ケーブル・エクステンション 10回6セット

② トライセップス・プレス 8回8セット

③ チェア・ディップス 10回6セット

 という計6種目。セット数は結構多い。

 往年の巨人ジョン・グリメックは、彼の最盛時において通常次の6種目を採用、必要に応じて他のカール種目やトライセップス・エクステンションを加えたという。

◇上腕二頭筋

① バーベル・カール

② ダンベル・カール

③ ケーブル・カール

◇上腕三頭筋

① ワンアーム・ケーブル・ストレッチ

② ワンアーム・ミリタリー・プレス

③ フレンチ・プレス

-二頭4種目・三頭4種目-

 2種目ずつをスーパー・セットに組むとなるとどうしても各4種目から6種目必要となる。米国若手ビルダーのホープ、カール・スミスは、次の4種目ずつを3スーパー・セット行なっている。

 レピティションは各々8回である。


◇上腕二頭筋

① インクライン・ダンベル・カール

② シーテッド・ダンベル・カール

 (交互に運動)

③ プリーチャー・ベンチ・カール

④ リベース・グリップ・カール

◇上腕三頭筋

① ライイング・トライセップス・エクステンション

② フレンチ・プレス

③ ラットマシーン・プッシュダウン

④ タオル・プル

 (パートナーに後から引っばって貰って行なう)

 ボイヤー・コーも、4種目ずつ(2スーペー・セット)か5種目ずつ(1スーパー・セット・2トライ・セット)かで、練習量の必要性によって増減させている。

 4種目構成の場合は

◇上腕二頭筋

① インクライン・カール

 (ストリクト・スタイル、特に内側の上腕二頭筋を意識して鍛える)

② プリーチャー・ベンチ・カール

 (グリップをスタンダードとリバースの両方で交互に使って行なう)

③ アイソレイティッド・ダンベル・カール

④ バーベル・カール

◇上腕三頭筋

① ラットマシーン・プッシュダウン

 (三頭筋に最も効果的とコーはいう)

② スタンディング・トライセップス

 (フレンチ・プレス)

③ ライイング・トライセップス・エクステンション

 (肘を固定してゆっくり)

④ ワンアーム・トライセップス・エクステンション

 (ダンベルか鉄亜鈴で片手ずつ)以上をだいたい8回前後で4セットから5セット行なっている

-腕の太さがなぜ違う?-

 こうして見てくると、二頭筋と三頭筋の種目は、別々にまとめて行ない、両者の種目を混合してスーパー・セットに組んだりする方法は誰もとっていないことがわかる。

 また、スプリット・システムを採用しているビルダーは、多くが二頭筋と三頭筋とを別の日に鍛えるように工夫している。

 そして、普通の重さのウェイトを使用する時はストリクト・スタイルで絶対に反動を避け、最高重量でやる時だけチーティングを取り入れるといったやり方で、最大の刺載を腕に与え得るよう工夫を重ねていることがわかる。

 これは、バンプ・アップが筋肉発達には不可欠という彼等の考え方に根本的に裏づけられているのであろう。

 ひるがえって日本のビルダーの腕に対するトレーニングはどうだろうか。

 日本のビルダーで腕囲48センチを超えるものは一人もいない。

 この差異の原因は、練習方法か、練習量か、食事か、遺伝的な要素か、はたまたそのすべてであろうか。
50センチの上腕をほこるベテラン・ビルダー ターザン・ヤコブのトレーニング

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