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私の指導法
コーチは筋肉づくりの職人ではいけない

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月刊ボディビルディング1971年9月号
掲載日:2018.02.08
中野ボディビル・センター
栗山 昌三
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コーチは広い知識が必要

 わが国にボディビルが入ってきてから、すでに約20年という長い年月がたっているにもかかわらず、まだまだ一般の人にはボディビルは正しく理解されていないようだ。
 しかし、そうかといって誤解している一般の人たちを一概に責めるわけにはいかない。その原因の一端は、われわれボディビル関係者にあると思う。ボディビルを正しく普及させるための具体的な努力をしてきたかどうか、それともう1つボディビル・ジムのコーチ自身がたんなる筋肉づくりだけのコーチになってしまって、広い範囲の社会体育のコーチとして、一般の人から信用されるだけの勉強と研究をしてきたかどうかも深く反省しなければならないと思う。
 私も含めて、現在のコーチの多くは筋肉づくりの職人であり、自分の体験と、ある程度の専門書を頼りに指導しているのが現状である。
 これは何も私がコーチの皆さんを啓蒙しようなどという、大それた考えでいっているのではなく、私自身がボディビルを正しく理解してもらい、広く普及するためにも、また、練習生にそれぞれの目的に合った適切な指導をするためにも、少なくとも運動生理学とか栄養学の勉強くらいはして、みんなを理論的にも納得させるだけの実力を身につけていなければいけないと常日頃考えているので、あえて申し述べたまでである。
 ボディビル・ジムのコーチとして、具体的に最も大切な仕事は、これから始めてボディビルをやろうとする新入会員に対する指導だと思う。すでに何年もの間トレーニングをつんできた経験者は、ほとんどの人がボディビルを正しく理解しており、自分の目的に合った具体的なトレーニング法についてもある程度心得ているので、ときどきアドバイスすればそれでよいが、全くの未経験者についてはそうはいかない。

新入会員に3つのタイプ

これからボディビルを始めようとする人には、いろいろなケースがあるが大きくわけて次の3つにわけられると
思う。
①丈夫な体になりたい
②太りたい、あるいはやせたい
③どこも悪くないが、健康管理としてやりたい
 なかには、最初から将来はコンテストに出るようなビルダーになりたい、という人もいるが、そのような人は至って少ない。ほとんどの人は、どこか自分の体にコンプレックスを感じていて、ボディビルでそれを克服しようと入会してくる。
 また、入会の直接的な動機については、自分から積極的にやろうと考えている人と、友人や知人から進められて入会する人の2通りがあるが、後者の他人からすすめられて、いやいや入会したような人は、どうも長続きしない。

体の条件にあった個人別指導がたいせつ

ボディビルは、長く継続して始めてその効果があらわれるものであるが、新入会員の中には、ボディビルを始めるとすぐ効果があらわれるものと思っている人が多い。そして、1日でも早く筋肉隆々とした逞しい体になろうとして、最初から重いバーベルに挑もうとする。その結果、いままでほとんど使ったことのない筋肉に急激に強い刺激を与えるため、体中が痛くなり、これではとても続かないと挫折してしまう人が多い。
 私はまず、新しく入会した会員から過去の病気、現在の生活環境、スポーツ経験の有無等を詳しく聞き、だいたい次の2つにわけて指導するようにしている。
①年令20才前後で、ある程度のスポーツ経験を有するもの
②年令の区別なく、しかも過去にスポーツ経験のないもの
 そして、①の場合には、ボディビルの基本的な原理とか、正しい運動姿勢トレーニングに関するマナー、器具の扱い方等の一般的な注意事項を説明したのち、ごく軽い重量で、スクワット、スタンディング・プレス、ベンチ・プレス、ベント・ローイング、カール、シット・アップの基本的な6種目について基礎的な練習をみっちり指導する。そして、体力・筋力の個人差によって一定してはいないが、少なくとも3カ月から6カ月はこの6種目のみで継続させている。
 ②の場合については、ほとんどスポーツ経験もなく、いきなり重いバーベルやダンベルを扱うボデイビルに耐えられる状態ではないので、最初の20日間はウェイトを一切使わず、1日約30分ぐらいの矯正体操に終始する。
 矯正体操といっても、ごく普通のラジオ体操とか両脚とび、縄とび、といったものである。そして、約20日間の準備期間をおいて、毎月5日と15日の2回、同じような条件の人を集めて初心者コースの説明会を開き、はじめてバーベルに取り組むわけである。
 そのほか、とくに肥満体とか、やせすぎとか、内臓等に欠陥のあるものに対しては、いま述べたコースとは別に各人に適した方法を別個に指導するようにしている。
 私は最近、東京身体均整学院に通って生理学の勉強をしているが、いままでの指導法が、いかに自分の経験に頼っていたかを痛感している。まったく欠陥のない正常な体のものにはそれでもよいが、どこかに欠陥のある人たちは、矯正体操すら満足にできない人が多く、5分程度のごく軽い体操でも、すぐ息ぎれや動悸がはげしくなってしまう。こういう人たちに対しては、ボディビルの目的である、健康で逞しい体にする以前の問題として、骨格や筋肉のバランスを直し、正常な体にしてから始めてトレーニングに入るようにしている。

効果もまちまち

 このようにして、ボディビルを始めてから3カ月を経過した時点で、各人の体力・筋力の発達状況をみるのであるが、同じようにトレーニングをしていても、その効果はまちまちである。
 太りたいという希望をもってボデイビルを始めた人でも
①体重は増えないが、筋肉質になった
②体重は増えたが、筋肉質にならない
③体重も増え、筋肉質にもなった
④まったく変化がない
 こんな具合である。極端な場合は3カ月で10kgも増えた例があるが平均すると2~3kgである。太りたいという希望をもって始めたが、逆に体重が減ってしまった、という例はほとんどない。
 これと反対に、ひどい肥満型で、なんとか体重を落したいという希望で始めたにもかかわらず、全く効果がなく、かえって体重が増えてしまったというケースはある。これは、適度な運動をしたために、熟睡できるようになり。食欲も増進して、もりもり食べたからである。
 このことでもわかるように、ボディビルの効果は、トレーニングと栄養と休養の三大要素がうまく合致して、始めて大きな効果があがるのであり、やせようとして、いくらトレーニングをしても、そのあとで栄養満点の食べ物を腹いっばい食べていたのでは効果はあがらない。
 三大要素のうちで休養ということについては、それほど神経質になる必要はないと思う。トレーニングによる疲労よりも、日常生活、たとえば徹夜勤務があるとか、ひどい肉体労働でクタクタになるとか、不節制で疲労するという場合の方が多い。
 ボディビルの効果をあげるためには栄養にはもっともっと注意を払わなくてはいけないと思う。そして、コーチはトレーニングと同じ程度に栄養に対する指導をしなければならない。余談だが私は以前から調理士の免許をもっていて、最近うちの滝沢コーチにも勉強させて調理士の免許をとらせた。
 中級者・上級者に対する具体的な指導法についても書きたいのだが、誌面の関係で次の機会に譲ることにする。
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練習生にコーチする筆者

練習生にコーチする筆者

月刊ボディビルディング1971年9月号

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