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ボディビルの基本
トレーニング・スケジュールのつくり方[その1]
<スケジュールをつくるための基本的なことがら>

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月刊ボディビルディング1971年10月号
掲載日:2018.04.10
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竹内 威(NE協会指導部長 '59ミスター日本)
 あらゆるスポーツにおいて、その能力を高めるには、練習者に適したトレーニング・スケジュールで行なうことがたいせつです。もちろん、このことは体力を強化し、筋肉の発達を目的とするボディビルの場合でも同じです。
 必要な栄養をとること。運動に対する心がまえ、日常生活における心がけなども、スポーツやボディビルの成果をあげるのに、欠かすことのできない要因ではあるが、トレーニング・スケジュールが誤っていては、思うような効果をあげることはできません。
 いいかえれば、運動能力の向上、体力の強化、筋肉の発達を左右するもっとも重要なポイントは、練習者に適したトレーニング・スケジュールで行なうこと、といえます。したがって、トレーニング開始に先だって、慎重にトレーニング・スケジュールをつくることがかんじんです。
 では、実際にトレーニング・スケジュールをつくるにあたって、注意しなければならない点、問題となる点、および、知っておかなければならない知識について述べることにしよう。

トレーニング頻度

 トレーニング・スケジュールをつくるにあたって、まず、問題になるのはトレーニング頻度です。つまり、トレーニングを行なう日と、休養をとる日との日取りの決め方です。ボディビルのスケジュールは、トレーニングを1日おきか2日おきに行ない、その間の日は休養にあてるというのが一般的な方法とされています。
 他のスポーツの場合では、週に5日も6日もトレーニングを行なうのにボディビルの場合は、なぜ1〜2日おきで週に2〜3日のトレーニングが適当とされているのか、まず、この点について考えてみよう。
(注)ボディビルにおいてもスプリット・ルーティン法による週4〜6日トレーニングを行なう方法もあるがこの方法も、原則的には週2〜3日行なう方法とかわりません。この方法については後述します。


① ー般スポーツとのちがい

 一般のスポーツの場合のトレーニングは、おもにテクニックの習得と、スピードの養成が目的で、スポーツに必要な体力は、トレーニングを行なっている過程で養われ、体力は自然にそなわってくるわけです。
 これに対して、ボディビルのように始めから筋力の強化、筋肉の発達を目的として行なう過重負荷(オーバー・ロード)によるトレーニングでは、筋肉に与える疲労の質が、一般のスポーツとは違ってくるわけです。つまり、ボディビルによる筋肉疲労を回復するためには、他のスポーツに比べて長い休養が必要となるわけです。
では、とくに体力の強化を必要とする他のスポーツの場合はどうなのか。この疑問を解くために、そのようなスポーツにおけるトレーニング法を簡単に説明しておこう。
 体力の強化をとくに必要とするスポーツの場合は、トレーニングを毎日同じように行なうのではなく、体力の強化運動を積極的に折り込んで行なう日と、そうでない日に分け、筋肉に疲労がたまらないように配慮して、トレーニング・スケジュールをつくっているのです。
 このような方法によれば、積極的に体力の強化運動を行なう日は、1〜2日おきとなって、ボディビルの場合と原則的に一致していることになります。
 以上の説明によって、ボディビルと他のスポーツのトレーニング頻度の違いが理解できたと思います。要するにボディビルにおけるトレーニングは筋力の強化、筋肉の発達を目的としているために、疲労の回復しにくい運動の繰り返しであり、他のスポーツのようにトレーニング頻度を多くすれば、それだけ効果があがるというものではありません。したがって、他のスポーツの場合より休養を多くとる必要があるわけです。


② 超回復

 スケジュールをつくるにあたって、トレーニングによって刺激を受けた筋肉が、どのような経過をたどって強化され、発達していくのか。このことを理解するためには、超回復について知っておく必要があります。
 トレーニングで使用した筋肉は、エネルギーの代謝により消耗し、筋力は低下する。筋肉の太さも、パンプ・アップ(使用筋に酸素とエネルギーを補給するために、血液が多く送られ、一時的に筋肉が膨腰する現象)の状態が去ってしまえば、厳密にはトレーニング前よりも細くなる。
 しかし、トレーニング後に適度な休養と、必要な栄養の補給が充分であれば、トレーニングのなされた以前よりも、いくらか強い抵抗に耐えられる力をともなって回復します。
 このように、トレーニング後に、トレーニング前より強化されて回復することを超回復とよんでいます(第1図参照)。
 筋力の向上は、このようにトレーニング後の休養中になされるわけで、筋肉の発達もこれとまったく同じ経過をたどります。一回のトレーニングと休養によって得られる超回復は、さほど自覚できるものではないが、うまく超回復をとらえて、トレーニングと休養を繰り返していけば、使用重量の増加や筋肉の発達として自覚できるようになってきます(第2図参照)。
 とかくトレーニングをすることだけがボディビルであり、トレーニング中に筋力が強くなり筋肉が発達すると思われがちですが、超回復のことを考えれば、休養することもボディビルであるということになります。
 超回復が充分になされないうちにトレーニングを行なったり、超回復が不充分のままトレーニングを続けることは、効果が期待できないばかりか、極端な場合は、体力が日ごとに減退し病気にもなりかねません(第3図、第4図参照)。この点をよく自覚して、けっしてあせることなく、規則正しいトレーニングと休養に心がけてください。


③ 超回復に要する時間は

 では、超回復はトレーニング後どのくらいの時間休養すればなされるのか。この超回復までの時間を適確に知ることができれば、もっとも効率のよいスケジュールをつくって、これを実行すればよいということになるが、残念なことには、現在ではそれを知る方法がありません。
西ドイツのへッティンガー博士は、「トレーニングを毎日行なうのが最も効果的である」といっているが、この説によれば、超回復はトレーニング後24時間以内になされるということになる。しかし、博士のこの説におけるトレーニング法(筋肉に対する抵抗の与え方)は、一般のボディビルで行なっている運動、すなわち、バーベルやダンベルを反復する運動によって、筋肉に抵抗を与えるトレーニング法とはだいぶおもむきを異にしており、しかも、ごく短時間(数秒)による方法なので、博士の説をもって、ボディビル全般の通論とするのは疑問がある。
 現在、ボディビルの一般的な理論としては、トレーニングを1日か2日おきに行なうのが最も効果的だとされており、超回復がなされるには、中1〜2日、充分な睡眠を含む休養が必要と考えられている。もちろん、これは一般的な傾向をいっているのであり、トレーニング量、強度、練習者の体力差経験度、生活状態などによって当然違ってくるはずです。
 一晩ぐっすり眠ればよい人もいるしなかには3日も4日も休養しなければトレーニングに対する意欲が起きない人もいる。第1表は超回復のごく一般的な傾向を表にしたものです。ただし超回復の早くなされる条件が多くそろっていても、スプリット・ルーティン法によらないかぎり、欲ばらずに隔日に行なうのが無難です。


④ 超回復の減退

 超回復により得た筋力と筋肉の発達は、からだに固定しにくい性質があるトレーニングと休養によって、せっかく得た超回復も、そのまま何もしないでほおうっておくと減退してしまう。つまり、必要以上に長い休養をとり過ぎたり、トレーニングの間隔をあけると、強化と発達のキザシがみられた筋肉が、トレーニング前の元の状態に戻ったり、さらに長い間隔をあけると、むしろ低下することさえある。
 一般的にボディビルのトレーニングは、週に2日以上行なえば効果がみられ(第5図参照)、週に1日では現状維持(第6図参照)、それ以上の間隔では筋肉の太さも強さも減退するといわれるのは、適切な抵抗を常に与えていなければ減退してしまう超回復の性質からきているわけです。したがって超回復が減退する前に、次のトレーニングを行なうことが必要です。
 以上、トレーニング・スケジュールをつくるために知っておかなければならない基本的なトレーニング頻度、超回復について説明しましたが、つぎに具体的な注意事項について述べることにします。
第1図 超回復

第1図 超回復

第2図 トレーニング成果(向上)トレーニングと休養の折り合いがよく、超回復を上手にとらえている。

第2図 トレーニング成果(向上)トレーニングと休養の折り合いがよく、超回復を上手にとらえている。

第3図 トレーニング成果(変わらない)超回復がなされる前にトレーニングを行なっている。休養がやや不充分。

第3図 トレーニング成果(変わらない)超回復がなされる前にトレーニングを行なっている。休養がやや不充分。

第4図 トレーニング成果(下降)充分に回復がなされない状態でトレーニングを行っている。休養が不充分、またはトレーニング間隔が短い。

第4図 トレーニング成果(下降)充分に回復がなされない状態でトレーニングを行っている。休養が不充分、またはトレーニング間隔が短い。

第5図 超回復が減退し、トレーニング前の状態に戻った時点で次のトレーニングを行っている。休養がやや長すぎる。

第5図 超回復が減退し、トレーニング前の状態に戻った時点で次のトレーニングを行っている。休養がやや長すぎる。

第6図 身体的素質が低下してからトレーニングを行っている。トレーニング間隔が開きすぎる。

第6図 身体的素質が低下してからトレーニングを行っている。トレーニング間隔が開きすぎる。

第1表 回復に要する時間的傾向

第1表 回復に要する時間的傾向

基本的な注意事項

 トレーニング・スケジュールは、練習者自身に適していることが最もたいせつであり、むやみに他人のまねをしないで、自己の体力、生活環境、生活状態、スポーツ経験の有無等をよく考えて、自分に合ったものをつくることが必要です。


① 自己の体力を自覚する

 スケジュール作成にあたっては、まず第1に、自分の体力をよく自覚してトレーニング度(トレーニングの強度と量)を決め、そのトレーニング度にふさわしい休養日を定めることです。
 ボディビルの効果をあせって、自分の体力を無視したトレーニングをする人がいますが、あくまでもスケジュールが過度にならないように注意してください。始めてボディビルをやる人。体力に自信のない人は、2日おきに週2回ぐらいのペースで行なうことです。


② 生活状態を考える

 ひとそれぞれ生活環境が異なり、生活状態が違うので、当然、トレーニングに対する条件も違ってこなければなりません。日常の仕事における労働度の軽重、勉学の度合などを考え、生活の負担にならないようなスケジュールをつくる必要があります。
 生活における体力的な消耗が大きいとか、不規則な生活状態にあるとか残業・夜勤のある場合などは、とくに休養を充分とるように配慮しなければなりません。


③ 睡眠と栄養について考える

 トレーニングによって消耗した体力を回復するには、充分な睡眠と栄養を必要とすることはいうまでもありません。
 ぐっすりと充分な睡眠をとれる環境にあるか、消化器が丈夫で食べたものが充分に吸収できるか、環境の面で充分な休養をとれる条件がそなわっているか、などを考慮してスケジュールをつくる必要があります。
 工事現場や交通の騒音、職場や家庭のもめごと等、睡眠不足になる原因や外食で充分に栄養がとれないなどの悪条件は、積極的に取り除くように努力しなければなりません。


④ 経験にそくしてつくる

 ボディビルの経験を積んでいる場合は、いままでの体験を通して、これから行なおうとするスケジュールが、自分に適しているかどうか充分に検討してから始めることです。いつの場合でも、いままでの体験からあまりかけはなれたスケジュールは採用しない方が賢明です。とくに、未経験なトレーニング法を採用するときは、コーチや先輩の意見も聞いてから採用するようにしたいものです。


⑤ トレーニング度と疲労の関係を重視

 トレーニング度が強ければ、当然疲労度も強くなります。疲労度が強ければ、回復に要する休養時間も長くなります。このようなトレーニング度、トレーニング日数、休養日の配慮など無理のない合理的なスケジュールをつくらなければなりません。他にスポーツを行なっている場合は、とくに、そのスポーツによる疲労と、ボディビルによる疲労が重ならないように留意してください。


⑥ テスト期間をおく

 慎重に吟味してつくったスケジュールでも、自分に適したものかどうか実際に行なってみなければわかりません。始めたときは丁度よいと思っても回数を重ねるうちに負担を感じてくるような場合もあります。
 あらかじめ使用重量・セット数などトレーニング度に余裕をもたせてスケジュールをつくり、これを続けていきながら自分の体調とてらし合わせて。より適したものへと徐々に改めるようにしていくのが理想的です。
月刊ボディビルディング1971年10月号

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