フィジーク・オンライン

大幅に改善された審査方式の紹介と'71ミスター日本の予想

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1971年10月号
掲載日:2018.03.05
JBBA事務局長,'68ミスター日本 吉田 実
 月日のたつのは早いものだ。昨秋、大阪毎日ホールで第15代ミスター日本の栄冠を武本蒼岳選手が獲得したのがつい昨日のように思えてならない。

 さて、'71ミスター日本の栄冠は誰の頭上に輝くか?。まさに興味津々たるものだ。また、本年度からは、審査方法が大幅に改善されたので、その紹介旁々、優勝のゆくえを占ってみる。

"予選審査はチェック方式"

 本年度の各加盟地方協会主催コンテストの3位までの入賞者、という厳しい出場制限をパスした選手が約100名出場するはずだ。

 このように、ミスター日本コンテストの出場資格を獲得すること自体がきわめて難しくなった昨今では、いかにして出場選手を増やそうかと頭を悩ました、10数年以前のことがウソのようだ。

 各地のコンテストで表彰台に昇って数々のトロフィーを手にした選手ばかりが約100名。壮観というか見事というか、とうてい筆舌に尽せるものではない。どの選手も皆、決勝に残してやりたい。これが関係者誰もが抱く願いだ。しかし、現実に決勝に残れるのは12名、あとの88名は予選で消えていくのだ。

 勝負の世界の厳しさを誰よりも知っているのは選手自身であるが、過酷なものだ。しかし、これが勝負というものだ。予選で落ちたからといって、誰を恨むではない。己の力の足らざるを認めて捲土重来を期すことだ。

 さて、その予選審査には第1次と第2次審査がある。

 第1次予選は、コンテスト開始前に舞台裏で行なう、いわゆる裏審査である。まず、全選手がリラックス・ポーズで整列する。審査員が最も厳しく目を走らせるときだ。目ぼしい選手を各審査員が思い思いに胸中に収める。

 つぎに、ゼッケン番号順に10各ずつ横に並び、1人ずつ順にフリー・ポーズを4ポーズとる。規定されたポーズは一切ない。各選手が最も得意とするものを披露すればよいのだ。

 各審査員は、全出場者の中から、最も秀れていると思う選手を12名程度選び出し、審査カードに○印のチェックをする。

 田鶴浜弘審査委員長を始めとした12名の日本ボディビル協会公認審査員が厳正に審査したカードを集計すれば、第1次審査は終りだ。

 つぎの第2次審査は、満員の観客を目の前にして、本舞台上でやはり10名ずつ横に並んで、1人ずつポージング台上でフリー・ポーズを3ポーズとる
 
 これを、審査員がさきほどの裏審査と同様の方法でチェックする。この第1次および第2次予選の合計チェック数の多いもの上位12名が決勝に進出するということになる。

"決勝進出の顔ぶれは?"

 決勝進出の夢を果す選手はどんな顔ぶれか? これを予想するのは優勝者を予想するより数倍も難しい。

 まず、確実に残れるのは、現在の力量と過去の実績を相乗的に考慮したところ、昨年度コンテストの2〜6位までの選手だろう。
 すなわち、末光健ー(東京)、杉田茂(大阪)、宮本皜(福岡)、小島一夫(東京)、重村洵(東京)、それに出場してくれば小笹和俊(福岡)の6人だ。

 残りの6つのイスを争うのが激烈をきわめる。

 候補者としてあげられるのが、昨年7位で、本年度ミスター大阪には仕事の都合で欠場した徳弘敏(大阪)。昨年初の決勝進出で8位となり、大器の片鱗を見せた宇土信一(広島)。師匠である私でさえ信じられなかった決勝進出を果し、あまつさえ9位に入賞し今年はミスター千葉2連勝を飾った佐藤大機(千葉)。昨年12位ながら今年のミスター大阪に優勝し、ますます勢いに乗る木本五郎(大阪)は、デフィニションがついてきたら決勝に残るどころか上位に喰い込む可能性があるだろう。

 細身ながら知的センスとプロポーションの良さで毎年入賞している中尾尚志(京都)。中部日本コンテスト優勝の長崎清(三重)もあなどれない。同コンテスト2位の大石秀夫(静岡)も力量の差はなく、過去の実績からも期待がもてる。ミスター茨城に優勝したベテラン横塚辰雄(茨城)。北陸の雄糸崎大三。今年度ミスター大阪2〜3位の中原義光、宮畑豊。兵庫から故郷に帰ってミスター鹿児島優勝の小斉平豊。ミスター東海優勝の生田目博仁は昨年も14位に入賞している。ミスター三重3位の須藤孝三は大型新人。勝負のカンどころをとらえているので、ヒョッとしたらの期待なくもなし。

 昨年15位でミスター九州の優勝経験をもつ川上光正(山口)。昨年10位の石神日出喜(兵庫)などが有力だが、思いもかけない新人が飛び出してくるかもわからず、自信をもって予想はできない。
〔重村洵選手〕

〔重村洵選手〕

〔木本五郎選手〕

〔木本五郎選手〕

"決勝審査は総合点方式"

 昨年までの決勝採点方法は、筋肉50点、均斉30点、知性および表現能力20点の合計100点満点となっていた。

 途中何回かは異なった採点方式を実験したこともある。昨年のように胸、腕、背、腹、脚、均斉を各15点、ポージング10点の合計100点の方法。あるいは'68コンテストのように筋肉50点、均斉30点、ポーズおよび知性20点の合計100点と順位席次方式の併用などだ。

 ミスター日本コンテストも過去15年間続けてきた経験から、それぞれの採点方式の長所・短所がわかった。そこで、今年からはその経験を生かして採点方法を簡略化して、より公正な審査結果が生じるように改善した。

 実際のところ、どんなに経験豊富な優秀な審査員でも、1〜2分のポージング時間中に細分化して採点し、しかも、総合的な順位まで決定することは容易ではない。そこで、本年からは筋肉、均斉、ポージング、知性、スポーツマン・マナー等を綜合的に評価して100点満点で採点する方法を採用することにした。

 この方法だと、いきなり80点とか92点とかの全体的な評価ができるので、観客と審査員がほぼ同じ感じかたの審査結果となる。

 第1次予選、第2次予選、決勝審査の方法は、その年により変更するのではなく、以後毎年この方法を採用するよう全国理事会の決定をまっている。

"16代ミスター日本は誰?"

 さて、優勝者をスバリ予想すると………次の5名にしぼられるのではないか? 末光健一、杉田茂、宮本皜、小島一夫、小笹和俊。

 それぞれの選手について私なりの予想・批評を読者は許してくれると信ずる。

 優勝候補の筆頭は、昨年の順位からいっても2位の末光健一だ。2年ほど前から切れのよいデフィニションは全国のビルダーの間で評判になっていた。とくに、そのバック・ポーズは恐ろしいまでの迫力があった。しかし、最近はそのバック・ポーズがさほど目立たなくなるまでに全体が成長した。

 デフィニションの末光から、いまやバルクとデフィニションどちらでもこいの末光となった。

 中級ビルダー当時から目立っていた前述の背筋、深く彫り込まれた腹筋、大きく盛り上った切れのよい大胸筋、上半身のどこをとっても欠点はほとんどない。従来、いくらか弱味のあった下半身も、十分とはいえないまでも、以前よりは充実してきた。

 ポージングの巧さも大変なものだ。華麗なものではないが、ポーズの決ったときの迫力はすさまじい。また、自分の体の持ち味、見せかたをよく知っている。

 下半身を除いたら、ほとんど死角がない選手といっても過言ではない。近い将来、国際コンテストのショートマン・クラスで、フランコ・コロンボなどと肩を並べて脚光を浴びる可能性をもっているビルダーだ。しかし、残る4人と大きく差が開いているわけではない。僅差で追いすがる4人との接戦が見ものだ。

 杉田茂は、8月に大阪で逢ったときに絶好調のように見受けられた。本人自身も、師匠である荻原稔JBBA副理事長も、ともに口を揃えて「調子は素晴らしくいいですよ」と自信のほどをほのめかしていた。

 昨年は末光に次いで3位だったが、今年優勝を狙える射程のなかには十分入っているはずだ。また、ボイヤー・コーも称賛したほどの流麗なポージングを見せるのが末光と対照的だ。

 重量あげ、陸上競技なども相当な実力を備えているスポーツマンらしいキビキビした彼の持ち味を、どこまで出し切れるかが勝負の分れ目であろう。

 2位、3位というときは、それほど感じないが、ミスター日本優勝者にはアクが強すぎるくらいの個性と迫力が要求されるのではないだろうか。いやむしろそういった要素がないと優勝は難しいのかもしれない。よく万年優勝候補という選手がいる。杉田選手がそれだというのではさらさらないが、もうひと息の迫力を期待したい。

 宮本皜は、昨年のミスター・アジアに優勝して、ミスター日本もいただきと自信をもった出場であったが、こと志と反して結果は4位。私自身も宮本を戦前に優勝ないし、準優勝が可能と予想していただけに意外な感じがした。しかし、これは順位が意外だったのではなく、舞台上でポージングする宮本に迫力が感じられなかったことが意外だったのだ。

 1昨年のミスター日本では、順位こそ3位であったが、中央のコンテストに初出場とは思えぬばかりの鬼々と迫る魅力を、舞台狭しとばかりまき散らしていたものだ。それが、ミスター・アジア優勝という自信、いや過信とでもいおうか、それが心にスキをつくったとしか考えられない。

 他の選手と同じ立場で勝負を争っている者の気迫がまったく感じられなかった。勝負に関係のないゲスト・ポーザーのように淡々としたものだった。今年はきっと必勝を期してフンドシを締め直してくるに違いないから、優勝の可能性十分である。

 上半身のムダのないデフィニションとあいまって、国際的トップ・クラスの下半身の強味を最大限に発揮して、ファンを魅了してもらいたいものだ。

 小島一夫は、現在の日本ビルダーの中で、素質の面からいったら最右翼のものをもっている男だ。バルクの大きさでは、彼の右に出るビルダーを探すことは困難だ。とくに、日本のビルダーと外国ビルダーを比較したとき、最も弱点といわれる肩から胸にかけての大きさも、この小島は大変なものをもっている。

 だがその反面、コンテストの場で勝負を争う場合にはデフィニションに欠けるところがある。

 昨年のコンテストでゲスト審査員をつとめたボイヤー・コーが、全選手が整列したリラックス・ポーズのとき、しきりに「あの選手の名前は?」と私に聞いてきたものだ。しかし、ポージングをひと目見て、「デフィニションが足りない」と言下にいい切っていた。

 これと同じ見方をしたのは、コーと私だけではなかったはずだ。ほとんどの観衆が、リラックス姿勢での体形のよさと、バルクの大きさには感嘆の声をもらしていた。

 しかし、このことについて私の憶測を述べるならば、小島がデフィニション獲得のトレーニングを怠ったのではなく、あのような体をつくることが小島のボディビル観だったのではなかろうか。

 私も最初のコンテストを経験するまでは、それと同じボディビル観をもっていた。ボディビルとは文字どおり体をつくることではないか。ともかく大きくなくてはいけない。つまり、バルク優先の考えだった。

 ところが、たった一度の経験で、現状のコンテスト界では、そうでないボディビル観が大勢を占めていることを知った。そこで、デフィニションを中心にした体づくりに路線を変えたわけだ。

 しかし、いまはそれからもう少し違った考え方をしている。"バルクを中心としてデフィニションが不可欠のものである"これが私の現在のボディビル観である。

 昨年のコンテストで5位と敗れ去ったとき、小島にはどうしても納得できないものがあったはずだ。それが表彰式でのふてくされた態度につながったのだろう。

 ビルダーとして大成するためには,自分の考え方を真向から否定されたときでも、自分のすべてを失うほど崩れてはいけない。あれから1年、そういった面での小島の成長が、肉体面に現われているのなら、スンナリ優勝をさらわれても不思議はない。

 残る1人、小笹和俊は今年出場するかどうかわからないので、最後にまわしたが、出場するとなったら過去の実積からみて最もおそろしい選手だ。

 彼が日本ボディビル界で最初にあらわれた本格的デフィニション・ビルダーであるといっても過言ではない。小笹出現以後に、日本のコンテスト界がデフィニション重視の傾向に走ったのではなかろうか。

 私の記憶では、小笹が東京のコンテストに始めて出場したのは'65ミスター日本だった。このときは多和昭之進についで第2位、遠藤光男が3位だった。このときには、東京のビルダーの間では、そのデフィニションは認めるが、それほど大きな反響はなかった。それが'67ミスター日本で彼が優勝したときは喧々ごうごうの大反響を呼び起こした。

 この型のビルダーを是とするもの、あるいは非とするもの。コンテストでは文句のつけようのない優勝だったが「ビルダーとしてはあまりにもバルクが少ない」、「いや、芸術的な肉体だ」などと各ボディビル・ジム内で議論が斗わされたものだ。

 それ以来、各地のゲスト・ポーザーとしては活躍していたが、コンテストにはご無沙汰していた。昨年はミスター日本や国際親善ボディビル大会にゲスト・ポーザーとして出場、その健在ぶりを示した。

 '67ミスター日本に優勝した当時よりボディビル界の水準が全体的に高まっていることを承知のうえで出場してくるならば、当然それなりの自信と準備をしてくるはずだ。

 ただ、ちょっと気がかりなのは、小笹のおとうと弟子である宮本と体つきや見せ味がよく似ていることだ。その結果として、当然ながらどちらかが犠牲にならなければならない運命だ。非情なようだが勝負は両者を勝たせてくれない。そのときはそのとき、両者とも割り切って全力をつくしてもらいたいものだ。

 以上、私の主観的な予想をしたが、いずれにしても各選手の実力差は僅少なので、思わぬ逆転劇があるかも知れない。勝負の女神は誰に微笑みかけるか、まことに興味深い。(文中、選手の敬称は略させていただきました)
〔末光健一選手〕

〔末光健一選手〕

〔小島一夫選手〕

〔小島一夫選手〕

〔杉田茂選手〕

〔杉田茂選手〕

〔宮本皜選手〕

〔宮本皜選手〕

〔小笹和俊選手〕

〔小笹和俊選手〕

イラスト・日立市 大井一郎

イラスト・日立市 大井一郎

月刊ボディビルディング1971年10月号

Recommend