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体力づくりの基礎知識
6 睡眠と体カ

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月刊ボディビルディング1971年10月号
掲載日:2018.04.08
東京薬科大学教授 坪井 実
 疲労すれば誰でも休みたくなり、また眠たくなるものである。この休息と睡眠がなければ、大脳皮質の神経細胞に変化がおきて、ついには死んでしまう。
 人間は眠らないで果して何日くらい生きていられるかというと、大体5日間くらいである。死ぬまで睡眠をとらないなどということは大げさ過ぎるし、実際にはがまんできなくて、そこに至るまでに眠ってしまうから問題はないが、充分睡眠がとれない状態、すなわち睡眠不足の状態はよく起こすことである。このような状態のときも、不眠の場合と同じように、大かれ少なかれ大脳皮質の神経細胞に変化が起きているのであるから、体のためによくないことはもちろんである。
 こんな状態が続けば、体の生理機能は障害されて、いくら体力づくりを行なっても、まともな体力の発育が行なわれないばかりでなく、かえって体はやせおとろえてしまう。

1 睡眠中の体の働き

 人間は誰でも疲れると休みたくなるそして、しばらく休息すると疲れは回復する。疲れが激しければ眠たくなるのは当然のことである。したがって、睡眠は休息の完全な形と考えることができよう。
 睡眠により、われわれは昼間の活動の疲れをとり、明日の活動に必要なエネルギーを貯え、体力の正常化をはかることができるのである。では、睡眠中に体の働きがどのようになっているかを述べてみることにしよう。
(a)睡眠中は意識がなくなり、筋肉はゆるみ、代謝は低下する。体中の筋肉の緊張が低下するのだから、立っていることはできない。
(b)体温の低下、心臓の拍動数の減少呼吸数の減少がみられ、腎臓での尿のつくられ方が減る。
(C)その他

2 不眠時の体の働き

 今度は逆に睡眠をとらないと、どのようなことになるかというと
(a)注意をまんべんなく配るこができなくなり、また注意を持続することが難しくなる。このため仕事の上に誤りが多くなり、運動時の事故などが多くなる。しかし、このような時でも、瞬間的な努力による仕事はよくできるが、長い時間にわたって精神を集中しなければならない仕事はできなくなる。すなわち、連続的な運動機能が障害されるのである。
(b)感覚の機能がおとろえてくる。明るさの差を区別する能力が減少し、暗目になれる時間が延長する。ときには、幻視(実際にないものが見える)、複視(ダブって見える)が認められるようになる。また聴力は低下し、幻聴が認められるようになる。さらに触覚、温度感覚なども低下する。
(c)寒け、吐け、頭痛、耳鳴り、頭に帽子をかぶった感じ、体が船に乗っているような感じがしたり、頭がカッカッと暑くなる感じがする。
(d)血圧や脈拍については一定の傾向が認められない。上昇するものもあれば、低下するものもある。筋肉を構成するタンパク質の分解作用が亢進したり、体内に取り込まれた食物が体を動かすエネルギーに変わることをさまたげたり、肝臓の機能が減退したり、交感神経の緊張状態が変化するというような兆候があらわれる。
 このように、不眠ということは体の機能に大きな変化を招来することは確かなことである。

3 睡眠の型

 一般に睡眠の型には2種類ある。第1の型は、寝入りばな、つまり眠り始めてから15分くらいから急に深くなり1時間くらいで最も深い眠りに入る型である。この型の場合は、それ以後だんだん浅くなり、2時間もたつとかなり浅くなってしまう。
 第2の型は、睡眠がゆっくりと深くなっていき、最も深い睡眠をとるまでに1時間から2時間以上も必要とするこの場合は、深いといっても第1の型に比較すると深さはだいぶ浅い。ただし、第2の型には夜明け方に1つの特徴がみられる。それは明け方に雨戸をあける音などで1度目があいてから、もう1度まどろむということである。つまり眠りの始めの方と終りの方に谷ができるという型である。
 この明け方の眠りは第2の型ではなかなか重要なことで、もし、これがうばわれて無理に起こされるようなことがあると、起きてしばらくは頭がボーッとして思考力が鈍ることになる。一般に神経質の人には第2の型が多く、老人では第1の型が多いようである。
 仕事の能率が午前中にあがる人は第1の型、午後から夜にかけて能率のあがる人は第2の型が多い。したがって第2の型の人は、明け方に眠るということが秘訣ということになる。

4 睡眠をとるためには

(a)騒音、照明、人声、低温、のみ、南京虫、痛みなどの外的および内的刺激をとり去るように努力すること。
(b)寝具はふだん使っているものが眠りやすい。枕の高さ、固さ、冷たさ、その他、掛けぶとんの重さなどに気を配ること。高すぎる枕は無理な姿勢になるし、低すぎる枕は頭部への充血のため睡眠が妨げられる。やわらかすぎると枕の中に頭が埋れて不適当である。枕の冷たさについては昔から”頭寒足熱”という言葉があるように、頭部を冷やす方が眠りやすい。
 掛けぶとんの重さがあまり重すぎると重圧感をうけて悪夢を見やすくなる。また敷きぶとんのやわらかさもよく問題になる。あまりやわらかすぎると体全体がうずまってしまって安眠が妨げられる。
(c)下着類は脱ぐ習慣をつけておく。
(d)刺激性の茶、コーヒーなどの飲用をさけること。
(e)心の平静を保つこと。感情をたかぶるような読書、口論はさける。
(f)空腹感は睡眠を妨げるが、飽食感もよくない。
(g)睡眠時の姿勢は、その人その人のくせによって左右されるから、その人に一番眠りやすい体位をとることが良い。

5 睡眠時間

 どのくらいの時間寝たらよいかということを、よく人から聞かれるが、人の睡眠の深さの様式は個人差が多いので一概にはいえない。深い睡眠に陥る人なら短時間でよいし、浅い睡眠のタイプの人はいくら眠ってもまだ眠いのである。要はその人の満足するだけの時間眠るということである。
 最後に年令と睡眠時間との関係を図示しておく。この図でもわかるように大体年令と睡眠時間は逆の関係にあるといえる。
年令と睡眠時間の関係(H・P・Roffwargより)

年令と睡眠時間の関係(H・P・Roffwargより)

月刊ボディビルディング1971年10月号

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