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トレーニング・スケジュール ~ その作り方と考え方⑥ ~

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月刊ボディビルディング1969年6月号
掲載日:2018.02.27
第一ボディビル・センター 吉 田 実
 今月号では、夏期トレーニング・スケジュールの作り方とその考え方を解説しようと思いまして、構想を練っているうちに、この問題に関しては、ひとつ大きな障害があることに気が付きました。

 それは、狭い国土の日本とはいえども、北は北海道から南は九州まで各県各地区の環境は大きく異なり、しかもそれぞれ特徴のある気候差と、各人の体質にあいまったその消夏法は十人十色であまりにも大きな個人差があるので、それを全部まとめて僅か2ページの与えられた紙面に書き尽すことはむずかしく、無理にそれを行なおうとすると、当たりさわりのない無味乾燥なものになるか、あるいは、矛盾に満ちた一人よがりのものになる恐れが多分にあるように感じられました。

 それならば、むしろ、このシリーズが始まった新年号で、「このシリーズでは、客観的な解説ばかりでなく、私はどのようにしてミスター日本になったかということをからみ合わせて、主観的な書き方もいたします」とお断りしておいたように、吉田流の考え方を濃厚に打ち出した個性的なものを書いたほうが、中途半端なものにならずに面白いものができるような気がいたしましたので、夏期トレーニングに対する私自身の考え方を述べさせていただきます。

夏期トレーニングの基本的な考え方

 海水浴シーズンの夏、薄着の夏、プール遊びの夏そのどれをとりましても、ボディビルダーにとっては、我が世の春ならぬ「我が世の夏」を謳歌する季節ではありますが、トレーニンググにのみ焦点を合わせてみると、楽観的な要素は少なく、むしろ悲観的な要素こそ多く目に映ってまいります。

 夏になると太りやすく、他のシーズンよりも好調だといった風変りな人もいますが、一般には、夏バテをしないまでも他の季節に較べて疲れやすく、体調がすぐれないという人がほとんどでしょう。

 夏なお涼しい高原か、あるいは、サラリとした気候の避暑地に身を寄せての「殿様トレーニング」ならいざ知らず、私が起居しております東京では不快指数がウナギ上りして過ごしにくい日々が続き、昼間に自分の所定の仕事を終らせるのにも苦労いたします。

 日本の夏は気温、湿度ともに高く、人間の精力的な活動にはあまり適した気候ではありません。常夏の南洋の国々の中に、文明の進んだ国が少ないのも、むべなるかなと、うなずけるものがあります。

 この、本格的なトレーニングに不向な夏期練習の私の基本的な考え方を一言にしてあらわせば、発達させようとする気持を捨てて、少ない練習量で現状維持を狙うか、あるいは休養の期間にあてるということです。

 専門的にボディビルに取り組んで、一流のビルダーになろうとしているこのページの読者にとっては、夏も冬もなく常に前進を目指す果敢な精神は大切ですが、練習熱心なビルダーであればあるほど、休養をとったり、ユルムことが必要とされるのです。

 機械ならぬ生身の人間の体では、常に最大出力によるフル運転を続けようとすると、どうしても無理がでて、そのメカニズムに変調をきたして、耐用年数を短かくしたり、ひどい場合には練習を継続することが不可能になることもあります。

 ほとんどのスポーツにシーズン・オフがあります。ボディビルでは、コンテストに出場する年を除いては、この夏をシーズン・オフにするとよいでしょう。

 同じ休養をとるのならば、体重が増加しにくく、本格的な練習が困難な、この夏期をその期間に当てて、次いで来たる秋~冬~春の練習に適した時期に勝負をかけるのが賢明なトレーニング方法といえるのです。

 体力の消耗のみ多く、その効果があまり期待できない夏場に、限りある体力を無駄使いしたのでは肝心のスポーツの秋になってから疲れがドッと出て、体調を整えるのに時間がかかるのです。そのようなことになると、一年を通じた全体的な効果はあんがい少なくなります。

 一歩後退、二歩前進するために当然に必要とされる後退ですから、何も恐れることはありません。年間のトレーニング・スケジュールのなかに積極的に休養を組み入れましょう。

夏期練習の注意点

 夏期を休養せずに、現状維持程度のトレーニングをする人のために、注意すべきことをいくつか述べてみましょう。

 ① 練習量を少なくすること
 夏場に他の季節と同じ練習量をこなそうとするのは間違いです。トレーニング以前に、すでに仕事その他で体力を消耗していますからオーバー・ワークにならないように、他のシーズンの練習量の50%から、せいぜい70%ぐらいにとどめるべきです。

 ② 激しく疲労するところまでトレーニングをしない
 他の季節でしたら本格的に疲労するところまで練習しても、翌日休養すれば回復するものですが、夏は体力が低下しているうえに、気候が悪いので一日の休養では完全に回復しにくいものですから、一日の練習量を二日に分けて週五~六日トレーニングするなどして、軽い疲労のうちに練習を打ち切るとよいでしょう。

 ③ ー種目で多くの筋群に効果のある種目を多く行なう
 少ない練習量で現状維持を狙おうとするのですから、プル・オーバー、バー・ディップス、チン・ビハインド・ネックなど広範囲の筋肉に効果がある種目をスケジュールに多く組み入れるとよいでしょう。

 ④ 練習は涼しくなるタ方から夜にかけて行なう
 仕事の都合などにより、どうしても夜に練習できない人は仕方がありませんが、なるべくならば、気温の高い昼間は避けて、涼しくなった夕方から夜にトレーニングをすると体力の消耗は少なくてすみます。なお、日光浴を兼ねてする場合を除いては、屋外で直射日光に当りながらの練習は止めましょう。

 ⑤ 片方づつ別々に行なう運動はなるベく避ける
 その運動種目により、一概には申せませんが、ワンハンド・ロー、ワンハンド・プレス、シングル・レッグ・スクワットなど、片手の運動が終ってから残る一方の運動を行なう、通常の約2セット分の体力を消耗する種目はあまり行なわない方がスタミナ温存のために宜敷いでしょう。

 オルターニット・カール、ダンベル・プレスなど両方を同時に運動するものはこの限りではありませんから念のため。

 ⑥ 基礎的な種目を中心にトレーニングする。
 少ない練習量で現状の体を維持しようとするものですから、体の中心部の大きな筋肉を鍛える基礎的な運動種目、たとえば、ベンチ・プレス、ベント・ロー、スクワット、シット・アップ、プレス、カールなどを主にしてトレーニングするとよいでしょう。

 ⑦ 初夏よりも夏の中頃から晩夏の練習量を減らす。
 夏も七月一杯ぐらいまでは、厳しい暑さとはいっても、それまでに蓄積された疲労が少ないために体調はあんがいとよいもので、練習量もそれほど極端に少なくすることはないようですが、八月から九月のなかば過ぎまでは暑さに慣れたため凌ぎやすいように感じられますが、実際は逆で、疲労が積み重なったために体力は低下しているので、この期間の練習量は特に落していたずらに体力を消耗させないで、秋からの本格的トレーニングに備えることが大切です。

 ⑧ 減量あるいはディフィニション獲得には夏が最適
 夏は栄養のロスと発汗が著しいために逆にそれを利用して減量をしたり、あるいは体をシャープにするのには最も効果的な季節です。ディフィニションを出して体をシャープにする最も大きな要因は、皮下脂肪を燃焼させて少なくすることですから、寒さに対抗するために皮下脂肪が厚くなる冬期よりも、夏期の方がその獲得に適した時期といえるのです。

 ただ気をつけなければいけないことは、ディフィニション獲得、あるいは減量のためのトレーニングは、軽量を用いてハイ・レビティションで行なうとはいうものの、その全体のセット数は多くなるのが常ですから、くれぐれもオーバー・ワークにならないように日々の体調に合わせて練習を行なうことです。

 ⑨ 栄養のバランスには特に注意すること
 夏場は食欲が減退して、ついさっぱりしたそばやお茶漬ですませてしまうという人が多いものですが、専門ビルダーとしての大成を望むあなたは、そんな真似をしてはいけません。もしそのようなことをすれば、一生懸命に練習しているのにもかかわらず、一方ではみずから成功を放棄しているといえるのです。

 栄養のことについては、稿を改めて詳しく解説するつもりでおりますので、こまかいことには触れませんがボディビルは技術の巧拙を競うものではありません。肉体そのものが勝負ですから、他のスポーツよりも栄養の摂取には留意しなければいけないことは論を待ちません。

 私自身の考え方について述べるならば、ビルダーの食事は好き嫌い、あるいは食欲のあるなしによってするものではなく、専門ビルダーにとって、それは練習と同じように大事なもので、ひとつの「お仕事」であると思っております。

 私の友人にSさんという人がいます。ボディビル開始前に45kgだった体重を、5~6年のトレーニングで94kg、実に開始前の二倍以上の巨体に作り変えた「猛烈ビルダー」です。

 この人は夏場には食欲がなく、食物がどうしてもノドを通らないので、スリバチの中にご飯、小魚、野菜、海草、肉、タマゴなどビルダーの自分にとって必要と思われるものを混ぜ入れて、それを湖状にスリつぶして、目をつぶって飲みこむのが常であったと語っていましたが、その苦労があってこそ体重増加の悲願が達成できたのでしょう。

 私はここで読者の皆様にSさんと同じことをしろなどと要求する気持はさらさらありませんが、その心掛けは大いに見習っていただきたいと思っています。
月刊ボディビルディング1969年6月号

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