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筋肉のABC(1)

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月刊ボディビルディング1969年8月号
掲載日:2018.03.01
渡辺俊男
記事画像1

筋肉のいろいろ

 筋肉にもいろいろな種類があります。腕や脚についている筋肉、胃や腸や血管の中にある筋肉、また、一生涯働きつづけている私たちの心臓も筋肉からできています。そして、からだの骨についている筋肉を骨格筋といい、内臓にあるものを内臓筋、心臓をつくりあげている筋肉を心筋といっています。

 また、見方を変えるならば、腕や脚は自分の意志によって動かすことができます。このような筋肉を随意筋といいます。これに反して、胃や腸、血管心臓などの筋肉は、自分の意志によってはどうにでもできるものではなく、ひとり働いているのです。したがってこれらの筋肉を不随意筋といいます。

 これらの筋肉を顕微鏡の下で見ますと、明暗のシマのあるものとないものとがあります。腕や脚の骨についている筋肉と心臓の筋肉には、このシマが見られます。それで、これらの筋肉を横紋筋と呼んでいるのです。これに反して、血管や胃や腸にある筋肉には、このシマが見られないので、これを平滑筋と呼んでいます。こうした関係をいろいろとりあわせて筋肉を分類すると、次のような組合せになるでありましょう。
記事画像2
 ボディビルディングの対象となるものは、このうちの横紋筋であり、随意筋である骨格筋なのです。そして、人間の体重の40%はこの骨格筋によって占められています。

 いちおう筋肉について整理してみますと、表1のようになります。

 さて、これから、いくつかの骨格筋についての話をつづってみましょう。
表1

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ひもと筋肉

「ひも」にも、綱、ひも、糸、線維などいろいろあります。おおよその区別はありますが、そのさかいははっきりしないことが多いものです。相撲の大将を横綱というように、綱はひもの中でもいちばん丈夫なものでしょう。しかし、よく見ると、綱はひもの集合であり、ひもは糸をより合わせたものなのです。さらに虫メガネで見ますと、糸もたくさんのさらに細い糸に分かれています。顕微鏡の下では、この線維もまたより細い線維からなっているのです。筋肉もこれによく似ています。

 大腿についている大腿四頭筋などは、さしあたり、もっとも丈夫な綱といったらよいでしょう。

 よく上腕二頭筋とか三頭筋とかいう筋肉の名前がつけられています。これは、上腕にあって頭が2つあるいは3つあるという意味なのです。そしてこの「頭」と称する部分が骨に付着して
いるのです。

 神社の「しめなわ」を見ますと、大きななわの束がより合ってできています。しかし、そのもとはごく細い1本1本の集合なのです。こうした綱やひもの様子は筋肉にもよくあてはまります。

 大きな「しめなわ」を真二つに切って、その断面を見ますと、太いなわの束が2つあるいは3つより合ってできています。この断面はビフテキにも似ています。そして、1つの筋肉は筋束に分かれていて、その筋束はさらに細い束に分かれていますが、ついには筋肉の細胞にまで分けることができます。この細胞をふつう筋線維と呼んでいます。(図1)

 もともと人間のからだは、受精した1個の細胞からなり、それが2つが4つに、4つが8つにというぐあいに複数化し、人間が生まれ出てくるまでには、約2兆の細胞にまで数を増してくるのです。こうして数を増しているあいだに、細胞はその形も変えるのです「形態は機能を左右し、機能はまた形態を支配する」といわれるように、皮膚になる細胞は薄くて平らなタイルのように、気管をつくる細胞はレンガのように、筋肉の細胞はショウブの葉のようにそれぞれ変化してくるのです。筋肉の細胞がその働き方に適した形をとり、細い線維のような形を呈しているので、「筋線維」と呼ぶようになったのでしょう。

 筋線維をさらに顕微鏡の下で強く拡大してみますと、もっとも細い線維からなりたっていることがわかります。この線維を〝筋原線維〟といっています。これをさらに電子顕微鏡の助けを借りて見ると、ミオシン線維とアクチン線維からなりたっていることがわかります。この段階までくると、もはや形の上の分け方ではなく、化学的な物質として分けられていることになってしまいます。大きな綱もひじょうにたくさんの細い線維からなっているのですが、筋肉を形成している線維の数はもっとも多いのです。そして、筋肉が強いというのは、じつはできるだけ細い線維がたくさん集まっていることによるのです。
図1

図1

図2

図2

筋肉の働きはエスカレーター

 東京から大阪に行く汽車は、大阪で乗客をぜんぶ降ろし、帰りは大阪から東京に向かう新しい客をのせるのですが、筋肉の働きは、これとはちがうのです。筋肉はちぢむときもあり、のびる働きもするというものではありません。筋肉の働きは、ただちぢむことだけなのです。筋肉の働きは、霊柩車のように、帰りはかならず空なのです。

 上り、下りともにお客をのせたほうが経済的でしょうが、もしこうなると下りのお客が集まるので、降りられないという不便も出てきます。エレベーターは下りてこなければ、上ることもできません。筋肉の働きはエレベーターのようなものではなく、むしろエスカレーターのように一方的に働いているものなのです。

 筋肉は、その働き方によって、伸筋と屈筋とに分けられます。しかし、伸筋といっても、けっして伸びることによって仕事をしているのではありません。図2に見るように、腕をまげるためには、上腕二頭筋が働いてちぢめば腕はまがります。だから、これを屈筋といいます。これと反対に、腕が伸びるためには上腕三頭筋が収縮しなければなりません。したがって、腕を伸ばすためにも、やはり筋肉は収縮しなければならないのです。伸筋とは、伸ばすためにちぢむ筋なのです。

 こう考えてみると、筋肉が強いとか力があるということは、筋肉の収縮する力が強いことなのです。
(筆者はお茶の水女子大生理学教室教授 医学博士)
主要随意筋一覽表

主要随意筋一覽表

Mr.America

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記事画像8
内転と外転 体軸または体肢の軸に近づけるのを内転、遠ざけるのを外転という。(例)大腿の外転――側方に開くこと。

回内と回外 体肢について用いられる。尺骨側(小指側)を軸として手掌を回すとき、回内とは手のひらをふせるときのように内方に回す運動をいい、回外はその逆である。上腕や大腿では内旋・外旋ということが多い。

 骨や体肢の長軸を軸とする運動を回旋という。また屈曲、伸展のうち手首で掌側に曲げることを掌屈、手背側に曲げることを背屈という。
月刊ボディビルディング1969年8月号

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