宮本皜選手のトレーニング法 ~ ’69ミスター日本3位 ~
シット・アップ わずか3セットでこの腹筋の切れとは恐れ入った。
宮本選手の体位
その宮本選手が、今年のミスター西海とミスター九州の両コンテストで優勝した勢いにのって、ミスター日本コンテストに出場してきた。しかも、強豪の集まる全国大会では通用しまいとの大方の予想を裏切って、堂々第3位に入賞したのである。
--入賞の自信はありましたか?
--いいえ、10位にはいれれば上出来と思っていました。
--初めてコンテストに出たのはいつですか?
--昨年のミスター福岡・九州コンテストです。
--そのときの成績は?
--ミスター福岡では優勝しましたが、九州では川上さんに次いで2位でした。
今回のミスター日本を含めて、過去4回、5つのコンテストに出場して、1位3回、2位と3位各1回、とつねに表彰台に上がっている。
--快進撃をつづけていますが、コンテストで何が一番アピールしていると思いますか?
--デフィニションだと思います。
--福岡には小笹兄弟をはじめとして、デフィニションのよいビルダーがそろっていますが、博多の気候風土にはぐくまれて練習すると、そうなるのですか?
--博多の新鮮な魚が原因ではないでしょうか。
イヤァ、この言葉が真実なら、これから毎日空輸してもらって、私もそのごりやくにあずかりたいものである。
スロー・カール 25~30kgの軽いバーベルで正確に行なう。
チン・ビハインド・ネック 広背筋の運動はこれ1種目だけ。
魚中心の食事献立
--ハイ、朝、昼、晩ともに、魚はかならず食べます。
--種類は?
--青もの、つまり、サバやアジが多いです。
--調理方法は?
--オイル焼きがほとんどです。
--肉は食べますか?
--以前は食べましたが、今は魚ばかりです。第一に経済的であること、第二に肉食のばあいのように血管にコレステロールがたまらないこと、そして第三に、欧米人と日本人の腸の長さが異なるから、日本人の体には魚が合っていること、その他いろいろ長所がありますから。
1967年度ミスター日本の小笹和俊さんのお店で魚を仕入れてくるのだそうだ。
--魚以外には何を食べますか?
--タマゴ、野菜、牛乳で、毎日ほとんど同じものです。
私も4~5年間、栄養学的に綿密に計算して作り出した朝の献立、夜の献立の2つのメニューだけですごしたことがあるが、食事が味気ないものであった。
--米飯はとりますか?
--デンプン質のものは、ほとんど食べません。
--炭水化物の摂取を少なくするとやはりデフィニションは出やすいですか?
--ハイ、ゼイ肉がつきませんね。デフィニションのある体を作るには、練習はもちろんのことですが、食事が大切な要素だと思います。
--ほかに食事面で気をつけることは?
--タンパク質の酸性と、野菜のアルカリ性の調和を保つこと。それからよくかんで食べることです。1回の食事に私は1時間かけます。
--調理はご自分で?
--ハイ、間借りをしているので、自分でします。1日のうち約5時間を調理と食べることについやします。
10セット15分のハイ・ペース
--6日です。
--スプリット・システムではなく同じものを毎日行なうのですか?
--そうです。
--変わっていますね。
--この方法が自分の体に一番適していると思っています。
--所要時間はどのくらいですか?
--1時間半です。
--15分間に10セットのペースとは早いですね。
--もう少し時間をかけて、セット数も多くしたいのですが、仕事が朝早いのと、食事に時間がかかるのとで、仕方がないんです。
アメリカのボディビル界で最近よくいわれている“デフィニションのためのスピード練習”は、やはり効果的なもののようである。
フロント・プレス スケジュールの中には肩の種目が多い。
ベンチ・プレス 「自分の体の弱点は胸のバルク不足です」
スタンディング・ロー この種目で僧帽筋から三角筋の迫力を出す。
--腕と背筋の上部です。
--スケジュール表では、背筋上部の練習量は少ないようだが……
--チンニングを5セット行なえば十分効果があります。
--バルクとデフィニションがみごとに調和した“すばらしい”の一語につきる脚部をしていますが、脚の運動種目はスクワットだけですか?
--そうです。以前は、1日に2度脚の練習をしたことがありました。そのころの効果が残っているのでしょう。
--ボディビルを始めたときから、脚は太かったのですか?
--いいえ、ボディビルをやる前は脚があまりにも細くて、既製品のズボンではそのままはけずに、寸法直しをしてもらっていました。
かぼそかった脚も、いまでは63cmの太さにまで成長した。この宮本選手がミスター・ユニバース・コンテストに出場したら、かならずやベスト・レッグのタイトルを握ってくるものと、私は信じて疑わない。欧米のビルダーの脚部は、バルクはあるが、デフィニションに欠けるものが多い。
--どのコンテストを見ても、また内外の雑誌を見ても、みな下半身が弱いので、他人の弱いところをよくして差をつけてやろうと考えました。
と語る宮本選手のこの言葉は、いかにも自信満々といった印象を読者にあたえるかもしれないが、実際はまったく逆で、質問には時間をかけてゆっくり考え、答えはいつも控え目である。
--あなたのようにおとなしい性格の人は、コンテストのときにアガりませんか?
--最初のコンテストのときから、その心配はありませんでした。観客の顔を見ると、反対におちついて自信がわいてきます。
スクワット 売りものの脚はスクワットだけで鍛える。
フレンチ・プレス 現在は腕を太くすることに力をそそいでいる。
--先月号で紹介した小沢選手は、重量で練習していますが、あなたは?
--自分は軽量で行ないます。
--トレーニングでもっとも気をつけることは?
--特別に何もありませんが、1セット1セットが雑にならないようにしています。
--今回のミスター日本コンテストに備えて、特別のトレーニングをしましたか?
--別にしていません。まったくふだんのとおりです。
--どのコンテスト前でもそうですか?
--練習内容は同じです。だが、ふだんの練習はただ一生けんめいに楽しくやっていますが、コンテスト前は、アセリが出て、トレーニングがつまらなく感じ、苦しくなります。
これは何も宮本選手にかぎらず、だれしも同じことだろう。文学書など、ただ読んでいるときには楽しいものだが、それが学校の教科書に使われるととたんにイヤなものに変わるのと同じリクツだろうか。
対コンテストの秘訣
--ポーズをよく研究することです。自分の体のよさを十二分に発揮しなければ勝てません。ポーズ練習は、トレーニングと同じくらいに大事です。
--どんなポーズ練習をしていますか?
--まず鏡を見ながら行ない、次には鏡を使わないで写真に収める。このときは鏡を見ていないので、バランスがくずれるところがわかる。次にまた鏡を見ながら欠点を直す。そのくりかえしです。
コンテスト前の1カ月間は、宮本選手の所属する福岡ボディビル・センターのコーチである小笹和俊氏に、つきっきりのポージング・コーチを受けるそうだ。体型から見せ方まで、小笹氏のそれにそっくりなのも、むりからぬ話である。
デッド・リフト 背筋の厚みを作るために、80~90kgのバーベルを使って行なう。
バック・プレス 宮本選手は、あまり握り幅を広くしない。
第二の小笹に
--もういまとなっては、ボディビルが生活の一部になっているので、やめ切れないでしょうね。ただし、現役は28歳までで、家庭にはいってからはなんらかの形でつづけていきます。
--現役生活中の目標は?
--日本代表選手としてミスター・ユニバース・コンテストに出場してみたいです。
福岡ボディビル・センターの太田実会長が、「小笹のあとをついで、日本のチャンピオンになってもらいたい」と語っていたが、この謙虚でおごったところのみじんもない宮本選手ならばミスター日本の栄冠をかちとる日も遠くはあるまい。
末光、小沢両選手と同じく、給料のほとんどすべてを食費にさいている宮本選手は
--遊興費がないので、遊びはまったくできません。しいていうならば、シーズン・オフのスキーだけが遊びでしょうか。
--趣味は?
--ボディビルのほかはありません。
--将来の生活目標は?
--現在はボディビル以外のことは考えられません。
それでよいのだ。青春の1時期を、目標に向かってわき目もふらずにつっぱしれば、おのずと道はひらけるものだ。がんばれ、宮本!ゴールは近い。
(筆者は第一ボディビル・センター・コーチ)
宮本選手のトレーニング・スケジュール
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