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Invitation to Bodybuilding
ボディビルのすすめ 1969年11月号

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月刊ボディビルディング1969年11月号
掲載日:2018.03.21
 ここに1冊の雑誌がある。ボディビル誌だ。値段は180円。ハイライト2個分とおつりが20円。銀座でコーヒーを飲めば30円のつりがくる。

 この雑誌を、あなたはいま買おうか買うまいか、と考えて、手にとってみる。たくましい若者たちの写真がならんでいる。体を大きくするさまざまなバーベルの使用法が書いてある。

 しかし、あなたは考える。こんなバカデカイ体になって何になる。オレには興味がない。買うのはやめようか。が、見るからに〝カッコイイ〟体格は男としてちょっと興味をそそられる。

 おれも、こんな体になれるのかなァ。あなたは、自分の体を見つめる。

 見れば見るほど貧弱な体だ。中学、高校時代はいろんなスポーツをやってけっこういい体だったが、その後はさっぱり。付合いで酒を飲み、タバコもおぼえた。朝メシがまずい。カゼもひくし、たまに走ったりすると、吐きけがする。やせてしまって、顔色もすっかり悪くなった。あの、元気なころのオレは、いったいどこへ行ってしまったのだろう。女の子を誘ってお茶を飲みに行っても、どうも張りが感じられない。人生に疲れたみたいだ。

 ひとつ、オレもこんな運動をやってみようか。器具は月賦で買えるということだし、場所も大していらない。1日30分もやれば充分だろう。

 こんな思いが、あなたの胸中を往き来する。

 どうせ180円の投資だ。目を通すだけでも役にたつだろう。あなたは金を捨てる気でこの1冊の雑誌を買う。

 さあ、これであなたはひとつの〝関門〟を突破した。ガイド・ブックを手に入れたのである。

 家に帰って、あなたはもう1度雑誌をパラパラめくってみる。おもしろそうだナ、やってみるか。たしか、勤め先の近くにボディビルのジムがあったはずだ。

 翌日、あなたはおそるおそるジムをのぞく。すごい体の連中が、重いバーベルをまっかになってもち上げているこんな連中といっしょにやるなんて、イヤだなァ。しかし、待てよ。オレも3カ月くらいやったら、あんな体になれるかもしれん。

 あなたは、思いきって受付に申し出る。

 ――入会したいんですが……

 2度目の関門通過だ。

 あとは、ワキ目もふらずに、ただ黙黙とトレーニングにはげむがよい。まわりのでっかい連中は無視して、あなたはひたすらバーベルをにぎる。

 はじめは、30kgでフーフーいう。しかし、半月もすると、あなたの体はみるみる変わってきたのがわかる。まず肩の筋肉がつき、胸が厚くなったのに気づく。目方はちょっと減ったが、体全体が軽くなり、なんとなく〝闘志〟みたいな元気がわいてくる感じだ。

 仲間も、そして家族たちも「おまえ大きな声を出すようになったなァ」という。それより、メシをどんどん食べるので、おフクロさんはびっくりしている。

 半年、そして1年たつ。あなたは、もうボディビルダーだ。体は見ちがえるほど大きく、たくましくなった。顔はもとより、体全体の色つやがよい。自宅の近くの坂道を上がるとき、あなたはいつも息を切らしていたものだったが、このごろはまるでカケ足の速さで登り降りする。まわりの見る目が変わってきた。

 ――おまえ、どうなってるんだ。

 ――おまえ、ふとってきたなァ。

 だれも知らない。オレがバーベルをやっているなんて。

 ある日、会社の宴会で、あなたは箱根あたりの温泉旅館へ出かける。

 ――オイ、ひとっプロ浴びるか。

 同僚といっしょに、あなたは地下の大浴場へ出かける。いままでは貧弱な体が恥ずかしくて、みんなとフロにはいるのはいやで、いやでたまらなかったのだが……

 きょうは、ひとつ、みんなをおどろかせてやれ。どかどかとフロ場へとびこむ仲間からわざとおくれて、あなたは裸になる。

 ――オイ、見ろよ。すごい体のヤツがはいってきたゾ。

 湯気の向こうから、仲間たちがひそひそしゃべっているのが聞える。

 あなたはニヤニヤしながら浴場へはいる。

 ――ヒヤッ、おまえか!

 ――オイ、いつのまにそんな体になったんだ。

 あなたは、ひとつの目的をみごとになしとげた喜びを、その瞬間に感じるのだ。

 人間、一生に1度は自分の目標を達成することだ。その1つに、このボディビルがある。

 あなたは、こんな空想をめぐらせながら、その1冊の雑誌を小ワキにかかえるだろう。

 ボディビル誌は、そんな役割をはたす雑誌なのである。
(S.S.)
月刊ボディビルディング1969年11月号

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