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☆私の指導法☆
 筋肉の発達はボディビルの副産物

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月刊ボディビルディング1972年1月号
掲載日:2018.06.18
錦糸町ボディビル・センター
会長 遠藤光男
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”健康管理とボディビル”

 かってボディビルといえば、やたらに筋肉隆々とした逆三角形の体になることだというように誤解している人が多かった。しかし、いまではそのような誤った考え方の人はきわめて少なくなってきていると思う。

 私のジムでも新しく入会してくる会員の大部分は健康管理が目的であり、最初からボディ・コンテストや、パワー・コンテストをねらうような会員はほとんどいないといっていい。

 このことは、ようやくボディビルが正しく理解されてきた証拠であり、ボディビルの普及発展のために大へん喜ばしい現象だと思う。

 ただこの健康管理のためのボディビルというのは、目的が比較的漠然としているために、途中でなげ出してしまう人が多いのは残念である。長い期間にわたって、コツコツとトレーニングをつむことによって、はじめて健康管理の目的は達せられるのであり、またボディビルの本当のよさ、面白さというものも理解されてくるのであるが、その途中で挫切してしまったのではなんにもならない。

 これは、もちろん練習者自身にもその責任はあるが、指導する側にも責任の一端があるのではないかと思う。

 私も過去においては、新しく入ってきた会員に、少しでも早くボディビルの効果を自覚させてやろうとして、細かいスケジュールをつくり、なかばそれを強制して、腕が何センチ太くなったとか、胸囲が何センチ広くなったとか、あるいはベンチ・プレスが何キロできるようになったとか、数字をあげてその効果を具体的に示そうとしたことがあった。

 しかし、そのようにボディビルの効果を数字で示す指導法は誤りだったと思う。それはなぜかというと、ボディ・コンテストやパワー・コンテストを目指すごく一部の会員を除いて、健康管理を目的とする会員にしてみれば、腕囲や胸囲が増えることは大きな喜びには違いないが、それがために、スケジュールをこなすことが苦痛になってくるのである。そのあげく、これではとても続かないと途中で止めてしまうのである。

 筋肉の発達や筋力の増強は、あくまでもボディビルの副産物であって、これをボディビルの本来の目的であるかのように指導することは、大きなあやまちであることを自分でもさとったのである。

”私の経験”

 私は昭和36年、17才のときにボディビルを始めた。これといって別に体に悪いところがあったわけではなく、どちらかというと健康体に属する方だった。

 しかし、学校を卒業して就職してからは、運動とはまったく縁がなくなり若い自分の肉体をもてあますばかりだった。そして、なんとなくだんだん体が悪くなっていくような気がしてならなかった。こうして運動不足の解消と健康管理を目的として、私が選んだのがボディビルだった。したがって、将来ミスター日本に選ばれようとは、まったく考えてもいなかった。

 ミスター日本の優勝を意識しはじめたのは、ボディビルを始めてから3年ほどたってからである。そのころ、一緒に練習を初めた同僚よりも私の発達ぶりは目立って早く、すでに2、3年先に始めた人たちよりも、私のほうがはるかにビルダーらしい体つきになっていた。それに自信を得て、それからというものは、いままでに増してトレーニングもハードとなり、食事にも異常なほど神経をつかった。

 こうして昭和41年に、念願のミスター日本に選ばれたのであるが、私がここで強調したいのは、誰でも栄養をうんととって、猛練習をすればミスター日本になれるというものではない、ということである。それにはもって生まれた素質が大きく影響するのである。

 私がなぜこのようなことを強調するかといえば、ボディビルの本来の目的はコンテストに出場したり、ミスター日本に優勝することではなく、それはあくまでも健康管理であって、筋肉の発達はボディビルを実践している過程での副産物であり、コンテストはそのなかの特別に発達した人たちが出場する、ほんの一部の催物にすぎないということをいいたかったのである。

 ボディビルを始めるにあたっては、人それぞれに目的がある。たとえば、胃弱の人は胃を丈夫にすれば、ボディビルは立派にその目的を達したといっていいだろう。また、日常のちよっとした労働で疲れる人は、トレーニングによって体力をつけ、それを克服すれば、それで十分目的を達しているのである。

 私の場合も、先に述べたように、最初からミスター日本になろうとして始めたわけではなく、目的はただ健康を維持するためだったのである。それが途中で、他の人たちよりいくらか素質があって、筋肉の発達が早く、その結果としてミスター日本に選ばれ、ボディビルを一生の仕事とするようになってしまったのである。

”新入会員に対する指導”

 新しく入会した会員に対しては、どこのジムでもやっているように、年令・職業・既往症・スポーツ経験などをよく聞いて、最初はきわめて軽いスケジュールをつくってやるようにしている。もちろん、トレーニングに対する注意事項、マナー等に対しては微に入り細にわたって指導することはいうまでもない。そして、最初にあつかう重量は、せいぜい本人のできる最高重量の1/2程度に止めている。

 健康管理を目的とした人の場合には極端にいえば徒手体操でもある程度その目的は達せられるのであるから、重量はほとんど問題にしなくてよいのではないかと思う。そして、これではどうにも物足りないというときに、始めて少し増量するようにしている。

 とくに私のジムの場合は、一般社会人がその大多数を占めているためか、あまり細かく指示したり、義務づけたりするのを嫌がる傾向にあるようだ。大まかなスケジュールを示してやればその範囲内で自分自身でコントロールしながら、勝手に楽しそうにトレーニングをしている。

 いくら経験豊富なコーチでも、会員の疲労度を厳密に知ることはできない。本人が自分で感ずるのがもっとも正確なはずだ。したがって、きょうは少し疲れているから軽めにしようとか、最近、疲労をまったく感じなくなったからセット数を少し増やそう、といったようなことは会員自身にまかせるようにしている。

 ただ、個人個人によってトレーニング種目に好き嫌いがあり、黙って見ていると、どうしても好きな種目に片寄るので、これはよく注意しなければならない。

 要は、ボディビルを習いに行くというような気持ではなく、自分から積極的に健康を求めて来たくなるという雰囲気にすることがたいせつだと思う。ときには、トレーニングはしたくないが、1日に1度はジムに顔を出さなければなんとなく落ちつかないというようになれば理想的である。

”中・上級者に対する指導”

 中・上級者に対する指導は、あまりに個人差がありすぎて、一概にいうことはできない。もちろん、初心者に対する指導とは別な方法になってくる。

 先にも述べたように、ボディビルの副産物として、なかには相当いちじるしい筋肉の発達を見せるものもでてくる。そして、何とかコンテストを狙ってみようと考えるようになる。

 このようになった人に対しては、筋肉の発達状況、体形等に応じ、具体的な細かい指示や、きびしいトレーニング・スケジュールを課すのである。ときには食事に対する注意までする。しかし初心者と違って、いくら強制しても簡単にくじけるようなことはないから安心である。したがって、考え方によれば、初心者に指導するよりもかえって楽である。

 また、このような人に対しては、私が5〜6年前に、ちょうど同じような立場にあったのだから、ある程度、私の実践してきたことを教えてやればよいという面もある。しかも、口先ばかりでなく、私自身が午後1時間、夜1時間、合計1日2時間のトレーニングを欠かしたことがないので、身をもってトレーニングの見本を示すことができるという強味がある。

 ある程度トレーニングをつみ、筋肉も順調に発達してきた中・上級者の場合、突然スランプを自覚するときがある。

 鏡を見るたびに大きくなっていると感ずる好調が、何カ月も続けば申し分ないが、逆に前よりも小さくなったように見えるときがある。こういうときがすなわちスランプである。しかも、
 新入会員にボディビルの基本を指導する私

 新入会員にボディビルの基本を指導する私

 これがしばらく続くと、自信を失い、ついにはボディビルを断念することにもなりかねない。コーチとしては、これをどのように指導し克服してやるかが問題なのである。
 
 もちろん、スランプの具体的な原因がはっきりしている場合は、それをとり除けばよいのであるが。とかく原因がはっきりしない場合が多い。こんなときは、しばらくトレーニングを休むか、あるいは軽減して、ふたたびトレーニングに対する意欲がわいてきたときに、思いきってスケジュールを変えてやるのがよい。さらに、スランプを克服した自分の経験などを話して、精神的な脱出をはかるのも1つの方法である。

 次に具体的に私が中・上級者に指導している方法を2〜3述べてみよう。とくに、上級者については、1つの筋群に対して週に2〜3回、1回のセット数が20セット、したがって1週間に1筋群に対して40〜60セットぐらい消化するようにしている。このようなやり方で全身を鍛えるとすれば、1日につき1時間半から2時間を要するかなりきつい練習になるはずである。しかも、セット間の休憩はあまりとらないのである。

 1つの筋群に対するセット数を約20セットとしたのは、パンプ・アップに必要なセット数は、おおむね10〜12セットと考えられるので、パンプ・アップ後さらに8〜10セット行ない、筋群により強い刺激を与えるためである。

 次に、1日に行なう運動の順序についても注意しなければならない。それは、スタミナを上手につかって、常にフレッシュな気持でトレーニングできるようにしなければならないからである。

 たとえば、胸とか広背のような大きな筋肉に対する運動は後まわしにして腕・首などのような小さい筋肉に対する運動を最初に行なうのである。大きな筋肉に対する運動を先に行なうと、それだけでスタミナを消耗してしまい次に小さい筋肉の運動をするときに意欲がなくなってしまうからである。

 この逆の場合は、たとえ腕の運動を20セット消化したとしても、それほどスタミナを消耗することはなく、その後で大きな筋肉に対する運動をしてもたいして苦にならない。

 また、ある1つの筋肉を鍛える場合には、できるだけ多くの運動種目を採用するようにしている。それは、いろいろ変わった角度から筋肉に刺激を与え、トレーニングに変化をもたせて、マンネリ化を防ぐという効果をねらっているからである。

 たとえば、大胸筋の場合、ベンチ・プレスだけを20セットやるよりも、ベンチ・プレス、ストレート・アーム・プルオーバー、インクライン・ベンチ・プレス、ベント・アーム・ラタラルの4種目を各5セットずつ、合計20セット行なうのである。

”デフィニション獲得にはポージングの練習を”

 コンテストを目指すような上級者にとっては、バルクとともに欠かすことのできないのがデフィニションである。

 私の経験からいうならば、トレーニングによってバルクをつけ、デフィニションはポージングの練習によって獲得するのがよい方法だと思う。ポージングの練習をしたものならば誰でも経験があると思うが、真剣に5〜10分ぐらいこれをやれば、他の運動をしたのと同様に相当疲れるものである。これは、ポージングが一種のアイソメトリックスと同じ筋の働きをするからであり、しかも、見せようとする筋肉部位に意識を集中して行なえば、デフィニション獲得に相当効果があると思う。

 現に私の脚は左右同じようにトレーニングしていながら、左脚の方がはるかにデフィニションがある。これは私が前面ポーズをするときに、いつも左脚のカカトを少し上げ、左脚のフクラハギと大腿を見せようとして、左脚に意識を集中したポージングの練習をくり返したからだと思う。

 ふつうポージングの練習は、コンテストの1〜2カ月前からあわてて始めるが、いま述べたような意味からも、毎日10〜20分くらい練習したいものである。もちろん、デフィニション獲得には、栄養のとり方が密接に関係していることはいうまでもない。

 最後に、これは中・上級者に限ったことではないが、新鮮な気持で、意欲的にトレーニングに取り組むことが、何よりも効果があることを忘れてはならない。
月刊ボディビルディング1972年1月号

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