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ボディビルの基本[その5]
発達における個性と胸郭の運動

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月刊ボディビルディング1972年2月号
掲載日:2018.05.09
竹内 威(NE協会指導部長 ‘59ミスター日本)
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筋肉の発達と運動種目の特性

 筋肉の発達と体力の強化は、食物に負うところが多い。しかし、体を動かすことをしないで、栄養のあるものを食べても、体の発達は充分にはなされない。体の発達を促す第1の条件は、まず体を動かすことにある。

 ボディビルについていえばトレーニングすることであり、トレーニングの内容が体の発達の傾向を決定づけるといっても過言ではない。つまり、胸を発達させるためには胸の運動を、脚を発達させるためには脚の運動を行なわなければ、胸の発達も脚の発達も充分にはなし得ない。

 すべての筋肉は、それぞれ収縮する方向が異なり、運動における作用のしかたもちがう。したがって、発達を意図する筋肉を充分に発達させるためには、筋肉の働く方向と作用のしかたをよくわきまえて運動を行なわなければならない。

 わかりやすくいえば、大胸筋の発達を意図しているのに、ベンチ・プレスのみに片寄っていては思うような発達がなかなか得られない。このためには大胸筋の上部の収縮を充分に促すインクライン・プレスを合わせて行なうようにするということである。

 初級者の段階にあっては、大まかな運動種目のみでも、かなりの発達を得ることは可能であるが、修練年月が長く、体も相当発達している場合では、大まかな運動種目のみを行なっていたのでは、より以上の発達を得ることはむずかしい。

 そこで、体の各部分をさらに細かく分け、細分した部分に対してそれぞれ適確な運動を行なう必要が生じてくるいわば高度な運動種目を採用することが要求されるようになる。

 また、体の発達がいちじるしくなってくると、発達における形体的な短所も目だつようになってくる。そのような場合には、当然、その短所を是正するための運動種目を採用しなければならない。とくに上級者にあっては、発達を意図する筋肉を充分に発達させるために、あるいは短所と思われる部分を是正するために、1つ1つの運動種目の特性をよく理解したうえで、もっとも適確な運動を行なうようにしなければならない。

筋肉の発達にも個人差

 さきにトレーニングの内容が、体の発達の傾向を決定づける、と述べたがつぎに、部分的な筋肉の発達における形体的な個人差をもたらす要因について説明しよう。

 人間の体は、機能的にも形体的にも個人差がうかがえる。頭の形や目鼻だちに個人差があるように、骨格と筋肉の形にも個人差がある。

 たとえば、胸部の骨格にしても、すべての人が同一の形をしているのではなく、厚み・広がり・大きさに個人差がみとめられる。このように、胸部の骨格に個人差があるということは、胸部に付着している大胸筋の働きかたにもいくらか影響を与え、大胸筋の発達と形に個性的な差異をもたらす。つまり、ベンチ・プレス等による特定なトレーニングの結果が、各人の大胸筋や他の関連した筋肉に同様な成果をもたらすとは限らず、形とか大きさにおいて個性的な発達がみられる、ということである。
胸郭の図

胸郭の図

 このような現象は、体のどの部分についても同じことがいえる。そして、ときには筋肉の発達がアンバランスで形体的にも不満足と思われる部分も生じる。すなわち、短所とか欠点とかいわれる箇所が生じるのである。

 このようにして生じた欠点を是正するためには、それを是正するための適確な運動種目を行なうことが必要になってくる。そうすることによって、実際にある程度欠点を是正することはできる。しかし、個性的な形を根本的に変えることは、次のような理由で不可能といわなければならない。

 筋肉は両端が骨に付着しているのであるが、その付着部の形にも個人差がある。殊に大胸筋においてその傾向は顕著である。大胸筋の胸部における付着の外形を見ればわかるように、ほぼ四角い外形をなしている人もいれば、丸い外形をなしている人もいる。この外形のちがいは先天的なもので、こればかりは運動によって丸いものを四角いものに根本的に変えることは不可能である。

 したがって、必要以上に外形にこだわるのは無意味である。スティーブ・リーブスの四角い大胸筋も、ビル・ペールの丸い大胸筋も、それぞれ個性に満ちた魅力的な大胸筋である。そのように考えれば、大胸筋そのものを充実したものにするように心掛けるほうがよい、ということになる。
 
 また、筋肉の形体的な個人差を呈する他の原因としては、筋肉そのものの長短によることが考えられる。肘を曲げて上腕部に力を入れた状態で見ればわかるように、上腕二頭筋の長さにも個人差があることがわかる、このような筋肉そのものの長さにおける個人差は、同様に他の筋肉についてもいえる。

 上腕二頭筋を例にとって説明するならば、筋肉の端に腱があり、その腱の先端が前腕の骨における付着部に接続している。この腱の部分は、運動によって筋肉に変えることもできなければ筋肉のように肥大させることもできない。したがって、上腕二頭筋の発達には、筋肉と腱の長短によって形体的な個人差が生じる。もちろん、このような傾向は他の筋肉についても同じである。

 以上述べたように、筋肉の形に個人差が生じるのは、先天的な体の差異による面があるといえる。

 大胸筋の上部が薄いとか、広背筋下部の発達が弱いというような、筋肉の不均衡な発達のしかたは、トレーニングの内容に原因があるので、これは運動によって是正することが可能である。しかし、大胸筋の外形だとか、上腕二頭筋の長さなど、先天的に定まっているものは運動によって変えることはできない。この点をよく考えて、自分なりの個性を生かすようなトレーニングを行なうことが望ましい。

では、今回から体の各部分の運動種目と運動法について説明していくことにする。

胸郭の運動

 胸囲を大きくするには、大胸筋と広背筋を発達させるとともに、胸郭を拡張させる必要がある。胸郭は、胸腔の周壁であり、胸骨と12対の助骨からなる骨格である。そして、他の骨ぐみの成長が止まってしまった後でも、この胸郭は成長する可能性があるといわれている。

<胸郭が拡張する要因>

 ボディビルのトレーニングにおいて胸郭の拡張が促される要因として考えられるのは

 ① スクワット、ハイ・クリーンなどの筋作業の大きい種目によって、運動中、および運動直後の酸素需要量が一時的に増加し、肺における呼吸量の増大が引き起こされた場合。

 ②ハイ・レピティションにより、心肺機能がいちじるしく冗進した場合

 ③ラタラル・レイズ・ライイング、スティッフ・アーム・プルオーバーなどによって、意識的になされる深呼吸と、深呼吸を助長するための負荷によって、肋軟骨が内と外から刺激を受けた場合。などがあげられる。

<胸郭の拡張を促す効果的な方法>

 胸郭の拡張を、もっとも効果的になしたいと思うなら、いま述べた①②③の3つの場合がうまく合致されるように考慮して行なえばよい。つまり、ハイ・レピティションによる筋作業の大きい運動と、深呼吸を助長する運動を合わせて行なうようにすることである。

 たとえば、スクワットをハイ・レピティションで行ない、運動直後の呼吸が逼迫しているときに、ひき続いてラタラル・レイズ・ライイングを行なうといった方法である。

 このような方法によれば、先の3つの要因が相乗効果となりいずれか1つの方法を行なった場合よりも大きな効果を得ることになる。
ラタラル・レイズ・ライイング

ラタラル・レイズ・ライイング

<胸郭の拡張を促す運動法>

 前記の①に該当する運動としては、やはり、スクワットとハイ・クリーンがよい。この場合注意しなければならない点は②の要因を考えて、ハイ・レピティションで行なう必要があるので、重量はいくぶん余裕のあるものを使用することである。

 運動法は、可動範囲いっばいにできるだけ大きな動作で行なうほうがよいハイ・クリーンについては、とりわけ注意する点はないが、スクワットは、ハーフではなくフル・スクワットを行なうほうがよい。そして、動作中は両者とも1回ごとに停止しないで、連続した動作で行なうようにする。反復回数は、スクワットの場合なら15〜20回ぐらい、ハイ・クリーンの場合は10〜15回ぐらいは行なうようにする。

 ③に該当する運動としては、ラタラル・レイズ・ライイングとスティッフ・アーム・プルオーバーを行なうのがよい。では、つぎにこの2つの運動のやりかたについて紹介しよう。

◇ラタラル・レイズ・ライイング

 ここに紹介するラタラル・レイズ・ライイングは、普通に行なう方法とは少しおもむきを異にする。


 まずベンチに仰臥したら、ひざを曲げ大腿部を腹部の方に引き寄せるようにして、背と腰をベンチにびったりと付ける。この場合、腹筋に力が入らないように注意する。

 次に、普通の方法と同じように、胸の上に挙上した両腕を左右に開くようにおろす。このとき、おろしながら息をできるだけ大きく吸い込むことと、両肘を完全に伸ばし、いくぶん手首から先を上に巻き上げるようにして、両手を充分におろすように留意する。充分におろし終わったら、息を吐きながら元の位置にもどす。

 この動作を反復するときに留意することは、背と腹をべンチから浮かさないようにして、かつ、腹筋をあまり緊張させないことが肝要である。腹筋を緊張させると、胸郭が腹筋によって引きつけられて、広がりがいくぶん抑制されてしまう。

◇スティッフ・アーム・プルオーバー

 運動のやりかたは普通の方法とほとんど同じであるが、おろしながらできるだけ深く息を吸い込み、常に両肘を曲げないようにする。そしておろしきったところで手首から先を上方へいくらか巻きあげるようにして、両腕を遠くへ伸ばすようにするのである。

 器具を持ったときの両手の間隔は動作がしやすい幅でよいが、あまり間隔を広くすると、肩の関節をいためる恐れがあるので、この点に注意しなければならない。
 
 この種の運動は、胸郭の拡張を促すために行なうのであるから、重量は必要以上に重いものを使用することはない。大胸筋等の筋肉を発達させる場合と目的がちがうのであるから、その点をよく自覚して行なうことである。

 また、先に説明したスクワットなどの筋作業の大きな運動の直後(スーパー・セット)、深呼吸に重点をおいて15〜20回の多回数を行なうようにする。

 以上、胸郭の拡張について述べたが、これらの運動の効果は、短期間で目に見えてわかるというほどのものではない。したがって、長期計画で辛抱づよく行なうことが肝心である。
スティッフ・アーム・プルオーバー

スティッフ・アーム・プルオーバー

胸郭の変形

 ときどき胸郭がいびつに変形しているひとを見かける。その変形する1つの原因として、エクスパンダーの過度な使用があげられる。

 エクスパンダーによる運動も、余裕のあるバネで、左右均等に筋肉を使うようにすれば、それなりの効果は得られる。しかし、強いバネで行なうことにこだわり、運動に正確さが欠けると体が左右アンバランスに発達することがある。

 殊に、胸の前で引っ張る運動では、胸郭がいびつに変形してしまうことがある。というのは、この運動をする場合、力に余裕のないほど強いバネで行なうと、胸骨にバネが直角に交又するように正確な動作で行なうことが困難になり、つい引きやすいように不正確な傾斜した状態で行なうようになる。その結果、胸郭に左右不均等な圧力が強度にかかり、これを続けているうちに変形してしまうのである。
 
 一度変形してしまうと、これを矯正することはほとんど不可能なので、エクスパンダーを使用する場合は、バーベルやダンベルを使用するときと同様に、10〜15回くらいの反復が正確に行なえるような強さのバネで運動することが大切である。
月刊ボディビルディング1972年2月号

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