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第3回東日本学生ボディビル選手権大会の印象

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月刊ボディビルディング1972年2月号
掲載日:2018.05.01
原田隆正

◇筋肉美に長髪はアンバランス◇

 第3回東日本学生ボディビルディング選手権大会が11月20日、東京・板橋区の小豆沢体育館で開催された。

 開始時刻20分前に到着したのだが会場周辺はヒッソリ。付近に人っ子1人いない。ハテナと扉を開けたとたん耳に飛び込んできたのが琴曲の調べ。定刻前にはじめてしまったのか、それとも私のカン違いか。はるか彼方のステージには遅しい筋肉の整列が豆粒のように見える。

 予選審査が身長の高い順に進行中である。
 
 参加選手は17大学より約80名。見渡したところ、いわゆりスゴーイ筋肉とか、強烈な個性の持主は発見できない。そのかわり、ほとんどの選手が適度の均斉を示し、出場者間に大きな差異がみられなかったのが、かえって爽やかだった。

 爽やかでなかったのが少数の長髪族である。長髪のイメージは、病気とか老化であるから、美観はもちろん力感もない。ゴテゴテとした服装の上に載っかっているときの長髪には、それなりのバランスもあろうが、”筋肉”という素の衣装には全く相応しくないのである。

 髪型は個人の自由であり、審査の対象外であろうが、不潔・病弱の印象を与えるより、健康・自然の観を与えた方がトクであろう。男性美とは、無装飾な自然の美しさと一連のものだ。

◇音響効果はアイデア賞◇

 選手以外で気になったのが、選手を紹介するアナウンスのミスのアンコールである。選手だけでは大会は実現できない。縁の下の力持ちの協力によって大会は始めて成立する。スタッフは選手以上にマジメにやって丁度均衡が保たれる。紹介係を1人っきりに委せず、2人交替制にすればスムーズにいくのではないか。

 アイデア賞に該当するのは音響で、ポージング・リズムに合わぬ楽器(ギター)をやめて、琴に代えたのが賢い既成観念にとらわれることなく、ナマ演奏も避けては如何だろう。

 選手は台上に立ち隆々と胸を張る。一方、演奏者は床に座り込み、身をかがめている。台上は筋肉、床下は振り袖の娘さんである。異和感がキワ立ってしまうのだ。

 ついでに云わせてもらえば、日本のボディビル・ポーズに合うリズムは、ボレロ以外に考えられない。そして楽器はパイプ・オルガンである。演奏する曲目を録音しておいて、司会の際とポージング中とはボリュームに変化をつけて流したら如何であろうか。ポージングのバック・ミュージックは空気のごとくあるべきで、人体の邪魔をしてはいけない。

◇東洋大・太田明選手が優勝◇

 選手の中に、一流ビルダーのポージングを丸写ししている者がいたが、ボディビルに限らず「模倣」は男性の領域ではない。などと老爺心に耽っているうちに、筋肉一辺倒の観念稀薄な予選は終了。学生ビルダーは、勝敗に賭ける意識も淡白のようである。この雰囲気は快適でさえあって、狂的な面をもった一部「社会人ビルダー」にぜひ見学させ、参考にして欲しいムードがあった。

 緞帳を用いて20名の決勝進出者が紹介される。この勢揃いは凸凹がなく、イキも良くて見事であった。20名はそっくり其のまま、12月5日の第6回全日本学生対抗選手権(大阪)に遠征の由。続いて20名をさらにしぼってベスト・テンが決められる。

 遠藤光男氏ほか5名の審査陣による順位決定は次のとおりである。
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 ゲスト・ポーザーは重村洵。
 
 団体優勝は今年も東洋大学が獲得した。胸のすくようにキビキビとしていた東洋大のチームワーク・ルックは今も記憶に鮮烈である。しかし、このうち4人は、4年生の宿命から、やがて学園を離れる。

 学生ビルダーは、「卒業と同時に脱ボディビル」の傾向が顕著である。肉体の建設を4年にとどめて「放棄」してしまうとは……つくづくもったいないことである。
月刊ボディビルディング1972年2月号

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