フィジーク・オンライン

ボディビルの基本〔その9〕
上腕の運動

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1972年6月号
掲載日:2018.04.20
記事画像1
竹内 威(NE協会指導部長  '59ミスター日本)
 マッスル・トレーニングに魅了されたボディビル愛好者が示す肉体的な関心の中でも、とりわけ強く関心を持たれるのが腕である。
 そして、大多数のビルダーは、腕の運動となると、他の部分に増して、かなり意欲的にトレーニングを行なっている。
しかし、トレーニングの結果からみれば、腕の発達はトレーニング時の意に反して、なかなか満足するほどには得られない。
 トレーニング量が、必ずしもその成果に結びつかないのがマッスル・トレーニングの難しさである。ことに、腕はその傾向が強いようである。
したがって、腕を強化するには、トレーニングの量だけではなく、運動種目の選択とその組合わせを重視することが大切である。
 腕は、からだの部分としてはそれほど大きいとはいえないが、非常に目立つ部分であり、最初に述べたように、練習者がこの部分の発達に大きな関心を示すのである。
 腕は大別して上腕と前腕に分けられる。今回は、上腕の運動とその効果について述べてみたい。
 上腕には、上腕二頭筋、上腕筋、上腕三頭筋等があり、運動における作用にはそれぞれ固有のものがある。
したがって、トレーニングに際しては、その点をよくとらえて運動種目を選択すれば効果を倍加することができる。
記事画像2

上腕二頭筋の運動

上腕二頭筋は、長頭と短頭とから成っている。(筋肉図参照)この筋肉の作用は、腕の屈曲と回外(手をさげた状態で説明すると、手のひらが前から外側へ向くように前腕を回転させること)を助けるが、前腕の回外の角度と体側に対する肘の位置によって、長頭と短頭の緊張の度合いがいくぶん異なってくる。
したがって、上腕二頭筋のトレーニングは、採用種目に変化をもたせて行なうのが有効である。
 トレーニングにあたっては、まず初めに、上腕二頭筋全体に強い刺激を与えるため、重い重量を使用できる運動種目を行なうのがよい。
たとえば、一般に行なわれているバーベル・カール、スタンディング・ダンベル・カール、インクライン・ダンベル・カール等がこれに該当する。
 運動の方法は、あえてストリクト・スタイルにこだわることもなく、できるだけ筋肉全体を広範囲に、かつ充分に刺激するように行う。
これらの種目は、上腕二頭筋のバルクを増すための主要な運動であるから、チーティング・スタイルによる場合でも、それなりにていねいに行なうことが肝要である。

上腕二頭筋の運動種目

〇シーテッド・バーベル・カール
ベンチに腰を掛け大腿部の上から行なうカール。バルクを増すのに有効。

〇スリー・パート・カール
 この種目は、三様のカールを1セットとして、休息をとらずに連続して行なうものである。
 立った姿勢で、まず大腿部の位置から肘の高さまでのハーフ・カールを数回行ない、次に、肘の高さから肩までのハーフ・カールを数回反復する。
最後に、大腿部の位置から肩までのフル・カールを少し反動を使って数回行なう。
 それぞれの反復回数は任意でよい。このやり方を、7回ずつ合計21回行なう場合を称し、トゥエンティワン・カールともいう。バルクを増すために非常に有効である。

〇ベント・フォワード・カール
 上体を少し前方に倒した姿勢でカールを行なう。両手の間隔を狭くし、両肘を腹部に当てて行なうとよい。バルクを増し、盛りあがりをよくする。

〇ツィスティング・カール
 さきに、上腕二頭筋は前腕の回外に作用する、と述べたが、その性質をとらえたカールがこの種目である。
 手の甲を上にしてダンベルを持ち、手首を180度回転させながらカールを行なう。普通のダンベル・カールでは得られない収縮を上腕二頭筋に与え、盛りあがりをよくするのに効果がある。
さらに、上腕筋と前腕にもかなり有効な種目である。

〇ゾットマン・カール
 この運動は、ツィスティング・カールとともに、ゾットマン・エクササイズの1種である。
 両手にそれぞれダンベルをぶらさげて立ち、左あるいは右へ双方のダンベルを移動しながら、半円を描くように肩の前までカールする。
次いで、連続した動作で反対側へ回すようにおろし最初の位置に戻す。動作が完了したならば、こんどは逆方向から同様な動作を行なう。以下、1回ごとに交互に逆方向から行なうのである。
 この運動は、上腕二頭筋の長頭と短頭の双方が十分に刺激されるので、上腕二頭筋全体のバルクを増すのに非常に有効だといえる。(写真参照)

〇ダンベル・インナー・カール
 この運動は、’66ミスター・ユニバースのディブ・ドレイパーが好んで行なった種目である。
 両手にそれぞれダンベルを持ってベンチに腰を掛け、手のひらができるだけ外へ向くようにしてぶらさげる。肘を前後に動かさないように、かつ、ダンベルを水平に保つように留意しながら、からだの真横で両手のダンベルを巻き上げる。
 この運動は、バルクと盛りあがりを増すのに効果があり、とくに、長頭に有効である。(写真参照)
ゾットマン・カール 

ゾットマン・カール 

ダンベル・インナー・カール

ダンベル・インナー・カール

〇プリーチャー・ベンチ・カール
 プリーチャー・ベンチ(スタンドの上端に板をとり付けた台)に左右の腕をのせ、上腕部を固定したままカールを行なう。なお、インクライン・ベンチを代用して、ダンベルで片方ずつ行なってもよい。
 この運動は、バルクを増し、盛りあがりをよくするのに効果がある。ベンチの傾斜を強めると、盛りあがりをよくするのになお一層有効である。

上腕筋の運動

 上腕筋は、上腕骨下半から前腕の尺骨上端に付着している筋肉で、上腕二頭筋の下にあるが、腕を曲げたときに上腕二頭筋の下、外側にこぶになるのがそれである。
 上腕筋の作用は、腕の屈曲に上腕二頭筋と協同して働く。この筋肉を発達させることは、腕の逞しさとサイズの増加に結びつく。
 この筋肉は、上腕二頭筋の運動をすることによって発達するが、とくに強化したいときは次のような運動を行なうとよい。
〇ナロウ・グリップによるチンニング
 両手の感覚を胸幅よりも狭くしてチンニングを行なう。オーバー・グリップとアンダー・グリップの両方のやり方を試みるとよい。また、同様な感じでラット・マシン・プルダウンを行なってもよい。

〇リバース・カール
 本来は前腕のための運動であるが、上腕筋を発達させるのにも非常に有効な種目である。
 バーベルまたはダンベルをオーバー・グリップで持ち、両肘をいくぶん左右に振りかげんにしてカールを行なう
 その他の種目では、スタンディング・ローも有効である。

上腕三頭筋の運動

 上腕三頭筋は、1つの長頭と2つの短頭(外側頭と内側頭)からなっている。長頭は肩甲骨から、2つの短頭は上腕骨から前腕の尺骨上端の肘頭に付着している。
 この筋の作用は、腕の伸展であるが運動においては腕の伸ばし方で、それぞれ緊張の度合がいくぶん異なってくる。
たとえば、フロント・プレスにおいては外側頭が主に働き、ベント・アーム・プルオーバーにおいては、長頭と内側頭が主に作用する。

〇フレンチ・プレス・スタンディング
 まず、バーベルをオーバー・グリップで握り、頭上に挙上した姿勢をとる。つぎに、腕をうしろへ屈し背の方へバーベルをおろす。
おろしきったら両肘を前へ出さないように留意し、前腕で上方へあおぐような感じで腕を伸ばし元の位置に戻す。
 両手の握り幅を変えることによって筋肉に与える刺激に多少変化が生じるこの運動は、長頭と内側頭の発達に有効な種目である。
肘を左右に動かして差しあげるようにすると長頭と内側頭にあまり効かないで、外側頭に効いてしまう。

〇フレンチ・プレス・ライイング
 オーバー・グリップでバーベルを握り、ベンチに仰臥してベーベルを挙上する。ついで、両肘を開かないように留意して腕を屈し、バーベルを額(または頭)の上までおろす。
おろしたなら、肘を開かないようにして、前腕であおぐような感じで腕を伸ばして元の位置に戻す。
 上腕三頭筋の運動は肘を痛めるおそれがあるので、必ず軽い重量でウォーミング・アップをしなければいけない。
 この運動は、長頭と内側頭の発達を促すのに効果がある。

〇トライセプス・プレス・アップ
 この種目は、かの有名なラリー・スコットが好んで行なった運動として知られている。
 まず、ベント・アーム・プルオーバーと同じように、バーベルを胸の上でかまえる。そして、両肘を開かないように留意して、バーベルを額の上まで移動させ、連続した動作ですくうように腕を伸ばして、頭の先、45度くらいの位置へ突き出す。
腕を伸ばしきったら、同じコースを逆にたどって元の位置に戻す。
 この運動は長頭と内側頭に効くがとくに、長頭に有効(写真参照)。
〔トライセプス・プレス・アップ〕

〔トライセプス・プレス・アップ〕

〇ワン・アーム・フレンチ・プレス・ライイング
 ダンベルを片方の手に持ち、ベンチに仰臥する。肘を曲げて、ダンベルを縦に反対側の頬の横へおろす。あいている方の手で肘を固定させて行なうとよい。
 この運動は、上腕三頭筋全体に効き,とくに、厚みを増すのに効果がある(写真参照)。
〔ワン・アーム・フレンチ・プレス・ライイング〕

〔ワン・アーム・フレンチ・プレス・ライイング〕

〇トライセプス・プッシュ・アウエイ
 片方の手にダンベルを持ち、上体を前方に床と平行になるまで倒す。肘をわき腹の高さに保ち、前腕を垂直にしてダンベルを保持する。ついで、上腕部を動かさないようにして、前腕を後方へあげ伸ばす。
 この運動は、上腕三頭筋のデフィニションをよくし、とくに、長頭の鋭さを増すのに効果がある(写真参照)。
 また、これと似たような運動で、ベント・オーバー・ダンベル・バック・レイズがある。これのやり方は、上体を床面と平行になるように前に倒し、腕を垂直に伸ばしたままの状態から、後方へダンベルを上げる。
この運動はとくに長頭に効き、デフィニションをよくするのに効果がある(写真参照)。
〔トライセプス・プッシュ・アウェイ〕

〔トライセプス・プッシュ・アウェイ〕

〔ベント・オーバー・ダンベル・バック・レイズ〕

〔ベント・オーバー・ダンベル・バック・レイズ〕

〇ラット・マシン・プレス・ダウン
 ラット・マシンのバーをオーバー・グリップで握り、左右の上腕を体側に固定したまま、前腕で下方をあおぐような感じで腕を伸ばす。この運動は,上腕三頭筋全体のバルクを増すのに効果がある。


 以上の運動種目によって、長頭と内側頭だけでなく、外側頭も強化できるが、とくに外側頭を発達させたいという場合には、ナロー・グリップによるベンチ・プレス(両手の間隔は肩幅よりも狭く)か、プッシュ・アップ(両手の間隔は胸幅よりも狭くし、必要に応じて背にプレートをのせる)を行なえばよい。
 なお、フレンチ・プレスの変形として、インクライン・ベンチに仰臥して行なう運動と、デクライン・ベンチに寝て行なう運動がある。いくぶん刺激に変化をもたらすので試みるのもよい。

トレーニング・コースの組み方

記事画像9
 以上、参考としてトレーニング・コースの1例をあげたが、自分なりに変化のあるコースを作るとよい。反復回数とセット数については、筋肉を痛めないように、また、オーバー・トレーニングにならないように配慮して決めることが大切である。ときには、反復回数を変えることによって、トレーニングに変化を与えてみることも必要である。
 トレーニング頻度は、週2日くらいが妥当と思われる。また、屈筋(上腕二頭筋と上腕筋)と伸筋(上腕三頭筋)の運動を別々の日に行なうようにしてもよい。

 撮影協力 平井ボディビル・センター
 モデル 熊岡健夫コーチ
月刊ボディビルディング1972年6月号

Recommend