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協会はボディビル界の現状を直視せよ

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月刊ボディビルディング1972年9月号
掲載日:2018.05.05
東京ボディビル協会理事長、錦糸町ボディビル・センター会長
遠藤光男
 本誌に6月号から3回にわたって、JBBA吉田事務局長の「日本ボディビル界の過去~現在~未来」という論文がのっていた。
 この論文のいくつかは私も同感であるが、このなかに日本ボディビル界の現状についての認識が相当不足していると思われる部分がいくつかあった。
 まず第1は「現在は第2期黄金時代への突入期」と自画自賛しているが、果して現状が黄金期ともいえるものだろうか。われわれは決して黄金期が到来したなどとは思っていない。
 第2は「ジムの運営や指導の方法にまったく進歩が見られない。このままでは新しい時代にとりのこされてしまう」と述べていることである。
 このことについて、私もジム経営者の1人として、また、全国の経営者およびコーチを代表する気持で一言申し上げたい。
 ボディビルに対する姿勢と運営が、依然と比べて少しも進歩していないのは、ジムではなく、むしろ協会の態度だといいたい。
 なぜならば、協会の本来の使命は、ボディビルを国民の健康と体力づくりのために、広く普及するという大義名分があるにもかかわらず、現実に協会のやる行事といったら、コンテストとパワー大会の一点ばりで、ここ十数年間なんの普及運動も行事もしていないではないか。
 それが証拠には、一般の練習者はジムに入会するまでボディビル協会のあることすらほとんど知らない。つまりボディビル協会の普及活動によってボディビルを知り、これを実践するためにジムに入会するというケースは皆無に等しい。すべてこの逆なのである。
 すなわち、一般の人たちと接触を保って、少しずつでもボディビルを広めているのは民間のジムだといっても過言ではない。
 また、ボディビルの発展と、新しい時代に即応した指導の方法や運営を真剣に考えない経営者など1人もいない。だいいち経営者はそれが職業であり、それで生活をしているのである。一般の人にボディビルを知ってもらい、1人でも多く会員を増やすために、研究と努力を重ねている。このことについては、協会の上層部の人たちとは比較にならないほど真剣に考えている
 ジムの経営者たちがボディビルを愛し、苦しい経営に耐えながら、じっとがまんをしてきたからこそ、ボディビルの火は消えずにこれまでになったのである。
 つぎに「設備のよい公立や大資本の進出によって、既存の民間ジムはつぶれてしまうのではないか」とも述べていたが、これもボディビルの本質を理解していないことの1つである。
 いくら設備がよく、料金が安いからといって、誰もがそれにとびつくというものではない。このことは、現在ある公立のトレーニング場が遊休化しているのを見てもわかることである。
 われわれ民間のジムは、スペースも狭く設備も不充分で料金もいくらか高い。しかし、他の者に絶対に負けないものをもっている。すなわち、真心と熱意とキメのこまかい指導である。
 いつの時代においても、このような心のこもった温かい人と人とのふれあいこそ、何ものにも勝る財産なのである。
 むしろ協会の姿勢こそ、時代の流れに逆行しているように思えてならない。この際、年令とか過去の名声などを抜きにして、どしどしヤング・パワーを登用し、発送と行動の転換をはかるよう声を大にして要望する次第である。
月刊ボディビルディング1972年9月号

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