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パワーリフティングの審判基準
〈JBBA審判・審査委員会統一見解>

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月刊ボディビルディング1972年10月号
掲載日:2018.07.03
JBBA事務局長 吉田 実

公認審判制の意義

ボディ・コンテストの審査については、どんな審査基準を策定しても、最終的には各審査員の主観的なものに左右されるものだ。時間、距離などにより実力が数字で表わせる競技と異なりフィギュアのフリー・スケーティングや、体操、ボディ・コンテストなどの審査は、いずれも同様の宿命を背負っている。
しかし、パワーリフティング競技は実力が重量ではっきり表われるので、優劣の判定は極めて客観的に行える。それだけに、正しい挙上がなされたか否かについての判定は、各審判員の見解に大きな相違があってはならず、また、その統一もボディ・コンテストの審査に比べて容易だ。
なぜなら、ある一線を境にして成功か失敗かを明確に分けることができるので、「ある一線」について、各審判が同一の基準を持てば、客観的な審判が行えるからだ。
この基準を決定し、各審判に徹底させるのが審判・審査員講習会の目的であった。決して1日の講習会で公認審判員としてふさわしい審判技術を養成しようとしたものではない。
審判員としての本当の実力は、数日の講習会などではとうてい養成できるものではない。長期間にわたる積み重ねにより習得するより他ない。結論すれば、すでに審判員としての実力を保持していると思われる者のみが一同に会して、客観的な審判基準を決定し、それを全国統一の基準に徹底したのが今年度の講習会だ。
これにより、全国どこで誰が競技し誰が審判をしても、同じ審判基準で判定することを最大の目的とした。

疑わしきは失敗

パワーリフティング競技の判定基準の根本を「疑わしきは失敗」とした。これは、成功か不成功か疑わしい運動姿勢の判定を避けて、全部失敗にするというのでは決してない。もし、そうだとすれば、審判員の権威を自ら捨てたものだといっても過言ではない。
判定基準になる「ある一線」にパスすれば成功、パスしなければ失敗だがときには「ある一線」のちょうど真上ということもある。この場合も失敗ということだ。
スクワットを例にとれば、大腿部の上の線が床面と平行より下がっていれば成功、上がっていれば失敗となるがちょうど平行の場合も失敗ということだ。
法律では「疑わしきは罰せず」が根本原則だ。これが、確かな証拠がない場合には”同時セーフ”の観点に立つものなら、パワーリフティングの場合”同時アウト”としたわけだ。
パワーリフティングの判定は、スピードある動作のなかでするので、競馬や競輪のように静止した写真でするより数段難しいものだ。写真を用いず、神ならぬ身の人間が肉眼で判定するので、あるいは判定ミスも考えられるし審判各人の見解の相違も生じると思われる。その弊害を未然に防止するためにこの原則を打ち出した。
JBBA公認審判制の最大の目的は前述のように、全国どこで、どの選手が競技して、誰が審判を行なっても、同じ基準で判定することにある。言葉を替えるならば、審判員によって見解の異なる裁量の幅を狭くして、客観的基準に従って判定するということで、超人的識別眼を養成したり、超人のみを公認審判員として認定しようとするものではない。
パワーリフティングの姉妹スポーツである重量あげの場合は、審判員の裁量の幅がこれより広いために、判定についてのトラブルが生じ易く、国際試合ではとくに抗争の原因になっている。

主審の合図ミスによる失敗試技の扱いは

講習会で最大の論争点となり、2つの意見に対する支持者がほぼ半々に割れ、どちらか一方に賛成するのは難しいとして、多数決に棄権された人も多かったほど重大な問題がある。
それは、主審の合図ミスにより生じた選手の失敗試技について、副審は不成功の赤旗を上げることができるか否かという問題だ。
これを詳細に説明すると、ベンチ・プレス、スクワット、デッド・リフトの3種目とも、バーベルが上がり切り静止したと主審が判断したときに「よし」の号令がかかり、選手はバーベルをラックあるいは床に下ろすが、副審がバーベルが上がり切っていなかったと判断した場合に、赤旗を上げられるか否かということだ。とくに、デッド・リフトではこの種のケースが生じ易い。
選手の立場からだけ考えれば、選手自身は勝手に行動できず、すべて主審の号令に従って試技を進行するのだから、たとえ主審に合図ミスがあった場合でも、その件に関しては赤旗を上げるのは酷だ。
主審が「よし」の合図をかけなければ、もっと頑張ってバーベルを上げ切れた。主審の号令に従ってバーベルを下ろしたのに、副審が上がり切っていなかったと判断して赤旗が上がるのなら、選手は主審の合図を無視して、いつまでも頑張るようになる。これでは主審の権威も存在もない。
逆に副審の立場からのみ考えれば、主審の「よし」の合図が適当だったか不適当だったかにかかわらず、現実にバーベルが上がり切っていないと自分は判断したのだから、当然赤旗だ。不成功といわれる試技に白旗は上げられない。試技者の最終姿勢が規程に合致したものであるか否かの判定権は、主審と同様に副審にもあるのではないか。そうでなければ副審の存在価値がなくなる。
選手あるいは副審の一方の立場のみから見れば、答は容易に導きだされる。しかし、その両者からの見方、パワーリフティング競技の正しい発展と審判方法について総合的に考えると、複雑にからみ合い、どちらともいい難い。
この2つの意見への支持者はほとんど互角。その中間をゆく妥協案を考えたがピリッとした案が浮ばない。
たとえば、主審は一切の合図をやめて、選手が勝手に試技を行い、その結果が成功か失敗かを判定すればよい、というのが妥協案のなかでは最有力だったが、これとても支持者は極く少数。
どちらの意見を統一見解としても、半数の人たちから苦情が出て納得されないだろう。しかし、二者択一、いずれかに統一しなければならない。JBBA審判・審査委員会では苦慮の末、後者を統一見解とした。
つまり、主審の「よし」の号令にかかわりなく、選手の最終姿勢について副審は赤旗を上げてもよい。

主審と副審は同格

では、主審の「始め」の合図の場合はどうか、との意見も当然でるはずだ。ベンチ・プレスとスクワットの場合、選手は主審の「始め」の号令によって試技をスタートする。とくに、ベンチ・プレスが問題なのだが、主審の「始め」の合図が早かったときに、副審はやはり赤旗を上げられるか。
もしそうなら、選手は主審の合図が早いと思った場合には、スタートせずに少し待ってから押し上げるようになる。これでは、やはり主審の権威と存在価値がなくなる。
そこで、各場合につき個々に見解を統一するのではなく、主審と副審の判定権、格などについて定義することが必要だ。
結論として、主審と副審は判定権においてはまったくの同格とすることが決定された。
主審は判定権については副審と同格だが、競技進行管理者として考えることになった。具体的には、競走や競泳にたとえれば、スターターとしての全責任と権限、および決勝審査員の一員を兼ねることだ。
「始め」の合図は、スターターとしての主審に全責任と権限を与え、「よし」の合図は、あなたの試技はこれで終わったのだ、との意味で進行管理者として号令をかける。
つまり、「始め」の号令のタイミングの適否については、副審に判定権はないが、試技者の最終姿勢については主審の「よし」の号令に関係なく、副審も主審と同格でその判定をするということだ。
選手としては、主審の「よし」の合図があっても、自分で完全なる試技を終わってないと判断したときは、そのまま試技を続行しなければならない。

陪審に上訴できる場合

審判員の判定について不服のある場合には、チームの監督が陪審員に抗議して、陪審団の審理を要求することができるが、抗議できる場合と、できない場合を次のように規定した。
① 審判員の判定が、赤旗3本の場合には抗議は申し込めない。すなわち白旗が1本上がっていなければ抗議の対象とはならないということだ。
② 審判員により失敗と判定されたものに対し「今のは成功ではなかろうか」と抗議はできるが、逆に、成功と判定されたものに対して「今のは失敗ではないか」という抗議はできない。
つまり他チームの選手が成功したものを、失敗ではないかと抗議することはできないということだ。これを認めては泥試合になる。

ツリパン着用を規定

服装については、今までウェイトリフティング用ユニフォーム(ツリパン)か、半袖シャツと半パンツの組み合わせとなっていたが、ベンチ・プレスの判定に難色があるので、体に密着したツリパンを必ず着用するように変更された。
ただし、ツリパンの下に半袖シャツを着用することは自由だ。しかし、腰にサラシを巻いたり、胸にタオルを入れることは禁ずる。
スクワットの場合、カカトの高さを調節するための木片使用が許されていたが、今後一切、木片およびこれに類似するものを含めて使用禁止となった。
カカトを高くする必要があるのならば、本人の希望に応じたウェイトリフティング用シューズを使用することだ。それが競技としてのパワーリフティングの選手にふさわしい服装だ。
競技用以外の普段ばきの皮靴を用いることはもちろん許されない。たとえそれが土足として一度も使われなかった場合でも。

使用器具の形状と寸法を規定

全日本パワーと全日本実業団パワーの両大会の器具は、JBBA公認バーベルを始めとして、ベンチ・プレス台、スクワット・ラックなど、すべて日本秤錘株式会社の製品(商標名ニッピョー)を使用していたので、形状と寸法が一定していたが、あらゆる大会で樹立された記録を公認するためには、それらの使用器具について規定する必要がある。
ベンチ・プレス台の幅が極端に広かったり、狭かったりすれば記録に影響がでるのは必定だ。
スクワット・ラックでは、安全管理上からも補助の横棒(失敗したときの支え棒)がついたものを必ず使用すべきだ。ベンチ・プレス台とスクワット・ラックの高さ、幅、長さなどの数値は現在未定。
バーベルについてはいまさら念を押すまでもなく、JBBA唯一の公認バーベルである競技用ニッピョー・バーベルを使用することだ。
しかし、規定したからといって、各地方協会でいきなりセットを揃えることは大変なので、経過措置として、練習用ニッピョー・バーベルの使用を認めている。ただし、練習用ニッピョー・バーベルを使用した場合は、公認記録とはならず参考記録とする。

3種目とも不自然な姿勢は失敗

ベンチ・プレス、スクワット、デッド・リフトの各種目につき、不自然な姿勢についてどの程度が失敗で、どの程度が成功かを文字で説明することは極めて難しく、不可能に近いといっても過言ではない。
左右がアンバランス、前傾、反動を使う、バーベルが一定時間以上静止したり下がってはいけない……などと抽象的にいっても、文字のうえでは、その許容限度を明確に示せない。
極論するならば、その許容限度とタイミングは、審判・審査員講習会を受講した者と、公認審判員によって判定を受けた選手以外は、厳密には判らないといえるが、読者にご理解いただけるように一口で表現するならば、試技を行うのに極端に不自然な姿勢は、すべて失敗を原則とする、といえる。
3種目について、それぞれの細かい説明を以下に述べるが、現行のJBBAパワーリフティング競技規程と重複するところが多いがご容赦願いたい。

ベンチ・プレス

(1) バーベルを握る両手の間隔は1メートル以内とし、試技中1メートルの線に手が触れてはならない。
(2) シャフトの握り方は必ず順手とする。親指を中に入れてフック・グリップにすることは差し支えないが、5本掛け、つまり手の掌にシャフトを乗せたままでは危険なので、必ず握らなければならない。
(3) バーベルのシャフトが胸につくまで下ろし、約1秒間静止した状態から、主審の「始め」の号令に従って腕が伸びきるまで上げなければならない。
   この約1秒間静止という意味は、一瞬間静止したと思い主審が「始め」の合図をかけても、極限の重量を保持しているのでロッキングがあり得る。約1秒間静止すればその心配はない。
   講習会では各地区とも、受講者20名程度が寸分の狂いもなく同時に全員が号令できるところまで反復した。
   選手がスタートするのは、主審の「はじめ」のはが発音されたときでよい。競走のスタートが、ピストルの”ズドーン”を全部聞き終わったあとでなく、ズドーンのズが聞こえた時点でスタートしてよいのと同様だ。
(4) バーベルを下ろす位置は、鎖骨から大胸筋の下部までの間とする。ノドの上では、失敗した場合に極めて危険だし、腹の上では必ずブリッジすることになる。
(5) 主審の「よし」の合図がかかってからバーベルをラックに戻す。どんなに楽に押し上げても、合図の前にラックに戻したのでは失敗と判定される。
(6) バーベルを上げるとき「臀部」をベンチから上げてはならない。これは、いわゆるブリッジ禁止規定だ。
(7) 主審の「始め」の合図のあとで、バーベルを胸にぶつけたり、反動を利用して上げてはならない。3回挙上制に比べ、反動は使いにくくなったが、胸の上で脱力したのちに押し上げるとこのケースになる場合が多い。
(8) バーベルを上げるとき、肩と臀部がベンチについていても、極端に弓なりになってはいけない。上半身全体のブリッジだけでなく、背部のみでもブリッジを禁止する。体形上の問題は事前に審判に申し出る。
(9) バーベルを上げるとき、極端に左右アンバランスになってはいけない。片方の腕が伸びてから、もう一方の腕を伸ばすなど論外。ほんのわずか以上のアンバランスはすべて失敗とする。
(10) バーベルを上げるとき、バーベルが一定時間以上静止したり、下がったりしてはならない。これは3種目を通じていえることだが、バーベルは常に継続して挙上しなければならない。
(11) ベンチの脚に、競技者の足をからませてはならない。足の裏は常に床につけておくことだ。
(12) ベンチは必ず左右にまたぐ。ベンチの上に両足をおいた姿勢では、バランスを崩した場合に危険が大きい。

スクワット

(1) バーベルを両肩でかつぎ、所定の位置に停止する。バーベルを上背部でかついではいけない。上背部にかつぐと必ず大きく前傾する。
(2) 両足の間隔を規定する。なかには1メートルを越える足幅の選手がいるが、腰が十分におりたかどうかの判定に難色があるので、足幅の最大限度を決めることになった。数値については現在未定。
(3) 主審の「始め」の合図で膝が完全に曲がるまで腰を下げ、次いで立ち上がる。腰を下げる位置は、大腿部の上の線が床面より下がっていなければならない。床面と平行は失敗とする。
   大腿部の上の線とは、筋肉の発達状態によっても異なるので、次の図を参照されたい。
(4) 大きく前傾したり、背すじを曲げるなど、極端に悪い姿勢になってはならない。ベンチ・プレスと異なりスクワットでは極端に悪い姿勢で頑張ると、体を痛める危険性が大きい。とくに、背骨に損傷を与えた場合には生命の危険すらある。
   選手の心理としては、記録のためなら少しぐらいの危険はいとわず、何としてでも挙上しようとして無理が生じ易い。競技のときだけでなく日頃の練習でも同様の姿勢をとっていたのでは、健康と体力増進を目的とするスポーツの方向に逆行する。そのため、とくにこの規定は厳しく運用する。
(5) 極端に左右アンバランスに上げたり、体を捻りながら上げてはならない。ベンチ・プレスと異なり、スクワットでは片足だけ伸ばしてから、次いで残るもう一方の足を伸ばすということはできないので、左右アンバランスにはなりにくい。極端にアンバランスになっているということは、運動姿勢に無理があるためで、前述の(4)と同様、危険につながる。
(6) 極端に反動をつけて上げてはならない。誤解してほしくないのは、スピードを用いてはいけない、と規定しているのではないことだ。
   今後パワーリフティング競技が高度化すればするほど、技術のうえでスピードの占める割合は増大するはずだ。スピードなくして、よい記録は生じ難い。
   重量あげの場合では、とくにスピードが重視されている。パワーリフティングでは、技術的要素より地力が決定的要素だが、やはり高度化すればスピードが重視されるはずだ。
   反動とは、スタート時に「ガクッ」とバーベルをゆらすのと、深くしゃがんで脱力後に急激に立ちあがるのをいうが、普通に競技していれば、あまり問題にならない条項だ。
(7) バーベルを上げるとき、バーベルが一定時間以上静止したり下がったりしてはならない。これはベンチ・プレスのところで説明したように、3種目に共通した規定だが、スクワットの場合には、とくに危険が伴うので注意されたい。
(8) バーベルを握る手の幅を規定して”背中かつぎ”にならないように間接に牽制した。手幅の数値は未定。シャフトは必ず握ることとし、ダラリと両腕をシャフトに掛けることは禁止した。
[大腿部を横から見た図]

[大腿部を横から見た図]

デッド・リフト

(1) 床面に置いてあるバーベルを両手で握り、背すじと両膝が完全に伸びきるところまで引き上げる。このとき、上体が床面と垂直、または後傾していなければならない。
(2) 主審の「よし」の合図に従ってバーベルを静かに床に下ろす。たとえ成功していた試技でも、バーベルを乱暴に床へ下ろした場合は、容赦なく失敗とする。
   このことは、重量あげのリングを使用したときにはさほど問題ないが、一般の体育館のフロアーにゴム板などを敷いて大会を行う場合には床を損傷させ、今後パワーリフティング競技会を開催し難くなる。
(3) バーベルのシャフトを握る方法、および間隔は任意とする。順手、逆手、片逆手なんでもよい。実際には握力の関係から片逆手を採用する選手が圧倒的に多い。握り幅が広かろうが狭かろうが、本人の自由意志で結構。
(4) バーベルを引き上げるとき、大腿部前面にシャフトを乗せて、せり上げてはならない。これは、バーベルを一度大腿部前面に乗せて、順次反動を使いながら、断続的にバーベルを上げることを禁止したわけだ。ただし、シャフトが大腿部に触れながら引き上げるのはよい。
(5) バーベルを引き上げるとき、バーベルが一定時間以上静止したり、下がったりしてはいけない。デッド・リフトの頑張りどころでは、極めてゆっくりした上げ方になるが、引き上げが継続されていればよい。

× × ×
(本稿では、東京都足立区の沢田二郎さんから、6月に本社宛にご投書いただいたパフーリフティング競技に対するご意見とご質問の一部を引用させていただいたところがあります。
沢田さんのご意見が非常に微妙なポイントを指摘されておりましたので、本誌7月号で早速お答えすべきところを、都合で本稿に含めたわけです)

今月のカバー・ビルダー

'70 '71NABBAミスター・ユニバース・ショートマンクラス優勝
'70ミスター・アメリカ優勝

クリス・ディカーソン
記事画像2
昨年10月、米空軍の招きで突然来日し、一部のファンにその完璧なまでに発達したからだを披露したクリスについては、本誌3月号増刊「クリス・ディカーソンのすべて」ですでに紹介ずみであるが、その彼が再び来日することになった。
10月22日に大阪で行われるミスター日本コンテストにゲスト・ポーザーとして出席するほか、翌23日に東京で行われるミスター日本選抜エキシビションにも参加する予定である。
月刊ボディビルディング1972年10月号

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