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私の食事1週間 1972年10月号

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月刊ボディビルディング1972年10月号
掲載日:2018.03.09
<食事診断>野沢秀雄

<井上選手の食事診斷>
総合点75点

井上選手はバルク型というよりも肥満タイプの代表選手のようにいわれており、この弱点を克服するために大変な苦労がなされているようです。ごはん類を全然食べないほか、タンパク質の多い食品を重点にとり、体の組織を筋肉質に変えようという努力の気持がよくあらわれています。総カロリーは約3500、純タンパクが200g(体重1kg当り2.6g)。
ところで肥満するかどうかは、先ず摂取カロリーと、運動などで消費されるカロリーの差し引きにより影響されることはいうまでもありません。少ないカロリーで、モーレツに運動すれば苦しいけれども、無駄な脂肪がとれてくるのは確かです。
第2に、体内に入った栄養源を消化・吸収するのに大きな個人差があります。ある人はいくら食べても身につかず、甘いものを山のように食べても太れないと嘆く一方、ある人は、ほんのわずかの栄養分でも着実に消化・吸収して、体に蓄積することになります。
第3はホルモンの分泌条件です。自律神経の働きと密接に関係し、のんきな気分の人が太りやすいのに対し、一般に神経質で夜もあまり眠れない人がやせすぎで苦労します。
さて井上選手の食事内容ですが、せっかく炭水化物を減らしているのに、豚肉やベーコン、タマゴなど脂肪の多い食品のために、プラス・マイナスで相殺されています。実際1日のトータル脂肪量は約230gで、平均的日本人の3倍以上です。脂肪1gは9カロリーもあり、他の栄養源よりも効いてきます。特にベーコンはよくありません。考えている以上に、脂肪が多くその割にタンパク質は少ないのでは……。
とるなら鳥肉と魚を中心にするべきです。魚はあまり出てこないけど嫌いですか?それに野菜類が不足しています。デフィニションのためには、2〜3倍食べると体調がいいですよ。
なおトレーニングのない日にこんなに食べてはいけません。2/3以下におさえてください。
'71ミスター京都1位 井上雅介

'71ミスター京都1位 井上雅介

<金沢選手の食事診断>
総合点96点

金沢選手は、すでに過去2回、ミスター日本の栄冠を受け、ユニバース・コンテストやボディビルの勉強のために海外に数回渡航しておられる大べテランと聞いていますが、さすが食事内容の充実ぶりに驚きました。
総カロリーが約4000、純タンパク質300g、炭水化物43%という数字は完壁に近いといえます。
メニューの内容も、麦飯・レタス・トマト・納豆・モズク・山いも・とろろいも・なす・紅鮭のようにバラエティーに富んで、しかもスタミナをつけるのに効果の多いものが並んでいる点、全国のビルダーの参考になります。
しかし、あえて苦言を申すなら、食費がかかりすぎることです。
ビタミンC、Eともに確かに筋肉を強靭にするのに必要です。また、プロティン粉末も大いに役立つことは確実です。けれども、これらは普通の食事で不足するときにのみ補助的に用いるべきで、金沢選手のように、これだけ充実した食生活にはほとんど不要のものです。
この点に関して詳しく論ずるには紙数が不足しますので、いつか改めてお話する機会があるかと思いますが、私が何より心配するのは、多くの人たちとくに、まだボディビルをよく知らない人たちが「ボディビルとはこんなに金をかけて食べなければやれないものか」とボディビル自体を誤解し、広く普及するのに妨げになりそうな点です。
金沢選手や遠藤選手のように、大スターであればあるほど、その影響力ははかり知れません。
ボディビルの良さは、無から有をつくることにあります。努力して自らつくりあげる喜びはちょっとほかにありません。どうぞ後輩のビルダーたちのために、あまり費用がかからなくて筋肉の発達に役立つ食事法をご指導くださるよう希望いたします。
なお、37才という年令で、これだけのトレーニングをこなし、つねにベスト・コンディションを維持されていることに敬服します。
タマゴが全然なく、魚も油の少ない鮭が多いのは良いのですが、ステーキやミンチ肉がやや多すぎるように感じます。老婆心ながら……。
'60'63ミスター日本 金沢利翼

'60'63ミスター日本 金沢利翼

<川野選手の食事診断>
総合点 95点

高タンパク、低カロリー・低炭水化物をねらった典型的なビルダー食だといえます。
1日あたりの総カロリー3870、純タンパク質340g(体重1kg当り4.4g)炭水化物約30%となっており、私が過去にアドバイスした例のうち、末光選手に次いで多くとっていますね。
46年8月号に書いたように、タンパク質は、体重1kg当り2.0gとれば充分です。それ以上とった場合、ムダに体外に放出されるだけでなく、体内に生ずるアンモニアやイオウ化合物を中和するのに、たいへんな労力がかかり、体に負担をかけます。また、エネルギー源としても得ではありません。むしろ、炭水化物を増やして楽に運動できるようにしないと、あとになってこたえてきます。
朝食と昼食はもう少し内容に変化をもたせるよう心がけてください。タ食の場合は、なかなかよく配慮されていて感心しました。ただ、鯨肉を省いていいでしょう。
ともかく、これだけの食事内容をこなすバイタリティは見事です。さぞかし激しいトレーニングが続いていることでしょう。ボリュームをいくらかでも少なくしたいなら、スキムミルクも特製の大豆ジュースに加えてしまうと一度に栄養がとれて楽です。
なお、麦をかゆにして食べていますが、これはなかなかよいアイデアです。消化しやすいように分解されているので、栄養物は確実に吸収されていきます。
また、鯨肉もよい食品です。油が少なく、ほとんど1/4が純タンパク質で値段も安くて都合もいいし、ビルダーにすすめたい食品の1つです。
'71ミスター兵庫3位 川野権義

'71ミスター兵庫3位 川野権義

<須藤選手の食事診断>
総合点 85点

21才の若きホープで、スケールの大きさ、とくに脚の素晴らしさは良く知られています。その食事内容も重量感にあふれたすごい内容で、一見したところ完全のようですが、いくつかの点でクレームがあります。すなわち、
① 総カロリー約5300、純タンパク質404gは多すぎ、炭水化物の33%は少なすぎる。
② 生野菜が少ない。オレンジ・ジュースが自分で生のみかんから絞ったものならいいが、缶詰なら、たとえ100%天然でも酵素が死んでいるから不可。
③ バラエティーに欠ける。体調をべストに保つためのビタミンやミネラルが片寄る心配がある。
④ トレーニングが休みの日も、普段と同じ内容では、デフィニションが損なわれる。
⑤ あまりにも食費がかかりすぎる。チーズ200gといえば、ほぼ1箱に近い。ざっと計算すると1日に1700円。月に5万円もかかってしまう。これでは誰にでもできるボディビルとはいい難い。
さて、最も心配するのは、須藤選手が最近疲れやすく、バテ気味ではないかということ。肉類やチーズは酸性食品で、消化の途中に有害物質をつくる。このため、菜食主義者や自然食主義者は絶対に手をつけず、かえってそのほうがパワーも記録もよく出るといわれています。
人間が「食べる機械」になってしまってはつまらない。また豚のように、タンパク質をつけるために飼育されている感じを与えてはマイナスです。
須藤選手が優秀なだけに、他のビルダーに与える影響が大きく、あえて苦言を呈しました。
'71ミスター日本5位 須藤孝三

'71ミスター日本5位 須藤孝三

月刊ボディビルディング1972年10月号

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