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~~~PCB対策~~~

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月刊ボディビルディング1972年11月号
掲載日:2018.03.02
野沢秀雄
 今月のスタミナ・メニューは、ちよっと趣向を変えて、最近話題になっているPCBについて述べてみたい。

<こんな症状に心あたりは>

 なんとなく体全体がだるい・食欲がない・視力が衰える・頭痛・発熱・関節がはれる・手足がしびれる・顔がむくんでくる・体重が減る………ちかごろこんな症状の人は、ひよっとするとPCBにやられているのかも知れないーー。

 こう書き出すと、いかにもショッキングであるが、九州のカネミ油症患者の場合、まさしく第一段階でこの症状があらわれ、ついで、肝臓病・ホルモン異常・性欲減退・不妊症などの致命的な病気になる。体の表面にはブツブツとニキビに似た吹き出物や、はれ物があらわれ、目ヤニがやたらに出てくるのだという。

 問題はカネミの米ぬか油を食べた一部の人たちだけでなく、全国どの人たちの体からもこの危険なPCBが検出され、将来のある時期にバタバタ人類が死んでいくのでは、と心配される点にある。

<人体汚染の恐怖>

 われわれの体は、いつも成分が一定になるようにバランスをとっている。塩分の多いものを食べたあとは、お茶や水がほしくなるし、油の多いものを食べたあとは、サッパリした果物や野菜がほしくなる。これを人体恒常(ホメオタシス)と呼んでいるが、体内に多量の異物が入りこんだときは、このバランスがくずれ、体の機能がマヒして重大な症状におちいる。

 ヒ素(As)の入った粉ミルクで赤ちゃんが死んだり、カドミウム(Cd)の多い水を飲んでイタイイタイ病になったり、水銀(Hg)の蓄積した海に入って漁師が苦しむ水俣病など、化学物質により人間の体が犯された例はあまりにも多い。

 文明の発達がもたらした副産物だと指摘されているが、企業の技術者たちも、まさかこのような形で被害者があらわれるとは予想していなかったにちがいない。

 いずれにしても、殺虫剤や農薬に使われる化学物質が、人間に無害であるはずはない。とくに知らないで、体のためにいいと信じて食べたものが有害であってはたまらない。

 ヒ素ミルクの患者の両親は、だんだん弱っていくわが子に、なんとか栄養をつけてやろうと粉ミルクを懸命に与え続けたし、カネミ油患者は、「米ぬか油が美容と健康によいから」と信じて、肌がなおることを期待して毎日毎日米ぬか油を食べ続けたのだ。あとでそれが悪いとわかって、いかにぼう然したことか………。

スタミナメニュー

記事画像1

 さて、PCBは本名を「ポリ塩化ビフェニール」といい熱にも、酸・アルカリにも、微生物にも分解されないガンコな物質である。この点が買われて、電気製品・塗料・紙などに広く使用されている。

 使用後に廃品になったPCBは、土壌や水にとけこんで海へ流れつき、地球全体に蓄積されていく。考えてみると不思議なもので、昔は自然界の物質だけが地球上に存在していたのに、近ごろは人間の手でつくった新しい合成物質が地球を占有しはじめている。

 川や海のPCBはまず小さなプランクトンにたまる。このプランクトンを小魚が食べ、それを中魚がごちそうになり、最後にイワシ・アジ・サバ・マグロなどが人間様の食卓に登場するわけだが、問題は「生物濃縮」といって先へすすむほどPCBの濃度が高くなることだ。

 すなわち、PCBは体外に排出されにくく、体内の脂肪組織にたまっていく。だから、プランクトンのうちは1億分の1くらいのうすい濃度だったものが、大きな魚になるにつれ、百倍、千倍に濃縮され、危険な状態となる。魚だけではない。鳥にも、豚や牛などの家畜にも,そして人間様にも………。

 とくにおそろしいことは、人間の場合、母乳に多量のPCBが集まり、赤ちゃんに移ることだ。女性は母乳からPCBが出ていくが、男性の場合はほとんど排出されない。とくに脂肪部分に多くたまるというから、腹の出てきた人はご用心!

<同じ毒物を食べても>

 だが興味あることに、毒物に対する反応は人によってずいぶん違う。同じ料理を食べて、ある人は食中毒で苦しんでいるのに、他の人はケロリとしている。集団中毒のケースを調べるとこのことがよくわかる。

 PCBの場合でも、カネミ油症の患者は13ppmの体内濃度で死亡していったが、高知の漁師のある人は18ppmという高い濃度でもピンピン元気だという。ほかの農薬の相乗作用だという説もあるが、私はその人の健康度がもっとも大きく影響すると考える。

 体力と気力が充実していて、ほがらかな生活をしていれば、体内の新陳代謝がスムーズにすすみ、毒物に対する抵抗力も強くなろう。反対に、疲労が多く元気のないときは、少しの毒物でも体はまいってしまう。おそらく毎日の食事中にも、体に有害なものが多かれ少なかれあるが、健康であれば、肝臓に入ったとき分解し、無害にしてしまうことだってできる。

 健康にあふれた状態を積極的につくることこそ、最大の防衛になるのだ。

<ビルダーに限って大丈夫?>

 あるPCBの専門家は、魚類をいっさい食べないことを宣言したけれど、われわれはぜんぜん魚を食べないというわけにもいかない。近海の魚がとくに危険だとわかっていても、やはり一般大衆にはマグロ・タイ・サンマ・タラばかりではやっていけない。マグロには水銀汚染の心配がある。結局、気にしないで食べるしかない。

 もっと重要なことは、トレーニングで汗を流し、栄養のバランスのとれた食事をして健康度を高めることだ。この点、健康にあふれたビルダーには毒物も最後まで手を焼くにちがいない。

 なお、海藻類がカドミウム症害に効果のあることを参考までにお知らせしたい。このことは、最近の学界でも発表された。

 食事のメニューに海産植物を加えて片寄らない内容にしたいものだ。
月刊ボディビルディング1972年11月号

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