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カルピスとヨーグルト

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月刊ボディビルディング1972年12月号
掲載日:2018.05.16
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野沢秀雄

<初恋の味>

 ある会社が商品を売り出すときに使うキャッチフレーズ。「スカットさわやか」「オー!モーレツ」「若さだよヤマちゃん」……。きいただけで商品の名前が浮んでくる。こうなればしめたもの。その商品は大ヒット。

 今回は読者の要望にこたえて「初恋の味」カルピスとヨーグルトをとりあげ、徹底調査をしてみよう。

<すっぱい味は日本人向き>

 カルピスが誕生したのは今から約60年前の大正時代。だから歴史は比較的新しい。また、ヨーグルトやヤクルトが一般に飲まれだしたのも戦後になってから。

 もともと人間は野山に生えている草や実、あるいは野生の動物たちを食べていた。そして、1日の生活は食事することだけに使われていたにちがいない。それが少しばかり進歩して農業を始め、家畜を飼いだしたが、食べる内容は昔と同じように野菜や肉だけであった。

 そんな時代が何百年、何千年と続いたあと、機械が発明されて工業時代となり、とうとう工場で食品が生産される時代となったのだ。

 インスタントコーヒー・ラーメン・キャラメル・コーラ・マーガリン・缶詰製品。そしてカルピスやヤクルトも工場で生まれた独特の商品だが、このすっばい味は日本人向き。食べなれた者にはおいしいが、外国の人たちにはサッパリとか。食事の習慣はおそろしい。

<ラインアップをみると>

 乳酸飲料とか、醗酵飲料、活性乳酸菌飲料など、いろいろな名前で宣伝されているのでまぎらわしい。整理してみると次のようになる。


(イ)カルピス系統(乳酸性飲料)
 牛乳の中に乳酸菌という微生物を植えつけて牛乳を分解させたもの。できた乳酸のためにすっぱい味がする。殺菌するので生きた菌はいない。砂糖をまぜて適当な濃度にしてビン詰する。この系統には明治ラクミン、ファンシー、ミルトンなど。


(ロ)ヤクルト系統(活性乳酸菌飲料)
 同じように牛乳に菌を繁殖させたものだが、殺菌しないので生きた菌を食べることになる。うすくして飲みやすくしてあることと、菌の種類に特徴がある。大腸の中に乳酸菌がいるので、これを飲むと腸の活動がさらによくなると宣伝されている。この系統にはパイゲンCやピロビタンがある。


(ハ)ヨーグルト系統(醗酵乳)
 牛乳にスキムミルクなどを加えて濃くしてから、乳酸菌を繁殖させたもの。不老長寿で有名なコーカサス地方やブルガリアの人たちが愛用していることが伝えられ、急に人気が出た。会社によって、砂糖を入れないプレーン・ヨーグルトを出しているところがある。


(ニ)ジョワ系統(フルーツ系醗酵乳)
 ヨーグルトの中に、フルーツや香料をまぜたもの。ほかにヨープル、ヨグールなどがある。

<果たして高蛋白・低脂肪か>

 9月13日の朝日新聞にこんな苦情相談がのっていた。「メーカーがさかんにPRしているフルーツ系醗酵乳はほんとうに高蛋白・低脂肪の健康食品なのか。もし本当なら子供のために牛乳をやめて飲まそうと思うが効果があるのだろうか?」という内容だ。

 調査官が調べた結果は、蛋白質が約4%、脂肪が約1%、糖分が約16%で残りのおよそ80%は水分だという。この程度なら、イワシ・アジ・カレイ・スキムミルク・とり肉など、もっと高蛋白・低脂肪の食品が多い。明らかに不当表示だ。

 メーカーは牛乳と比較したものだといっているが、牛乳は蛋白質2.9%、脂肪3.3%が標準だから、それほど差があるわけではない。むしろ、フルーツ系醗酵乳1本120g中に蛋白質4.8gしかないのに対して、牛乳1本は200ccなので、5.8gもとれる。そのうえ値段がずっと安いのだから、軍配は完全に牛乳のほうにあがる。

 結局、新聞記事でも「牛乳よりすぐれている根拠はまったくない。メーカーの宣伝は誤った知識を消費者に与えるものだから早急に改めるように」と結論づけられている。まったくそのとおり。よく注意しないとバカをみる。

<食べるときのTPO>

 人間もそうだと思うが、どんな商品もいい面とそうでもない面とを持つ。あのカルピスでさえ、「砂糖のかたまりみたいなもので、子供を肥満児にしたり虫歯にするので有害食品だ」と決めつける人がいる。ヤクルトなどの活性乳酸菌に対しても、本当に効果があるのか疑問を持っている学者もいる。

 だが、力いっぱいかけまわり、とびはねる子供たちには、甘い砂糖もたちまち消化されエネルギーに変わっていく。だからこそ体も発達するのだ。乳酸やクエン酸は疲労を回復させるのに役立っている。

 飲みすぎないように注意することや夜飲んだあと歯をよく磨く習慣を守りさえすれば、カルピスは良い健康食品だといえる。

 はちみつ・タマゴ・牛肉など、どんな食品でもとり過ぎると体に良くない。逆に、1つの食品であれもこれも完全という食品はないと考えた方がよい。だからうまく組み合わせてメニューをつくりあげる必要がある。

 そのメニューも、太りたい人、やせたい人によってちがってくるし、年令や季節の影響も考えたい。いずれにしろTPOを考えつつ食事をとることが重要だ。
月刊ボディビルディング1972年12月号

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