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-均整美健康法- シェイピング・レクレーションの実際

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月刊ボディビルディング1975年1月号
掲載日:2018.07.30

II 空手とそのトレーニング

高山 勝一郎

◇ 空手と均整美 ◇

 空手や憲法をやっている人には、脂肪ぶとりの肥満児はいないし、そうかといって、骨と皮のやせスギも見あたらない。

 鋼鉄のような筋肉と、均整のとれたしなやかな体の持ち主が多いのは、やはり、空手といい拳法という、一つの武技の修練のたまものなのである。

 中には、東京の大山師範や京都の鈴木師範のように、そうとう太って見える人もいるが、これは、空手とウェイト・トレーニングによって筋肉が著しく附加されたためであって、脂肪ぶとりのたぐいでは決してない。

 いい例が、今はこの世にいないが、かのブルース・リーである。

 167センチの身長は、お世辞にも高いとは云えないが、胸囲は103センチで、しかもひきしまった大胸筋を持ちウエストは67センチと細く、脚部もカモシカのごとくしなやかでしかもたくましい。

 彼の自作自演の映画「燃えよドラゴン」は、のちに空手映画の一大ブームを作ることになったが、そのあとに続く多くの映画にも、無数の空手マンが登場している。

 そのすべての空手マン、そして空手ウーマンまでも含めての肢体は、みな一様に均整のとれた美しさをそなえている、といってよい。

 世に多くの武技があり、スポーツがあるが、空手・憲法の練修過程ほど、人体の均整美化に貢献するものも少ないと思われる。

 もちろん、その主眼とするところは、護身であり練胆であり、かつ精神の修養であるのは言を待たない。

 それに加えて、理想的な均整美健康法という、いってみれば「おまけ」がつく。だからというのではあるまいが最近、若い女性が空手道場の門をたたくケースも多くなったという。

 今、アメリカでも、ヨーロッパでも空手がすさまじいブームになっているが、その理由も、上記の総合性の中にみることが出来るのである。

◇ 空手の特長 ◇

 空手の特長の最たるものは、その練習が、”どこでもできる”こと、そして”誰にでもできる”ことである。

 土の上でも砂の上でも、あるいは板敷でも畳ででも、10平方メートルそこそこの場所さえあれば、空手をやるのにこと欠かない。

 また、柔道や剣道と違って、練習に相手を要しない。

 ということは、空手はいつでもできる、ということだ。

 空手は、年令に関係なく、子供でも老人でも学べるし、性別に関係なく、男でも女でもまた学ぶことができる。体が弱い者は弱いなりに、強い者は強いなりに、練習の強弱を調整することも可能だ。

 そういう意味では、ボディビルとかウェイト・トレーニングと呼ばれる一連の自己鍛錬法と相通ずるものがある。

 ともに、世間からは、一部の特殊な人たちの鍛錬法などと誤解されがちなのだが、こうして見てみると、全く根拠のないことが判る。

 さらに、空手の優れている点と云えば、何ら”道具”を必要としない、ということであろう。

 映画などではヌンチャクやトイファーといった”武器”がよく登場するがこれはストーリーをハデにするための小道具であって、空手とは元来、空の手、すなわち武器の要らない武技なのである。

◇ 空手の背景 ◇

 空手・拳法の祖は、すでに二千年も以前から中国大陸にあった中国拳法であるといわれている。

 これがおそよ1300年ほど前、今の沖縄、当時の琉球に入って、沖縄空手のもとを形成した。

 また時をほぼ同じくして、日本へ渡ってきた仏教僧の手によって、拳法が伝えられ、寺を中心とする独特な発達をみた。

 南方民族へ移入された拳法は、蹴り技を盛んに用いるのが特徴で、これはやがてモイタイと呼ばれる現地キック・ボクシングの形へ発展した。

 貫手(ぬきて)や開き手を主に用いる中国拳法に、破壊力を増すために拳すなわち、ゲンコツをとり入れた琉球拳法は、17世紀の頃、島津の琉球征伐によってさらにその武術としての力を増加させた。

 「唐手」と書かれていたカラテが、「空手」となって、沖縄から本土へ紹介されたのは、明治後期になってからである。

 その後、日本ではいろんな流派が生まれたが、この道の大家であった富名腰、山田、金城各師のように、特に流派を名のっていない人々もある。

 現在、私の知っている日本の空手の流派としては次のようなものがある。
 
空手-剛柔流(宮城師)

   糸東流(まぶに師)

   松濤館流(富名腰の道場名)

   神道自然流

   和道流

   賢友流

   空真流

   上地流

   極真会館(松濤館派・大山師)

拳法-少林寺拳法(本部・四国)

   十字拳法(本部・京都)

 現在、各流派ともあまり仲がよくなく、お互いのけない合いをやっているような面があるのは困りものだ。

 柔道界に嘉納治五郎氏が出て諸流派を統一したように、空手界の流派統一を望む気持や切である。

◇ 空手の基礎的練習 ◇

 少し難しい話になったが、これは、均整美健康法として空手を始める人々にとっても、精神面での空手の理解のし方、空手の心というものをまず知っておいてほしかったからである。

 さて、いよいよ空手の練習に入ろう。

 内容は、次の四段階に分けてみたがこれは続けて行なってもよく、時間や日を分けて行なってもよい。

 対象は初心者である点は、ご理解をいただきたい。

 1.基礎練習・・・・・・30分

 2.型 練修・・・・・・30分

 3.組手練修・・・・・・30分

 4.関連トレーニング・・・・・・30分

 各段階を30分としたが、これは空手の練達度によって各自で調整する。

 また、徐々に所要時間とその練習激度増加させることも大切だ。

< 基礎練習 >
1.正拳練・・・拳を握った時の人差し指と中指のつけ根でまっすぐ突く気持で、左右交互に練習。

2.手刀練・・・右手刀を掌を上にして左肩の前にまかえ、右下方へ掌をひねりつつ打ちいれる。左手刀は反対の動作になり、交互に練習。

3.掌底練

4.貫手練

5.拳槌練

6.裏拳練

7.一本拳練

8.遠臂練・・・いわゆる肘打ちの練習

9.前蹴り練

10.横蹴り練

11.後蹴り練

12.廻し蹴り練

13.膝蹴り練

14.飛び蹴り練

 1から8までは、シャドー・トレーニングのあと、巻藁柱を使って実際に拳や手刀を打ちあて、正確に、より早く、より強く打撃が加えられるよう練習してゆく。

 蹴りの基本練習も、最初はシャドー・キックだが、上達するに従って、サンド・バッグを使い、やがては立木に巻藁したもので、実際に蹴り当てて練習するとよい。

◇ 型と組手 ◇

 以上の基礎練習だけでも、続けて行なっていけば大きな効果が生じる。

 その効果とは、セルフ・ディフェンス(護身)であると同時に、シェイピング効果を兼ねるのである。

 だが空手とは、これだけの手足の訓練だけではない。もっと複雑で興味ぶかい練習形態がある。

 それが、型と組手である。

 型とは、実際に攻め、あるいはその攻めを防ぐためのいろんな技を組み合わせたもので、空手を学ぶ際の中心をなすものだ。

 型の種類は60以上もあるが、そのおもなものを見てみると次のとおりである。

関東系空手に多い型

1.平安(ピンアン)

 初段から5段まであり、工形の演技線を描いて足を運びながら、あらゆる攻防の基本技を練習する。

2.鉄騎(ナイファンチ)

 1、2、3段まである。馬にまたがっているような足がまえから、この名がある。

3.観空(クーシャンクー)

4.技塞(パッサイ)

5.明鏡(ローハイ) ほか

関西系空手に多い型

1.三戦(サンチン)

 三進とも書く。足取りの基本型

2.転掌(テンショウ)

 手の動きの基本となる型である

3.半月(セーサン)

4.最破(サイファー)

5.十八(セーパイ) ほか
巻藁で手刀練習の筆者。

巻藁で手刀練習の筆者。

型を演武中の筆者。型はピンアン五段

型を演武中の筆者。型はピンアン五段

拳法にある型(法形)

 竜王拳

 三合拳

 羅漢拳

 仁王拳

 竜華拳 ほか

 型は多種をきわめるが、原則的には多くの型をいろいろ覚えるより、少しの型を徹底的に練習した方がよい。

 なぜかといえば、本当に身についた型ならば、実戦-万が一にもその必要が生じたならばだが-の攻防に、即座に応用がきき、大きな力になるからなのだ。

 しかし、一人でやる型の練習では、相手との間合いや、突き、打ち、蹴りのタイミングをつかむ、などという高度な攻防力は身につけ得ない。

 ここに、二人で組んで、実際に技を出し合い、攻防を錬磨し合う必要が生じる。これが”組み手”である。

 組手には、次の種類がある。

 1.約束組手

  前もって定められた順序で、攻めと受けをくり返す。

 2.自由組手

  真剣組手ともいい、自由に技を出し合う組手。

 適当な組手の相手がいない時は、子供に棒切れを持たせて打ち込ませたり蹴らせたりして、自身で体さばきを研究してみるのもよい。

 あらゆる機会に、練修を続けることが大切なのである。

◇ 練習と練修 ◇

 私が”練習”と”練修”という、二つの字を使い分けているには意味がある。”習”は単に習い覚えていくことであり、”修”は、身をもってこれを修める、という精神的な心構えをも含めているのだ。

 空手は聖人君子の武道だという。

 これは、一つにはこの”修”の意味が入っているからにほかならない。

 もちろん、強さの裏づけのない空手ではいけない。

 その強さを求めて研究するのが、すなわち日頃の”練習”なのである。

 たとえば、型をやる。

 平安初段をやるのにおよそ1分もあれば、型の練習は終わる。個人差や熟練度もあるが、2分もかければ相当ゆっくりした型である。

 平安初段から五段までを、少しずつの休息をはさんで続けたとしても、7~8分もあれば十分だ。

 だから、型の練習に30分をかける場合、4つの型を5回ずつやるか、5つの型を4回ずつやるか、いずれにしても反復回数を増加させて、十分に練修することである。

 「型は、練習にあらず、実際の戦いなり」という。

 業の速さ、正確さ、パワー、そして気迫を以て、行わなければならないのである。

 かの「空手バカ一代」で有名になった大山師範は、ひところ、1日に一つの型だけ100回、そして翌日には、別の型一つだけをまた100回、というような練習方法をとられていた。

 そして、その前後に、腕立て伏せ、巻き藁突き、ウェイト・トレーニング等の基礎体力訓練を附加されている。

 これを、山ごもりもはさんで、何年間も続けたわけである。

 凡人の成し得べき練修の限界を超えているが、それでこそ、世界最強といわれる師が生まれたと云えよう。私の敬愛する空手家の一人である。

◇ 空手におけるウェイト・トレーニング ◇

 空手の三大要素は、スピードとタイミングとパワーである。

 この三つがそろった時には、”護身”などという観念をはるかに超えた、ものすごい破壊力が生じる。

 五分板5枚を人に持たせて一拳で割れるし、瓦20枚を重ねて手刀の一せんで割りくだく。これは、あくまで空手の余技であり、空手そのもではないが、空手のパワーとはこのようなものだということを知る一つの手がかりにはなる。

 このパワーをつけるのには、やはりウェイト・トレーニングが大きなパーツを占める。

 いうまでもなく、ウェイト・トレーニングがシェイピング効果を持つことは衆知のとおりであるので、ここではこの両面の観点から、空手用のトレーニングを概述しよう。

1.フィスト・プッシュ・アップ

 拳を握って肩巾よりやや広く床につき、腕立て伏せを行う。

 最初は、20回を1セットとし、各セットごとに足台の高さを変えながら、3セット、慣れるにしたがい、50回を1セットにして、4セットから5セットへと増やす。

 さらに力がついた人は、拳を5セットののち、拇指、人差し指、中指だけをついてのプッシュ・アップ、さらには拇指と人差し指だけのを附加する。これはフィストに対し、フィンガー・プッシュ・アップと称する。

 拳、指、腕の押突するパワーを強めると共に、衝撃に対してビクともしない手首の鍛錬にもなる。

 もちろん、大胸筋や上腕筋が発達し、男らしい体形を作る。

2.ベンチ・プレス

 ベンチに上向きにねて、なるべく重いバーベル、またはダンベルを持ってプレスを行う。

 15回前後を1セットとし、3セットから始め、パワーが強くなれば、5~7セットに増加する。

 効果は1のプッシュ・アップに類似する。

3.オルターニット・ハンド・カール

 ダンベルを両手に持ち、交互にハンド・カールを行う。

 上級者になれば、交互にツイスティング(下方後方からダンベルをもった方をひねりながら巻き上げる運動)を入れて行うとよい。

 上腕二頭筋と手首が発達するばかりでなく、空手の手業の瞬発力をつけるのに効果がある。

 ウェイトは半月ごとに、徐々に増加することを忘れてはならない。20回を3セット。

4.リスト・カール

 ダンベルまたはバーベルを持って、前腕を固定させ、手首だけを動かして鍛える。リスト・ローラーを使って、ウェイトの巻き上げ運動を行なってもよい。回数は極限回数を4セット。

5.フロント・ダンベル・レイズ

 ダンベルを両手に持ち、肘を伸ばしたまま体の前方、肩の高さまで上げ、またゆっくりおろす。肩の発達をうながし、同時に、空手の裏拳打ちや受け業のパワーのもとを作る。

 10回を1セットとして3セットぐらいが適当。ウェイトは漸増させる。

6.ハンド・スタンド・プレス

 両手を床について逆立ちをし、足はパートナーに持ってもらっておいて、腕を屈伸させる。

 慣れてくれば、体を支える手を、開き手から拳(こぶし)に変え、やがては、拇指・人差し指・中指の3本に変え、さらに拇指と人差し指だけでプレス運動を行うようにする。

 空手の高段者になれば、各指の一本指でこれが行えるようになる。

 肩や腕の筋肉が発達すると同時に、指への集中的なパワーがつく。

 20回を1セットとし、2セットから徐々に5セット迄に増やす。

 最初、フィンガー・プレスはきついはずだから、1セットを7回ぐらいから始めて、徐々に増やす。無理をして手指を痛めないよう注意すること。

7.インクライン・レッグ・レイズ

 床にあお向けにねて、足をそろえて上げ、頭の上まで足がくるように、腰を起こす、おろす時も足が床につく寸前で止め、これをくり返す。

 慣れてくれば、インクライン・ベンチを使って強度を高めよう。

 腹筋の運動であると同時に、脚腰のパワーを強化する。

 20回の3セットからスタートし、5セットにまでは増やしたい。

8.ジャンピング・スクワット

 軽量のバーベルまたはダンベルを肩のあたりで支持し、膝を屈してしゃがんだ位置から、勢いよく上方へジャンプし、これをくり返す。

 上級者になれば、一定の距離をジャンプしつつ前方へ移動したり、後方へ移動して行う。

 飛び蹴りの瞬発力がつくと同時に、ひきしまった脚を作る効果抜群のトレーニング法である。

 20~30回で3セットが適当。

9.フロント・キック
  サイド・キック
  バック・キック

 空手の前蹴り、横蹴り、うしろ蹴りをそのまま生かしたもので、膝の屈伸を充分に効かすのがコツ。

 各キックとも左右30回ずつの3セット程度は行う必要がある。
〔キック・ボクサー沢村選手の魅力は、空手で鍛えた強い力とバネ、それにシェイプ・アップされた美しいからだにある。〕

〔キック・ボクサー沢村選手の魅力は、空手で鍛えた強い力とバネ、それにシェイプ・アップされた美しいからだにある。〕

◇ 空手のシェイピング効果 ◇

 以上の練習を、月水金または火木土の週3回は行おう。

 そうすると、護身術としての武技だけではなく、長寿強健の体力そのものと、均整美あふれる体そのものがあなたにもたらされる。

 とくに、空手の持つシェイピング効果は大きい。

 それは、空手が理想的な全身運動であること、興味と熱意をもって継続できることに起因する。当然のことながら、武技という目的から、その全身運動に一定の激しさが加味される。

 この激しさは、脂肪を取り筋肉をひきしめる効果を短時日で高めていく。

 たとえば、型を30分、熱心に演武した場合、消費されるカロリー度は約380カロリーに達する。組手と合わせて1時間つづけた時には、実に800カロリー近くが発散される。

 同時に、この激しさには、日本人が古来から持つ精神的な美しさがある。

 その美しさが、眼の輝きとなり顔にあらわれる。

 空手をやった後は実にすがすがしい。

 そしていつしか、心も体もシェイプ・アップされていく。

 私が空手をすすめるのも実にこの点にあるのである。
月刊ボディビルディング1975年1月号

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