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”便秘と下痢”

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月刊ボディビルディング1975年1月号
掲載日:2018.07.11
野沢 秀雄

<10人のうち7人が悩んでいる>

「快食・快眠・快便」が健康の3シンボルとよくいわれている。だがトイレの問題で悩んでいる人は意外に多いようだ。連日、調子が悪い人は少ないにしろ、ちょっと冷たいものを食べたり、自分が食べなれないものを食べると、便がピーピー柔らかくなる。あるいは逆にちょっと旅行にでると便が出なくなるといった経験は10人のうち6~7人が持っている。

 実際、食事分析を開始してから、読者の方からお便りをいただいているが、もっとも多い悩みは、下痢や便秘のために体調をくずして、なかなか元へもどらないという相談である。今回は、くさい話で恐縮だが、便秘と下痢について考察してみよう。

<消化されるまでのコース>

 口に入った食べ物が、歯でかまれて細かくなり、食道を通過し胃へ入る。この過程で「おいしい」と感じて、唾液が充分出るなら、きわめてスムーズに胃までゆくが、心配ごとがあるときや、イライラおこりっぽいときには唾液がストップして、のどを食事が通らなくなる。精神的な悩みのほかに、無理に食事を食べようとしたときにもおこる。当然ながら、唾液の酵素が作用しないので、胃の中にいつまでも食べたものがもたれて、重苦しく、不快である。

 胃の作用は、食事をいったんストックし、胃酸の働きで栄養成分を「おかゆ」状にやわらかくすることにある。胃から、体内に吸収されるのはアルコールだけで、栄養素は、その先の小腸で吸収されるのだ。「オレは胃が弱いから太れないんだ」という人がいるが、胃よりも、腸に問題がある。

 胃から十二指腸へ流れてゆく途中ですい液や胆汁の酵素が作用し、タンパク質はアミノ酸に、炭水化物はぶどう糖や果糖に分解される。これらの細分化した栄養素が小腸のじゅう毛から、毛細血管に入り、門脈を経て、肝臓にゆく。肝臓で、再びいろいろな成分につくりかえられ、また、同時に吸収された毒物は無毒にされて、体全体へ運搬されてゆく。

<大腸の役割>

 小腸で吸収されなかった食事は、粕となって大腸へ運ばれる、大腸では、もはや栄養素を吸収する作用を持たない、したがって、よくかまないで、ピーナッツや大豆を食べると、いくら食べてもムダになってしまう。それでは長さが1.5メートルもある大腸は何をするか・・・・・・。第一は、水分の再吸収である。体内に必要な水分を吸収して、便として出るボリューム(量)をあまり多くないようにするわけだ。実際に、肛門に近くなるほど便は固くなっている。第二は、ビタミンB群を生産する腸内細菌がいて、これらのビタミンが水に溶解して体内に吸収され、体調のバランスをよくするのに役立っている。

 以上のように、口から入って、便として排出されるまでに、24~48時間かかるのだが、便秘や下痢では、この所要時間が狂ってくる。
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<便秘をなおすには>

 何らかの理由で、排便神経の作用がとまると、便は2日でも3日でも腸に滞留する。その間に、ますます水分が奪われて、いっそう固くなる。そうすると、いくらりきんでも固くて黒いのが少し出るだけで、少しも気持がよくならない。このような悪循環が便秘である。

 排便を支配する神経は、副交感神経といって、気分をリラックスさせる神経だ。だから旅行にいって、緊張したり、女性では生理のときなど、神経が高ぶる場合によく便秘がおこる。

「野菜やイモなどのせんいの多い食事をしろ」とよくいわれるが、実際問題として、便秘のときにこれのらものを食べても、かんじんの大腸の先までゆきつかないのだから、速効を期待するときには、役に立たない。良いのは、還元麦芽糖水飴という、低カロリー甘味料だ。次項でのべるように、体内から水分を奪い、便を柔らかくするのでひじょうによいものだ。

<下痢をなおすには>

 反対に、下痢はスピード違反といっていい。朝食べたものが、4~5時間で便になって排出されてしまう。一番あぶないのは、伝染病や食中毒のときだ。赤痢は、集団発生こそあまりなくなったが、気づかずに軽い下痢とまちがわれ、そのまま過ぎてしまうことが多い。また、ブドウ球菌やボツリヌス菌などによる食中毒もこわい。これらは、発熱を伴うので、下痢と熱の両方ある場合は、すぐ医師にかかったほうがよい。

 ふつうの下痢は、食べあわせや、ちょっとした食あたりである。また、食物アレルギーといって、パンを食べると必らず下痢する人や、サバやタコ、エビで下痢する人もいる。何が原因になっているか分らないことも多いので、下痢をしやすい人は、下痢をしたときに、4~5時間前に食べた物を書きとめておくとよい。反対に、下痢をする食事がわかって、それを食べるときに意識すると必ず下痢をするようになる。「下痢をするぞ、下痢をするぞ」と暗示をかけているからである。神経を大らかにもち、気にしなくなると下痢はいつのまにか止まるものである。

 下痢の便はなぜ柔らかいか-通過スピードが早いので大腸で水分が吸収されないほかに、実は、小腸から逆に水を奪い、余計に水分を多くするからだ。下痢は、自分の体に不利な物質が入りこんだとき、これを排除しようとする緊急の体の仕組みである。ちょうど汚物を水道のホースで洗って流してしまうように、腸管から排出しようとする。

 低カロリーの還元麦芽糖水飴は、体に吸収されず、なるべく早く体から追放されようとする。だから低カロリーであり、同時に、便秘をなおす作用も持っているのだ。

<便秘、下痢の簡単な直しかた>

 なお便秘の場合も、下痢の場合も、手のひらでお腹をさすり、固くこわばっているところをもみほぐしてやるといい。なれると、すぐに便秘・下痢をなおすことができる。また、お腹を電気ゴタツなどで暖めてやることも下痢や便秘によいので試してみるとよい。

 最後に下痢や便秘をしているときに食事を控えたほうがいいかどうかの問題であるが、下痢のときはなおるまで食べないほうがよい。胃腸を一度すっきり空にすると、気分がすっきりよくなる。便秘のときは、腹がはって食欲そのものがなくなるが、還元麦芽糖水飴や果糖を食べると同時に、りんご・みかん(とくに袋ごと食べるがよい)・生野菜などを努めて多く食べることだ。

頭のよくなる食事法

1.頭のよくなる成分発見?

 アメリカの学界で発表された論文によると、アミノ酸のトリプトファンが頭をよくするのに効果があるという。つまり、トリプトファンの摂取量が多い子供ほど頭脳が重くなるというのだが、その前には、グルタミン酸ソーダ(味の素)が効果があるといわれ、教育ママたちがしきりに子供に与えたものだが、その効果があったのか、なかっとのかわからないうちに、今度は石油から合成されたグルタミン酸ソーダに発ガン性があるのではと疑われ、ママたちは顔を青くしたものだった。

2.ガラクトースは?

 ある会社の育児ミルクの宣伝に「平衡ガラクトースが入っているので、頭のいい赤ちゃんを育てるには、当社のものをお使いください」というのがあった。

 確かに脳発達のある段階で、ガラクトースという糖から、多糖類が合成され、脳をつくるのに役立ってはいるものの、わざわざガラクトースを入れなくとも、ふつう摂取する乳糖から、ひとりでにガラクトースとぶどう糖ができ、これらが脳の発達に充分余るくらい含まれている。したがって、この会社も最近ではあまりガラクトース入りを宣伝しなくなった。

 また、頭脳の90%は0~6才までにできるといわれ、あとでいくらガラクトースを食べたところで、そんなに頭がよくなるとは考えられない。

3.食べすぎないこと

 それでは、受験勉強をひかえて、急に頭のよくなる方法はないものだろうか?まず第一に、頭にフレッシュな酸素をおくるために、食べすぎをいましめよう。

 体内で流れる血液のうち、脳へはいつも約14%の血液がいっている。頭のわるい人のことを「あいつは血のめぐりがわるい」とか、反対に頭のキレる人のことを「頭の回転が早い」というが、実際に、勉強や考えごとをしているときは、ふだんより多くの血が頭にゆき、酸素や栄養素を活発に消費している。

 食事のあとは、その消化のために、胃や肝臓などの内臓で、血液の酸素や栄養素が消費される。食べすぎたり、胃にもたれる食事をとったあとは、いつまでも血液が全身にまわってこなくて、つい眠くなってウトウトしたり、集中力がなくなってくる。

4.やはりタンパク質

 運動しているときと、勉強しているときと、どちらが空腹になるか?ふつう運動の方がエネルギーの消耗が多く、カロリーも必要と考えられるが、実際には、どちらも同じくらい栄養がいる。すなわち、考えたり、記憶したりするときに数千億の脳細胞が働くが、このとき大量のぶどう糖やアミノ酸が消耗されるからだ。

 したがって、勉強するときは、カロリーはおさえた方がいいが、あまりにも粗末な食事だと、充分に頭が働かない。夜食には単にラーメンやスナックだけでなく、牛乳・卵・納豆・とうふ・チーズ等を用意する。プロテインパウダーのドリンクもこの目的にかなっている。

 反対に、油こいものや、バター、マーガリンなどは胃の滞留時間が長いので、少量ならいいが、食べすぎてはいけない。生野菜やフレッシュな果物および海藻・のり・小魚・梅干しなどはビタミンやミネラルを脳に補給するものとしてふさわしい。

 コーヒー・紅茶・わさび・とうがらしなどについては、避けた方がいいとする意見が多いが、多量にならないかぎりは害を及ぼさない。

 頭の働きをする脳細胞や神経が、おもにタンパク質からつくられて、これを保っていることを考えると、やはり良質のタンパク質を充分補給することが、目的にもっともかなっているといえよう。
月刊ボディビルディング1975年1月号

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