フィジーク・オンライン

チャンピオンの食事法

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1975年2月号
掲載日:2018.04.07
野沢秀雄

<須藤選手の食事法>

 1974年10月5日,この日はミスター日本の栄冠を手にした須藤選手にとって忘れることのできない日のひとつになったにちがいない。ボディビルを始めて10年,着実に,そして一歩一歩トレーニングを積み重ね,やっと念願かなって日本一のタイトルホルダーになったのだ。
 須藤選手の食事法については以前に本誌を通じて食事分析をしたことがあり,それ以来顔をあわすたびに食事の方法やトレーニングについて話をしているが,感心することは,同選手の,「何でも受け入れて実行しよう」というその姿勢である。
 すなわち,当初は牛肉・チーズ・加工食品などが食事のほとんどを占め,量もかなりオーバーだったのに対し,ごはんや野菜も加えるようにすすめ,無理のない方法が結局良いことを話したところ,早速これを実行し,それ以後は以前のような不自然さを改善してきた。今回優勝したときには,食事もトレーニングもずっと一般の人に近い形で,気楽な,いわば余裕のある状態でコンテストにのぞんだという。
「精神的につらいという気分に自分を追いこむことなく,自分のベストを尽くしました」と彼はいっていたが,その結果は悠然としたポージングぶりで,みごとこれが栄冠に結びついたのだ。須藤選手がこの前向きの姿勢を持ち続けるかぎり,さらに大きく飛躍することは確実である。

<アメリカのチャンピオンたちの食事法>

このコンテストで,ロンドンのNABBAミスターユニバース選手権大会に出場して帰国したばかりの前チャンピオン宇戸選手の報告があった。当日は体調が不調だったとのことでゲスト・ポーズが見られず残念であったが,インタビューの答えの中に「海外の選手たちは食事のほかにサプルメントをずいぶん使うのでびっくりした」という紹介があった。
サプルメントとは,主に錠剤になっていて,レバー・小麦胚芽・ばらの実・レシチン・乾燥酵母・ビタミンA・D・E・鉄・カルシウムなどの種類があり,食事のあとやトレーニングの間に飲んで栄養を補うものをいう。外国の雑誌をみると本文にも広告にも,このようなサプルメントについての紹介がずいぶん多くなされている。本誌にもチャック・サイプスやラリー・スコット,コロンブ,シュワルツェネガーなどの食事法が紹介され,このようなサプルメントがいかにも多く用いられていることに関心を持っている読者も多いことだろう。
記事画像1
 その良し悪しは後で論ずるとして,日本ではこのような形のサプルメントはまだまだ先のように思われる。その理由は医薬品とまぎらわしい錠剤は厚生省で販売が許可されておらず,つくろうと思えばいつでもつくれるのだがどのメーカーも足ぶみしているのが実状だ。
 読者の方より,このようなサプルメントが欲しいという手紙をいただくことがあるが,外国から高い値段をかけて買うのは馬鹿らしく,もっと安いいいものができるまで待ったほうがいいと返事をしているところだ。

<私のサンプル棚から>

アメリカにいった人たちが持って帰ってくれた健康食品やサプルメントがすでに数十種にもなり,私のサンプル戸棚はぎっしりである。ウェイトゲイン(体重調節用)チョコバーやハイプロティンチョコバーなどは,去年の夏に溶けだして,これに虫がついて大騒ぎしたが,結局少しだけ食べてあとはレーベルだけを保存している。これらサプルメントの中から,代表的なものを2〜3紹介してみよう。

①ばらの実からとった天然ビタミンC
 日本ではハイシーのような錠形で医薬品として売られているが,このビタミンCはぶどう糖から化学合成してつくったビタミンCだ。アメリカでは野ばらや野いちごから天然のビタミンCを採取し,これを錠剤にして食品扱いで販売されている。
 ところが一日に必要なビタミンCは0.1g(100ミリグラム)とされており,47年度の国民栄養調査によると,すでに日本人のふつうの人で,必要量を15%も上まわっているのだ。だから一錠中に300ミリも含むような錠剤は必要でなく,むしろレモンをかじったり,野菜を食べたほうがよいことになる。

②レシチン
主として大豆に含まれ,液状でドロドロしたものが一般的である。レシチンは人体内でコレステロールの合成につかわれ,性ホルモンの原料として貴重なものである。肝臓で脂肪の分解に重要な役割を果たすことから,肝臓病や高血圧・動脈硬化・貧血などによいとされ,わが国ではD社から錠剤も発売されている。だが原料は安価なもので乳化作用のあるところから,チョコレートやココア製品に相当量使用されている。わざわざ高価なものを買わなくてもひとりでに摂取できるものだ。

③レバー錠
 牛・豚・にわとりなどのレバーだけでなく,ひどいメーカーになると魚の内臓まで原料として発売しているのだからびっくりする。
 たしかにレバーはビタミンA・B1・B2・C・D・鉄・カルシウム・たんばく質を豊富に含んでいて,もっとも栄養価値の高い食品の一つであるが,問題は乾燥したレバーを,ごく少量だけ加えただけの商品が「○○レバー錠」ともっともらしく売られていることだ。乾燥すると新鮮な栄養物や酵素は失なわれてしまう。生のレバーを買って自分で調理するのがいちばん経済的で,栄養摂取という意味からもよい。

<ジンクスをかつぐ>

 医薬品についてもこれと同じようなことがいえるのだが,「これを飲んでいるからだいじようぶだ」と,われわれは自己暗示にかかりやすい。この信じる力があるからこそ,病人はよくなるともいえる。名医といわれる先生は,その人の前に出ただけで患者がすっかり信用して,その言葉や薬を100%受け入れる。それだけでもうほとんど病気がなおってしまう。
 逆にいうと,そのような人物や薬や食品を自分なりに見つけだし,それにより精神安定をはかることも,自分を管理する一つの手段として決して悪いことでない。スポーツのチャンピオンや芸能人たちはジンクスをかつぐ場合が多く,これにより安心感を得ているのだ。だから海外の選手たちがこのようなサプルメントを食べて力を発揮しようとする心理もよくわかる。
「なんとなく体力が弱い人や,なんとなく疲れやすい人は試してみてください。不思議なくらい,ピッタリ体質が合ってよくなる人がいます」これはある薬用酒メーカーの広告だが,これに限らず,自分の体によいものを一つ持っていることはよいことだろう。
「私の健康法」と題して,有名人や経営者が健康を保つ秘談を示しているが,たいていは朝鮮人参・ローヤルゼリー・にんにくなど,サプルメントに近い性質を持ったものだ。人さまざまだから,自分に効いたからといって他人に効くとは限らない。無理な押しつけがよくないことはいうまでもない。自分でよいと思って求めたときが一番効果があるのだから……。
 良いものにぶつかるまで,自分で試して自分で発見するのが望ましいといえよう。これにより安心感を得て,余裕ある態度で全力を発揮できるなら,これもまたチャンピオンへの一つの道にちがいない。
カゼをふきとばす食事法

◇カゼの季節◇

街路樹のポプラやプラタナスが黄色く変わり,葉がパラパラ落ちはじめるころになると,カゼの本格的なシーズンがやってくる。
カゼはビールスによって感染することはわかっているが,なぜ,ある人はカゼにかかりやすく,すぐ熱が出てウンウン苦しむのに,ある人はまったく平気なのか。その原因はよくわかっていない。ふだん体力があって抵抗力のある人は一般にカゼにかからないといわれているが,スポーツマンで立派な体格をした人でもカゼでダウンすることが多い。
カゼで体調をくずしたために,せっかくの勝負どころを逸した経験が誰にもあるにちがいない。こんなことがないように,カゼを確実にふっとばす方法を述べてみよう。

◇カゼは気のゆるみから◇

 サラリーマンをやめて独立した人がいる。いわゆる“脱サラ”を実行したわけである。会社員時代はしょっちゅうカゼをひいて会社を休んだこの人,イザ独立してみると,想像以上に商売はきびしく,ゆっくり食事も食べられず,朝早くから夜遅くまで働いて,クタクタに疲れ果ててしまうにもかかわらず,ピタリとカゼをひかなくなったという。
「カゼをひくなんて気がゆるんでいるからですよ。今の私にはカゼをひくことも許されないんです」――
 つまり,精神のゆるみがカゼのビールスを侵入させる原因らしいのだ。

◇ビタミンCや日光浴はカゼにきくか◇

国電の車内ポスターに,柿の実がタワワになっている田舎の家があり,おばあさんが若い女性に柿をむいてあげている。キャッチフレーズは「柿の好きな人はカゼをひきません。それはビタミンCが多いからです」――こんなキャンペーンを見かけた人がいるだろう。
ノーベル化学賞をもらったポーリング博士によると,ビタミンCにはカゼを予防したり治療したりする効果があるので,大量のビタミンCの粉末や錠剤を飲みなさいという。この説には反対をとなえる人も多く,まだ定説にはなっていないが,ビタミンCには皮膚や筋肉の間にある結合組織を固くする作用が認められており,この意味では体の抵抗力を強めると考えてよい。
「夏の海水浴シーズンにたっぷり日光にあたり,色を黒くしておくと冬になってもカゼをひかない」――こんな説も一般にひろく信じられている。紫外線の作用で体内にビタミンDができ体の骨がじょうぶになることは確かである。ただし,日光にあたりだめはできないので,夏だけでなく,秋や冬にも機会をみて日光にあたることだ。

◇外国ではカゼ薬を買えない◇

 クシャミが出たら日本では薬局で簡単にカゼ薬を買えるが,医薬分業が徹底している外国では,医者の処方せんが無ければどんな薬も買うことができない。イザというときにどうしているか――実はヨーロッパにも高山植物で薬効をもったものが民間に伝えられ,漢方薬を飲むようにせんじたりエキスを薄めて飲んだりしてカゼを追いはらう。
 たとえば,フエボダイ樹の花はのどの痛みをとり,つまったタンをとり去る。キク科のフキタンポポも同様に効果があり,これらを飲んで熱いタオルを鼻と口にあてていると,たちまちカゼが退治されるという。
 これらの薬用植物エキスをキャンデーにしたり,ピオのようにスプレーにした製品が日本でも各社から輸入発売されている。私がここ2年ばかり愛用しているのは「スシャルバ」というボンボンキャンデーだ。おかしいな,と思ったらすぐ2粒ほどなめると,不思議なくらいよくなる。9種類の高山植物のエキスが入っているほか,ビタミンCや蜂蜜が多いのでおいしく食べられ,しかも二重になっていて中味がやわらかいのがいい。
 なお,空腹になりすぎると寒さが体にこたえてカゼをひきやすくなる。適当な時間に適度に食事をとることを心がけたい。(野沢秀雄)
月刊ボディビルディング1975年2月号

Recommend