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――均整美健康法――
シェイピング・レクレーションの実際④
野球一その遊びと訓練

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月刊ボディビルディング1975年4月号
掲載日:2018.03.23
高山 勝一郎

見る面白さとやる面白さ

 日本の野球人口は、リトルリーグや草野球まで入れると、優に二千万人を超えると云われる。
 いやしくも野球人口というからにはこれは「やる」または「やって遊ぶ」側の数である。
「見て楽しむ」側の数は入っていない。
「見る」側の数も含めるならば、これは三千万とも四千万ともいわれるぼう大なものになる。
 野球はそれだけ、一般の人々の間にも深くとけこんだスポーツになっているのである。
「プロ野球」がはやるのも、この一般性と野球人口がバックにあるからであろう。とにかく野球は面白い。
 その“面白さ”のよってきたるところは、チーム・プレーの転回の面白さであり、個人プレーとしての技術であり、万人の参加し易いスポーツとしての性格そのものである。
 野球は、個人のプレー技術が、チーム全体のプレー転回とどううまく結びつくか、そこに作戦もあり、また偶然性もいろいろ加味されて、見て面白くやって面白いものとなる。
 しかし、出来ることなら、野球はみずからやって楽しんでいただきたい。
 広いフィールドで思いっ切り白球を追い、投げ、そして打つ。
 野球は「やること」の方にこそ本当の面白さがある。
 町内大会でもよい。あるいは、会社での職場対抗でもよい。
 近所の少年たちの草野球でもいいではないか。
 女性ならソフト・ボールででも、野球の面白さは十分味わえる。
 要は参加してみずから体を動かし、楽しみながら健康増進をはかることである。

野球に必要な体力

 私の野球歴も「草野球」の域を出ていない。
 小さい頃から野球が好きで、近所の同好者とささやかなチームを作っては日曜日ともなると手当り次第に試合を申しこんで、各所で転戦したものだ。
 しかし、その試合成績は必ずしもいいものではなかった。
「なぜ、こうもよく負けるのか」
 いろいろ考えてみたが判らない。
 今にして思えば、投打力や走力を中心とする、いわゆる野球用の基礎体力が不足したチーム構成に、最大の原因があったのである。
 それに気がついたのは野球とあまり縁が無くなった時になってからだから、今さら仕方がない。
 野球プレーに望まれる体力には、一般スポーツに共通の、いわゆる全身性体力と、野球独自の専門性体力とが考えられる。
 さらに、それらを細分してみると、
I、全身性体力
1、筋力
2、筋持久力
3、敏捷性
4、持久性
5、柔軟性

Ⅱ、専門性体力
1、打力(バッティング能力)
2、投力(ピッチング能力)
3、走力(ベースランニング力)
4、捕球力(ボールキャッチ力)
5、その他の野球技術能力
等を考慮しなければならない。

 これに加えて、精神力やチーム・ワークの力も養なう必要がある。
 これらが総合されないと、野球における真価は発揮できない。
「まあ草野球を楽しんでいればいいんだから……」
 という気楽なレジャー野球派なら、それほど真剣に考える必要も無いかも知れないが、それにしても、体力は、からきし無いよりはあった方がいいにきまっている。

厳しいプロの自主トレーニング

 長島が七代目の巨人の新監督になった。
 早速、東京の多摩川グラウンド、九州の宮崎キャンプ、そしてアメリカはフロリダのベロビーチ・キャンプと、意欲的な自主トレーニングを連続して行なっている。
 巨人選手たちは、長島監督の作った「自主トレ・メニュー」に連日、汗ダクでしぼられている。
「基礎体力作りと足腰の鍛練には、何といってもランニングが一番」とはこの新監督の考えである。
 彼の考えは正しい。
 ランニングによって走力をつけ、足腰を鍛えれば、おのずから野球に必要な基礎体力はついてくるし、バッティングやピッチングにおける、フォームの安定性(バランス)ともなってあらわれてくる。
 バッティングで、よく「腰がぐらつく」などといわれるが、これも足腰の鍛練が足りないためであって、ランニングでまず鍛えこまなければならない部位である。
 長島自身、その選手時代には伊豆などの山にこもって、山野を走り廻り、それで足腰を作り上げたものだ。
 その結果が、「戦後最大の野球ヒーロー、名プレーヤー」を生んだのであるから、彼の努力こそ、野球のベーシック・スピリットだと云っても過言ではないのである。
「野球の機動力は、選手各人の基礎体力をつけることから生まれる」とも彼は云っている。
 この頃とみに低下してきたチーム全体の機動力を、もう一度、昔のものに復活させるために、彼は今日もグラウンドの周りを選手たちに走りこませているのである。

ベース・ランニング

 外野を走ったり、グラウンドの周囲を走ったりするランニングから、野球に直結した走法、すなわち「ベース・ランニング」そのものに移って、走塁のコツをつかむのも、野球の大切な基礎練習である。
 なぜなら、走塁はそのまま実践上の得点につながるからだ。
 チームの選手がせっかくヒットを出してくれても、足が弱かったり、スタートがまずかったりしては、進塁が失敗し、したがって得点を上げ得ないことにもなる。
 したがってベース・ランニングを練習する時は「スタート方法」、「タイミングの判断力」、「速力」、「帰塁力(もとのベースに戻る速力)」等もあわせて身につけるようトレーニングすることである。
 これは、ただランニングをやればよい、という基礎体力一辺倒から、「頭脳力」をもつける野球の専門性体力づくりへと、一歩近づくことになってさらに一段と興味が増加する。
 また、各ベース間を最短コースで走り、最短時間をかける、等の配慮をもとにベース・ランニングをさせることによって、また、コーチス・ボックスからの指示によって走塁、帰塁を練習させることによって、野球の実戦力と機動力をかねそなえさせることに直結してくるのである。

キャッチ・ボール

 ボールに慣れるにはキャッチ・ボールが一番、だと云われる。
 キャッチ・ボールはそれだけ野球の「基本」でもあるのだ。
 どんな一流の選手でも常に「キャッチ・ボール練習」は欠かさない。
 また一般の野球人にとっても、これは楽しい「遊び」でもある。
 昼休みなどに、路上や広場でキャッチ・ボールをやっているサラリーマンや工員さんたちをよく見かける。
「野球はやらないが、キャッチ・ボールならしよっちゅうやってますよ」という人々は非常に多い。
 二人で、または何人かで、ボールを投げあい、これを捕球する、それだけの簡単なゲームである。
 しかし、その中に野球のエッセンスがひそんでいる。だから、いつまでやってもあきない楽しさがあるわけだ。
【巨人軍・王選手 ベースポールマガジン社提供】ただ楽しむのではなく、野球の基本練習としてやる場合には、1.一定の位置に正しく投げる。2.球を正確に捕球する。3.動作のつながりや足の位置を研究する。4.距離を変化させて、投球・捕球の変化の感じをつかむ。以上のことに注意して行うである。 ただマンゼンとやるキャッチ・ボールでは、いくらやっても野球そのものの上達にはつながらない。「遊び」としてやるにしても、いろいろ変化をつけて楽しんだ方が、より有意義であろう。

【巨人軍・王選手 ベースポールマガジン社提供】ただ楽しむのではなく、野球の基本練習としてやる場合には、1.一定の位置に正しく投げる。2.球を正確に捕球する。3.動作のつながりや足の位置を研究する。4.距離を変化させて、投球・捕球の変化の感じをつかむ。以上のことに注意して行うである。 ただマンゼンとやるキャッチ・ボールでは、いくらやっても野球そのものの上達にはつながらない。「遊び」としてやるにしても、いろいろ変化をつけて楽しんだ方が、より有意義であろう。

足腰のためのトレーニング

「足腰」と簡単に云っているが、ここを鍛えることは、野球のみならず、あらゆるスポーツの根幹を形成することである。
 全身性体力の面からみても、このトレーニングは不可欠なのだ。
 ランニングもいいことは確かにいいが、時間的な点からトレーニング強度を強めるためには、さらに、ウェイトを用いた負荷運動を加えたい。
 このような観点から、次のようなトレーニング種目を、その日の各人の体調に応じて選択して行なってみることである。

スプリット・クリーン・アンド・ジャーク

 腰をかがめて両手を伸ばし、バーベルまたはダンベルを両手に握る。
 膝と背を伸ばしつつミゾオチの位置までひき上げ、ここで軽くジャンプをいれて脚を前後にひらき、しゅんかんに肩の位置までウェイトを持ってきて、それから足をそろえて頭上へさし上げる。さし上げる動作の間にもう一度ジャンプをはさんで両足の前後開閉をいれてもよい。

フル・スクワット

 バーベルを肩で支持して両手で持ち膝をまげて腰をしずかにおとし、また元の姿勢に立ち上がる。
 シェイピングの見地からいっても、なるべく軽いウェイトで、回数を多く行うようにするとよい。
 これのバリエーションとして、動作を半分のしゃがみ方でとめるハーフ・スクワット、ウェイトを腰のうしろで支持するハック・スクワット(通常ハック・スクワット・マシーンを用いる)、立ち上がる時にジャンプをいれるジャンピング・スクワット等がある。トレーニング・スケデュールに応じて選ぶとよい。

デッド・リフト

 まず膝を伸ばし(スティッフ・レッグド)、上体を前傾させてバーベル(またはダンベル)を握る。
 そのまま上体をおこしつつ、手は伸ばしたままでウェイトを腰へ引き上げる。グッと胸をはってキメてからまた、腰をかがめて元へ戻る。
 強度を増すためには、ベンチの上か足台の上へ立って行うとよい。

バック・エクステンション

 ベンチまたは床上にうつ伏せになり両足の先にストラップまたはウェイトをあてて固定する。
 頭のうしろで両手を組み、上体をそらせて出来るだけ高く持ち上げる。しずかに元へ戻しこれをくり返す。

レッグ・カール
プローン・レッグ・レイズ

 足先にアイアン・シューズをつけ、またはレッグ・カール・マシーンに足首をかけてうつ伏せになり、膝を屈して足を上方へカールする。
 ベンチ上に上体を伏せて下肢をべンチから出し、アイアン・シューズのレッグ・カールを行うと同時に、膝を伸ばしたまま上方へ上げるプローン・レッグ・レイズを加えるのも効果がある。

シット・アップ

 斜角15度から40度ぐらいのインクライン・ベンチを用いた方が強度は強まる。このベンチにあお向けになり足を上にしてこれを足首で固定し、上体をゆっくり起こす。
 頭のうしろで手を組み、常に腹筋に力を入れて行う。
 頭が膝にふれるほどに上体をまげたところで、腹筋の力を抜かずにゆっくりもとへ戻す。
 初心者はインクライン・ベンチでなくても、ふつうの平面床やフラットベンチで行なってよい。
【巨人軍・堀内投手ベースボールマガジン社提供】

【巨人軍・堀内投手ベースボールマガジン社提供】

ピッチングと肩

 ピンチングの基本は肩である。
「あの投手は肩がよい」とか「彼は肩が弱い」とか云われているように、コントロールがあって、しかもピッチング持久力を持つことの根元が、この「肩」にあるのである。
 肩を強くするにはどうしたらよいか。
 あとで述べるように、特殊な肩や腕のトレーニングをやるのもよいが、野球用の肩となれば、やはり、「投げ込む」訓練を続けることが一番である。
 いうまでもなく、投球の際のフォーム。球のにぎり方、ステップ、最後のフォロースルー等にも十分注意と工夫を加えて行う。
 投げ込む強度は、最初はゆるやかにはじめて肩をならし、それから徐々に強めることが大切である。
 投球距離も、徐々に遠くしていくことが必要だ。
 かの往年の名投手沢村選手が、夜、他の選手が床に就いてから、遠くにローソクを立てて、これを速球の風圧で消す……というピッチング練習を続けたことはあまりにも有名なエピソードになっている。
 このように“投げ込む”ことの重要性が、常にピッチングでは唱えられているのである。

ピッチング力のためのトレーニング

 野球の専門性体力のうち、投力を養なうためのトレーニングとしては、次のような種目が効果的である。

シーティット・バック・プレス

 ベンチに座って、両手でバーベルを首の後側で支持する。
 これをプレス・アップし、また首の後へ戻し、これをくり返す。

ラットマシーン・トライセプス・プレスダウン

 ラットマシーンまたはチェストウェイトを使用する。
 立ったままバーを両手で握って肘を体側に固定し、バーを下方へプレスダウンする。力を抜かずまたもとへ戻す。

フレンチ・プレス

 バーベルを肩巾よりせまく両手で握り、頭上へさし上げた位置から、肘を固定させたまま前腕部だけを動かして首の後へプレスダウンし、また戻す動作をくり返す。

ダンベル・ツイスティング・カール

 体側にダンベルを持ち、手首をひねる(ツイスト)ようにしながら,ハンド・カールを行う。
 戻す時もワン・ツイスティングさせて体のやや後方へおろし、またひねりつつカールアップする。

リスト・カール

 台または膝の上に前腕を固定し、手首だけを動かしてバーベルかダンベルを上下させる。
 アンダー・グリップとオーバー・グリップの二とおりで行うとよい。

バッティング

 バッティングには、肩、腕、腰、それに足、いってみれば体全体が参加する。
 球を見る眼も必要だし、打球の方向やバント戦術など、攻撃のフォーメーションを考える頭脳も必要になる。
 これら各部位を鍛えることは、当然のことながら大切であるが、打力練習の最大の基礎となるものは、むしろ各人の“素振り”回数である。
 プロの王選手、張本選手なども、この素振り練習だけは毎日欠かさない。
 このようなスター級の選手でさえそうなのだから、一般の草野球愛好者諸氏にしても、素振りは大いにやってもらいたい。
 もちろん、自分のバッティング・フォーム、スタンス、グリップ等に気を配って行わなければならないことはいうまでもないことだ。
 素振りを毎朝つづけるだけでも健康にいいし、シェイピング効果も出る。
 野球狂ならずとも。早速はじめてはどうだろうか。
 野球は、複雑な各種の要素が組み合わされて構成される。
 わずかなページでこのすべてを詳述することは不可能なので、本項では、一般向きに“その遊びと訓練”的要素を主として抽出してみた。
 専門的にはさらに、試合運びやチーム管理、また長期練習計画と、そのためのサーキット・トレーニング・プランなど、分析を試みたいいろんな要素が残されているが、これは興味のある方だけの今後の研究材料にでもしてもらえばよい。
 野球といえども、要は、楽しいスポーツの一つであり、私のいう均整美健康法の一つのパターンである。
 楽しみの中から真の健康体が生れるならば、その意味での野球の功績が見なおされてもよい時である。
月刊ボディビルディング1975年4月号

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