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プルーンエキス

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月刊ボディビルディング1975年4月号
掲載日:2018.03.18

〈熱気あふれる体験発表会〉

「野沢さん,あなたもぜひ入りなさい。健康になってよろこばれ,気がついてみたらお金がドッサリたまっていた,という良い仕事だから」。とうとう私のところまできたか,世はまさに健康ブームなんだな,熱心にすすめるKさんの顔をみながら,私はつくづく考えた。
 不況の風はますます冷たく,春闘がおわるまでは景気の回復はのぞめそうもない。就職できない学生や,サイドビジネスをやりたいサラリーマン,あるいは家計を助けたい主婦たちが集まって,健康食品,とくにプルーンエキスの販売をはじめたところ大当り。使用して効果があったという人があいつぎ,月に一回ずつ,四谷の主婦会館や新宿の全協連ビルに数百名の人びとを集め,体験発表会をおこなっている。お医者さんの奥さん,学校の先生,作曲家など,地位のある人たちも多く,「ガンがなおった」「えそがなおった」「はだか美しくなった」と,びっくりするような話が次々に出てくるわけだ。

<太陽のフルーツ>

 プルーンは梅やあんずの兄弟で,日本語では西洋すももといわれている。カリフォルニアのサンサンと輝く太陽の下で育つ果実で,干したプルーンは街の高級フルーツ店で売られており,ケーキに飾ったり,あるいはチョコレートをかけた商品に加工されたりしているので,甘ずっぱい味を知っている人もいよう。
 話題のプルーンエキスは,干しすももを煮て,種をとり,ドロドロの液状にしたものだ。有害な農薬は散布されていないので,安心できるし,各種ビタミン,ミネラルが多いという。また天然の果糖の甘さがおいしく,この作用で便秘している人,また病人や老人で秘詰といってがんこな便秘に悩んでいる人におだやかな作用をして,腸をととのえる。その結果,肌がきれいになり,ツヤツヤ美しくなる。また食欲がまし,夜はぐっすり眠れる。さらにビタミンB12や鉄が多いので,血液をつくり,血液成分をクリーンにする働きや体液をアルカリ性にする作用があるということで,まさにクイントリックスといったところだ。

<微量成分の不足が病気をおこす>

 現代人の食事内容をみると,タンパク質や炭水化物,脂肪などはすでに目標値を上まわっているが,反面,ビタミンやミネラルその他の特殊成分は不足しがちである。これに拍車をかけるのが精白米・漂白した小麦粉・パン・うどん・精白した砂糖だといわれ,さらに季節はずれの野菜や果物にも問題があろう。
 しゅんの季節には,自然にビタミンやミネラルが充実するのに対し,ひ弱な温室栽培では太陽の紫外線も当らず同じイチゴやトマトを食べても栄養不足になってしまう。その結果,骨や歯が弱くなったり,原因不明の奇形児が生れたり,今まで無かったような奇病になったりする。
 このような時代の隙間をぬって登場してきたのがプルーンエキスやクロレラ,アロエ,葉緑素といった微量成分を強調した健康食品である。微量な成分だけに,なぜ効果があるのか科学的な説明やデータはほとんどなく,「効いたからいいのだ」「実例をみれば文旬はないだろう」といって販売されている。
 何度か書いたように,人間は心理的に左右されることが多いので,ニセの薬でも効果があるといわれれば本当に効いてくることがしばしばある。この方法で病人をなおす専門家もいるくらいだから,本当にプルーンやコンフリー,クロロフィルが効いたかはどうかは,対照テストをおこなわないとわからない。私は順次,いろんな健康食品をテストしているところだが,プルーンについては成果は五分五分のところである。もう少し継続してまとまれば報告したいと思っている。

<販売方法は正しいか>

 さて,このプルーンエキスは一びんで2000円〜25000円。ふつうのいちごジャムやママレードが200円~300円で買えるのにくらべるとケタちがいだ。おもしろいことに5個まとめて買うと1割安く20個まとめると2割安い。そして,60個を定価の65%で仕入れて,これを知人,友人にすすめて定価で販売すると,差額が利益になるわけだ。
 また,どうやら販売者が子や孫をつくり,その人たちは自分の手を通さないと,この商品が扱えないという。ネズミ講方式(マルチレベルシステム)をとっているらしい。この方法で,月に数万~十数万円の利益をあげる人が続出しているという。説明会に出席した社長は「金儲けしたい人はやめて出ていってくれ」というが,それでもこの価格と販売システムをみると,なにか問題があるような気がしてならない。
 2000円という価格は,このインフレ時代にそれほど高くなく手軽なのか,逆に2000円という高価格を出したから効くのだという心理なのか,いずれにしてもガンや脳率中といった病気は,日本人の死亡順位の1位,2位を占めており,これで亡くなった身内や友人を持っている人は意外に多く,「こわい病気がなおる」といわれれば,弱いところをつかれて,買ってみようという気になっても不思議ではない。
 本当のことをいえば,ビタミン,ミネラルをとりたい人には,季節の野菜と小魚・レバー・納豆などをとるようすれば目標は99%達成される。
 プルーンエキスやしいたけ,海藻,青汁やアロエ,コンフリーなどの特殊微量成分をうたい文句にする商品に頼りすぎて,かんじんの一般栄養成分を忘れてしまうと,かえって病気が悪化することもしばしばある。特殊な成分は,知らず知らずのうちに毎日の食卓から自然に入ってくるようにするのが一番いい。(野沢秀雄)
月刊ボディビルディング1975年4月号

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