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’74全日本学生チャンピオン 吉見選手の練習法〈その3〉

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月刊ボディビルディング1975年8月号
掲載日:2018.02.08
国立競技場トレーニング・センター 主任 矢野 雅知
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◇真のビルダーを目指す◇

「ビルダーは体力がある」と思われている。確かに、筋力・パワーは人並みはずれて強いのだが、それだけでは体力があるとはいえないのである。

 このことはマラソンランナーやウェイトリフターにもいえる。前者は全身持久性の体力に長じており、後者は筋力・パワーの体力に優れているのである。体力とは柔軟性・持久性・敏捷性それに協応性等を総合したものでなければならない。

 ボディビルディングは健康な体力作りである、と同時に、それは外見上も美しく、バランスのとれた発達を強調する。そのバランスのとれた発達とは、総合的な、高い体力レベルを有す者に顕著に見い出される。換言するとバランスのとれた機能的な身体は、健康にあふれて、美しいといえる。ボディビルディングは、この機能的な健康美を具現するところに意義があるのであって、それが人に羨望のタメ息を吐かせることになる。ただ大きいだけがすべてではないのである。

 前おきが長くなったが、吉見選手は総合的な体力を高めて、真のビルダーたらんとする一人である。彼は他のスポーツ活動で、総合的な体力を作り上げようとする。トレーニングで鍛えた身体は、あらゆるスポーツの分野で生かしてこそ充実してくる。汗にまみれて、四六時中、バーベルが念頭から離れない青春時代を送りたくないという気持があるのだろう。

 つまり、春には敏捷性によいからと卓球をやり、夏にはスタミナ作りと称して水泳をやり、冬には平衡感覚を鍛えるためにスキーを楽しむ。

 東にテニスコートあらば、バイクでかけつけ、西にプールあらば、行って飛び込み、南にグランドあらば、行って走り回り、北にカワイコチャンありとも、懸命にこらえてバーベルを握る。

 実に、健全な生活を送っているのである。このように狭い視野にとらわれず、多方面に若いエネルギーを発散させることが、とりもなおさず、ボディビルディングの効用を広く社会に強くアピールすることになると私は信じている。だから、とかく誤解を受けやすいビルダーは、一人でも多く他のスポーツに汗を流してもらいたいと思う。

 だが、ボディビルディングに集中することなしに、学連のチャンピオンとして君臨することは出来ない。コンテスト2ヵ月前からトレーニング一本にしぼることになる。

◇デフィニションは食事から◇

 コンテストで好成績を残すには、バルクもさることながら、デフィニションが大きく左右する。両者を満足させて、なおかつ均整美のそなわったビルダーが上位に入るのである。

 吉見選手はオフシーズンはバルク・アップのために増量して、コンテスト前はデフィニションのために減量する。彼はバルク型に属しており、バルク型に共通する悩み、すなわちデフィニション獲得が難かしい。ハイ・レピティションでデフィニションを出せるといわれる。それは間違いないのだが、バルク型の選手にとって、トレーニングだけでは鮮明なカットは出せないのも事実である。

 体脂肪0.45kgは、3500~4200calのエネルギーを持つ。このカロリー量は空腹の状態で7時間の山登りをするのに等しいのである。つまり運動だけでは容易に皮下脂肪は落とせない。どうしても摂取するカロリー量を押えて、身体に蓄積している脂肪を燃焼するために激しくトレーニングする必要がある。

◇食事が筋肉を作る◇

 だが、激しいトレーニングをしても筋肉を形成する蛋白質の供給が充分でなければ、いかに素質のある者とて発達しないのは理の当然である。

 ラリー・スコットの「食事はボディビルディングの80%を占める」という説に彼は賛同している。

「だってそうでしよう。もうコンテスト・ビルダーともなると、みんなが最大の努力を払うトレーニング内容に大幅な違いはないのだし、睡眠も充分にとるだろうし、残るは栄養のとり方しかないもの……」

 つまり、いかに効率よくタンパク質を吸収するかに問題があるといえる。コンテスト・ビルダーであるなら、一般人と同じ食事で充分であると主張する人はいないのである。“ゴハンにのり茶づけ”では、厚い筋肉は決して形成されないのである。

 欧米のビルダーとわが国のビルダーの圧倒的なバルクの相異は、プロティンの量に影響されるのであろうか。欧米のビルダーは必ずハイ・プロティン・フードを用いる。効率よくプロティンを摂取出来るからに他ならない。ビル・パールはへルス・ジムの収入よりも、プロティン・フードの販売の収入の方が大きいというのも、それを物語っていよう。吉見選手もハイ・プロティンを重要な蛋白源としている。とくにコンテスト前には、この比重が大きくなる。

 蛋白質はアミノ酸から作られる。そして、必須アミノ酸の一つでも欠けると、それを充分に生かすことが出来ない。どうしてもタンパク価の高い動物性の食品が必要になる。だが、血液をアルカリ性に保つために、植物性のものとバランスをとらねばならない。その他、ビタミン、ミネラルへの注意も怠ることはできない。吉見選手はこれらすべてを考慮した食事を摂る。

 では次にコンテスト前の彼の平均的食事内容を示してみよう。

―朝―
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以上をミックス・ジュースにする
焼肉 100g
キャベツ
ミカン 4個

―昼―
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以上をミックス・ジュースにする
さしみ 100g
チーズ 50g
パセリ
ミカン 4個

―夜―
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以上をミックス・ジュースにする
さかな 100g
野菜ジュース

 以上の食事内容を分析すると、総蛋白量およそ300g。体重1kgあたり3g以上摂取していることになる。これはかなり多いといえる。だから、短期間で、めざましい進歩を示したということの裏付けになるだろうか。

 ミックス・ジュースには、ふだん牛乳を用いるのだが、脂肪を含むのでコンテスト前にはオレンジ・ジュースを用いている。それは、エネルギー源として良好であることによる。

 デフィニションには魚肉が良いとフランク・ゼーンはいう。吉見選手も魚肉を多く摂る。ただし、動物性蛋白質のために酸性濃度が高くなる。それをおさえるために、野菜・果物・ジャーム・オイルをとってバランスをとることになる。また、肉といえども蛋白質のかたまりではない。脂肪も炭水化物も含んでいるのだが、激しいトレーニングでそれらが皮下脂肪となって沈着することを許さず、すでに形成されている皮下脂肪は、エネルギーとして燃焼させてしまうのである。

 どれだけ激しいトレーニングをするのか?それは前回紹介したように、多セット・短時間のトレーニングが物語っている。さらに付け加えると、スコット・カールを行うとき、最終セットはパンプ・アップさせるために、軽量で極限回数を行う。この運動中に前腕の血管が、プーッとふくれている。そして手首の靭帯に痛みを感じる。その痛みは全体に広がってくる。さらにカールを続けると、血液でふくらんだ血管が破裂してしまうのである。ちようど、血マメのようになってしまう。これは明らかにオーバー・トレーニングである。ただこれほどまでにトレーニングを遂行する精神力が、短期間での発達をうながした原動力になった事を疑う余地はあるまい。

 バルク型のビルダーがカットを出すには、やはりトレーニング以上に食事調整が必要である。つまり、わき腹はどうしてもしぼり切れない。そこでコンテスト前には、ジャーム・オイルを摂ることになる。このジャーム・オイルを食事に加えることにより、さらに代謝が進んで2kgほど体重が落ちる。そして仕上げとして、男性ホルモンの活性化を促すために日光浴を行う。これでさらに体重を落として、ベスト・コンディションになるのである。

◇食費とボディビルディング◇

 ここに問題がある。吉見選手は自炊にもかかわらず、コンテスト前の食費には、プロティン、ジャーム・オイルなど高価なものを多量に摂取したので、月額8万円も費やしたという。コンテストを目指すボディビルディングとは、地獄の沙汰と同様に、汗だけでなくゼニも必要なのであろうか。

 一年ほど米国にボディビルディングの修行に行ったビルダーがいた。ボディビル界をつぶさに見聞した彼は「コンテストで勝つには、結局金がなけりゃだめなんだ……」としみじみ語っていたことを想い出す。

「安い納豆で頑張れる……」という反論があるかもしれぬ。だが現実にはわが国の一流ビルダーたちでも、食費は高く、遊興費をおさえてコンテストに集中する人も多いのが事実である。それは同時に、ビルダーをそれほどまで熱中させるボディビルディングが、魅力あるものであることを物語っておりそれは怠情な毎日を過す人々の多い中で、目標をもって徹底できる努力は称賛されるものであると思う。

 だが「食事などは問題ではない。激しい練習こそすべてである」と徹底したハード・ワークを主張される人がいる。あの若木竹丸氏である。

 次回は若木氏にスポットをあてたいと思う。
月刊ボディビルディング1975年8月号

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