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ボディビルの基本【その11】
下半身の運動

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月刊ボディビルディング1972年8月号
掲載日:2018.03.13
記事画像1
竹内 威(NE協会指導部長'59ミスター日本)

足に必要な筋量と敏捷性

 パワー・コンテストの影響もあってか、わが国の一流ビルダーの足も、現在では欧米のビルダーに比べて、さほど遜色のないものとなってきた。
 しかし、残念ながらそれはあくまでも筋量についてのみいえることであって、ビルダーを評価する立場から見れば、足全体の調和と、それから受ける印象、ことに敏捷性が感じられるかどうかという点で、かなり彼我の差があることを認めないわけにはいかない。
 通念からいえば、足の筋量の増大は敏捷性の乏しい感じをもたらすと思われ、事実、わが国のビルダーにはそのような傾向がかなり強くみられる。しかし、欧米のビルダーには、あまりそのような傾向は見られない。
 では、いったいこのような彼我の差は、どこに原因があるのだろうか。日本人と欧米人との先天的な体形の違いにも多少はその原因があるとは思われるが、やはり、最大の原因は、トレーニングの方法そのものにあると考えられる。
 わが国のビルダーの足のトレーニングを見るとき、大多数の者は大腿四頭筋と大腿二頭筋の運動に終始しているように見うけられる。これに対して、欧米のビルダーの場合は、上記の部分の運動に加えて、足の振りあげ運動、ジャンプ、ランニングなどを併用して多角的に足を鍛えているようである。
 足は大別して大腿部と下腿部に分けられる。
 大腿部には、膝を伸展する大腿四頭筋と膝を屈曲する大腿二頭筋があり、その他に、足をあげる筋肉、回転させる筋肉、股を開閉させる筋肉等がある
 下腿部には、足首の伸展・屈曲・回転等に作用する筋肉がある。
 われわれの日常生活において、歩く走る、跳ぶ、しゃがむ、立つ、その他足のはたす役割は非常に多い。したがって、全体がよく調和し、印象の大きい足をつくるには、足の機能的な役割をよく考慮してトレーニングを行うことが大切である。
 昨年度のミスター・ワールド・コンテストにおいて、プロの部で優勝したビル・パールは、かつてミスター・アメリカに優勝した当時、100ヤードを11秒フラットで走れたという。このことは、足の機能的な役割をよく考えてトレーニングを行なった彼にしてみれば、しごく当然なことかもしれない。また、あれ程にサイズがありながら、少しも鈍重に見えないというのもうなずける。
 最初にも述べたように、足の筋量を増すことは、ビルダーにとって不可欠のことではあるが、そのために鈍重な感じにならないように心して鍛えるようにしていただきたい。
記事画像2

大腿部の運動

○スクワット
 スクワットは大腿四頭筋の発達を促すには最も有効な種目である。運動の方法については省略するが、両足の間隔、向きによっていくぶん効果が異なるので、このことについて説明する。

<パラレス・スクワット>
 図のように両足の間隔を肩幅ぐらいにして、左右の大腿部が常に平行を保つようにして足を屈伸させる。
 効果。大腿四頭筋の前面と側面。
(パラレス・スクワットの足の位置)

(パラレス・スクワットの足の位置)

<Wヒールズによる方法>
 図のように両足の間隔を肩幅くらいにとり、左右のつま先を90度ぐらいの方向に開く。両膝が内側へ寄らないように屈伸するが、できるだけ深くまげるのがよい。
 劾果。大腿四頭筋の上部、大殿筋内股筋(内転筋、薄筋等のももの内側が筋肉)にとくに有効。
(Wヒールズによる足の位置)

(Wヒールズによる足の位置)

<ワイド・スタンスによる方法>
 図のように、両足の間隔を肩幅の倍くらいにして、できるだけ左右のつま先を開く。両膝を前方へまげるというよりも、横へまげるように屈伸する。
 効果。大腿四頭筋の外側と内股筋にとくに有効。パワー・リフターの因幡選手は、このスタイルでスクワットを行なっており、上記の部分に顕著な発達がみられる。
(ワイド・スタンスによる足の位置)

(ワイド・スタンスによる足の位置)

○フロント・スクワット

 バーベルをクリーンし、両肘を前方へ出すようにして、シャフトを鎖骨の上に支持する。その状態でスクワットを行うが、上体が前傾しすぎて運動が行いにくい場合は、かかとの下に板かプレートを敷くとよい。
 効果。大腿四頭筋全体の発達を促しパルクを増すのに有効。

○ジェファーソン・スクワット

 バーベルをまたぎ、腰を落として体の前後でシャフトを握って脚の屈伸運動を行う。立ちあがるときに、背筋をできるだけ彎曲しないように留意する。
そして、セットごとに左右の握り方を変えて行う。(写真参照)
 効果。交互に行うことにより、大腿四頭筋全体に効く。両足の間隔を広くすれば内股筋にも有効。ただし、バーベルを両手でぶら下げて行うため、重い重量を使用することはむずかしく、したがって、筋量を増すことよりも、足の形を整えることを狙いとして行うとよい。

○シッシー・スクワット

 両足の間隔を肩幅くらいにとり、両方の手にダンベルをぶら下げて立つ。次に、腰を後方へ引かないようにして膝を前に屈する。つまり、膝を屈することによって、からだ全体で「く」の字を形づくるように行う。(写真参照)
 効果。大腿四頭筋前面をカット(筋肉の隆起を促し、筋肉と筋肉のミゾをはっきりさせる)し、デフィニションをよくする。

○レッグ・エクステンション

 レッグ・カール・マシンを使用し、膝を支点にして、足の伸展運動を行う効果。シッシー・スクワットと同様な効果をもたらすが、この運動の方がより効果的である。


○レッグ・カール
 レッグ・カール・マシンを使用して足のカールを行う。
 レッグ・カール・マシンのない場合は、次のような方法で行うとよい。
 傾斜した腹筋台にうつ伏せにねて、体がづり落ちないように両手で台の縁をつかむ。次に、両足の裏でダンベルを縦にぶら下げるようにはさんで保持しその状態で足のカールを行う。(写真参照)
 パートナーがいれば、フラット・ベンチにうつ伏せにねて、両足首を後りから引っばってもらうようにしてカール運動を行なってもよい。
 効果。大腿二頭筋。
[ジェファーソン・スクワット]

[ジェファーソン・スクワット]

[シッシー・スクワット]

[シッシー・スクワット]

○ベント・オーバー・ニー・ロッキング
 バーベルをスクワットのときと同じように肩にかつぎ、上体を床とほぼ平行になるまで前方に倒す。背は彎曲しないように、また、頸を痛めないように、バーベルのシャフトが頸にかからないように注意する。次に、そのままの姿勢で、上体が起きないように留意しながら、両膝の屈伸運動を行う。伸ばすときは完全に伸ばすが、あまり深くまげる必要はない。
 効果。大腿二頭筋、大殿筋。


○フロント・キック
 立った姿勢で、膝を伸ばしたまま、いずれか一方の足を反動を使わずに、前へできるだけ高く上げる。1セットずつ左右交互に同回数を行う。
 効果。腸腰筋。大腿膜張筋。


○サイド・キック
 フロント・キックと同じ姿勢で、いずれか一方の脚を横へ上げる。1セットずつ左右交互に同回数を行う。(写真参照)
 効果。大腿膜張筋、中殿筋。
[マシンを使わないレッグ・カール]

[マシンを使わないレッグ・カール]

○バック・キック
 立った姿勢で、いくぶん上体を前傾させて、いずれか一方の足を多少反動をつかってもよいから、後方へできるだけ高く上げる。(写真参照)
 効果。殿筋全体。ヒップ・アップに有効である。
 以上が大腿部とそれに関連した殿部の運動であるが、トレーニングにあたっては、スクワット、レッグ・カール等の運動に加えて、キック運動をかかさず行うことが肝要である。
 キック運動で使用する筋肉は、スクワットやレッグ・カールで使用する筋肉と異なるので、セット間の休息時を利用しても容易に行えるはずである。そうすることによって、足の付けねの部分の発達が促され、より調和のとれた足をつくることができる。
[サイド・キック]

[サイド・キック]

下腿三頭筋の運動

 下腿三頭筋は、腓腹筋、ヒラメ筋とからなり、足首を伸ばす働きをする。また、跳躍運動は、この筋肉の収縮に負うところが大である。


○カーフ・レイズ
 バーベルをかついで、足を伸ばしたまま踵の上下運動を行う。つま先に木片かプレートを敷いて行うと運動範囲が大きくなり一層効果的である。
 この運動は、両足のつま先の向きによって効果が異なるので、そのことについて説明しよう。


<Wヒールズによる方法>
 両足のつま先を外に開いて行う。ただし、踵を上げるとき、重量が足の内側(親指の方)にかかるように行う。この方法は下腿三頭筋の外側に有効である。(前図参照)


<Mヒールズ・アウトによる方法>
 図のように両足のつま先を内側に向けて行う。下腿三頭筋の内側にとくに効果的である。
(Mヒールズによる足の位置)

(Mヒールズによる足の位置)

[バック・キック]

[バック・キック]

○シーテッド・カーフ・レイズ
 ベンチに腰をかけ、プレートを両ももの上にのせる。この場合、両足の踵は膝の真下よりも10cmくらい前に位置する。次につま先を支点にして両方の踵を上げる。(写真参照)
 腓腹筋に非常に有効な種目である。踵の位置が近いと効果が少なくなるのでこの点に注意されたい。
[シーテッド・カーフ・レイズ]

[シーテッド・カーフ・レイズ]

○スティッフ・レッグド・ジャンプ
 膝をできるだけまげないようにしながら、足首の力でジャンプする。つまり、水泳の跳込み競技における跳板の上ではねるあの要領で行えばよい。そして、できるだけ高く跳びあがる。
 下腿三頭筋だけでなく、アキレス腱(下腿三頭筋腱)の強化にも有効である。
 以上が下腿三頭筋のための運動種目であるが、これらの運動は、いずれも反復回数を15〜20回というように多回数で行うほうが効果的と思われる。

ランニングの効果

走ることは下半身全体の調和をよくし、敏捷性のうかがえる印象のよい足をつくるのに非常に有効である。そして、腸腰筋、大腿膜張筋、殿筋などの足のつけねの筋肉の発達を促し、また下腿三頭筋を強化する。
 そればかりでなく、膝と足首をひきしめ、アキレス腱の強化にも役立つ。したがって、足全体の印象をよくすることになるのである。
 いってみれば、ランニングは足を仕上げるのに不可欠のものである。にもかかわらず、日本のビルダーには走ることを嫌う傾向が見られる。なかには走ることによって体力が消耗し、筋肉の発達が阻害されると本気で考えている者さえいる。長距離ランナーのように長い距離を走るのでないかぎり、そのような心配はまったくないといっていい。


○ウォーミング・アップ
 400〜600メートルぐらいの距離をゆっくり走る。


○ダッシュ
 30〜40メートルを全力で走る。これを4〜6回ぐらいくり返して行う。

 以上のように行えば、疲労することなく前述の効果を足にもたらすことができよう。
 この場合、筋肉の発達と形のよい足をつくることが狙いであるから、短い距離を全力で走るのが効果的である。いいかえれば、足の回転を速くすることで、力強いシャープな足をつくるのが目的であるから、30〜40メートルぐらいの距離で充分である。
 このような意味から、100メートルの全力疾走は、パワーと持久力が要求され、疲労度もかなり強いので、日常のスケジュールからははずし、適宜必要に応じて行うようにするのがよい。
撮影協力 平井ボディビル・センター
モ デ ル 熊岡健夫コーチ
月刊ボディビルディング1972年8月号

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