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もっとも簡単な栄養料理
カレーライス

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月刊ボディビルディング1974年1月号
掲載日:2018.07.13
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野沢秀雄

〈毎度おなじみの……〉

 日本人が食べるメニューのなかで、チャンピオンはなんといってもカレーライス。町を歩いてどこの食堂にも必ずあり、最近は寿司屋やラーメン屋にさえ置いてあることが多い。また、会社の社員食堂や学生食堂では定食のほかに、いつもカレーライスを用意しておけば、不満もいわずみんなが食べてくれるとか。

 なぜこんなに人気があるのか。ズバリ、作るのが簡単なためである。ろくに料理を知らない人でも、肉とジャガイモ・ニンジン・タマネギがそろえば市販のルウを使って、100%失敗なしにそれらしきものができあがる。というわけで、若い母親たちがせっせと子供に食べさせ、その子供たちが味を覚えてすっかり好物になり、今日のブームをつくったのが真相。この間に約30年かかっている。

 なお食堂経営者から見ると、カレーライスは朝大鍋につくっておくと、そのままいつでもスピーディーにお客さんに出せるので、もっとも手間のかからない料理といえよう。

〈カレーライスかライスカレーか〉

 食品メーカーがこの人気を見逃すはずはない。「食べたいときがうまーいとき」「りんごとハチミツ」「じっとガマンの……」「インド人もビックリ」など、ゆかいなCMをつくり出し売り込みの最中だ。

 ところでいつも不思議なのはカレーライスとライスカレーの区別。ごはんの上にカレーがのっているのを「ライスカレー」ごはんはお皿に、カレーは別の容器に入って出されるのが「カレーライス」とか。同じような定義には、シナチクの多いのが「中華ソバ」少ないのが「ラーメン」。坊主刈りでないのが「長髪」耳までかくれるのが「ロングヘアー」。テレビ付個室と週休ありが「お手伝いさん」なしが「女中さん」。片仮名の文字が入ってエレベーター付きが「マンション」ないのが「団地タイプ」。土地の開発と販売をするのが「ディベロッパー」転売だけのが「不動産屋」など、世の中とかくややこしい。

〈スタミナの秘密〉

 作り方によって栄養価が上がったり下がったりするが、あとで述べる方法で自分でつくれば肉のタンパク質と野菜類のアルカリ性により、うまくバランスがとれた優秀なスタミナ料理となる。

 またカレーライスの特徴として見落すことができないのは脂肪のカロリーが高いことである。カレールウの中に約30%の油脂が入っているほか、野菜をいためるときにバターや天ぷら油を使うため、脂肪の粒子がコロイド状になり、煮あがったときの独特なおいしさとまろやかさをつくりだす。脂肪は1グラムで9カロリーも熱量を持つのでカレーライスはカロリーが高く、腹もちがする。

 そのほか、カレーに含まれる香辛料(スパイス)がスタミナを高める効果を持つ。すなわち、カレーの発祥地インドは熱帯の強い日ざしのために肉がすぐに腐りやすく、味が落ちてしまう。そこでなんとかおいしく食べられる方法はないかと探しあぐねた結果、野生の草木のうち、こしょう・とうがらし・にっけ・パプリカ・なつめぐ・ちょうじなどが香味を引き立て、食欲を増進させる効果を持つことがわかった。以来、さまざまな料理人が腕をふるい、おいしい味をつくり出してきたが、近年これらスパイスに殺菌作用や防腐効果のあることが認められ、中国では強精強壮剤として珍重されている。芳香成分のほかにカルシウムや鉄も比較的多く、これがスタミナの源であろう。なおカレーライスにらっきょうや福神漬を添えればさらにビタミン類の補給がおこなわれ、ごはんなど炭水化物の燃焼が促進されるのでいっそう効果が高い。

〈カレーライスのいろいろ〉

 本場インドのカレーライスは、小麦粉やバターを使わないのでサラリとしている。また、日本のカレーライスが黄色いのは色素を添加しているためであり、本来はカレー粉をいためたときにうっすら茶色になる程度である。インド人がドロリとした黄色の流動物を見たら、まさにビックリするにちがいない。

 ドライカレーは、スペイン地方に多く、ライスにカレー粉をまぜ、レーズンやウィンナーソーセージを配合したものをいう。フライパンでサッといためると味が軽くなっておいしい。

 最近売り出し中の袋入りカレーはレトルトパウチという名前で呼ばれており、缶詰にかわって袋のまま加熱殺菌する技術が開発されたおかげで完成した製品である。水分の多い内容物を長期間保存する方法として画期的なものといわれ、私自身も研究したことがある。急ぐときに、ちょっとだけガマンすれば食べられる点は確かにいいのだが、袋の値段が高くて消費者には気の毒である。むしろ缶詰カレーを買った方が安い場合が多い。

〈うまいカレーライスの作り方〉

 カレーライスは少しぐらいドロリとしても、逆にサラリとしていても結構食べられる。誰にでもできるので自分でスタミナカレーをつくってみたらどうだろう。

 ⑴まず鍋にバターまたはマーガリンを大さじ1杯分くらいとる。⑵次いで天ぷら油、またはサラダオイルを大さじ3杯分くらい取り、火にかける。⑶にんじん半分、ジャガイモ中1個、タマネギ中1個を角切りにして、この順序で鍋に入れてゆく。⑷はしで突き差して通るようになるまで、かきまぜながらいためる。⑸300gの肉を加えてその上から小さじ半分くらいの砂糖としょうゆを加え、下味をつける。⑹水を鍋半分くらいまで入れて、カレールウをとかす。煮立ったらOK。火をとめて食膳に出す。以上で2人分の特製カレーができあがる。

 スタミナをさらに強化するには、生タマゴ、粉チーズ、牛乳などを加えて食べるとよい。また、にんにくや干しぶどうを加えるのもよい方法だ。

 夕食にカレーライスを食べるときのメニュー例は次のとおり。
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知っていると有利
栄養ミニ知識

☆食中毒☆

 折り詰弁当などで、集団的に下痢・腹痛・嘔吐・頭痛を引きおこすことがある。原因は古くなって腐った場合よりも、調理した時点で細菌が付着し増殖していたケースが圧倒的に多い。

 細菌が毒物を生産し体外に放出している場合と、細菌の体内に毒物を含有している場合があり、前者ではたとえ殺菌により菌を殺しても、毒物は破壊されないので、きわめて危険で、該当する食品を食べてから30分〜2時間で症状のあらわれることが多い。後者は比較的潜伏期間が長く、8時間〜24時間が平均である。おかしいと感じたら食べるのを中止し、保健所に届けること。また、気付かずに食中毒をおこしていることがあるが、友だちなどに腹ぐあいを尋ねることも必要である。

☆パプリカとローレル☆

 トヨタやニッサンの車ではない。どちらも食品や菓子に使われるスパイスで、香味を引き立てる効果が高い。

 パプリカはコスモスに似た葉を乾燥したもので、さんしょのような感じである。ローレルは月桂樹の葉。つまりオリーブの葉である。ギリシャの昔から、スポーツ競技の優勝者には月桂樹でつくった飾り輪が与えられたが、それほどに高貴な香りを持った葉だ。

 乾燥させた葉を、工場でケチャップやソース、カレー粉などに配合したり、家庭で直接カレーやしちゅうをつくるときに加える。一流のホテルやレストランの料理がどことなくおいしいのは、このような仕掛けをしているからで、コック室の棚には数十種のスパイスが並んでいることが珍らしくない。

☆ル  ウ☆

 カレールウやハヤシライスルウが一般によく知られている。これらの料理がポピュラーになった裏にはルウの力がきわめて大きい。

 手づくりでカレーライスをつくるなら、カレー粉と小麦粉をフライパンで炒り、いろいろの種類のスパイスを加えなければならない。化学調味料や食塩の適量がむずかしく、とんでもない味になることもある。ルウは小麦粉と植物油、カレー粉、スパイス、食塩等を混合して型にまとめたもので、これさえあればおいしいカレーライスが誰にでもできるようになった。

 肉や野菜まで入った調理ずみカレーがボンカレーだが、同じ味をどこでも食べさせられるのは味気ない気がする。自分の家の味をつくり、友人たちにも「あそこへゆけばおいしいカレーライスにありつける」と評判になったらしめたもの。

 だからせめてルウの段階で合理化をやめて、あとは自分の味を発見すればよい。ボンカレーを出すときも、もうちょっとだけ、牛肉や豚肉を加えたりチーズの風味を効かせると、わが家の味になる。また仕上ったあと、少量の酢かレモンを加えると格別の味になる。
月刊ボディビルディング1974年1月号

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