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JBBAボディビル・テキスト⑦

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月刊ボディビルディング1974年2月号
掲載日:2018.07.27

指導者のためのからだづくりの科学
各論(解剖学的事項)一骨格系1

日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野 誠之

第2節 骨格系

 骨格の構成単位をなすものは骨という器官で、身体の支柱をなすとともに受動的運動(外部からの力、たとえば筋肉の働きによって動くことができるという意味)器官である。
 骨といえば、俗に硬い石の棒のようなものと思いがちであるが、骨は生きている器官であり、成長・再生・変形もする。また、栄養が絶えるとえ死(組織が死んでしまうこと)におちいる。
 人体にはおよそ200個の骨がある。およそというのは変だと思う人がいるかも知れないが、これは個人的な違いもあるが、もう1つは年令により骨の数に違いが出てくるからである。すなわち、若いときには独立していた骨が年をとるに従って融合することがあるからで、たとえば、寛骨という骨は骨盤の構成をなしている骨であるが、腸骨・坐骨・恥骨という別々の3つの骨であったものが、思春期をすぎると次第に融合して、もとの境界もわからない完全な1つの骨になる。すなわち、3個の骨が1つになるから、2つだけ(左右では4つ)数がへる。
 仙骨や尾骨にもこれと同様の現象があるので、およそといったまでで、融合すべき骨がすべて融合し終わって成人になると普通全体の骨の数は約200となる。

<1> 骨

 骨は主として結合組織の人体によって連結されて骨格を作るが、骨格の構成にはこの他に軟骨が関与している。

A-骨の形

 骨はみなそれぞれ特有の形をもっているが、それらの共通点をとらえて、長骨・短骨・扁平骨・不規則骨等に分類されている。たとえば、上腕骨や大腿骨は長骨、手骨や足根骨は短骨、頭頂骨や前頭骨は扁平骨、下顎骨や椎骨は不規則骨である。しかし、すべての骨を厳密にこの分類にあてはめることは難しい。これらの区別はあくまでも便宜上のものであろう。(参考図⑮)
 体肢の長骨は内部に骨髄を入れる髄腔があり、そのためにパイプ(一節の竹)のようである。このようなものを管状骨と呼んでいる。管状骨ではその中央を骨幹、その両端を骨端という。
 扁平骨や不規則骨には髄腔はない。また、長骨のうちでも鎖骨や肋骨には髄腔がなく、管の内部は海綿質でできている。
参考図⑮ 骨の外形のいろいろ

参考図⑮ 骨の外形のいろいろ

Bー骨の構造

 骨は普通つぎの4つの構成からできている。(参考図⑯)

①骨質ーー組織学的にいえば骨組織で骨の主要部をなすものである。表層部を占める丈夫な緻密質と、骨の内部にあって、骨柱という薄い骨片が集まって互いに連絡し、その間に小腔を残していて外観からは海綿のように見える海綿質とがある。(参考図⑰)
  小腔は骨髄で満たされている。
  管状骨では骨幹は厚い緻密質からなり、骨端は海綿質が主体をなし、その表層を薄い緻密質がおおっている。(参考図⑯参照)

②軟骨質ーー骨の成長線と間接面とに見られ、成長線の軟骨は骨の長軸の方向へ成長をつかさどるもので、次第に骨化していく。管状骨ではこれを骨端軟骨という。(参考図⑯参照)
  間接面では、関節部に弾性を与える緩衝層をなすため関節軟骨といわれる。

③骨髄ーー海綿質の小腔や管状骨の髄腔をみたしている軟組織である。造血作用を営んでいる赤色骨髄と、脂肪が沈着した(脂肪化した)黄色骨髄との2種がある。
  大型の骨では、構造上力学的に内部に空間を作っている方が効果的であるが、この空間を利用して、造血組織や脂肪組織が宿借りしていると考えられる。
  1つの骨の中における造血作用は多くの骨では青年期から次第にその作用が弱くなり脂肪が沈着するが、脂肪が沈着する順序と年令は大体一定している。体肢の骨は遠位から近位に向って比較的早く脂肪が沈着するが、体幹の骨は永く赤色骨髄のまま造血作用をいとなむ。
  赤血球および骨髄性白血球や血小板等の造血作用は、生命の維持には絶対に必要である。すなわち、血液中の赤血球は酸素の運搬者として生命を左右する重要な役目をもっており、新しくて健康な赤血球を送って駄目になった古い赤血球と交換させるため、実際にはどんなに高令になっても全身のすべての骨髄が脂肪の沈着をおこすことはない。

④骨膜ーー骨の表面を包む薄い結合組織である。骨が成長時期にある間は骨膜は造骨機能をもっており、骨の表面に新生骨をつくる。普通、大人の場合には、造骨機能をやめ栄養をつかさどる。しかし、骨折等、骨の新生が必要のときには造骨機能を再開して骨の修理にあたる。ただし、関節面では骨膜を欠いている。骨膜の結合組織線維が密に骨質の中まで侵入しているため、骨膜と骨質との結合は極めて丈夫である。この侵入している結合組織線維をシャーピーの繊維という。
参考図⑯ 骨の構造の模式図(左:扁平骨 右:長骨)

参考図⑯ 骨の構造の模式図(左:扁平骨 右:長骨)

参考図⑰ 骨層板構造

参考図⑰ 骨層板構造

C-骨質における力学的構造と配列

 骨は外力に抵抗して身体を支えているものであるから、各々の骨はその骨質に特有な力学的内部構造をもって、基質が層板状に配列している。(参考図⑱)

①海綿体質の骨柱の配列は、骨に作用する外力の力線の方向に並んでいる。
②緻密質内における結合組織線維の配列は、骨組織の中に膠原性の結合組織線維が織り込まれており、この繊維の配列がほぼ一定している。(参考図⑲⑳)
参考図⑱ 海綿質の構造

参考図⑱ 海綿質の構造

参考図⑲ 骨格の力学的構造

参考図⑲ 骨格の力学的構造

参考図⑳ 骨の緻密質の構造図

参考図⑳ 骨の緻密質の構造図

D-骨の成長と新生

 骨にはその発生の様式によって、被膜骨(結合組織性の骨で附加骨ともいう)と、原始骨(軟骨性骨で置換骨ともいう)とに分けられる。
 被膜骨とは、はじめに結合組織が生じ、これが骨化して生じる骨。たとえば、頭蓋冠の扁平骨、顔面の諸骨、鎖骨等である。これに対して原始骨は、先ず軟骨が生じ、これが骨組織におきかえられたもので、被膜骨を除いた骨はすべてこの様式である。
 被膜骨(附加骨)の成長は、たんに骨化が周囲の結合組織に向って進行していくだけである。原始骨(置換骨)の成長は、骨端軟骨と骨膜で行われ、骨端は骨の長さ、骨膜は骨の太さの成長を行う。
 なお、一方では不要または過剰になった骨質が削りとられる必要がある。たとえば、大人の骨髄腔と子供の骨髄腔とでは大きさが違うが、骨髄腔が大きくなるためには内からえぐりとらなければならない。このような形態変化を吸収といい、骨質が吸収されるには破骨細胞というものにより骨質を溶かしていく。
 骨はビタミンDと日光が不足するとくる病になる(子供の場合)。大人では燐酸カルシウムの欠乏で骨軟化症を招く。まれな病気で、子供のくる病に似ている。

<2>骨の連結(靭帯学)

 骨が骨格を作るためには連結されなければならない。連結された2つの骨の間に、可能性がないか、あるいは極めて小さい不動性の連結と、可動性をもつ可動性の連結とに大別される。また、2つの骨を連結する組織の種類により、次の4種に区別される。

A-線維性連結

 2つの骨が結合組織線維によって連結されているもので、さらに靭帯結合と縫合とに分けられる。

①縫合ー頭蓋骨の連結だけに見られ扁平骨がその辺縁を以って隣接の骨の辺縁と相合し、両骨間を結合組織線維が結びつけており、その外観が縫い目のように見えるのでこのように名づけられたのであろう。
②靭帯結合ーこの結合はいたって少なく、脛骨と腓骨の遠位端(下の方)で見られる。(参考図㉑)

B-軟骨性の連結

 2つの骨の間に硝子軟骨性の軟骨質を介して連結されるものと、線維軟骨性の線維軟骨結合とに分けられる(参考図㉒㉓)。たとえば、胸骨の柄と体、胸骨と第一肋骨との連結は前者であり、後者の例は恥骨結合、椎体と椎体との間である。

C-骨結合

 骨が骨質によって連結されるもので一見一個の骨のようである。軟骨結合の骨化によってなったもので、軟骨連結に含めて特別に分けない学者もいる寛骨・仙骨・骨端線等も幼時はいわば軟骨結合であるのが、成長とともに骨化して骨結合となる。
 以下のA、B、Cの3つが不動連結である。
参考図㉑ 靭帯結合(下腿部)

参考図㉑ 靭帯結合(下腿部)

参考図㉒ 線維軟骨結合(恥骨結合)

参考図㉒ 線維軟骨結合(恥骨結合)

参考図㉓ 骨の結合部

参考図㉓ 骨の結合部

D-滑膜性の連結

 可動性連結で、関節と呼ばれ、人体では最も多い連結である。関節を営む一方は関節頭、他方は関節腔をなし、両者の関節面には骨膜がなく、関節包といわれる結合組織で包まれ、関節包の内面は滑膜で覆われ、滑液が分泌されて、関節に対して潤滑油の役目をしている。
 関節は、関節包のほかに靭帯・筋・皮膚等により連結が補強されている。また、関節腔の中は常に陰圧になっているので、気圧も関節の結合に一役を果たしている。(参考図㉔)

①靭帯ーー結合組織でつくられた紐、または帯のようなもので、関節包と癒着して、関節をはさむ両者の骨の間に張っている。
  靭帯の役目は関節における骨の結合を補強するとともに、関節の運動を制限する非常に重要な役目を果たしている。たとえば、膝関節や指関節等が一方向には曲がるが、その反対には曲らないことや、大腿骨が上腕骨ほど回旋しないことは、靭帯が過度の運動をしないよう制限しているためである。

②関節の種類ーー関節を営む骨端の一方は凸面をなし(これを関節頭という)、他の一方は凹面をなす(これを関節窩という)。この関節面の形は、関節の運動を規定する要素の1つである。
  関節は形態的、あるいは機能的に次のように分類される(参考図㉕)
 イ.球関節(多軸関節)
   関節面が球面の一部をなすもので、肩関節・股関節・中手指関節・中足指関節等がこれに属し、球の中心をとおるあらゆる方向の直線を回転軸として多軸的に運動できるもので、機能的には多軸関節(臼状関節ともいう)である(参考図㉖)
 ロ.顆状(楕円)関節と鞍関節
   関節頭と関節窩が楕円体面、または鞍状面(双曲面)をしていて円体の長軸と短軸、あるいは縦横の2軸を回転軸とする2軸性の関節である。
   顆状関節には橈骨手根関節・環椎後頭関節等があり、鞍状関節には手根第一関節・足根中足関節等がある。(参考図㉗㉘)
 ハ.蝶番関節
   関節面が円柱面の一部に相当するもので、普通円柱軸は骨の直軸と直角の方向をなしている。肘関節・膝関節等が代表的なもので機能的には一軸関節である(参考図㉙)
 ニ.車軸関節
   蝶番関節と同じく、円柱状とそれに対応する切痕とでなしており円柱の軸は関節頭を中心に回旋する一軸性の関節である。蝶番関節とともに円柱関節ともいわれている。橈尺関節・正中環軸関節等がその例である。(参考図㉚)
 ホ.平面関節
   両関節面が平面に近く、平面的にずれるように動くが、運動は極めて小さい。椎間関節・楔舟関節等がその例である。(参考図㉛)

以上の分類は、関節頭と関節窩の形からする機能的(形態的)な分類で、関節の中にはこれらの何れにも属さない複合したものや、数学的に正確な曲面を示さないものもある。関節の面は上述のように厳密なものではなく、そのようなおおよその形をしているということである。
 また、関節面は密着しているのではなく、ゆとりがある、関節包や関節軟骨は多少伸縮変形できるもので、そのために関節の運動はかなり融通のきくものとなる。
 関節における骨の連絡の緊密さ、すなわち可動性は、関節の種類によって違ってくる。また、靭帯・関節包・筋などによる運動の制限や、関節がいくつかの複合のときの相互制約等から、それぞれの関節の運動は複雑である。
 われわれの運動の多くは単独の関節の運動の結果ではなく、多くの関節の運動の総合的な結果であることを理解すべきである。
参考図㉔ 関節の模式図

参考図㉔ 関節の模式図

参考図㉕ 関節機能的模式図

参考図㉕ 関節機能的模式図

参考図㉖ 球関節(肩関節)

参考図㉖ 球関節(肩関節)

参考図㉗ 楕円関節(橈骨手根関節)

参考図㉗ 楕円関節(橈骨手根関節)

参考図㉘ 鞍関節(中根中足関節)

参考図㉘ 鞍関節(中根中足関節)

参考図㉙ 蝶番関節(膝関節)

参考図㉙ 蝶番関節(膝関節)

参考図㉚ 車軸関節(上橈尺関節)

参考図㉚ 車軸関節(上橈尺関節)

参考図㉛ 平面関節(椎間関節)

参考図㉛ 平面関節(椎間関節)

<3>骨と関節の欠陥と神経

 骨の栄養を営む動脈は、近くをとおる動脈の分岐が、骨膜に分布して骨質をうるおすものと、骨にみられる小孔から直接骨髄に達する栄養動脈とがある。静脈は動脈に伴行している。関節では、関節包全体を包むように、動脈からの分岐で互いに吻合して動脈網をつくっている。
 骨の神経は知覚神経で、骨膜に広く分布しており、関節包には骨膜よりは豊富な神経の分布がある。痛覚のほかとくに深部知覚をつかさどるものといわれている。

<4>骨格の全景(参考図㉜)

 人体の骨格は、一般の哺乳動物と同様に体幹と体肢に大別される。
 体幹は身体の中軸をなすもので、脊柱動物のすべてを通じての基本的な体形である。体幹の骨格はさらに頭蓋、脊柱、胸部の3部に区分される。
 体肢は体幹から分かれて出ている枝で、上肢と下肢とからなる。体肢はまた、自由体肢と体肢帯とに区分される。体肢帯とは、それをバンドにたとえてつけられた名前であろう。このバンドに吊り下げられて自由体肢がある。
 人体は先に述べたように、200あまりのいろいろの大きさや形の骨が結合組織によって連結され、支持器官、保護器官、受動的運動器官として働いているほかに、カルシウムや燐などの無機質の貯蔵所としても用いられている。カルシウムは血液の凝固・筋肉の収縮・心臓の拍動・自律神経の働きを進行させるのに必要なものであるが、この大事なカルシウムのホメオステーシスによる出納を調節する銀行の役目をもしている。
 骨の緻密質内部の海綿小柱の配列の方向が、力学的に最も支持力を強くする方向になっており、近代的な橋梁の橋桁や、近代高層建築の鉄骨組みのように美しい曲線をつくって並んでおり、同じ重量の鋼鉄製の支柱よりも強いという精巧な力学的構造をなしている一方、身体の発育と力学的要求に合わせ発育の邪魔にならない部分から少しずつ骨化していったり、長管状骨の骨端で新しく骨を作っては古い骨にたして長さを増すというような働きをもっている。
 また、骨の支柱に可屈性を与えている関節は、関節の構造と、靭帯、筋肉等の張力の助けによって、支柱としての力を弱めずに、実に巧妙に自在な可動性(可屈性)を得るようになっている。さらに骨は、湿気におかされる鉄や、風化に弱い石等に比べてはるかに変化を受けにくい地上で最もながもちする物質の1つである。

 以上が骨格の大要であるが、要約すると、身体の支柱として実に能率よくできている。たとえば、支持として働く長管状の脛骨や大腿骨は、中空でパイプ状をなし、同じ重さのむくの鉄棒よりも支持力が強いという原理にかなった軽くて丈夫な構造であったり、また、成長の問題と可屈性保持の問題という2つの難問を要求されながら各々の役目を果たしている組織→器官→器官系であることをあらためて認識理解していただきたい。
 骨格系の1つを考えても、以上の如く自然の摂理の神秘と偉大さを知ることができる。
(つづく)
第32図 骨格系全身図

第32図 骨格系全身図

月刊ボディビルディング1974年2月号

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