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なんでもQ&Aお答えします 1974年2月号

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月刊ボディビルディング1974年2月号
掲載日:2018.07.15

ハーフ・スクワットは大殿筋の過剰発達を防げるか?

Q 私は大殿筋の過剰発達を避けるにはフル・スクワットをやめてハーフ・スクワットがいいと聞きました。昔はスチーブ・リーブス、いまはフランク・ゼーンも同じ理由でフル・スクワットをしていないとのことですが、ほんとうでしょうか。

(東京都・中本正典)
A ハーフ・スクワットは大腿部が床と平行になるまで屈曲させるもので、フル・スクワットはそれ以上曲げて完全にしゃがみ込むものです。

 ハーフ・スクワットとフル・スクワットは同じスクワットの名前が付いているのにもかかわらず、全く違う種目ではないかと思うほど、その練習強度に差があり、ハーフ・スクワットは比較的楽ですが、フル・スクワットは非常に苦しい種目で、とても気軽にはできません。

 スクワットの運動において大殿筋を強く動かすことと、深くしゃがんだ状態のときに、大殿筋が伸展されてエキセントリック(伸張性収縮)な効果のあるトレーニングをしていることが発達のシステムとして作用しているのです。

 では、ハーフ・スクワットの場合、いま述べたような大殿筋に対する効果がないのかといいますと、決してそのようなことはありません。同じ重量のスクワットであれば、ハーフ・スクワットはフル・スクワットよりもだいぶ楽にトレーニングできますので、ハーフ・スクワットの場合はヘビー・ウェイトでのトレーニングにすれば、当然効果も大きくなります。そして、ハーフ・スクワットの場合もまた、大殿筋に対しての効果は大きく、私の体験ではフル・スクワット以上ではないかと思うほどです。

 したがって、大殿筋の過剰発達を避けるためにフル・スクワットをしないでハーフ・スクワットに切り換えてみても全く理屈に合わないことになってしまうのです。

 もし大殿筋に対して少しでも効果を弱めたいのでしたら、ハーフ・スクワットよりさらに運動範囲の狭いクォーター・スクワット (1/4・スクワット。つまりフル・スクワットの1/4の運動範囲という意味)にしないと駄目です。しかしこの運動はさらにウェイトを増量できますので危険でもあります。ジムにレッグ・プレス・マシンがあればこれでトレーニングすれば意外に大殿筋に対する刺激は弱くなります。

 ただここでちょっと考えてみたいのは、過剰発達を問題にするほど完成された大殿筋の所有者が日本人に果たしているのでしょうか? 日本人の大殿筋は一般に平らで、小さくて、ヒップ・ダウンしている人がほとんどで、大きい場合は、発達しているというより脂肪がついてただ大きいというだけの場合が多いようです。

 生まれつき体形や体格の違う海の向うの人たちが大殿筋のオーバー・デベロップ(過剰発達)を問題にしているのを、すぐに日本でも同じだと考えるのは間違っています。そのうえ、このことは自分で大殿筋がトレーニングによってだいぶ発達したと思った時点で考えることで、最初からフル・スクワットをしたことのないような人たちがこのことに悩むのは、ボディビルを経験したことのない人が、ミスター・ユニバースみたいにゴツゴツになったら大変だと真剣に考えるのと同じではないでしょうか。

 体全体の筋肉がかなりのレベルにまで発達したときに、プロポーションの調整の意味でフル・スクワットを避けたり、トレーニング方法等に変化をつけたりすることが、大殿筋に限らず過剰発達防止の本来の目的なのです。フル・スクワットがだいたい140~150kgぐらいで数回完全にできるくらいの体力になってから考えても遅くない問題だと私は思います。

 逆に考えて、日本人の貧弱な大殿筋をフル・スクワットによって徹底的に鍛えて、ヒップ・アップした脂肪の少ない美しいものに変えるために、もっともっとやるべきだと思います。

 さらに大切なことは、フル・スクワットをしなければ、心肺機能が向上せず、最大酸素摂取量や心拍数、肺活量等があまり強化できず、張り子の虎のビルダーばかりになってしまいます。もしフル・スクワットをしないでトレーニングする場合には、その代用としてダッシュや縄飛び等を積極的にとり入れるようにしてください。

筋肉の発達が他人よりも遅い

Q 私は健康管理を目的としてトレーニングを始めましたが、半年を経過した現在も開始当時と比較してあまり体位が向上しません。週4回、約1時間ずつ基礎的な運動を7種目、各5セット行なっています。一応私の主目的の健康管理のうえでは満足していますが、発達が遅いのが残念です。なお、年令は35才です。

(神奈川・宇野壮八郎)
A ボディビルを健康管理のためにと思って始められて健康を得ることはできたが、筋肉の発達が遅いのが残念だとのことですが体質や個人差もありますので、気にしないでマイペースで続けていれば次第に効果が現われてきます。

 とくに練習方法に欠点もなく、練習量も充分です。あなたの使用重量がわかりませんが、それが適したウェイトであれば文句なしです。トレーニングを開始した当初は練習効果の現われ方も早いものですが、やはり年令、体質に多少左右されますので、あなたのように効果の少し遅い人もいるのでしょう。だが、健康面では満足なさっておられるのですからそれだけで大収穫ではないでしょうか。

 ボディビルをして体格を良くすることが本質ではありますが、ボディビルと筋肉とを直結する以前のプロセスとして健康があり、これがボディビルの土台でなければなりません。すなわちボディビルを行なって健康になり、そして体格を向上させて始めて完成するのです。

 ところが、多くの人たちはボディビルによって体格が立派にならなかったときは、まったく効果がなかったと思い、その時点でトレーニングから遠ざかって行ってしまうのです。健康になったことは忘れてしまって、筋肉の発達にばかり気を奪われてしまうのでしょう。

 あなたは第一の目的である健康を得られたのですから、これを土台にしてジックリとトレーニングをすれば、年令、体力に応じて筋肉も発達するでしょう。ボディビルのカテゴリーの中で健康管理の意義は非常に大きいことを改めて感じてもらえればと思います。

 いままでのボディビルの宣伝の仕方は、トレーニングによって何カ月で胸囲や腕囲が何cm大きくなります式のものが多く、ボディビルが健康をつくるものであることを主体にしなかったので、それが元で多くの偏見を生んだのかも知れません。だが、決して健康になることだけが最終目的でないところにボディビルの意義があるのですから健康の次はあなたのように体位向上へと目を向けていくのが当然だと思います。それにはあなたも筋肉発達を焦らないことです。

 人間の体が数カ月でそんなに大きく変化することはありません。誰もが数カ月で数センチも腕が太くなってたまるもんですか。このような宣伝文句を信じてトレーニングをした人たちが、それが実現しなかった時の裏切られた気持を思うと、ボディビルの誇大伝宣は大変な罪悪であるといえましょう。

 ただ健康管理だけであれば、本格的にボディビルをしなくても、自宅の庭でナワトビをしたり、毎日軽いランニングをする程度の簡単なことで十分です。ボディビルとは、より積極的に健康を向上させることです。あなたぐらいの年令になりますと、6カ月程度の練習では外見上あまり大きな変化はしないので、このまま続けても良くならないのではないかと心配されたのでしょうが、心肺機能、その他は大きく強化されているのですからこれからがお楽しみといえるでしょう。

チーティングの正しいやり方は?

Q トレーニングにはストリクト法に対してチーティング法がありますが、チーティングのやり方は、ただ反動をつけるのであればどんな方法でもかまわないのでしょうか。チーティングの実際のやり方をできるだけ具体的に説明してください。

(大阪・上田悟)
A あなたは多分ボディビル経験もかなり長い方だと推察します。トレーニングを深く考えていくと、最後にはアイソメトリックスやハーフ・レインジ法、チーティング法等に行き着くので、あなたも最も効果的にトレーニングするにはどうしたらよいかいろいろと考えていることと思います。

 ここではご質問のチーティングに関してだけ考えてみることにします。チーティングについてはこれまでにあまり詳しく説明されたものはありませんでした。では、果たしてチーティングには正しいやり方などがあるものでしょうか。やはりこれにも効果、効率の良し悪しはあっても当然だと思います正確な動作、つまりストリクト・スタイルのときよりどのくらい重いウェイトを用いればよいか、ということは非常に難しい問題ですが、種目別に私の意見を書いてみます。

 まず、ベンチ・プレスの場合ですがパワーリフティング式に挙げるときとチーティングを使ったときとでは当然重量差があり、とくに、手幅をできるだけ広くして大胸筋上でバウンドさせて挙げるチーティングは非常に重いウェイトが使用できます。このやり方は大胸筋の外側の発達に有効です。しかし始めはストリクトの方が効果がありますので、キャリアの短い人はこのチーティングをしてもあまり意味がありません。バウンドが強すぎると胸を痛めますので、厚いタオルなどを胸に置いた方が安全です。一番正しい方法は、手幅を80~100cmくらいにして、正しくできる重量よりも10kgくらいウェイト・アップし、軽く胸でバウンドさせるくらいにしてください。

 次にスクワットですが、これは一番深くしゃがんだ姿勢、つまりフル・スクワットの状態からリバウンドを利用して挙げるのですが、しゃがむときにあまり早いスピードでしゃがむと前後のバランスを崩すおそれがありますので、始めはゆっくりと膝を曲げてフル・スクワットになる少し手前からタイミングをとってください。立ちあがるときに膝を内側へ多少曲げるとウェイト・アップできますが、これを極端にすると膝の半月板(軟部組織)を痛めますので要注意です。

 次はアーム・カールです。これは体全体の反動を使えばかなりのウェイトが使用できますが、あまり反動を使いすぎると、自分の腕力を使う範囲が非常に狭くなってしまいます。したがって、腰や体全部を使ってチーティングをするのではなく、大腿部のところで膝の屈伸を使ってバーベルを20cmぐらい浮かせたら、あとは自力でカールするようにします。なお、腰を使うカールは相当のベテランでないと腰を痛めるので要注意です。

 フレンチ・プレスの場合は、腕のバウンドを使ってチーティングするよりも、膝の屈伸を使うのがよいでしょう。膝の屈伸もあまり深くしないで、しかも腕を挙げるときだけに使い、降ろすときはゆっくり行なってください。

 バック・プレスは、パワー・ジャークのように腕が一度に完全に伸びきるようなチーティングでは、ウェイトだけは重くできますが、効果が少なくまた難しい方法です。これも膝を使ったチートで、肩から15cmぐらい浮かせたら、あとは自力で挙げてください。バック・プレスは降ろすときも大切で、ゆっくりと肩に15cm近くまで降ろしてから、肩に接すると同時にクッションの目的で膝を屈伸してください。

 この他にもチーティングについては2〜3ページでも書け切れないほどありますが、基本的な種目だけを書いてみました。いずれにしても、チーティングは初心者向きではないので、初心者には私が何をいっているのかよく判らない点もあったと思いますが、要は、なんでも反動をつけてやるのではなく、運動を助けるために必要と思われるところにだけ使うようにするのです。
 次に、スケジュールにチーティングを入れる場合、どうすればよいかについてちょっと触れておきます。

 充血法(フラッシング法)等のトレーニングで、チーティングとストリクトを各々1セットずつ交互に行う方法や、セット法またはスーパーセット法で始めの数回をストリクトで行い、そ れが苦しくなったらチーティングにする方法とか、1週間のうちにときどきこれを使ったトレーニングをする。あるいはスランプ脱出法として2〜3カ月使う方法等いろいろあります。

バーベルの効果的な降ろし方

Q 一度挙げたバーベルを元に戻すときはどのように降ろせばよいのでしょうか。素早く降ろすのと、ゆっくり力を入れながら降ろすのとではどちらが効果的なのでしょうか。 (京都市 T・Y)
A ボディビルはウェイト・トレーニングの1種であり、ウェイト・トレーニングには動的(ダイナミック)トレーニングと、静的(スターティック)トレーニングがあります。

 動的トレーニングは一般のボディビル種目で、静的トレーニングはアイソメトリックスといわれるものです。動的トレーニングも短縮性収縮トレーニングと伸張性収縮とトレーニングの2つに分けられます。

 短縮性収縮は、アーム・カールを例にとれば巻き上げる動作をいい、伸張性収縮は元に戻す動作をいいます。この元に戻す動作のときも筋肉は刺激を受けているのでトレーニングになっているのです。ボディビルはバーベルやダンベルを挙げるだけがトレーニングのように感じられますが、この戻す動作もたいへん重要な意味をもっていることを忘れてはなりません。

 伸張性収縮は横文字名をエキセントリック・コントラクションといいますが、このエキセントリック・コントラクションが働くので降ろすときも力を抜かないでゆっくり降ろせば、素早く降ろすときよりも筋肉に効果があるわけです。

 ただ通常のトレーニングは10回前後の回数がやっとできる重量を選んで行うものですから、バーベルを挙げる動作も当然そんなに素早くはできません。それなのに、元に戻すときもゆっくりと降ろすのであれば、効果はあっても動作があまりにもスロー・テンポで面白くもないし、敏捷性等が鍛えられないという欠点もでてきます。しかし、敏捷性を養うためには別のトレーニングをするとして、あくまでも効果を第ーに考えるべきです。

 では、どの程度の速度がよいかといえば、極端に遅くもなく、ただ力を抜かない程度に保てば良いのです。そしてもう一歩進めてエキセントリック・コントラクションの能動的な利用法として、降ろすときに筋肉に与える刺激効果を積極的に利用するトレーニング法です。

 このトレーニングは、もうすでに知られている方法ですが、もう一度詳しく説明してみましょう。以下にそれぞれの種目別のやり方を具体的に列記します。

☆アーム・カール

 始めにチーティング(反動)を使って、できるだけ重いものをカールし、それをゆっくりと元に戻していくのです。スタンドを使ったスタンド・カールでもできます。

☆ベンチ・プレス

 両側で補助してもらい、自分の力だけではとても持ち上がらないようなバーベルを挙げ切った状態から、逆にゆっくりと胸まで降ろす動作をくり返します。

☆スクワット

 ベンチ・プレスと同じように、非常に重い重量でゆっくりとフル・スクワットになるまでしゃがむ。立ち上がるときは補助してもらう。

☆フレンチ・プレス

 これは自分1人でできますが、そのかわりあまり重くすることはできません。また、その必要もありません。反動をつけて頭上に挙げたなら、ゆっくりと下ろします。

☆バー・ディップス

 腰にベルトか柔道の帯を巻いて、それを補助者に引いてもらうのです。この場合、降ろすときだけトレーニングするよりも、上がるときも少し引いていた方が効果的ですが、あまり強過ぎると関節や筋肉を痛め易いので注意が必要です。

☆バック・プレス

 チーティングを使って、一気に両手を伸ばした状態から、ゆっくりと肩まで降ろし、また反動を使って頭上に挙げてはこれをくり返す。

☆ベント・ローイング

 チーティングで一気に体に引きつけた状態から、ゆっくりと腕を伸ばす。このとき広背筋をできるだけ伸ばし切るようにする。

 このほかにも考えればいろいろできると思いますが、補助者を必要とする種目が多いので、その点、非常に面倒くさいし、チーム・ワークも良くなければなりません。しかも、重量負荷もかなり多くなりますので、どちらかといえば上級者向きで、初心者にはすすめられません。

 正確に行うトレーニング(ストリクト・スタイル)が表のトレーニングとすれば、反対の裏のトレーニングであるともいえます。トレーニングがマンネリ化したときや、スランプ脱出作戦のひとつとしても役立つと思います。とくに鍛えたい部位にのみこの方法を取り入れても有効です。

(解答は五反田ボディビル・センター 位田達穂コーチ)
月刊ボディビルディング1974年2月号

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