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☆パワーをつけるにはどうしたらよいか☆
パワー・アップ・トレーニング

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月刊ボディビルディング1974年3月号
掲載日:2018.07.20
国分寺トレーニング・ジム会長 関 二三男

トップ・ビルダーはパワーも強い

 パワーリフターに限らず、これからのボディビルダーは筋肉の発達と同時に筋力、すなわちパワーがなければ一線級の選手は望めなくなってきた。フランコ・コロンボやケイシー・ビェター、日本では末光選手等はパワーリフター顔負けの力量を持っている。ただコンテスト・ビルダーがパワーの最高峰になるということは、その目的やトレーニング法がいくらか違うのだから無理だとしても、からだ全体をくまなくトレーニングしているコンテスト・ビルダーなら、パワーリフターとしてもある程度の力を出すことは可能ではないだろうか。
 フランコ・コロンボはイタリアのパワーリフティング最高記録保持者であり、日本にあっては‘66ミスター日本2位の後藤武雄選手、ミスター東京の鈴木正広選手、最近の選手では杉田茂選手、磯村敏夫選手、市丸輝男選手たちが筋肉と力を兼ね備えた選手としてあげられよう。及ばずながら、私もパワーリフティングとボディコンテストの両方をやっていきたいと思っている。
 昨年の11月23日、東日本パワーリフティング選手権があった。私はその10日後に行われるミスター東日本コンテストを目指して、主としてこのためのトレーニングをしていながら、パワー選手権にはブッツケ本番で出場し、ベスト記録は出せなかったが、トータル505kgでライト級で優勝することができた。とくにデッド・リフトは全く練習していなかったにもかかわらず、ベストの205kgが出た。
 これからの私は年もそれほど若くないので、飛躍的な記録更新は無理と考え、ボディコンテスト向きのトレーニングをしながら、パワーリフティングをやっていこうと思っている。そしてこのトレーニングのやり方でパワーを行なって、ライト級550kgぐらいの記録は出せるものと考え、入賞可能な限り、いくつになろうとも出場し、パワーリフティング全体のレベル・アップのために貢献したいと考えている。
 パワーリフティングも以前の3階級制・2種目のころは、各クラスとも白熱したゲーム展開が見られたが、限在の7階級制になってからというものは上位入賞者はいつも同じ顔ぶれで、下位入賞者との差がありすぎて大会の興味そのものまで失われてしまった。
 そこで、私の考えでは過去のトップ・クラスのパワーリフターやトップ・ビルダーたちが出場されたらパワーリフティングの興味も倍加され、しかも記録的にも上位と下位が接近し、入賞の権威もあがるのではないかと思う。ひいてはこれがボディビルの普及発展の一助にもなるので、ぜひトップ・ビルダー諸兄や、いままでパワーリフティング大会に出場したことのないコンテスト・ビルダー諸君もこれからはどしどし出場していただきたいと思う。
 ではここで今年の各クラスの入賞および優勝ラインを推定してみよう。
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 さて、こうして見通しを立ててみると、ボディコンテスト専門にトレーニングを行なっている選手でも、出場すれば入賞可能な選手が数多くいるのではないだろうか。

パワー・アップのためのトレーニング法と実例
<1>ベンチ・プレス

 この種目はビルダーなら誰でも行なっている基本種目である反面、強くなるためにはある程度の経験が必要で、短期間で高い記録を出すことはなかなかむずかしい。
 ベンチ・プレスの練習量は人によってずいぶん差があるが、普通、10セット以内で1週3回ぐらいが一番良い。セット内容は、まずウォーミング・アップとして最高重量の半分、たとえば最高重量が100kgなら50kgで10回行いそしてインターバルを3分間とって、2セット目は80kgで5回、同様にして3セット目はそれまでの最高重量より少し増量してこれに挑戦する。つまり102.5kgを試みる。つぎの4、5、6、7セット目は90kgにして、できるだけスピードをつけて可能な限りの回数を実施する。8、9セットは70kgで10回できるだけ速やかに行う。このとき、パートナーに時間を計ってもらい、つぎのトレーニング日にはこれを短縮するように努力する。最後の10セット目はフォームづくりと整理運動をかねて70kgで5~6回ぐらい実施する。
そのほか、補強運動として次のような方法も効果的である。

ⓐベンチの上に足を載せて、最高重量以上の重量でブリッジ・ベンチ・プレスを行う。
ⓑ最高重量で、もうこれ以上挙上できないというときに、パートナーに丈夫な帯のようなものでバーの中央を引き上げてもらい、その補助の力を借りて挙上する。回数は3~4回。
ⓒ手幅を狭くしたり広くしたりして、筋肉に違った角度から刺激を与える。

<強化の1例>
 私のジムに岩岡選手(L・ヘビー級日本記録保持者)が来たとき、彼のベンチ・プレスの最高は130kg、そして110kgで8回しかできなかった。その彼が1年半後には165kgに成功している。
 まず最初に私は、さきほどのやり方で最高重量に挑戦したあと、110kgを10回できるまでやらせた。そして110kgが完全に10回できるようになったときには最高重量は140kgにあがっていた。そこで今度は120kgで10回を狙わせた。これができるようになると150kgが楽に1発あがるようになり、今度は130kgで10回を行わせた。それと同時に140kgで手幅を狭くし、両足をそろえて伸ばしたままのベンチ・プレスを教えた。その結果が1972年度ライト・ヘビー級で出した165kgであった。
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<スクワット>

 この種目はトレーニングしていてもつらいだけであまり面白味のない種目である。しかし、脚・腰を鍛えるためには欠かすことのできない基本種目でボディビルに限らず、日常生活にとっても脚・腰を丈夫にすることは大切である。また、スクワットで鍛えられる脚・腰は、デッド・リフトにも影響してくるので、この種目はデッド・リフトの補強運動としても見逃せない。
 スクワットは重量を扱うのでよく腰を痛めることがある。私も過去3年間に2回、練習中に固有背筋を切った。とくに、最高重量に挑戦するときや、疲労しているときのスクリットには充分注意していただきたい。
 ちなみに、固有背筋が切れると完全に治るまでに1カ月くらいかかる。その間、寝ていても起きていても相当の痛みを感じる。そして治ったあとでは腰まわりが少く硬くなる。このような事故を未然に防ぐためには、柔軟体操などのウォーミング・アップを充分にやることが大切である。
 トレーニングとしては、最高重量を150kgと仮定した場合、1セット目は100kgで5~6回、次に130kgで1~2回タイミングをとるつもりで行う。この間約3分ぐらい。そして3セット目に152.5kgに挑む。4セット目は130~135kgぐらいでできるだけの回数を行う。5セット目は120kgにして4セット目と同じように最高回数行う。最後の6セット目は110kgぐらいにして5~6回行う。補強運動としては、

ⓐ最高重量150kgの人ならば、1週間に一度、170kgぐらいを失敗を覚悟でやってみる。(この場合は充分注意しなければならない。私の場合は210kgで行う)
ⓑ同じく150kgの場合、200kgぐらいをかついで約5mの歩行練習をする(私の場合は300kgで行う)
ⓒ同じく150gの場合、ラックの中段に250kgをセットして、それをかついで立ちあがる。回数は5回程度。(私は400kgで1回できる)

<強化の1例>
 私のジムにはいまは郷里にかえっている前述の岩岡選手、ミドル・ヘビー級の日本記録保持者、井上選手、バンタム級世界実力No.1の因幡選手等のとくにスクワットに強い選手がいる。
 井上選手の場合、同じクラスに競り合う相手がいないので、当人はあまり練習をしないが、素質的には底知れないものをもっている。彼が私のジムに入会したときは全く未経験であったが始めてのスクワットで120kgを変な格好で4回行なった。その後ごく普通の練習をしながら、6カ月後には190kg、現在は235kgまで記録を伸ばした。しかし、彼の場合は天性の素質だけでここまできたが、これからは前記のような強化トレーニングを意欲的にやらせたいと考えているので、これからの記録上昇が楽しみである。
 因幡選手は自衛隊時代に重量挙げを志していただけに、入会して3日目には自己流のフォームながら100kgを10回行なった。しかし、体格が小さいのと、私がフォームを直させたのが悪かったのか135kgでバッタリと記録が止ってしまった。そこでもう一度自分の好きなフォームに切り換えさせた。それが功を奏してみるみる記録を更新して、1年半後には180kg×3回までに成長した。これを見てもわかるように競技規程の範囲内であれば、あまり細かい点は直さない方が良いようである。人それぞれ体形も違い、筋肉や筋力の発達状況も違うので、その個性を生かすことも大切である。
 現在、因幡選手の最高記録は体重53kg(これは全く減量なし)で205kg、バンタム級としては前人末踏の記録といえよう。練習内容はだいたい前に書いたようなスケジュールであるが、回数・セット数とも普通の人の2倍近くやっても平気である。脚・腰がとくに強靭なのが彼の特長である。
 パワーとコンテストの両方を目指している中川選手(昨年のミスター東日本7位、東京6位)は、主としてコンテスト向きのトレーニングをしているが、スクワットは常時180~200kgは可能である。彼の脚は長いが、おかげで大腿部のバルクとディフィニションは充分にある。
 一般的に日本人ビルダーの中には上体に比べて脚が見劣りする選手が多いようである。スクワットの練習がきついために、とかくこれをおろそかにするのが原因しているように思う。パワーリフターに限らず、コンテスト・ビルダーも逞しい脚、腰をつくるためには、この苦しいスクワットをもっともっと練習する必要があろう。
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<3>デッド・リフト

 この種目は前項のスクワットが大きく影響してくる。また、影響するようなデッド・リフトでなければ大きな記録は望めない。なぜなら、デッド・リフトは腰の運動のように見えるが、腰の力、つまり固有背筋や上背部の筋肉だけでは好記録は生まれない。現在、もし背筋力だけで好記録を出している選手がいるとしたら、そこえ脚の力を生かすことによって、さらに良い記録が生まれることは間違いない。
 デッド・リフトは使用重量が非常に重く、使う筋肉も広範囲にわたるために疲労しやすく、筋肉の損傷を招きやすいので充分注意して行う必要がある。
 強化方法としては、

ⓐ1週間に2回ぐらいの練習頻度が一番良い。
ⓑベンチ・プレスやスクワットのように数多くのセットを行わない。
ⓒ最高重量の2/3ぐらいの重量で、ヒザを伸ばしたまま、固有背筋と上背部だけで持ちあげる練習をする。
ⓓ同じく最高重量の2/3ぐらいの重量を使用し、上体を垂直に保ったまま、脚だけで持ちあげる練習をする。
ⓔあらかじめバーベルを30~40cmぐらいの高さにセットしておき、それからフィニッシュまでの練習をする。この場合、重量はできるだけ重いものを使用する。

<強化の1例>
 因幡選手は180kgで、上体を真すぐに保って、バーベルを床につけずに5~10回反復する。彼の試合における最高記録は227.5kgである。井上選手は床にドカン、ドカンとおろしながら220kgで5~6回行う。井上選手の練習中の最高記録は260kgである。
 2人ともウォーミングアップは100kgで2~3回、140kgで2~3回、180kgで1回、ここでベスト重量に挑戦、つぎに井上選手は200~220kgで1セット、因幡選手は180kgで2~3セット行う。
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3種目のまとめ

 ベンチ・プレスとデッド・リフトの記録を伸ばすためには、握力を強くすることも大切である。それにはハンド・グリップを使うとか、リスト・カールを行うとよい。
 試合が近づいたら、各種目ともにフォーミングアップを短時間ですませるように訓練する。これは試合当日、時間や器具の関係上、充分ウォーミングアップできないからである。試合に臨んだ場合、集中力が非常に大きく影響してくるのでこれもふだんの練習から常に意識して練習することが大切である。

<各種目の目標記録>
 つぎに掲げる各クラスの目標記録は体重に対する倍率で、この記録が可能な選手はほぼ入賞圏内に入ると思う。もう一度自分の力量と比べてレベル・アップをはかり、パワーリフティングを大いに楽しんでいただきたい。
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知っていると有利

☆タンパク価☆
 どんなタンパク質をとれば体に有効かを調べるのに「タンパク価」が使われる。自分の体内でどうしても合成できない8種類のアミノ酸を体の要求に応じてバランスよく含んでいる食品が理想的なタンパク食品である。
 FAO(世界農業食品機構、国連にある)では1つの理想的なパターンをつくり、これを基準にしてそれぞれの食品のアミノ酸量を算出し、最も不足しているアミノ酸(これを第1制限アミノ酸という)の量の何%になっているかを計算する。こうして得られた数字がタンパク価であり、タマゴ、あみは100、うさぎ肉99、牛肉80、まぐろ90、ごはん74、食パン48、大豆55というように示される。
 興味あることに、穀類にはリジンが不足していることが多く、わずかな添加により、タンパク価はぐっと高くなる。学校給食などで、リジンを強化したパンやごはんが出されるのはこのためである。
 また牛乳63、,ピーナッツ63、くるみ28、さば68、ぶり67など、タンパク価が低くなっているのは、メチオニンとシスチンの含硫アミノ酸が少ないためである。しかし重要なことは、われわれはどの食品も単品で食べるわけではなく、メニューをこしらえて食卓にそろえて出すので、総合すればバランス度は相当改善されるはずだ。全体を見て判断しないと正しい情報は得られない。
 なお、タンパク質は過剰にとってもムダである。炭水化物や脂肪に単に変化するだけでなく、その過程で体に負担をかける。有害なイオウやアンモニアが肝蔵機能を損うほか、灰分が酸性物質をつくり、バテやすくする。1日の摂取量を体重1kg当り2g以内にとどめることをおすすめしたい。なによりも大切なことはバランスのとれた食事をすることである。

一野沢秀雄ー
栄養ミニ知識
月刊ボディビルディング1974年3月号

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