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本場アメリカのボディビル見聞記

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月刊ボディビルディング1974年3月号
掲載日:2018.07.15
”72ミスター高知2位 河内山 和夫

日本の方が純粋・・・・・・ ボディビルに対する考え方

 本場のボディビルに大きな期待と関心をもってアメリカに渡ったのであるが、まず私の期待を裏切ったのは、アメリカのボディビルに対する考え方であった。というのは、健康と体力づくりのためのボディビルという、本来の純粋な考え方がなくなって、一種のプロ的な筋肉づくりという傾向が強く感じられたからだ。その点、日本のボディビルに対する考え方の方がはるかに純粋に思われた。

 おそらくアメリカでも何十年か前の初期の頃は、現在の日本と同じような考え方だったのだろうが、年々レベルが向上し、中には芸能界等で活躍する者も出るに及んで、健康づくりとは関係なく、コンテストに優勝し、それを利用して収入を得ようとする、いわゆるプロ的な、見せるための筋肉づくりという方向に進んでいったのではないかと思う。このことは、実際に多くの一流選手にインタビューしてもうかがわれた。おそろしい副作用があるのを承知しながら、タンパク同化ホルモンのような薬を用いるのもこのためであろう。

 日本とアメリカを比較した場合、たしかに一流選手に限っていえば、アメリカの方が数も多くレベルも高いのは事実であるが、健康づくり、体力づくりとして、純粋にボディビルに取り組んでいる人の数では、日本の方が多いと思う。いかにボディビルの先進国といえども、見習うべきことと、見習ってはならないことがある。ボディビルの考え方については、いつまでま現在の日本の考え方を崩さずに進んでいきたいものである。
〔トレーニングに励む筆者〕

〔トレーニングに励む筆者〕

アメリカのボディビル・ジム

 ボディビルの本場といっても、ジムがそんなに沢山あるわけではない。とくにアメリカの中央部などではその数は極めて少ない。東部と西部にはいくつかの有名なジムがあるが、それもせいぜい10カ所ぐらいで、日本の東京や大阪のように20カ所も30カ所もあるのとは比較にならないほど少ない。
 ただ、健康管理のための体育施設はいたるところにあり、とくにYMCAの体育館の多いのが目についた。もちろんこれらの施設にはウェイト・トレーニングの練習場が完備しており、日本のジムと同じような器具がならんでいる。そこで練習している人たちの大部分は、筋肉を発達させる、いわゆるボディビルを実践しているのではなく、肥満の防止、運動不足の解消といった健康管理が目的である。
 
 YMCAのほかヘルス・クラブとかアスレティック・クラブ、フィジカルフィットネス・クラブといった名称のものもあるが、これらはいずれもYMCAより利用料金が高いようだ。なんといってもYMCAが設備も良く料金も安いので一般的に利用されているようである。
 私も旅行中に何回かYMCAで練習したが、ビジターで1ドルから高いところで2ドルだった。聞くところによれば、セルジオ・オリバもたいていYMCAで練習しているという。
 一般のジムの会費は、1カ月20~30ドル、3カ月で50~60ドル、6カ月で100ドル、1年では180ドルというのが相場らしい。円になおせば5200円~7800円で、日本よりはだいぶ高い。しかし、アメリカのジムではおもに長期会員をねらっているので長期になればなるほど割安になっている。私の場合はもちろんビジターだったので1日2ドル、1週間で10ドルぐらいが多かった。中にはわざわざ日本から来たというので無料にしてくれたところもいくつかあった。
 そのほか、入会金は日本と同じようにだいたい会費1カ月分ぐらいをとっている。
 
 ジムのトレーニング・ルームをはじめ、各種の附属設備は日本よりはるかに完備されている。そして、何よりスペースがゆったりとってあるのが印象に残った。シャワーなども日本のジムのように、練習場の一部をちょっと改造してあとから取りつけたといった感じではなく、最初から設計して理想的につくってある。サウナ、ロッカー・貸しタオルは必ずある。貸しタオルは有料でだいたい10~15セントぐらいである。ロッカーは有料のところも一部あったがほとんど無料である。シャワーやサウナはもちろん無料である。器具については、それほど日本のジムと変わりないが、ダンベルの数はアメリカの方が桁違いに多い。10ポンド(約4.5kg)から100ポンド(約45kg)ぐらいまでにセットされたものがズラッと並んでいる。これは多くの点でバーベルよりもダンベルの方が多角的にトレーニングできるということからきているのではないかと思う。

 また、各種のマシーン類は、そのジムによってそれぞれ効果的に工夫された独得のものが多かった。そして、どれもこれも実に頑丈にできている。日本のように、どこのジムに行っても見られるといった画一的な器具はあまりない。これらの器具をはじめて見たときは、どこを鍛える器具なのか、どんな方法で練習するのかよくわからなかったが、説明をきいて実際に使ってみると、鍛えようとする部分に適確に効くのがよくわかる。短い時間で最大の効果をあげるといった合理的な考え方はさすがにアメリカらしい。

一般の人は肥満防止に懸命

 アメリカのトップ・ビルダーたちと一緒に食事をする機会があまりなかったので、彼らがふだんどんな食事をしているのか知ることはできなかったがたまたまケン・ウォーラーの自宅に招かれて夕食をごちそうになったので、そのときのメニューをお知らせすることにしよう。

 ケン・ウォーラーは1971年度のミスター・ユニバース(アマの部)や同じ年のミスター・アメリカのタイトルをとってビルダーとしても有名であるが現在はゴールド・ジムのオーナーとして活躍している。このジムは、とくにコンテスト向きのジムとして知られており、アーノルド・シュワルツェネガーやフランコ・コロンボ、フランク・ゼーン、デイブ・ドレイパー、マイク・カッツといった世界のトップ・スターたちもよくここで練習している。

 話が横道へそれたが、そんなわけでケン・ウォーラーはビルダーとしてはすべての面で恵まれているといってもいい。彼は高級マンションに住んでおり、広さは日本の団地サイズで3DKといったところだ。子供はなく、奥さんと2人暮しである。
 彼に招かれて3人で夕食をしたのであるが、なんといっても驚いたのは良く食べることである。私も日本人としてはよく食べる方であるが、とても食べきれずに残してしまった。そのときのメニューは、ロースト・ビーフ1人分約1kg、野菜サラダ1皿、ストロベリー・ケーキ1個、それにアイスクリームが100g。飲みものはダイエット・コーラ(砂糖ぬきのコーラ)というすごさで、蛋白質も脂肪も炭水化物もまったく眼中にないように、またたく間に胃袋につめ込んでしまった。

 ほかのビルダーもふだんこんなに食べているかどうかわからないが、ケン・ウォーラーのいうところによれば、みんなよく食べているという。それにもかかわらずコンテストなどで見る彼らのデフィニションは素晴らしい。彼らはコンテストの3カ月ぐらい前になると、完全にコンテスト用の食事に切り換えるのだそうだ。この時期になれば、大好きなアイスクリームも絶対に口にしない。しかし、ふだんは好きなものはなんでも口にしている。3カ月くらいでそんなに変わるものかどうか私には信じられないが、あるいは日本人とアメリカ人の体質の違いがあるのかも知れない。

 一般のアメリカ人は男性、女性を問わず、30才を過ぎる頃から一様に肥満ぎみになってくるらしい。これは体質と肉食を中心とする食事に原因があると思うが、ウェストが1m以上もある人なんて全然めずらしくない。それがために、肥満防止に関しては日本では想像ができないくらいみんな神経を使っている。
 そういえば、街の食料品店にも肥満防止用の食品がいっぱい並んでいた。つまりダイエット・フードである。よくレストランなどで「私はいまダイエットしていますから・・・・・・」という言葉を耳にした。これは、「肥満防止のために低カロリー食を励行していますから・・・・・・」ということである。

 私が街を歩いていたり、電車に乗っているとき、ずいぶん多くの人から声をかけられた。
「見事なからだをしているが、どんなスポーツをやっているんだ?」
「ボディビルディングをやっている」
「ボディビルディングをやれば、そんなにウェストが引き締まるのか?」
「・・・・・・まあ、そうだ」
 といったように、彼らは私の逞しく発達した?胸や腕に関心があったのではなく、みんな私の細いウェストに驚いていたのである。それくらい彼らはウェストを細くすることに関心をもっているのである。

 日本人の食生活も最近ますます欧米に似てきており、栄養過剰と運動不足からすでに肥満のきざしがぼつぼつ出はじめている。とくに30才を過ぎるころからこの傾向が目立つようだ。こういった点からも日常から栄養と運動には心掛けたいものである。私がアメリカで得た教訓も、やはりこのような基本的なことだったのである。
〔アメリカでもっとも人気のあるスティーブ・リーブスのバースデー・カード〕

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月刊ボディビルディング1974年3月号

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