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昭和50年 JBBA
指導員認定講習・研修会を終って

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月刊ボディビルディング1975年10月号
掲載日:2018.04.08
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野誠之
国民健康づくり,体力づくりを旗印に,社会体育の尖先として,協会活動の第一線で地域活動の中心として重要な役割を果たしており,また協会活動の原動力でもある指導員の資質向上のため,昭和50年度指導員認定講習会並に研習会を去る7月26,27日の両日大阪体育大学において実施した。
外遊前のご多忙な時期にもかかわらず,本講習会の準備にご配慮の労をわずらわした中島直矢教授,池田勝教授の両先生のお力添えにより,また,加藤橘夫学部長をはじめ、各科目を担当していただいた先生方,並に大学当局のご理解あるご協力により,有意義な講習会を実施できたことを,この誌面を借りて厚くお礼申しあげます。
協会の目的や活動方針をご理解していただいたのみならず,今後の協会活動にも温いご支援を得,ご指導ご鞭撻していただいたことは,ボディビルに対する一部の誤解や偏見を正すためにも,たんに協会内部のみならず,対外的にも非常に力強く有意義であったものと痛感し感謝しております。
〈表1>受講者研究者等分析

〈表1>受講者研究者等分析

〈表2〉経験年数別

〈表2〉経験年数別

〈表3〉年齢別

〈表3〉年齢別

X X X
先ず受講者の内容からふりかえってみると,遠くは沖縄,東北等,全国各地よりの申込者77名,当日欠席者7名受講者70名であった。その内容を一昨年,昨年と対比分析してみると第1表第2表,第3表のようになる。
これらの表から総合して考察してみると,年齢的には80%強が20才以上であり,経験年数から見ても60%程度が7年以上,各地において協会役員とし活躍されている方たちが30%程度と,毎回変わりなく,協会活動の中心的な方たちがほとんどを占めている。このようなボディビル界のベテランの人たちが自発的に受講されていることは誠に心強い限りである。
講習会の最大の眼目は,すべての人に愛され親しまれる健康づくり,体力づくりの運動として,ボディビルを推進していくための中心的指導員の養成すなわち人材を育成していくことで、これあってこそ磐石の基礎が固まるもので,わが協会の将来は立派な指導員の輩出如何にかかっているといっても過言ではあるまい。
本講習会がボディビル界躍進の節とも,年輪ともなって,各地域で運動を推進していく中心的人材,いな同志をはぐくんでいくことが、指導員審査会の責務であると信じている。
受講されなかった人も,この真夏の講習会の意義をかみしめて,一層の熱意と研さんに,心新たな成長と発展を描いていってほしい。
さて,日程にしたがって各科目の要点を復習してみよう。
第1日目は,午前8時30分集合,受講者確認,注意事項伝達後,谷口協金副会長の開講の挨拶。
【谷口副会長の開講の挨拶】

【谷口副会長の開講の挨拶】

第1時限

午前9時より体育学界の第1人者,加藤橘夫学部長の講演である。一昨年はわが国における体育科学の歩みを中心に,また昨年は,東欧諸国を視察された際の各国の社会体育の現状を中心に,健康づくり,体力づくりの基本的事項やその考え方,および有り方を教えていただいたが,本年は運動における生理を中心に,その骨子に関して,非常に難解な事項を分かり易く極めて,平易に教えていただいた。
そのお話の中で,本講習会の意義やまたボディビルの今後のあり方等について,一般に誤解されたり,偏見視されているボディビル観とをかみ合わせてのご理解あるお話があった。毎年,話の論点を変えて,広く分かり易くお教えを受けることは、本年はどのようなお話かと思うだけで,講習会が楽しく感じられる一つである。
【加藤橘夫学部長】

【加藤橘夫学部長】

第2時限

体育医学を富永通裕教授に教えていただく予定であったが,教授の止むを得ないご都合で,山本隆久教授による「体力の測定について」の講義を受けた。
【山本隆久教授】

【山本隆久教授】

体協のスポーツ・テスト判定員の講習内容と異なり,それらを行う意味や目的,または測定結果に対する処置についての考え方等の理論について教えていただいた。
すなわち,体力,とくに行動体力について,客観的な把握の方法として,何のために,何を目標として,どのように,測定するのかという体力測定論についての講義で,体力検定と体力測定の違い,また,医学的チェックとの関係等にもわたり,非常に内容の深い議論でありながら分かり易く話していただいた。
以上で午前中の日程を終わり,昼食休憩後,1時より午後の日程に入る。

第3時限

玉利斉理事長による「わが国におけるボディビルの歩み」すなわち協会の歴史ともいうべきもので、とくに、体力をつくるとともに,良識ある精神面,知的面の必要性を,その歩みの中で,時代背景を例にあげながら話された。
【玉利理事長】

【玉利理事長】

第4時限,第5時限

例年は金子公有博士に「体育生理」と「トレーニング理論」を教えていただいたが,本年は金子博士がイタリヤのミラノ大学に出向されているため,昨年社会体育を担当していただいた池田勝教授に「レクリェーションとしての体力づくり」を担当していただいた。
中高年者,女性等に対して実施する場合の要点,およびそれぞれの体力を判定するための方法等を具体例をあげ実技を混じえながら,日頃運動を縁遠く考えている人たちを如何に楽しく,運動に興味を持たせるか,また,実行させるかについて,諸外国の例を混じえての内容で,実技に汗を流して午後5時前に終わった。
【池田 勝教授】

【池田 勝教授】

池田教授には本講習会実施に当り,外遊前には各講師の先生方との打合せ等の準備や,また帰国早々の講義,さらに試験問題や採点のとりまとめ等、とくにお手数をおかけしたことを改めて深く感謝いたします。


 第2日目は午前8時50分集合。

第1時限

【加藤元和教授】

【加藤元和教授】

午前9時より加藤元和教授による講義で,教授のご専門の体育史を通じて,体力づくりのあり方や,その考え方の移り変わりを教えていただく時間である。

本年は中世における社会状勢や思想の変遷にともない,体育とかスポーツといわれるものがどのようであったかまた,スポーツの語源や,アマ・プロの芽ばえ,および近代各種競技やスポーツの原型の発生等について,具体的に分かり易く教えていただいた。
難しい体育哲学ともいうべきものを体育史を通じて,毎回その論処の時代を変え,時代思想の背景を通じて,どのようであったかを,体力づくりという面から教えていただいているが,いつも情操面の糧として有意義なもので時間のたつのが早く感じられるほど,この講習会の楽しみの一つである。

第2時限

不肖私が担当してコンテストの審査に関して話した。
コンテストの意義,およびその実施要領に関して,とくに審査面よりみて注意しなければならない事項,比較審査において,選手たちをいかに同一状件で審査すべきかの問題点や具体的事項に関して,ディスカッション形式で述べ,午前中の日程を終了。

第3時限

午後1時より藤田務副理事長(中部地区担当)にお願して「パワー競技並に審判について」の必要事項を受もっていただいた。
パワー競技における審判員としての必要事項を実技を併せて実施してもらったので,各自,良く理解修得されたことと思う。
本年は協会講師担当事項として,審判審査員としての必要事項を組入れ,審判審査員会の全国統一認定講習会にかえたので,審判審査員会より公認審判審査員の認定が出るようになっている。
以上,講習会日程を終了後,午後3時まで約1時間にわたり,審判審査について,また協会並に本講習会等に関しての質疑応答を実施し,各自の意思の交流をはかった。つづいて午後3時10分より4時40分まで認定試験を実施し,午後4時50分,本講習会を無事終了した。
【藤田副理事長のパワー競技審判についての指導】

【藤田副理事長のパワー競技審判についての指導】

X X X
指導員認定講習会並に研習会は,学校教育とは異なり,いわゆる社会教育的色彩が濃い。最初の分析表でも分かるとおり,年令,性別,経験,学歴,教養,社全的地位,職業等之,諸条件の異なる人々を一堂に集めて講習するため,講習のあり方や内容の選定等,その実施の要領も毎回,毎回変えなければならないことが多い。毎回受講していただいても,常に新しく,有意義であるよう,計画には注意をはらっている。画一的でマンネリに落ち入らないことが大切であると自問自答しながらこれまで実施してきた。各自が練習者の指導に当る場合も同様な配慮が必要であろう。俗に,教える者は習う者の10倍の知識がなければ充分に教えられないといわれている。
すなわち,指導員には知識と経験が要求されている。受講者の皆さんは経験は充分であるのだから,常に謙虚な気持で勉強し,新知識を身につけるとともに,絶えず優秀な指導テクニックを考案するよう努力してほしい。独善になり,マンネリに落ち入らないよう注意していただきたい。そのためにも本講習会を有意義に活用し,実行に当ってもらいたい。
現在の自己の状態をはっきりと自覚し,反省してもらうことが大切である。その意味において,認定試験を実施している。ゆくゆくは認定試験と講習会を別個にし,何点以上合格というように選抜試験として独立の形をとるようになるかも知れないが,少なくとも私が担当している間は現在の方式で実施していくつもりである。それは,いかに多く知っているかということも必要だが,いかにどれだけ実行しているかの方が大切だと考えるからである。すなわち,知行一致,多く知っているだけでなく,どのようなことを,どれだけ実行しているかの方が重要だと考えるからである。
 認定試験を通じて自己の知的理解程度を各自,自覚反省されているはずである。その自覚反省に基づいて必要な知識を勉強していただくことの方が重要であろう。過去3回の試験の成績を見ると,一応合格点を60点とした場合48年7月が合格率27%,49年度が92%,50年度が88%となり,48年度を除き受講者の大部分が合格点に達している。ただ,現在は特別なる者を除き,試験は参考程度にしている。この理由については先に述べたとおりで,審査会に意見を出し決裁によって認定している。
本講習会は受講者の大半が協会の中心的なメンバーとして各地で活躍している人たちであり,これらの人たちが一堂に集まる機会でもあるので,本講習会を続けることにより,協会伝統の講習会として,幸い志をともにする人たちが,手を取り合って目的達成に向かって前進するとともに,参加された1人1人にとって人生の跳躍台ともなり,楽しく有意義な講習会であるよう今後の運営を計画していきたい。そして今後の研さんに心新たな成長を望むとともに,来年度はより多くの方たちが参加されんことを願ってやまない。
月刊ボディビルディング1975年10月号

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