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チャンピオンへの道
<心理学によるトレーニングの効果> 1976年3月号

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月刊ボディビルディング1976年3月号
掲載日:2018.07.26
川股 宏

Ⅲ潜在意識と夢

 前号で記したマーフィの眠って成功する、という著書の中に次のような話がある。

 1人の貧しい少女が、ある街頭のウインドーに飾ってある毛皮のコートが欲しくてたまらず、毎日毎日その毛皮に見とれていた。そして夜はそれを着ている夢を見るようになった。フワフワとした毛皮の感触は夢からさめたあとでも確かな実感として残っていた。それ以来、少女は寝る前には必ず「神よ毛皮を与えたまえ」とお祈りすることにした。つまり、これは夢と現実を結びつけ、それがいつか潜在意識となっていくのである。

 そしてあるとき、この少女を見そめた金持が、彼女にプロポーズし、夢にまで見たその毛皮をプレゼントしてくれたというのである。

 潜在意識とはこのように夢と現実を結びつけてしまうような不思議な魔術があるのです。これまでミスター日本になった多くの選手たちも、きっと強烈な自信と想像力で毎日毎日血のにじむようなトレーニングを積んだ結果、そこにハウツーが生まれ、それを実行した結果、日本一の栄冠を手にし得たのであろう。

 いかなるチャンピオンといえども、始めからチャンピオンを約束されていたわけではない。その過程には数々の障害やスランプがあったに違いない。それを乗り越えるために、確かな夢と強い信念、強烈な想像力を潜在意識に働きかけた結果、最終目的に到達したのである。

 豊臣秀吉の出世物語は日本人なら誰でも知っているが、彼がサルといわれ橋のたもとのむしろの中で寝ていたときから、太閣になり天下人にまでなった段階を分析してみるがいい。そこには遠い夢を描く心と、近い夢を実現するための着実な姿勢がうかがえる。つまり、信念的には遠い夢(チャンピオン)、目先の夢には非常に具体的な夢を描き、それに向って努力、実行していくのがコツなのである。努力せずしてただ大きな夢を描くのではなく、その時、その時を大切に、真剣に行動することが大切である。

 しかも、精神状態はつねに素直で謙虚でなくてはならない。コンテストの舞台では勝負師としての気迫が必要だが、日常の練習では夢を追い、自信をもって努力し、自分の心にいつわりのない謙虚な態度でのぞまなければならない。少しぐらい筋肉が大きくなったからといって高慢になる人がいたら、あの偉大なビルダー、シュワルツェネガーのあの真剣な顔で、最大限の力を出しきった練習写真を見せてやればいい。あれが前人未踏のチャンピオンの夢を追う信念と努力を物語っているのだ。
トレーニング中のシュワルツェネガー。

トレーニング中のシュワルツェネガー。

月刊ボディビルディング1976年3月号

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