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なんでもQ&Aお答えします 1976年4月号

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月刊ボディビルディング1976年4月号
掲載日:2018.08.15

猫背を矯正するための方法は?

Q 私は22才の学生ですが、姿勢が悪くて悩んでいます。俗にいう猫背で、側面から見ると上背部の湾曲しすぎているのが目立ちます。このように背中がまがっているのが目立つようになったのは高校生の頃からですが、最近、なんとか少しでも矯正したいと思い、レスラー・ブリッジと軽量のダンベルを用いてのベント・アーム・プルオーバーを行なっています。しかし、いまのところさしたる効果はないようです。

そこでお尋ねしますが、ボディビルによって猫背を矯正することは実際に可能なのでしょうか。また、もし可能であるとすれば、どのような方法で行えばよいのか、そのことについてできるだけ具体的にお答えください。
(神戸市K・K 学生 22才)
A 結論から申しあげると、ボディビルばかりでなく、運動によって猫背を矯正することは可能といえます。しかも、あなたのように比較的年令が若く、まがりはじめてからもそれほど年数が経っていない場合は、そうでない人の場合と比べると、矯正の可能性もそれだけ多いといえます。

カリエスなどの疾患による場合はもちろん例外ですが、普通の場合、後天的に猫背になるのは、全身的に、あるいは部分的に筋の緊張力が弱いとか、あるいは柔軟性がとぼしいといったことが原因になります。また、日常生活における習慣的な姿勢の悪さも原因になります。

したがって、猫背をなおすためにはまずどのようなことがらが猫背の原因になるのか、その知識を身につけておくことが必要だと思います。そしてそれら猫背の原因となることがらをひとつずつ自分の場合に当てはめて検討し原因となることを究明した上で、矯正のための手だてを考えるのがよいでしよう。

では、あなたの要望におこたえしてできるだけ具体的に、猫背の原因となることがらと、それらを解消するための方法について述べることにします。

<体力が弱くないか>
体力が弱いということは、姿勢を正しく保つための筋の緊張力の持続性が弱いということにもなるので、そのために長時間の直立や歩行において正しい姿勢が保ちがたくなり、背や腰が湾曲したり、膝がまがったりして悪い姿勢になる。そして、そのような悪い姿勢が習慣的になることから猫背になる場合がある。

したがって、体力が弱いと判断される場合は、ボディビルの初歩的な運動によって、基礎的な体力を養成する必要がある。ただし、疲労が蓄積されるようなトレーニングのやり方は絶対に慎むことである。過度に体力を消耗させることは、姿勢を一層悪くするおそれがあるので十分注意する。

また、各運動種目とも、いくぶん余裕のある重量を用いて、正しいフォームと正しい動作で行うよう心がけ、力を出し切ることのないようにする。反復の回数にこだわって無理することは運動を不正確にし、また、過度な消耗がともなうのでくれぐれも注意すること。

<部分的に筋の緊張カが弱くないか>
部分的に筋の緊張力が弱いことも猫背の原因となる。つまり、背、腰、脚などの筋の緊張力が弱いと、背、腰、膝が正常とはいえない形に屈した状態になりやすいので、そのような悪い姿勢が習慣となって、猫背になる場合があるということである。そしてこのことは、何も背、腰、脚の各部分の筋の緊張力が一様に弱い場合に限ったことではなく、ひとつの部分のみが弱い場合にも猫背の原因になり得るということである。

背筋の緊張力が弱ければ、頭の重みによって上背部が湾曲してくるのは当然のことといえるが、腰、脚の緊張力の弱いことも間接的に上背部を湾曲させる原因になる。つまり、腰の部分の緊張力が弱いと、直立姿勢や歩行姿勢において、下腹部がせり出して、腰が前へ屈した姿勢になりやすく、そのような姿勢では必然的に上背部も湾曲することになる。

また、脚、とくに膝の緊張力が弱い場合にも同様なことがいえる。したがって、これらの部分の緊張力が弱いと判断される場合は、それらの部分の筋を強化するための運動を必要に応じて行うようにすることである。

上背部および腰部を強化するためにはハイパー・バック・イクステンションや、バーベルを肩にかついで行うベンド・オーバーが比較的有効と考えられる(運動法については後述する)。脚を強化するには種々のスクワットが有効であるのはいうまでもないが、バーベルを肩にかついで行う普通のスクワットは、単に脚部を強化するだけでなく、上背部と腰部を鍛練するのにも非常に有効な運動といえる。

①ハイパー・バック・イクステンション

床またはベンチにうつ伏せに寝て両手を首のうしろで組み、上体をできるだけうしろへ高く反らしあげる。運動中に脚が浮きあがらないように足首を固定して行う。なお、運動の強度を増すときは、ダンベルかプレートを首のうしろに保持して行うようにするとよい。

②ベンド・オーバー

両脚を適当な間隔に開いて、バーベルを両肩にかついでたち、背すじを伸ばしたまま、おじぎをするような要領で上体が床面と平行になるぐらいまで腰を屈する。

この場合、背と腰を湾曲させないように行うことが肝心であり、そのためには上体を前に倒しながら膝を少しまげてもさしつかえない。無理な重量の使用は腰椎を損傷することにもなるのでくれぐれも注意すること。また、からだを前倒したときにシャフトが頸椎に当らないように十分留意して動作を行う。多少余裕のある重量を用いて慎重な動作で行うのがよい。

<からだが硬くないか>

からだが硬いことも悪い姿勢の原因になる。つまり、頸、胸部、腹部、脚のつけ根、殿部、大腿部のうしろ側、および内側などの筋肉が硬いと、からだの伸びやかさがそこなわれ、シズミのある姿勢になりやすい。脚部、腹部それに脚のつけ根など、からだの前面にある筋の伸張性が弱いと上体が前に縮んだ状態になりやすく、このような姿勢が習慣的になることによって、ときには上背部が猫背といわれるほどに湾曲した形になることもある。

また、太腿部のうしろ側と内側のスジ、それに膝の関節などが硬いと、膝の伸展性もそこなわれ、間接的に腰を前へゆがめたり、上背部を湾曲させるなどの悪い姿勢の原因になる。したがって、猫背のような悪いからだつきをなおすには、柔軟体操やウェイトを用いた運動によって、上述した部分の伸張性をよくするようにすることが大切である。

<胸部および腹部の伸張性をよくする運動>

①クロス・ベンチ・プルオーバー

からだがベンチと交差するように、横方向からベンチに肩と上背部を乗せて仰臥し、バーベルまたはダンベルを用いてスティッフ・アーム・プルオーバーを行う。バーベルを使用する場合は、肩を痛めないために左右のグリップを肩幅より狭い間隔にしてシャフトを握るようにする。また、ダンベルを使用する場合は、1個のダンベルをタテにし、上になった方のプレートの内側(下側)を左右の掌で支え受けるように保持するとよい。

運動上の要点としては、胸部および上腹部の伸張性をよくすることが目的であるから、いくぶん余裕のある重量を用いて可動範囲いっぱいにバーベル(またはダンベル)を床面の方へおろすようにすること。腕を伸したまま、息を吸いながらバーベル(またはダンベル)を床の方へおろしていき、可動範囲いっぱいにおろしたところで、腰と殿部を下へ沈めるようにして胸部と腹部をさらに伸展するようにする。

バーベル(またはダンベル)を上へ戻すときは、下へ沈めるようにしていた腰と殿部を上へ浮かしてから行うとよい。

②椅子に腰かけてからだをうしろへ反らす運動

背もたれのついた椅子に殿部を深く入れて腰をかけ、上体を後ろへできるだけ反らす。背もたれが高すぎると上体を十分に反らすことができないから注意。

椅子がない場合は、座ぶとんを2つ折りにするなどして、腰かけるような感じであぐらをかき、殿部を後ろへ出っぱらすようにして腰を伸ばし、その体勢から上体を後ろへできるだけ反らすようにするとよい。いずれの場合も、息を吸いながらゆっくりとした動作で上体を後ろへ反らし、適当な回数を繰り返えし行う。

<腰の伸展性をよくする運動>

①床に伏臥して行う方法

胸の両わきで両手をつくようにして床に伏臥し、もものつけ根を床から浮かさないように留意して、両腕で上体を上へ反らしあげる。下腹部ともものつけ根の力を抜いて行う。【図1】参照。
【図1】②前後に開脚し、前脚を屈曲して行う方法この方法は言葉で説明するよりも図を参考にするほうが解りやすいと思う。【図2】参照。

【図1】②前後に開脚し、前脚を屈曲して行う方法この方法は言葉で説明するよりも図を参考にするほうが解りやすいと思う。【図2】参照。

【図2】

【図2】

<大腿部の後ろ側を伸ばす運動>

①ベンド・オーバー

両足を肩幅の1.5倍~2倍の間隔に開いて立ち、腰背部を湾曲させないように留意しながら、殿部を後ろへ突き出すようにして上体を前へ倒す【図3】参照。上体を深く倒すことにこだわって腰背部を湾曲させたりまた運動中に膝を曲げたりすると効果がなくなるので注意。この運動を上手に行うときは、大腿部の後ろ側がつっぱる。効果を早めるために、軽量のバーベルを肩にかついで行うのはよいが、この場合はあくまでも筋の強化が目的ではないので重い重量の使用はくれぐれも慎しむこと。
【図3】<大腿部の内側を伸ばす運動>①左右に開脚し片脚を屈曲する方法【図4】のように片脚を伸ばし、片脚を屈曲して股を左右へ開き、大腿部の内側のスジを伸ばす。ただしこの場合、伸ばした方の脚のつま先を外方へ向けずに前方へ向けるようにして、足の内側部で体重を支えるようにする。つま先を外方向へ向けると、大腿部の内側よりは外側を伸ばすための運動になってしまうから注意する。また、上体をできるだけ起こして前傾姿勢にならないようにも留意すること。

【図3】<大腿部の内側を伸ばす運動>①左右に開脚し片脚を屈曲する方法【図4】のように片脚を伸ばし、片脚を屈曲して股を左右へ開き、大腿部の内側のスジを伸ばす。ただしこの場合、伸ばした方の脚のつま先を外方へ向けずに前方へ向けるようにして、足の内側部で体重を支えるようにする。つま先を外方向へ向けると、大腿部の内側よりは外側を伸ばすための運動になってしまうから注意する。また、上体をできるだけ起こして前傾姿勢にならないようにも留意すること。

【図4】

【図4】

以上が猫背になる原因と考えられることがらと、それらの原因を解消するための方法です。しかし、上述したことがらが、もとより猫背の原因の全てというわけではありません。

たとえば、背中をまるめた状態で日常の業務に従事しなければならない場合とか、ふだんの生活でふとした習慣が猫背の原因になることもあります。したがって、日々の生活の中に、姿勢を悪くするような原因なり習慣なりがあれば、極力それを正すようにし、日常生活において常に姿勢を矯正するための努力をおこたらないようにすることです。

乗馬ズボン型の脚をなおしたい

Q ボディビルを始めてから2年になります。筋肉の発達経過はまあまあ普通とは思いますが、形の面で不満足な部分が2~3あります。とくに脚と腰の釣り合いがとれておらず、脚そのものも「乗馬ズボン」のような形をしていてとても不恰好です。

日本人にはこの形の人が多いと聞いていますが、なにかこの形を直す方法またはカバーできる方法はないものでしょうか。なにとぞその方策についてご指導ください。(大阪府T・K)
A 脚と腰の釣り合いがとれていないとのことですが、ただそれだけでは言葉の意味を解しかねます。写真か、せめて腹囲・腰囲・大腿囲のサイズでもわかれば意見の申し上げようもあるのですが・・・・・・。

そのようなわけで、あなたの質問の趣旨を乗馬ズボン型の脚にしぼって、その対策についてお答えします。

まず、日本人に乗馬ズボン型の脚の人が多いかということについてですがあながちそうともいえません。脚の形が不恰好であるというのは、なにも脚の形が乗馬ズボンのような形をしているからという理由によるだけでなく、脚の長さが大いに関係していると思います。

つまり、脚の長い人と脚の短い人にそれぞれ乗馬ズボンをはかせた場合、どうしても脚の短い人の方が不恰好な感じがすることは否めないということです。要するに、欧米人に比べて、体形的に下肢の短い日本人は、脚の太さを上半身にマッチした大きさにすると脚そのものが短いために、どうしてもずんぐりとした不恰好な形になりやすく、そのために乗馬ズボン型の場合にも、その傾向がいちじるしく目立つものになるということです。

したがって、体形的に下脚の短い人は、そのような短所に目をつむることなく、短所は短所としてそのハンデを克服するための対策をこうずることが必要でしよう。

では、一応上記したような体形の人の場合を想定して、その対策について具体的に述べるとします。

<脚と腰のつけ根の部分の発達促進>

脚が不恰好な形になるのをおそれて大腿部の発達をセーブすることは、上半身と下半身のバランスを悪くさせ、全身的に不恰好なからだつきになる。上半身に比して下半身が細いと、かえって脚が短く見える。したがって、むしろ積極的に腰から下の下半身の発達を促し、いわばヘラクレス的な体軀を目標としたトレーニングを行うほうがよい。そのためには次のような運動が適している。

①フロント・キック

立った姿勢で、膝をまげないようにして片足を前へ上げる。
<効果>脚のつけ根、前から横の部分(腸腰筋、大腿筋膜張筋)。

②サイド・キック

立った姿勢で、膝を伸したまま片足を横へ上げる。
<効果>脚のつけ根、とくに横の部分(大腿筋膜張筋、中殿筋)、外腹斜筋。

③足の廻し上げ運動

からだの前方に適当な高さの台を置くなり、棒を立てるなりして、片足を廻し上げるようにしてそれを越えさせる。つまり、外側から足を上げて内側へおろし、内側から上げて外側へおろすようにする。1セットずつ左右交互に行う。台を前方に位置させることだけにこだわらずに、からだの向きに変化を与えて行うようにしてもよい。

<効果>フロント・キックとサイド・キックを相乗的にした効果があり脚のつけ根を発達させるのに非常に有効である。

④サイド・ベンド

ダンベルを片方の手にだけ持ち、立った姿勢で体側にぶらさげ、上体を左右真横へ屈伸させる。1セットずつダンベルを持つ手を変えて交互に行う。

<効果>外腹斜筋。


以上に述べた4つの運動によって、腰から脚のつけ根の部分の発達を促すとともに、スクワット、それもフル・スクワットを積極的に行い、脚全体のバルクを増すようにしてください。また、下腿部も大腿部との比較において必要に応じて鍛えることを忘れないでください。デフィニションのある乗馬ズボン型の脚はビルダーとしてもそれなりに魅力のあるものです。全身のバランスよい発達を念頭においてトレーニングしてください。
【解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生】
月刊ボディビルディング1976年4月号

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