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筋肉の量と力の関係<1>

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月刊ボディビルディング1976年6月号
掲載日:2018.07.14
国立競技場トレーニング・センタ一
主任 矢野 雅知
 ボイド・エップレイというネブラスカ・フットボール・チームの有名なコーチが,
ネブラスカ大学にウェイトリフティング・クラスを設けた時のことである。
 ボイド氏が参加者の体重を計量していると, 20才ぐらいの若い女性2人がやって来て,
「私達にも参加させて下さい」と言うのである。ボイド氏はやや驚いたが,そこは男性。
「やってもよいけど,ルールに従ってまる裸になって計量しなけりゃならんのだヨ」とおだやかに言って,ニヤニヤしていると,そのピチピチした女学生2人は,躊躇なく着ているものを脱ぎ始めるのであった……。
 もちろん計量は更衣室で行なわれたのであるが,この時,更衣室の中では裸の男子学生達がナマツバをのみ込んでその光景を見守っていたという話である。しかも現代娘の彼女らは,そんなことは少しも気に止めなかったという。
 うらやましいと言おうか,進んでいると言おうか,その場に居あわせたかったと言おうか,
わがニッポン国では考えられないような話である。
 ところで,この話にはまだおまけがつく。その女学生の1人,体重114ポンド・クラスのベッキー・チャップマン嬢は,その日のパワーリフティング競技で並みいる男生徒を押えて堂々のクラス優勝となり, もう1人のアニー・レインス嬢も,健闘よろしく132ポンド・クラスで第3位を得ている。
 海の向うのアメリカでは,かように女性が強くなってきた。それに女性のパワーリフテイング大会も開催されるようになってきたそうである。男も負けてはいられないところだが,それにしでもネブラスカ大学の男子学生のみならず,わが日本の男性諸君ももう少し頑張ってもらいたいと思う。
 あるアスレティック・クラブで,可憐な女性指導員が50kg近い重量でベンチ・プレスをしているのを,横目でチラチラ盗み見しながら必死になって30kgのバーベルを持ち上げているカボソイ男性を見るにつけても,男はもう少し筋力をつけなくてはならないように思えるのである。筋力があろうがなかろうが,生きてゆく上ではさしたる影響はない,と言っても,筋力があるに越したことはなかろう。少なくとも痩せてガリガリの男性よりはカッコイイではないか。ことにボディビルダーであるなら,筋肉の発注に見合っただけの筋力は持ちたいものである。 
 それではこの筋肉の太さと強さの関係について考えていこう。西独のへッティンガ一博士は,筋肉の重さは1c㎡あたり4㎏であると報告している。それもこの数値は老若男女を問はず一定しているものであるという。同様な実験で故猪飼道夫教授は1c㎡あたり9㎏と報告している。つまりどんなにトレーニングしてみても,単位あたりの筋力が変わらないということは,筋力を高めるには筋線維を太くしなくてはならないということになる。
 ところが, 世界チャンピオンのパワー・リフターの因幡選手やウェイト・リフターの三宅選手は,軽量ながらすばらしい筋力を発揮する。
 このことから筋力は,筋肉の太さはなくともトレーニングによってはかなり高められるものであると思われている。それにへッテインガ一博士と猪飼教授の数値には5kgもの差があるということも,必ずしも筋力の決定要素にならないと思はれがちである。また,筋力を高める要素は他にもいろいろ考えられる。これについては窪田教授等の論文に詳しいので省くが, こういった点に関してはいろいろな角度から捉えられるものである。
 ところで,この筋力と筋肉の太さについて考察したアーサー・ジョーンズの論文も興味深いものである。ある面では読者の参考になるかもしれない。参考にならないまでも,読んで損にはなるまい……そう考えて照介してみたい。
 アーサー・ジョーンズ氏は,説明するまでもないであろうが,映画プロデューサーであり, 巨費を投じてノーチラス・マシーンを開発した人である。「私は若い頃からあらゆることに興味を持ち, さまざまのことを経験してきた。私にとって, トレーニングの問題などは興味を持っていることの, ほんの一つのことである」と述ベているが, トレーニングに関しでもなかなか深い薀蓄を傾けている。
〔シュワルツェネガー〕

〔シュワルツェネガー〕

〔コロンブ〕

〔コロンブ〕

 20年以上も前のことであるが,「筋力とは筋肉の大きさに直接比例するものである」とアイアンマン誌にはっきりと述べられたことがある。このことについて,私は次のように言わざるおえない。「ほとんどの読者諸君は,その言葉が意味していることを深く考えてはいないだろう。いや,悪いことには全く理解していないと思えるのである」
 ジョーンズ氏は, まずこのように言ってから基本となる条件をいくつか挙げている。すなわち一一

(1)筋力が増加すると,筋肉も太くならなくてはならない。
(2)筋肉が太くなれば,筋力も増加しなくてはならない。
(3)他の要素が解っており,それらが考慮されているならば,正確な筋肉の大きさの測定値というものは,正確な筋力を示してくれる。
(4)筋力と筋肉の太さには,明らかに関連がある。
この点をはっきりと理解しておけば次の(a)と(b)の法則はすぐのみこめるはずである。
(a)筋力があろうがなかろうが,筋肉の太さにもっとも興味を持っているボディビルダーは,最大限まで筋肉を太く作り上げるためには,筋力を最大能力まで高めるようにトレーニングしなくてはならない。
(b)筋力だけに興味を持っているウェイトリフターは,最大限の筋力を得るためには,筋肉の太さを最大限まで高めるようにトレーにングしなくてはならない。

 ほとんどの読者は,上記の点をおそらく理解しないであろう。読者の中には,これを最後まで認めようともしない人も数多くいることと思う。しかしながら,彼らはこれに対して反論する根拠などありはしないのだ。これはまったく事実なのである。残念なことには,これが事実であるにもかかわらず, このことを理解しなくてはならない人には, まったく理解されてない,というのが実情である。読者はむろん何事も信ずるのは自由であるが,事実をまげることは出来ないのである。
 かくいう私自身も, まだすべてを理解しているわけではないが,読者の何人かでも上記のアウトラインに示されている原則に気づいてくれたら,私の使命は達っせられると思っている。
ところではじめにお断わりしておかなくてはならないことは,この原則はノーチラス・マシーンやトレーニング・システムに関係したものではないということを銘記しておいて欲しい。この原則の基本的なポイントは, どんな目的にも,どんなタイプの体力トレーニングにも当てはまるものであるということである。
 人というものは,どんな人とも正確には比較できないということを,まずはじめに理解しておかなくてはならない〈ただし二卵性双生児を除く〉。二人の人間はいかなる方法であろうと比較できるものではない。双子の場合でさえ,厳密に比較してみるとまだまだ十分な相違点が見い出せる。しかし,このことは人間とは比較出来ないものであると言っているのではない。もちろん,有意義な比較をすることは出来るのである。ただ,違った角度から比較することになるのである。
 アーノルド・シュワルツェネガーはたぶん友達のフランコ・コロンブよりは,少なくとも3倍の筋肉を所有している。しかしコロンブはシュワルツェネガーより,もっと重いものを持ち上げることが出来る。ということは筋肉の太さだけでは絶対に筋力を決定することにはならないと考えられるが,そうではない。重量物を持ち上げるということは,筋カを決定するために考えられる多くの要素の中の,たった一つのことなのである。
 まず,コロンブは確かにシュワルツェネガーよりも,もっと「強い力」を持っている。しかし,このことは偶然に過ぎない一一生まれながら身につけているもの,あるいは遺伝によって決まっている要素というものが考えられるからだ。
 第二には, 「実際の筋力の相異」は外見上で捉えられる筋肉の大きさによる相違とは違っているかもしれないということである。つまり,例を挙げて説明すると,シュワルツェネガーの前腕はコロンブの前腕よりもずっと長い。ということは,シュワルツェネガーがバーベル・カールをするときには,コロンブが同じ重量でカールするときよりもずっと大きな距離を動かさなくてはならない。もし,シュワルツェネガーの前腕がコロンブよりも3インチ長かったら,コロンブよりも6インチ以上もバーベルを持ち上げなくてはならないことになる。つまり,シュワルツェネガーはコロンプよりも同じ重量のバーベルを持ち上げていても, 運動量はもっと大きいということになるのである。
 第三には,コロンブの腱の付着点がシュワルツェネガーよりも,物理的に有利な条件を持っているかもしれないことである。もし, コロンブの腱がシュワルツェネガーよりも, ヒジ関節からもっと離れて結合しているならば,コロンブはテコ作用でずっと有利になる。このことは,他に関係する要素が全て等しいものとして, シュワルツェネガーとコロンブの前腕の長さも同じものと仮定しても,コロンブはもっと重いものを持ち上げられることになるのである。
 第四は,コロンブの「筋肉の能力」はシュワルツェネガーよりも高いものであるかもしれない。コロンブの筋肉は, シュワルツェネガーの同じ大きさの筋肉と比較した場合,もっと大きなパワーを生み出す能力があるかもしれないのである。
 第五には, シュワルツェネガーのあまりに巨大な筋肉が,彼を不利にしているということが考えられる。とということは,シュワルツェネガーの筋肉のサイズがコロンブの2倍あるとすれば筋力の潜在能力もまた,2倍はあるだろうと考えるのは正しいのであるが,筋肉の太さが増えれば増えるほど, 測定される筋力もそれに比例して増えるというわけにはいかない。
 なぜならば,筋肉のサイズが増加するにつれて,「重量物を引っぱる角度はやむをえず変わってしまう」からである。この角度が変わるというのは,ある場合には有利な条件をもたらすこともあるが,ほとんどの場合が不利となる。つまり,実際の筋力の潜在的な能力は,筋肉の太さが増加するのに比例して大きくなってゆくだろうが,測定される筋力は筋肉のサイズに必ずしも比例して増えてゆくものではないのである。
 このような点が一般に理解されていないのは, ウェイト・トレーニーの多くが「筋肉の太さは,筋力と一緒に増加することはほとんどない」とかたく信じ込んでいるからである。このような誤解がボディビルダーとウェイトリフターを区別してしまうのだろう。ビルダーが用いているトレーニング・ルーティンと, リフターが用いているトレーニング・ルーティンは共通したものがあまりないというのが,このことを裏付けている。
だが,いずれはこのことが理解されよう。そして多くのウェイト・トレーニーは,この知識を吸収して実際に取り入れてゆくことと思う。そのような日が来たとき,その時こそ,文字どおり不可能と思われていたウエイト・リフティングの大記録が樹立される時である。450kgのベンチ・プレス, 675kgのフル・スクワット……。「そんなバカな?」とだれが言えようか。少なくとも,このことだけは確実に断言できる。「高度の筋肉と神経との協応性,物理的に有利な腱の結合,および,すでに述べてきた他の有利となる条件すべてに恵まれている男は,最大限まで筋肉を太くさせるトレーニングを行うことによって,今日のベスト記録をまったくもって小さなものとしてしまうほど,彼の筋力は群を抜いて強力なものとなるはずだ」
(つづく)
月刊ボディビルディング1976年6月号

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