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なんでもQ&Aお答えします 1976年6月号

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月刊ボディビルディング1976年6月号
掲載日:2018.07.17

肘をケガしているときの上体の運動法

Q ボディビル歴2年、浪人時代に体力維持のために始めました。その後、大学に入学して本格的に開始。しかし、昨年の7月ごろ、ベンチ・プレスで無理をしたために肘を痛めてしまいました。レントゲン撮影の結果、腱を損傷しているとの診断を受け、いまもって回復していない状態です。

 そのようなわけで、現在は上体の運動は行わずに脚と腹を重点的にトレーニングしています。しかし、他の人がトレーニングしているのを見ていると私もいろいろな運動をしたくてたまらなくなります。肘を使わずに行える上体の運動がありましたら教えてください。なお、現在の体位は、身長168cm体重55kg、胸囲98cm、上腕囲36cm、腹囲73cm。大腿囲57cmです。
 (大阪市O・T20才)
A
 熱意のあるボディビル愛好家にとって、トレーニングが思うようにできないくらいつらいことはないでしよう。ましてあなたのように、内臓の疾患によるのではなく。局部的な故障による場合は、からだとしては元気なだけに、トレーニング内容を制限しなければならないのはなおさらつらいことと思います。

 しかし、それというのも。いってみれば身から出た錆、トレーニングにおける自覚のなさが現在の状態を招いたといえます。誰しもすき好んでからだを故障させる人はいないでしようが。運動の結果として故障するのは、トレーニングに対する心がまえが不備であることに原因があると思います。もう少しぐらいなら無理をしても大丈夫だろうとか、ウォーム・アップにそうそう時間をかける必要もなかろうといった多寡をくくった態度と気のゆるみが故障を招く原因になるといえます。

 多くの人の中には、あるいは、故障しないように慎重に行なったにもかかわらず故障してしまったという人もいるかもしれません。しかし、いかなる場合でも、自分自身で故障した限り。その原因は自分自身にあります。それを、反省もしないで、あたかも不可抗力であるかのごとくうやむやにすましてしまうようではビルダーとしての自覚が足りないといえるでしよう。

 からだの調子というものは、いつも一定しているわけではありません。また、トレーニングの能率は気温、湿度など気象的な条件によっても左右されます。したがって故障しないためにはその日、その時の状態をふまえて慎重の上にも慎重にトレーニングを行うことが大切になります。つまり、ウォーム・アップ、インターバル(セットとセットの間隔)、運動の強度(故障をきたすことのないと判断される範囲での運動強度)を、いつも画一的にするのではなく、その時の状態に合わせて多少変えるようにすることです。

 ことに運動の強度については、使用重量および反復回数に細心の注意が必要です。体調を無視して、限界に近い重量を試みたり、また、やりなれた重量であっても、いつもの回数にこだわって無理に反復しないようにすることです。

 以上、くどくどとわかりきったことを述べたのは、あなたを初め読者の皆さんに対する老婆心からです。ベテランのビルダーですら時には故障するのですから、初・中級者の場合にはいくら注意しても注意し過ぎるということはありません。

 それにしても、あなたの場合感心なのは、現在、痛めた肘をかばい上体の運動を徹底的に休んでいることです。少しよくなると、痛みをおしてでも運動を行いたくなるのが人情ですが、よく我慢していると思います。

 筋や腱、あるいは靭帯を損傷した場合は、運動によって起こる一時的な腫脹(こり)とはちがいますから、痛みをこらえて無理に故障した部分を使用するのはくれぐれも慎むことです。無理に使うことは回復を遅くするだけではなく、ときには患部を悪化させることにもなります。

 したがって、筋や腱、または靭帯を痛めた場合には、患部の痛みが消えるまでは、痛みのともなう運動は行わないようにすることです。また、ある程度回復するまでは叩いたり揉んだりするのも慎むほうがよいでしよう。素人考えでやたらに叩いたり揉んだりすると損傷した箇所(筋や腱、または靭帯そのものの傷ついた箇所)を一層悪くすることにもなるので注意してください。故障の程度にもよるでしょうができれば専門医の診断を受け、その指示に従うのが安全でしよう。

 前置きが長くなりましたが、それでは、あなたの質問についてお答えすることにします。

 肘を使わずに胸、肩、背など上体の筋に刺激を与える方法はないこともありません。バーベルやダンベル等のウェイトを用いて行う方法ではもちろん不可能ですが、アイソメトリックによる方法や、トレーニング・パートナーの力を借りることによって、上腕部に負荷を与え、胸、肩、背等の筋を刺激することは可能です。しかし、肘を使わないとはいえ、胸、肩、背等の筋の緊張を促すことは、連鎖的に肘にも力がはいってしまうおそれがあるのでやはり慎むのが無難です。焦せる気持はわからないでもありませんが、無理をして傷を悪化させては元も子もありません。ここは一番、一日も早く回復させるよう、治療に専念するのが最善の方法ではないでしょうか。いま、あなたに必要なのは自制心です。一時の焦燥感に負けて無理なトレーニングを行うことは、悔を後に残すことになるかもしれません。御自重ください。

膝をケガしたが、トレーニングを続行するにはどうしたらよいか

Q ボディビル歴4カ月、先日。ちよっとした事故で膝を痛めいまだに歩くのにも痛みを感じています。脚の運動はもちろんのこと、立った姿勢で重い重量を扱う運動ができません。

 医師の診断では、しばらくそっとしておけば治るとのことなので心配はしておりませんが、ただ、そのためにせっかく効果の出はじめたトレーニングを休むのが残念でなりません。

 つきましては、今度のことはともかくとして、今後、またこのようなことがないとも限りませんので、その場合のトレーニングの仕方をアドバイスしてください。参考までにケガをする前の運動種目は下記のとおりです。

 ①シット・アップ
 ②スクワット
 ③ベンチ・プレス
 ④ベント・オーバー・ローイング
 ⑤プレス・ビハインド・ネック
 ⑥ベーベル・カール

 (青森県 赤田芳男 会社員 19才)
A
 ケガをしていても、なかなかトレーニングを休めないのがボディビルダーの心境というものでしよう。しかし、実際にケガをしており、そのケガが運動を行うのにさしさわるのであれば、トレーニングをひかえるより仕方ありません。痛みこらえて無理に運動を行なっても、運動が中途半端になるだけで、その上まかりまちがえば患部が悪化して、かえって長期間トレーニングを休まなければならないということにもなりかねません。

 トレーニングの休止による効果の減退を考え、不安な気持になるのはわからないではありませんが、無理をするのは絶対に慎しまねばなりません。何らかの故障があるときは、焦る気持を押え、実状を冷静に判断した上で、もっともよいと思われる方策を立てるようにしなければなりません。

 その結果、もしもトレーニングを休むのがいちばんよいという結論が出たときは、思いきってトレーニングを休むことです。

 前置きが長くなりましたが、では、あなたの質問についてお答えすることとしましよう。

 あなたの場合、故障が局部的であるので全面的にトレーニングを休むこともないでしよう。結論をいえば、膝に負担をかける運動を除外してトレーニングを行うようにすることです。また膝にさほど負担がかからなくても、痛みがともなう運動は、痛みがともなわない体勢で行うようにすればよいでしよう。患部が痛むということは、患部を悪化させないための警告ですから。痛みを我慢して運動を行うことは絶対に避けることです。

 それでは、各部分の運動のやり方について実際的に述べてみます。

 ①脚の運動
 歩くのにさえさしつかえるほどに膝が故障しているのですから、脚の運動は一切行わないようにすることです。故障が治りスクワットを再開するときは軽い重量で始め、日数をかけて徐々に休止前の使用重量に戻すようにして下さい。

 いきなり余裕のない重量を使用して運動を行うと、膝を再び痛めるおそれがあるばかりでなく、筋の消耗と回復のバランスがくずれ、筋力を休止前の状態に戻しにくくすることがあります。くれぐれも再開時のトレーニングは筋を激しく消耗させることのないように留意してトレーニングすることが大切です。

 ②腹の運動
 足首を固定して行う種類の腹筋運動は、脚部にも負担がかかるので膝の痛みがともなうことがあります。その場合は、足首を固定しないで行うVシットとかトランク・カール、あるいはレッグ・レイズ等を行うようにするとよいでしよう。

 ○Vレット
 床に仰向きに寝た姿勢から、上体と脚を同時に上へあげ、臀部を支点にして体でV字型をつくるように動作を行う運動。

 ○トランク・カール
 床またはベンチに仰臥し、背の下部の方が床(またはベンチ)から離れない範囲で行う腹筋運動。つまり、普通のシット・アップのように完全に上体を起こしてしまわずに、途中までの範囲で動作を反復する運動。もちろん足首は固定しないで行う。反動をつかわずに、できるだけゆっくり行うようにする。

 ○レッグ・レイズ
 いろいろな姿勢で行う方法があるが普通は仰臥した姿勢か、または座った姿勢で行う。仰臥した姿勢で行う方法は、床またはベンチに両脚を伸ばして仰向きに寝、その体勢から両足を上方へあげるようにする。腹筋台に頭の方を高くしてぶら下がるように寝た姿勢で行なってもよい(インクライン・レッグ・レイズ)。

 座った姿勢で行う方法(シーテッド・レッグ・レイズ)は、脚を前方に伸ばして床またはベンチに腰をおろした姿勢から、両足を上にあげるようにする。

 ③胸の運動
 ベンチに仰臥して行う胸の運動は、膝の故障にはさしさわりありませんから自由に行なってください。

 ④肩の運動
 立った姿勢で行うプレス運動は脚にも負担がかかるので、ベンチに腰をかけた姿勢で行うのがよい。つまりフロント・プレス、ラタラル・レイズ、バック・プレス等の運動を、ベンチにまたがるように腰を掛けた姿勢で行う。

 かなりひどく痛めている場合は、重量を肩の位置まで引きあげるクリーンの動作に無理がともなうと思われるので、その場合には、重い重量を必要としないラタラル・レイズを行うようにするのがよい。

 ○シーテッド・ラタラル・レイズ
 両手にそれぞれダンベルをぶらさげてベンチに腰をかけ、その姿勢から腕を伸ばしたまま、あるいは少しまげた状態でダンベル真横へあげる。あげたときに手の甲が上になるように運動を行うこと。

 ⑤背(広背筋)の運動
 バーベルを用いて行うベント・オーバー・ローイングは、思いのほか膝に負担がかかるので、膝を痛めているときはひかえる方がよい。しかしダンベルを使って片手で行うべント・オーバー・ローイング(ワン・ハンド・ローイング)は膝にかかる負担を軽減できるので、故障の程度によっては行うようにしてもさしつかえない。だが、ワン・ハンド・ローイングでもさしさわりがあるようだったら、そのときは、膝にまったく負担のかからないチンニングを行うようにすればよい。

 ○ワン・ハンド・ローイング
 立った姿勢で上体を床面と平行になるぐらいに前倒し、ベンチまたは箱などに片手をついてからだを支えたら、もう一方の手にダンベルを持って、片手だけのベント・オーバー・ローイングの動作を行う。ダンベルを引きあげたときに、横向きに上体を起こしすぎないように注意する。つまり、水泳のクロールで息を吸うときのような状態になると広背筋に与える効果が半減する。

 ○チンニング
 鉄棒にぶらさがって腕を屈曲し、体を引きあげる運動。いわゆる懸垂運動のこと。

 ⑥腕(上腕二頭筋)の運動
 腕の運動も肩の運動と同様に、ベンチに腰を掛けた体勢で運動を行うことによって、故障している膝に負担をかけないようにすることができる

 ○シーテッド・バーベル・カール
 ベンチに腰を掛けて行うバーベル・カール。ただし、この運動は、運動の範囲が立って行う方法と比べて狭くなるので、上腕二頭筋の運動を1種目のみに限定して行う場合は、次に紹介するシーテッド・ダンベル・カールを採用することをおすすめする。

 ○シーテッド・ダンベル・カール
 両手にそれぞれダンベルを持ち、ベンチに腰を掛けて行うカール。両腕を交互に屈曲するようにしてもよい(オールターニット・カール)。また片手ずつ行うようにしてもよい。

 <トレーニング・コース例>
 ①レッグ・レイズ
 ②ベンチ・プレス
 ③チンニング
 ④シーテッド・ラタラル・レイズ
 ⑤シーテッド・ダンベル・カール

 以上が、あなたの質問に対する回答ですが、要は、膝の痛みがともなう動作、または体勢で運動を行うのを避けて、痛みを感じない方法でトレーニングを行うようにすることです。

〔解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・武内 威先生〕
月刊ボディビルディング1976年6月号

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