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JBBAボディビル・テキスト㉞
指導者のためのからだづくりの科学 各論Ⅱ(栄養について)

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月刊ボディビルディング1976年7月号
掲載日:2018.07.21
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野匡宣

5一3 脂質

脂質とは植物性、動物性等の脂肪分のことで、糖質や蛋白質の2倍以上のカロリーを出し、炭水化物と同様に身体活動のエネルギー源として欠かすことのできないものである。

エネルギー源としては、おもに貯蔵脂肪が使われるが、体内では炭水化物ほど燃焼しやすくないので、あまり摂りすぎるとかえってからだに悪い影響を与える。また、不可欠脂肪酸は細胞の構造に必要な類脂質(リポイド)の材料になるものが多い。

<5ー3ー1>脂質の定義

脂質は動植物の組織に広く分布し、水に不溶で、有機溶媒、たとえばエーテル、アルコール、クロロホルム、アセトン等に溶解する物質で、脂肪酸またはその誘導体を含み、生体に利用される一群の化合物の総称である。これには油脂のみではなく、ロウ、リン脂質、糖脂質のほか、諸種の油脂溶媒に易溶性の物質等が含まれている。

<5ー3ー2>脂質の分類

脂質は化学的構造から次の3種類に分類されている。

①単純脂質
中性脂肪または単に脂肪ともいわれるもので、脂肪酸と3価のアルコールであるグリセリン、または他のアルコールが脱水縮合して出来たエステルである。油脂、ロウ、コレステロール、エステル等がこれに属する

②複合脂質
類脂質とかリポイドともいわれ単純脂質に他の成分が結合したもので、その構成成分の種類により糖脂質、リン脂質、タンパク脂質に大別される。

③誘導脂質
単純脂質または複合脂質の分解生成物とその他のエーテル可溶性成分であって、脂肪酸、グリセリン、ステリン類、炭化水素、脂溶性ビタミン等がこれに属する。

<5一3一3>単純脂質

脂肪はまたは中性脂肪ともいわれることは前記したが、グリセリンと脂肪酸との化合物で、炭素、酸素、水酸の3元素からなっている化合物である。

[註]グリセリンは3価のアルコールであり、アルコールと酸の化合物をエステルといっているが、脂肪酸のグリセリンエステル(グリセライドとも呼ぶ)を脂肪という。

食用油の成分も中性脂肪で、普通の食物に含まれる脂肪は大部分が中性脂肪である。単に脂肪と呼ばれることもあり、エネルギー源として重要なものである。

<5一3一4>誘導脂質

①脂肪酸
脂肪酸にはいろいろの種類があるので、それに応じて、脂肪もいろいろ違った性質をもっている。

すなわち、脂肪酸は分子内の構造によって種々の異性体が存在する。詳細についてはまたの機会にゆずるが、その大要は次のとおりである。

脂肪酸は分子中に二重結合を有するか否かによって、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸に大別され、また常温において液体酸と固体酸等に分類されることもある。

要するに脂肪酸は炭素、酸素、水素からなりたっており、炭素の数に相当して水素の数が充分結合していないものを不飽和脂肪酸と呼んでいる。不飽和脂肪酸のうちリノレイン酸、リノール酸、アラキドン酸等を不可欠脂肪酸、または必須脂肪酸と呼び、あるいはビタミンFともいわれる。

一般に必須脂肪酸等の不飽和脂肪酸は液状脂肪で植物性脂肪に多い。とうもろこし油、大豆油、ゴマ油等に多く含まれている。

ー方、飽和脂肪酸は分子内に二重結合を含まない単純結合の脂肪酸で分子内の炭素数が増すにつれ水に溶けにくくなり、融点は上昇し、常温では固体となるもので、動物性脂肪に多く含まれている。天然に最も多く存在するものは、パルミチン酸、ステアリン酸、カブリン酸、アラキジン酸等である。バター、へッド、ラード、ヤシ油、落花生油等に多く含まれている。

②グリセリン
グリセリンは粘調で甘味を有する3価のアルコールで、脂肪酸と共に重要な脂質構成成分である。水やアルコールには易溶であるが油脂溶媒には不溶である。

③ステリン
別名ステロイドまたはステロールとも呼ばれ、配糖体型以外は大体べンゼン、ベンジンのような有機溶剤に溶け易く、無色で不飽和度の少ない中性物質である。天然脂質の不ケン化物質の代表的なもので環状構造を持った高級アルコールで、遊離状または脂肪酸とエステル状、または配糖体を形成し、動植物体に広く分布する生体成分の1つである。

胆汁酸、性ホルモン、副腎皮質ホルモン等、生理上極めて重要な一群の化合物を総称してステロイドといっている。

動物性ステリン(コレステリン)は、動物の組織にすべて含有され、とくに脳、脊髄に多く、また植物性ステリン(エルゴステリン)は酵母や高等菌類、クロレラ等に特有のもので、紫外線によりビタミンD2となる。植物性にはシトステリンとして植物種子油の中にあるものもある

<5ー3ー5>類脂質

複合脂質とも呼ばれ単純脂質にリンや糖などの他の成分が結合したもので、原形質の構造に深い関係をもち、ことに原形質の膜構造に大きな役割を果たしている。また、リポイドとも呼ばれ水にはとけないものである。

①リン脂質
脂肪酸およびリン酸を含む化合物の総称で、動物臓器の脂質に多いが貯蔵脂肪としては少なく、生理的に重要な作用を営んでいる。植物性油には一般に少ないが、豆類の脂質には割に多い。

リン脂質を加水分解すると、グリセリン、脂肪酸、リン酸、および塩類を生じ、塩基成分の違いによりレシチン、ケフアリン酸等々、いろいろ分けられている。

②糖脂質
脂肪酸と糖からなり、グリセリンおよびリン酸を含まない脂質で、ガラクト脂質とかグルコ脂質とかに分類されているが、一般にリン脂質と共に脳や神経組織の中に存在している生理的に重要な化合物で、植物組織には見出されない。

<5ー3ー6>まとめ

以上、脂質について概要を述べたが脂肪酸にはいろいろの種類があり、ひと口に脂肪といってもいろいろと性質が異なっていることを分かっていただけたことと思う。

すなわち、脂肪には常温で固型のものと液状のものとがあり、液状のものを油(Oil)といい、固体状のものを脂(Fat)と呼んでいる。グリセリンと結合する脂肪酸の種類により油脂の性状が異なる。不飽和酸を多く含むグリセライドは飽和酸を多く含むグリセライドに比し融点が低く、常温で液状を呈するものである。

トリグリセライドに酵素、熱、酸等を作用させると加水分解が起こり、完全にグリセリンと脂肪酸になる。しかしアルカリで加水分解すると脂肪酸はアルカリの塩となって水に溶けるようになる。この脂肪酸のアルカリ塩をー般に石けんという。すなわち油脂に苛性アルカリのアルコール溶液を加えて熱するとグリセリンと石ケンに分解する。この現象をケン化と呼んでいる。

次欄に天然油脂(単純脂質)の分類をかかげておく。

人体への脂肪の供給源は動物、植物の両方であるが、植物の体内では、まず炭水化物からグリセリンと脂肪が出来、ついでそれらがもととは違った化合の仕方をして脂肪となるが、動物の体内でも同様のことが行われている。
【天然油脂の分類】

【天然油脂の分類】

炭水化物と脂肪は体内で互いに作りかえられている。また、脂肪酸は活性酢酸と多数のマロン酸が結合して合成される。故に脂肪は脂肪酸とグリセリンに分解し、グリセリンはグリセリン酸、リン酸を経てビルピン酸になり、TCA回路に入って分解される。脂肪酸はβ酸化の過程ですべて活性酢酸になり、TCA回路に入る。

天然の脂肪酸は炭素数が偶数で、呼吸の際にすべて酸化されると酢酸になる。要するに、脂肪は脂肪酸とグリセロールに分解され、酸化を受けてからどちらも炭水化物の代謝経路に入り、最終的には炭酸ガスと水に分解される

生体内の脂肪の大部分は、皮下、腸間膜等の脂肪組織に存在する貯蔵脂肪であるが、一部はリン脂質、糖脂質、コレステロールのような型で、血液や組織細胞内に含まれ、組織脂肪と呼ばれる。

一般には、脂肪の摂取カロリーは総摂取カロリーの20%(1日約50g 450カロリー)程度が望ましいといわれている。(以下次号)
月刊ボディビルディング1976年7月号

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