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JBBAボディビル・テキスト37
指導者のためのからだづくりの科学
各論Ⅱ(栄養について)

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月刊ボディビルディング1976年9月号
掲載日:2018.07.22
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野 匡宜

5-4 たんぱく質

 たんぱく質は、すベての細胞構成の基礎成分であると共に、細胞が生活作用を営む上に欠くことのできない酵素の母体をなしている。また、組織の機能を調節する作用のあるホルモン類は多くはたんぱく質の分解により生ずるものか、たんぱく質そのものである。

 すなわち、たんぱく質がよく、人間の血となり肉となるものだといわれるのは、身体の筋肉や組織、臓器を構成している細胞をつくる基質(材料)の主成分がたんぱく質であるためである。

 プロティン(protein)という語は、約100年前、オランダの生化学者ムルダーによって、ギリシャ語のproteios(最も重要なもの、第一に摂取すべきもの)から名付けられたもので、たんぱく質そのものを意味しており、たんなる商品名やプロティンロ・パウダーの略ではない。

 人間のからだは約20兆個の細胞のかたまりであり、その細胞は、働きを終えると自然に消失し、残っている細胞が勢いよく分裂して、新しい活性の強い細胞が生まれるもので、このように細胞の入れ替りが絶えず行われていることが、実際面での生命の維持ということになる。

 すなわち、細胞の材料がたんぱく質であるからたんぱく質が絶えず入れ替りを連続して行なっているということになる。故に、この入れ替りを順調にするためには良質のたんぱく質を必要なだけ食物として摂らなければならない。

 第2次大戦後、欧米先進国とわが国との動物性食品の一日平均摂取量を比較して゛たんぱく質が足りないよ″式の栄養指導が行われ、動物性食品の優位性が説かれてきたが、明治初期の牛なべから100年、良質のたんぱく質というと肉というような、肉食促進論をいま一度考えるべき時期にきているのではなかろうか。

 5-4-1 たんぱく質の組成

 たんぱく質は、糖質や脂質と異なり元素的には炭素・酸素・水素の他に、必ず窒素を含み、また一般に硫黄をも含んでおり、中にはリン、鉄等を含んでいるものもある。

 これらの元素が種々のアミノ酸を構成し、そのアミノ酸が最少単位となって、アミノ酸の組合せや、結合の順序等の相違により、多数縮合した有機の高分子化合物で異なった無数のたんぱく質が存在する。

 要するに、たんぱく質は動植物体の基本構成成分で、生命活動に最も重要な物質である。分子の組成は約20種類のアミノ酸から出来上っているが、分子の中に含まれる元素組成の割合は、いろいろのたんぱく質でも、ほぼ次表のとおり一定している。
 たんぱく質の元素組成表

 たんぱく質の元素組成表

 5-4-2 たんぱく質の分類

 たんぱく質は約20種類のアミノ酸がペプチド結合と呼ばれる様式で縮合した巨大な分子であるため、その組合せや結合順序の相違によって無数のたんぱく質が存在し、これらの中には構成アミノ酸以外に他の物質と結合したりあるいは種々の作用を受けて変化したものもなど、その構造に未だ不明な点があり、正確に分類することは非常にむづかしいが、一応次の3つに分類されている。

<1>単純たんぱく質
加水分解によって、アミノ酸、あるいはその誘導体のみを生ずるたんぱく質。水その他の溶媒に対する溶解性の相違によって、アブルミン、グロブリン、グルテリン、アルブノイド、ブロラミン、ヒストンのように分類されている。

<2>複合たんぱく質
 単純たんぱく質と非たんぱく性物質(リン・糖・色素・核酸等)とが結合したもの。核たんぱく質、糖たんぱく質、リンたんぱく質、色素たんぱく質に細分類されている。

<3>誘導たんぱく質
 天然たんぱく質(単純たんぱく質、および複合たんぱく質)が物理的、化学的、生理的変化を受けて、もとのたんぱく質の構造、あるいは組成や性質に大きな変化を生じたものの総称である。

 また、その変化の過程により次のように分けられる。
イ:第一次誘導たんぱく質(変性たんぱく質)-分子量に変化なく、その立体構造が変化し、性質が変化したたんぱく質で、これもその過程によりプロテアン、メタプロテアン、凝固たんぱく質に分けられる。
ロ:第二次誘導たんぱく質(分解たんぱく質)-第一次誘導たんぱく質より変化の過程がすすみ、分子量の減少を伴うもので、酵素や酸により加水分解されてアミノ酸までにいたる
中間成生物をいうが、これもその過程によりプロデオース、ペプトン、ペプチド等と呼ばれる。

5-4-3 たんぱく質の質と栄養

 食品たんぱく質の栄養価は、そのたんぱく質を搆成するアミノ酸、とくに必須アミノ酸が、からだの要求をどれだけ満しうるかという事できまってくる。
 体たんぱく質の消耗を補い、また成長のために必要なたんぱく質を補うのに、食品の中のたんぱく質がすべて同等の効果があるというわけではない。その種類により大きな差がある。すなわち、たんぱく質の種類によって栄養的に差があるのは、現在までのいろいろな動物実験等の研究により、そのたんぱく質を構成するアミノ酸の種類と量によって差の生ずることが証明されてきている。(各種食品についてのたんぱく質含量や、たんぱく質食品といわれるものの組成等については日本食品標準分析表を参照されたい)

5-4-4 アミノ酸について

 1820年に、ブラノコットがグリシン(最も簡単なアミノ酸で、絹糸などに多く含まれており、体内では他のアミノ酸から合成される)を、ゼラチンの加水分解物の中に見出してから、現在までに100種以上のアミノ酸が確認されているが、われわれが食物として摂取する天然のたんぱく質は約20種のアミノ酸がいろいろな結合をして出来ている。

 故に、たんぱく質の栄養価は、そのたんぱく質を構成するアミノ酸の種類と量によって変わり、たんぱく質は生体内ではアミノ酸にまで分解された後に利用されるものであるから、アミノ酸そのものの栄養価値についても研究されてきたが、人間の場合には、体内で合成されるアミノ酸と、体内ではどうしても合成されないか、または、合成されても極く微量のため、体外より食物として摂取しなければならないものとの2種類に分類される。

 後者のどうしても必要だが、体内ではどうにもならない、以下にあげる8種類のアミノ酸を必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)と呼んでいる。つまり、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、フェニールアラニンの8種である。

 ただし、乳児の場合には、以上の8種の他にヒスチジンと呼ばれるものも必要であるといわれ、これを加えて9種を必須アミノ酸としている。

 また、メチオニンは部分的にはシスチンで、フェニールアラニンは部分的にはチロシンで代用できるため、これらシスチン、チロシンは必須アミノ酸ではないが、メチオニン、フェニールアラニンの役割を代わってするものとして重視されている。

 故に必須アミノ酸は成人では8種類乳児(小児)では9種類である。
 これらの必須アミノ酸は、体内で他の栄養素、または他のアミノ酸から合成できないので、食物として摂らなければならないことは前にも述べたが、これに対して8種の必須(不可欠)アミノ酸以外のアミノ酸を可欠アミノ酸と呼んでいる。

 必須アミノ酸以外の可欠アミノ酸は生体内で他の有機化合物から合成される。可欠アミノ酸の体内での生成はグルタミン酸が中心的な役割をはたしている。可欠アミノ酸としては、アラニン、ヒドロオキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、プロリン、ヒスチジン、チロキシン、チロシン、システイン、シスチン、グリシン等である。

 以上の必須、および可欠を含む約20種類のアミノ酸が、いろいろな組合せをなし、天然物中のたんぱく質を組成している。食品たんぱく質の栄養価値は、そのたんぱく質を構成するアミノ酸、とくに体内で生合成されない必須アミノ酸が、からだの要求をどれだけ満たしうるかによって決ってくる。

 故に、たんぱく質は、欠けている必須アミノ酸を添加すること、すなわちたんぱく質にアミノ酸、あるいは他のたんぱく質を添加することによって、たんぱく質の栄養価値が上がるものでこれを補足効果と呼んでいる。

 アミノ酸は、体内で他の可欠アミノ酸に変わ・つたり、必要に応じてたんぱく質を合成したり、他の窒素化合物に変わるだけでなく、窒素部分を外して酸化分解されてエネルギーを発生するが、これらはアミノ酸代謝の化学としての分野である。

5-4-5 たんぱく質の代謝

 人体を構成する窒素のうち、約50%は筋肉に、17%が骨に、10%が脂肪組織や皮膚に分布しているが、血液中に10%、臓器(肝臓その他)に8%が見られる。

 たんぱく質、アミノ酸の代謝は非常に活発で、体全体のたんぱく質の半分が約3週間から遅いもので80日間ぐらいで代謝置換されて(入れ替わって)いる。

 われわれが食物として摂ったたんぱく質は、体内で一応アミノ酸にまで分解され、アミノ酸は吸収されたあと門脈を通って肝臓に達し、ここで必要な変化を受けるが、もともと体内にあったアミノ酸とは何の区別もなく必要な代謝を受けるもので、このような素材に使われるアミノ酸は、体内で肝臓のような一定の場所に貯えられているものではなく、からだ全体に普遍的に存在しているもので、必要な代謝に備えられているというように考えられている。このようなアミノ酸を概念的にアミノ酸代謝プールと呼んでいる。

 要するに、食物として体内に入ったアミノ酸は、まず必要な個有のたんぱく質にそれぞれ合成されたり、核酸その他の窒素化合物の合成材料となると同時に、一部は他の熱量素のように酸化分解を受けエネルギーを供給する。この時に放出される窒素分は、大部分が尿素に変わり、血液から尿へ排泄される。

 つまり、摂取たんぱく質は、成人においては体たんぱく質の補修、ホルモン、酵素、あるいは肝汁等をつくるのに必要であり、成長期においては体たんぱく質の構成アミノ酸を供給するために必要であり、これらの合成に用いられるとともに、一部は貯蔵たんぱく質として(さきほど略記した代謝プールとしての考えの下で)組織に保有されている。しかし、その量はそれほど多くはない。

 体たんぱく質の合成や、その他の合成に使われなかったアミノ酸のほとんどは肝臓で分解されて、尿素、尿酸、クレアチニン等となり、尿中に排泄されるが、その時に生ずるエネルギーが熱源として利用される。またある種のアミノ酸からは糖質・脂質も合成される。アミノ酸からの体内においてのたんぱく質の合成や分解に関しては複雑な酵素の作用によるもので、未だに不明な点も多い。

5-4-6 摂取上の考慮

 たんぱく質が人体にとって必要なものであることはいまさら改めていうまでもない。そして、その所要量を決める問題は、カロリー所要量と共に種々研究検討されてきた。

 国際連合食糧農業機構(FAO)の見解によると、「たんぱく質所要量はたんぱく質を構成するアミノ酸組成を考えずに定めることは出来ない」との考えの下に、また実際に食たんぱく質所要量を求めるとき、「比較たんぱく質に換算した最少必要量から、①個人差をカバーすること。②食たんぱくの質を考えること、の2点を考慮する必要があるとしている。

 ①の個人差については50%の安全率を見込むことにより、②の食たんぱくの質についてはたんぱく価(プロティンスコア)をもって考慮するという考え方で補正している。

 プロティンスコアとは、どうして算出されるものかというと、食品たんぱくのアミノ酸組成を求め、FOAでトリプトファンを1として算出した必須アミノ酸の基準構成比率1957年)と比較し、その結果、どのアミノ酸が基準構成と比較して最も少ないかを求め(この最も不足しているアミノ酸を第一制限アミノ酸という)、この制限アミノ酸が比較アミノ酸の何%に当るかの割合でたんぱく質の栄養価を表わしている。

 その後1965年、 FAOとWHO(世界保健機構)の共同委員会において、また1973年には同じく共同委員会で、暫定的アミノ酸評定パターンが示され研究検討されている。

 これらの諸表を示すと、かえって繁雑となり理解し難く感ずる人も多いことと考えられるので、 1973年、 FAOとWHOの合同特別委員会による必須アミノ酸の必要量のみを次に掲載するにとどめ、他表は省略する。
 一応、プロテインスコアに対する概要をつかんでいただければよい。
 必須アミノ酸の必要量

 必須アミノ酸の必要量

 上の表で明らかなように、小児では成人に比べて体重当りの所要量が数倍から10倍にもなることで、これはいかにアミノ酸が発育成長に重要であるかを示している。

 われわれ日本人のたんぱく質所要量いままでに述べた考えを基準として求めてみると、比較たんぱく質所要量は、成人の場合体重1 kg当り0. 35gであるから0.35g×2÷0.8÷0.7)×体重= 1.259×体重(kg)となる。

 上の式の2は安全率、0.8は消化吸収率、 0.7はたんぱく価を示す。故に体重1kg当たり1.25gを基準とみて摂取すればよい。

 食品には動物性、植物性を問わず、たんぱく質を多少とも含んでいるものであるが、その含有量や構成アミノ酸の数や量により、たんぱく食品とそうでないもの、また、たんぱく食品でも良質のものとそうでないものとに分けられる。

 良質のたんぱく食品というのは、必須アミノ酸を多く含んでいること、つまりプロテインスコアが高いこと。また、必須アミノ酸のみならず、可欠アミノ酸も適当に含まれていることが大切である。

 良質のたんぱく質を多く含むものとしては、肉類、魚類、乳類、卵類等がある。一般に肉類が最高のごとくいわれ、たんぱく質というと肉を連想するほど、肉食促進論が大勢を占めているが、植物性たんぱく質でも非常に良質のものがある。

 たとえば、俗に゛畑の肉″といわれる大豆などは、たんぱく質の含有量や構成アミノ酸の含有量を日本食品アミノ酸組成表で肉と比較対照してみればいかにすぐれたものか理解出来る。改めて植物性たんぱく質についても見直す必要を感じる。
 
 このように、たんぱく質の必要量について考えるとき、たんに必須アミノ酸相互の量比はもちろんであるが、アルギニン、ヒスチジンのような準必須アミノ酸として取り扱われるものもあるから、可欠アミノ酸についても考慮を忘れてはならない。

 たんに必須アミノ酸を充すだけのものと、これに可欠アミノ酸を加えたものとの動物飼育実験によれば、はるかに後者の方が発育成長に効果があることが発表されている。

 このようなことから考えれば、たんぱく質を摂るとき、各種たんぱく食品つまり、肉とか卵とか一品に片寄ることなく、各種食品をバランスよく数種類摂ることが、それぞれの欠点を補い栄養価を有効にするものである。

 また、食物摂取によって起こる代謝の特異動的作用(特殊力源作用――各栄養素を単独に与えた場合、たんぱく質は最も高く約30%である)も忘れてはならない。その状況により、この特異動的作用をうまく利用するのも1つの方法であるが、たんぱく質は貯臓たんぱく質としては概念的にたんぱく質代謝プール以外、他の栄養素のように多量に貯蔵されず、俗にいう食いだめはできない。

 一般にたんぱく質は脂肪に変化することは少なく、胃の中にとどまっている時間が長いので、空腹感をおこしにくい。また、たんぱく質代謝は他の栄養素より複雑であるため必要以上にたんぱく質を多く摂ることは、かえって身体に負担を多くかけるので注意しなければならない。また、カロリー源になる栄養素の摂取量が不充分の場合、たんぱく質が体のたんぱく質の合成に使われず、カロリー源として利用され、たんぱく欠乏症になっていろいろの障害を引き起こすことがあるから注意しなければならない。

 高たんぱく食が腎臓に負担を与えることは動物実験によって明らかになっているが、人間では極めて多量でないとそれほど負担にはならないとしているが、たんぱく質の安全摂取レベルについては未だ問題が多い。ただ、腎臓障害をもっている者に対しては注意しなければならない。その他、高たんぱく食と動脈硬化、狭心症、糖尿病等の関連が今後興味を引く問題であろう。

 一般的にいって、人間はエネルギー代謝量に相当するだけの熱量を摂取する能力をもっている。すなわち、空腹を満すために食事を摂取すれば、ほぼカロリー要求を満しているし、また、必須脂肪酸以外の脂肪酸は糖質から合成しうるので、糖質、脂肪の比率はそれほど厳密さを要しない。しかし、たんぱく質を必要量だけ摂取し補う能力つまりたんぱく質の不足分を補う分だけ摂取しようとする能力はもっていない。故にたんぱく質の摂取についてはいろいろな注意や考慮が必要である。

 可欠アミノ酸は体内で炭水化物の中間代謝副産物として、あるいはアミノ酸相互転換によって種々のアミノ酸がつくられており、必須アミノ酸は通常のたんぱく食品をバランスよ<摂っていれぱその中に充分に含まれている。特殊な場合を除き、特別に薬品としてとる必要があるとは考えられない。

 代謝によって生成される産物は、非常に特異的で、種の差はおろか、同一個体内でも組織によって違いがある。たんぱく質がその例を最も顕著に表わしている。その分子を構成している成分は約20種のアミノ酸であるが、その組み合せは無数に近く、この多様性こそ生物の持つ特徴の基礎である。

 同じ筋肉でも、牛と馬ではたんぱく質の種類が違い、したがって牛肉を食べてもそのままでは利用されない。いったん消化して構成単位のアミノ酸まで分解したのち、われわれ自身のたんぱく質に再合成して利用する。それならば、たんぱく質でなくアミノ酸を摂ればよいように考えられるが、動物にたんぱく質を含まない精製したアミノ酸を含む食物を与え、その成長をたんぱく質投与群と比較してみると、たんぱく質を与えた方が良い結果が得られるといわれている。

 最近盛んに各社からハイプロティンが売出されているが、これらの多くは植物性たんぱく質を抽出して、粒状または粉末状にしたものである。これは植物性たんぱく質を改めて見直している1つの表われだと考える。

 植物性たんぱく質を見直し、できるだけ天然のもので摂るようにすることが最良の方法であろう。また、天然食品に含まれているミネラルやビタミン類等、たとえそれが微量であっても、栄養素としてのバランスになんらかの相乗的働きをなし、プラス・アルファーの効果をもたらすものであろう。
月刊ボディビルディング1976年9月号

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