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☆ボディビルと私☆
ボディビルと共に歩んだ二十年 1976年9月号

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月刊ボディビルディング1976年9月号
掲載日:2018.07.27
パワーリフティング全日本フェザー級日本記録保持者
富 永 義 信(税理士)
3回にわたって私か過去20年間、ボディビルと取り組んできた気持や、いろいろの思い出について書いたが、今回はその最後として、私か実施してきたトレーニングの方法を思い出すままに書いてみたい。

 初期のトレーニング法

逞しい体をつくるためにボディビルを選んだ私は、週5日、1日2時間のトレーニングを必ず実施した。セット間のインターバルは1分以内、バーベルを挙げる回数は10回、とにかく連日ハードトレーニングを行なった。その当時、最低次の種目は必ずスケジュールに組み入れた。

ベンチ・プレス、スクワット、スタンディング・プレス、ネック・ビハインド、カール、プルオーバー、ローイング・モーション、腹筋、懸垂等。1セット10回ずつ、5~8セット。その他ダンベル使用によるトレーニングも行い、ほとんど休みなく約2時間トレーニングをした。

大きな筋肉と強い力をつけたかったために、1セット10回で5セットできるようになったら、すぐ5 kg増量のペースでトレーニングをやっていく。ボディビル・センターに入門した当時、ベンチ・プレス50kg (1回挙上)だったのが、半年の練習で100 kg(1回挙上)が挙げれるようになった。半年の間に50 kgも強くなったのはペースが早い方と思うが、いま振り返ってみるとよく練習をしたこと、それに、例えば80 kgで10回を5セットできるようになったら、すぐに増量して85 kg~90kgで10回できるように頑張ったこと。ここまでやれたという満足よりも、もっと強くなるんだという気構えを私は常にもって練習したのが進歩の早い原因だったように思う。

バーベルなど見たくもないつらい日もあった。
しかし私は決して練習を休まなかった。そういう時、無理に練習するよりも、休んだ方がいいとも思われる。しかし私は自分がやりたくない日は自由に休むという癖をつけたくなかったために、あえて練習を続けたのである。そういう時はセット数を減らして、どんなにつらくとも、とにかくバーベルから離れないという気持でやった。そして自分の練習を早めに終わって、人の練習を見た。つらそうに、真剣にやっている者の練習を黙って見ていた。
つらいのは自分だけではないんだと自分自身に思い込ませるためである。こういう時はスランプの時期なので、調子はよくない。ところが頑張り精神を貫いていると、知らず知らず意志の強い人間に成長していくものである。また、そういうスランプの時期を通過してしまえば、今度は一段と力が強く逞しい体になって、嬉しい結果が現れるものである。
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パワーリフティングのためのトレーニング

 昭和41年からパワーリフティング大会が行われるようになり、これを切っ掛けに私はコンテストのためのトレーニングをパワーのためのトレーニングに切り替えた。それまでは15種目ぐらい行なっていたものが、次のような種目に変った。

 ベンチ・プレス、スクワット、デッド・リフト、懸垂、腹筋、柔軟体操。1日おき、1日2時間のトレーニング。セット間の休憩は今までと違って約3分。やる気ばかりあっても十分に呼吸を整えなければ重い重量は挙げられず、失敗すると自信をなくすので、呼吸が整うまで約3分間、セット間の休憩をとる。

 1種目のセット数は、軽い重量で10回を1セット行い、後は1セット6回~3回で、10~15セット。私の場合、最低でも1セット3回は挙げるようにしているが、それは地力をつけるためである。2種目の3回挙上制の時期の私は、記録を向上させたい事が頭から離れず、相当無理なスケジュールを組んだ。

 トレーニング種目はベンチ・プレスとスクワットが主で、セット間に腹筋等の練習をした。これは腹筋を出すためではなく、ベルトで腹囲を強く締めつけるために、それに耐えれるよう、体に無理がいかないためである。同じ日に2種目共行い、1日おきに練習した。1種目10~15セット・1回挙上はやらず、最低3回挙上とした。
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 練習が終ったときはかなり疲れを感じ、1日の休養では筋肉の疲労はとれず、腕、肩、腰の痛みはバイブレーターで筋肉をほぐす事により疲労同復を早める。練習方法に特徴がなかった事と、記録をあげる事のみにこだわったトレーニング法で、精神的ゆとりがなく、練習の割には大した効果はなかった。

 しかし、いま振り返ってプラスになった点は、ハード・トレーニングを行なったために体力がついた事で、現在は練習後筋肉が痛む事はほとんどない。昭和41年から48年頃までの8年間は休力増強のためのパワーリフティング・トレーニングだったと私は思っている。

自分の家でのトレーニング

 私の場合、一般の人と違う点は、練習はいつも自分一人である。本当はトレーニング・センターに通うにこした事はないと思うが、しかしそれができにくいのは、税理士という職業のためである。税理士の場合、あっちこっち顧問会社をとび廻らなければならない。そういう条件で、一定のトレーニング・センターに決まった時間に行って練習する事は不可能である。そこで私は責任の重い仕事と、チャンピオンを日指すための厳しいトレーニングは、意志の力を強くもって自分の家で練習するより他にないと思った。

 この時、次の2つの不安があった。一つは、練習相手いないただ一人のトレーニングが、これから先ずっとできるか否か。そしてもう一つは、パワーの練習は自己の力を極限まで出し切って練習しなければならない。バーベルにつぶれそうになっても助けを求められない。それは非常に危険な事である。そういう事で一人でやっていく自信はなかった。
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 しかし、どうしても仕事と両立して選手生活を続けたい一心で、私はまずトレーニングの危険防止を考えた。スクワット台はパワー大会で使用されているものを参考に、私の体に合わせて作った。ところが、ベンチ・プレスについては非常に困った。幾日も考えた末、実にいい案が浮かんだ。私の胸の厚さに合わせ、両脇に補助台をつける事に気づいた。プレスする際、でん部をベンチからあげなくとも、ベンチに寝た胸の高さは幾分高くなっている。そして途中あげられなくなってつぶれると両方の補助台にバーベル・ジャブ卜が支えられ、普通の姿勢に戻るとシャフトより2~3センチ下に胸がきている。その補助台があまり高すぎるとプレスできないし、また、低すぎるとつぶれた場合、補助の役目が果されない。プレスする際の胸の高さ、普通の姿勢に戻ったときの胸の高さを精密に計り、一番いい位置に補助台がくるようにした。

 この場合、補助台はバーベルの手前(シャフトを握る手の方)にあるので、つぶれた場合、手をはさむおそれがある。そのために、なるべく長いシャフト(私の使用シャフトは180cm)を使わなければならない。

 私はこうして本格的トレーニングができるように器具を揃えた。最初は事実不安だったが、半年続いたら、一人でやっていける自信がついた。

 パワーリフティング大会を目標に練習するなら、年が明けてからでは遅い。やるなら夏から準備練習に入るのが一番いい。夏からだったらあせることなく正確なフォームで練習できる。ところが試合が毎年春行われるために、その2、3ヵ月前から練習にとりかかると、どうしても無理にバーベルを挙げようとする。せっかく力の配分やフォームが決まり、記録がのび出した頃、試合にぶつかる。

 また、逆に試合間際になって記録がおちる人がある。それは疲労のためと、フォームが完全に自分のものになっていないためと思う。そういう時は決してあせらず、練習で挙げた重量は試合でも挙げられると思って自分の心を落ち着けた方がいいと思う。心の冷静さを保つ訓練は何事にも共通する大切な事である。

 パワーの場合は、一日のトレーニング時間は少なくていいが、トレーニング期間は長い方がいいように私の経験から思える。何事も忍耐である。

 試合前のトレーニング

 試合前2ヵ月になると、2日続けでの練習、1日の休みのペースで、みっちり2時間行う。セット数は15~20セット。練習が終ったときは疲れを感じるが、1晩寝ると疲労はとれている。

 疲れが翌日まで持ち越せばオーバー・ワークであり、練習を終った直後、疲れを感じないのはトレーニング不足と思われる。自分の体調は自分が一番よく知っている筈である。決して無理な練習の追い込みをやらず、規則正しく練習する方が効果はあがると思う。私の場合、試合前の3種目の使用重量と回数を具体にあげると次のようである。

 ☆ペンチ・プレス
  10  6  6  5~2(回)     
  90 120 130 140 (kg)    
 140 kgの練習は、1セットの回数をできるだけ多くする。140 kgだけで最低7セットは行う。家で練習する場合は、140 kg以上はほとんど行なわない。それよりも140kgを何回挙げら事ができるか練習する。ただし試合1~2週間前になると次のような練習にする。

  10  6  3  1  1  1  1  1(回)
  60 120 130 140 145 150 155(kg)
 1日おきの練習。セット数は7~8セット。 140kg以上は各1回挙上、155kgが1回も挙がらない場合は、決してムキにならず、再び挑戦しないで希望を次の練習につなぐ。

 ☆スクワット
  10  6   3   3  3  3(回)
  90 120 140 150 160 170 (kg)
 170kgを3回×5セット以上行う。原則として私はスクワットは3回以上は行わない。5~6回行える力がついたら、すぐに10 kg増量する。ベンチ・プレスと違って、大きな筋肉であげる事ができるので、3回挙げる事により筋力の鍛練は十分と思う。6回挙上だと、呼吸調整、筋肉の疲労回復に時間を必要とし、セット間のインターバルを長くとる事になり、練習内容の密度が薄くなるようである。試合1~2週間前になると次のような練習をする。
  10   6   3  3  1  1  1  1(回)
  60 120 140 150 160 170 175 180 (kg)
 180 kgでつぶれればそれで練習は終り。成功しても家ではこれ以上の重量は行なっていない。

 ☆デッド・リフト
 昭和49年度パワーリフティング大会から廃止となり、1年半練習ストップ。しかし世界選手権は3種目行われるので、昭和50年全日本大会が終ってすぐ練習開始。
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 デッド・リフトは3回以上は行わない。最初の引きが一番重く、バーベルが少しでも床から浮けば楽になる。足幅を広くした方がよいのではないかと考えて、足幅を広くして練習したが、いままでどちらかといえば足幅が狭かった私には非常にむづかしく思えた。記録はあがるどころか、逆におちるし、元のフォームに戻して練習しようと幾度も思った。

 その時、全日本と実業団の「努力賞」のトロフィーが私の目に入った。努力! 私はもう一度考え直し、夜10時頃だったが、デッド・リフトのフォームを練習した。パワーのフォームは実際にバーベルをもたなければできない。また、軽い重量ではいいフォームができるが、重くなるに従ってくずれてくる。その重い重量の時にフォームがしっかりしていれば、その人のフォームは決まったものと思う。一度は止めようかと思った足幅の広い構えのトレーニングも、日本人の体形には足幅が広い方が有利という事で、私は自分で試してみた。足幅が狹いと背筋に非常に負担がかかる。足幅が広いと、背筋のみならず足の力を利用できる。何事も努力である。

 ☆まとめ
〈1〉長い間の経験で普段の練習で回数を挙げる事が必要だと(ただし6回以上は決して必要ない)私なりに思うようになった。 とくにベンチ・プレスの場合は次の事がいえる。1回挙上の練習方法では、バーベルが重いために1回は何とか挙げられたが、2回はどうも無理、しかし、1回半なら何とかやれそうな時がある。その場合は1回で止めてしまう事になり、実に惜しい練習と思われる。ぎりぎり挙げるところに、より強い筋力がついてくると思うからである。 3回~4回できる重量なら、半回ではなくもう1回頑張れる筈である。
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 スクワットの場合は、足腰の大きな筋肉を使うので、1回目が重くても気力で2回は挙げられる。ところがベンチの場合は腕、肩、胸等、役に立ってくれる筋肉は小さい。だから3回以上挙げるようにしたい。この方法をとり入れてから私は確かに強くなった。試合でも最後のねばりが出る。絶対につぶれないという確信をもつためには大いに地力をつけたいものである。

 また、ベンチ・プレスを強くしようと思ったら、バーベルを胸から挙げる時、両方の肘を絞って中に入れるようにする。そうするとねばりが出る。そして上半身のみでなく、両足もしっかりと踏ん張る事を忘れないでほしい。ベンチ・プレスは寝差しであるが、全身の力をフルに出さねばならない。

〈2〉スクワットとデッド・リフトは密接な関係があるように思う。だからできるだけ両者は同じフォームにした方が望ましい。足と腰の力を同時に使う事は大いに関連がある。両者は同じ日には思うように練習できにくい。練習日の組み合わせについて、月曜日スクワット、火曜日デッド・リフトをやるようにした方がいいと思う。デッド・リフトの翌日は幾分疲労が残るので、十分なスクワットの練習ができにくいからである。

〈3〉試合1~2週間前の練習時間は、1時間半以内として、とくに真剣に1回1回熱を入れて行う。最後の仕上げとして大切な時である。練習で失敗が多いと、気持のあせりがでてますますマイナスになる。ベスト記録に失敗しても、決してムキにならない方がいい。成功した時と失敗した時の筋肉の疲労は相当な差がある。何故なら、挙がらないものを無理に挙げようとするところに相当のエネルギーを費やしてしまうからである。一度目の失敗の時よりも筋力がおちているところに2度目の挑戦、また失敗すると筋力はどんどんおちていく。これではかえって自信をなくす結果となる。

 練習で成功したら、気分のいいところで試合にのぞめばいい。また、練習で失敗したら、そのうっぷんを試合で晴らせばいい。人間の心は、自分の思い方一つでどうにもなる。もうだめだとふさぎ込めばそれで終りだ。常に前進の気持をもちたいものである。

〈4〉試合はたいてい日曜日だから、練習は木曜日まで行なって、金曜日、土曜日はゆっくり体を休める。神経を使う仕事は事情が許す限り試合終了後の月曜日以後にする。私の場合、試合前の練習をしない2日間も、そういった意味で非常に大切している。

スランプからの脱出法

 これからパワーリフティングを目指そうという若い人は、体が疲れ切るまで練習する方がいいと思う。ところが、相当の経験者で、記録がストップしている人はトレーニング方法を変えられた方がいいと、私の経験から思う。トレーニングの積み重ねによって筋力は強くなるが、しかしそれには限界がある。

 私はある時期、ベンチ・プレスの記録がのびず、記録向上に限界を感じた。それから私は、もうこれ以上ムキになって練習しても記録はあがらないと思うようになった。もちろん、猛トレーニングの期間に記録はのびたことはあった。しかし、足踏み状態からの脱出はトレーニング方法を変えなければならない。同じバーベル・トレーニングでありながら、どうしたら強くなるか、またどこの筋肉を一番多く使うかを考えながら1回1回熱心に挙げた。1セット5~6回の回数をやる事によって、自分のペースを掴みとろうと努力した。ダンベルは使用しなかったが、その方法は私に合ったトレーニング法だったようである。

 記録があがり、ベンチ・プレスに物凄く自信がついてきた。またある時、同じ重量がいつもより軽く挙げられた。ベンチ・プレチの際のバーベルの握り幅がいままでと違うことに気がっいた。私はすぐにバーベルに印をつけた。そして何回も練習して、翌日筋肉が痛むところを調べた。いままでと違った筋肉が痛いということは、今までと違った筋肉を使っていることである。そしてその部分の筋肉を鍛えればより以上力は強くなる。ただし、違った筋肉を使って翌日どの部分の筋肉が痛いかをみる場合、決して他の種目をやらないこと。そうでなければ、筋肉の痛みはそのためかどうか明確でなくなる。
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 結論として、いろいろな補助運動はそれほど行わなくとも、その競技種目のみで結構強くなると思う。トレーニング方法として、猛烈なトレーニング期間、研究しながらのトレーニング期間、その組み合わせが必要だと思う。
スポーツというものは、体育のペーパー・テストと違って、頭で覚えることではなく、体で覚え込むものである。
 つまり、熱心にトレーニングを行うことにより、自分のものにしなければならない。だから素質に恵まれた人よりも、努力家の方が最後の勝利者になる、と私は思う。

事故防止の心がまえ

 ボディビル歴20年、パワーリフティング競技歴10年、いまようやく、練習方法が分りかけてきた。相当の年月がかかるものである。それも幾度ものスランプにぶつかり、振り返ってみるとよくもあきることなく中途で挫折しなかったものと思っている。また、いまから1、2年前に現役を退いていたら、練習方法もいまほど掴めていなかったと思う。

 私のボディビルの目的は逞しい体を作り、強い力をつけることにとどまらず、より強い心になりたいことである。そしていまでは私の健康法に結びついている。重い重量を挙げたり、減量をする事は体に無理がいく事には違いない。そのために私は次の事に気をつけている。

〈1〉自分の限界の重量には試合前を除くと、3ヵ月に1回ぐらいしか挑戦しない。

〈2〉トレーニング中、怒嘖をできるだけしないように心がける。私の気合は自己を発奮させるためと、そして怒嘖作用を軽減させるためである。

〈3〉バーベルやプレートを足で踏んだり、けとばしたり、放り投げたり絶対にしない。バーベルをまたがない。パーベルは私の体と心を逞しくしてくれる大切な友であり、私にとってかけがえのない先生である。

〈4〉練習中であっても、私は試技に入る前と終ってから、必ずバーベルに一礼する。お願いしますと一礼してバーベルをもち、そしてバーベルをおいてからありがとうございましたと一礼する。これは私の癖になっている。これからバーベルに向かうんだという心と体が完全に一致するので、ケガをすることがない。

〈5〉 記録の向上のみを考えて、決して無理なトレーニングを行わない。常に記録の向上しか頭になければ、パワーリフティングをやっているためにかえって心が狭くなり、スポーツマンならぬ記録マンになってしまう。人間的には賛成できない。また、それでは心の健康とはいえない。

〈6〉 仕事上においても、バーベルで鍛えた心を大いに活かすように心掛ける。頑張り精神がそれであり、どんな難問題に直面しても決してあきらめない。最後までやり抜く精神をトレーニングによって養成する。

〈7〉暴飲暴食、夜ふかし、無理をしない。水分を必要以上にとりすぎない。体重と腹囲は時々計り、とくに試合が終ってからの贅肉に悩まされないように日頃から気をつける。肉を食べたら同時に野菜をとるようにする。

〈8〉体を冷やさないようにする。夏の夜、ねる時は薄着となるが、とくに関節を冷やさないように心掛ける。

試合の心得

 パワーリフティングは精神力が大きくものをいう。相手が人間である他のスポーツは、相手も調子が悪い場合もある。ところが何しろ相手がバーベル故に、重さはいつも同じである。

 試合にのぞむ時、私は次のような事を心掛けている。

〈1〉優勝・記録にこだわらず・常に自己のベストを尽すこと。

〈2〉自分の事のみでなく、大会を盛りあげるためにいい試合をやれるように心掛ける。スポーツマンらしい試合態度で試技を行う。

〈3〉 誰々は非常に強い。今度は日本記録は大幅に更新される。試合前によくこんなことが噂される。しかしこれに耳をかしてはならない。練習と試合は全く別である。観衆の前のみではなく、審判の厳しさを通過していない練習と、その厳しさを通過しなければならない試合とは自ずから違って当然である。練習時と違って、試合では体重調整、体調に少しの狂いも許されない。人の噂を決して恐れないこと。それよりもマイペースを守れる者がいい成績を残す。

〈4〉日本腕相撲協会々長の山本哲先生からよく云われたが、「練習を試合と思え、試合を練習と思え」を私はいつも頭の中においている。練習こそ明日の試合に結びつくのだ。いい加減の練習ではいけない。試合はその成果である。あまり緊張しては逆効果となる。

〈5〉ベンチ・プレスは胸で1秒間静止、「ダウン」の号令でバーベルをラックに戻す。スクワットは「始め」の号令で試技を開始し、最後は「ダウン」の号令がかかるが、要するに試合と同じように練習すること。それは体で自分に覚え込ませるためである。

〈6〉ベンチ・プレスをいきなり胸にもってくる人は、ラックをできるだけ低く。逆に一度両肘をのばしてラックからはずす人は、ラックをできるだけ高く調整すること。それは無駄な力を少しでも使わないためである。

〈7〉1回目の試技から日本記録に挑む選手がいるが、相当自信があるのだろう。しかし、練習と試合は大きな違いがある。だからできれば2回目の試技で日本記録挑戦をねらった方がいい。

〈8〉試合1週間前は本当の試合の雰囲気を思い浮かべ、試合と同じような態度で練習。そして試合の日はできるだけ心を落ち着けるように努める。

〈9〉 絶対にあきらめないこと。不可能に近いことであっても、また、途中でバーベルがあがらなくなりそうになっても、絶対にあきらめないことである。

〈10〉 日本記録に挑んで失敗した場合は、そのどこがいけなかったか、必ず反省する。気づいたところはメモをとり、次の試合の参考にする。

 以上のようなことを心掛けている。チャンピオンになった当時は、追われる自分が精神的につらく、負担が大きかった。しかし、いまでは慣れたためか、精神的に強くなったのか、全く負担にならなくなった。

 うだるように暑い日、北風の吹きすさぶ寒い日のトレーニングは、実につらい。しかし、苦しいのは皆同じなんだ。そこを通過しなければ、栄光の座にたどり着けないのである。喜べる日の到来を信じて、私はきょうもトレーニングに励んでいる。  
                                                【完】
月刊ボディビルディング1976年9月号

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