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コンテスト審査の所見と
1976ミスター日本コンテスト展望

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月刊ボディビルディング1976年10月号
掲載日:2018.07.30
佐野匡宣

◇はじめに

毎年6月から9月にかけての休日には、全国のどこかで府県コンテストあるいはブロック・コンテストが行われ、とくに7月〜8月は最盛期で、真夏の風物詩として、日頃鍛えた筋肉の逞しさ、美しさを競う男の祭典が展開されている。
そして、それらの一連のコンテストの最終決算である第22代チャンピオンを決定するミスター日本コンテストが来る10月11日(振替休日)、大阪毎日本ホールで実施されるが、去る8月15日大阪高島屋ローズシアターにおいて開催された本年度選抜大会や、その他一連の地方大会の成果をも含めて展望してみよう。
とくに選抜戦においては、回を重ねるにしたがって、各選手は努力の成果を如何なく発揮、質的向上は一段と開花したようである。それぞれ自分の特徴をよく把握し、それを強調するとともに、全体としての調和も考えて鍛え込んだあとがよくうかがえた。出場した5選手は、誰が代表に選ばれても決して内容的に大差あるものではなく、迫仲した実に見ごたえのあるものであった。不運にして選ばれなかった4選手も来るべき第22回大会に意欲を燃やしていることであろう。
参考のため、1976年度選抜大会の審査採点一覧表を別表に掲げておく。
とくに今回の選抜大会において痛感したことは、選手たちが充実してくればくるほど、審査が難しくなることである。他のスポーツのように、記録や勝敗が誰の目にも判然とするものでないだけに、審査基準という大きな枠の中で、審査員それぞれの主観によって採点される以上、そこにいろいろな見方や反響が生まれるおそれの存在することは当然かも知れない。

◇コンテストはスポーツか

ボディビルとは果たしてスポーツなのか、それとも体育なのか。トレーニングにより身体を鍛え、体位の向上。体力の維持、増強をはかるという意味では体育指向であろう。また、コンテストにおけるポージングは、スポーツなのか芸術なのか。これも議論のあるところであろう。とくに、選手としての場合と、ゲスト・ポーザーとしての立場では、心理的指向も当然違ってくるであろう。
スポーツであれば何をおいても競技性が最優先されるであろう。芸術であれば美の追求が何よりも必要となってくる。ボディ・コンテストでは、鍛え込まれた筋肉を如何に表現するかというところに重点があるため、やはり競技性と芸術性の両面性を持っているように思われる。このような点から、人によっていろいろな意見や、見方があるのは当然であろう。
1976年度ミスター・ユニバース選抜大会審査採点表

1976年度ミスター・ユニバース選抜大会審査採点表

◇具体的な主観、目的の確立を

アマ・スポーツにおいて、最初は楽しむためであった競技、競争が、今日では目的と化し、勝敗がすべてであるかのような錯覚を起こしているのではないかと思う。
体位向上、体力増強を目的としたボディビル運動においても、コンテストという面からみると、他のスポーツと同様に、なんらかの錯覚が生じているのではなかろうか。
時代の流れは、オリンピックを頂点とする各種の国際大会、あるいは国内大会で優勝するために選手のセミプロ化が進み、本来の目的からだんだん離れていくような傾向が見られる。
時代の変遷に伴い、また、スポーツの大衆化と合理主義の浸透などによりスポーツの在り方も変わってくるのが当然であり、このような傾向を全く否定するものではないが、しかし、われわれは過去の事実に学びつつ、新しい時代のスポーツの在り方を考えるべきであろう。
手段化されたスポーツは、あまりに現実すぎて、ロマンがなさすぎるではないか。
〔杉田茂選手〕

〔杉田茂選手〕

◇スポーツマン・シップとは

スポーツマン・シップは、平素の激しい練習に耐えてこそ、自然に身につくものであろうが、その中にロマンを求めて、何かに挑戦するとき、生命の躍動があり、スポーツに創造性が生まれてくるのではなかろうか。
年齢を超越し、情熱をたぎらせ、あふれる闘志とエネルギーをぶつけて、厳しい勝負に挑む、その姿にスポーツの良さがあり、すがすがしさ、逞しさが感じられる。そして、そこにドラマが生まれ、感動を呼ぶのである。
スポーツにおける勝敗は、もちろんゆるがせにできない厳然たる事実であり、けじめではあるが、それがすべてではない。単に勝つためのもののみであってはならないのである。
どんな大会でも、選手宣誓では必ず「スポーツマン・シップにのっとり……」と使っているが、このスポーツマン・シップとは何なのか。私は〝溢れる闘志とエネルギーをぶつけて、最高の努力を出しつくすところに、勝敗を超越した満足感として表われてくるもの〟と解釈している。
このように考えると、ボディ・コンテストにおいて、男の逞しさ、筋肉の美しさ、躍動を表現するため、情熱をたぎらせ、エネルギーを完全燃焼させるところにスポーツとしての良さがあり、すがすがしさがある。つまり、スポーツマン・シップが発揮されていると見る。
〔須藤孝三選手〕

〔須藤孝三選手〕

◇審査のむづかしさ

以上のように考えてくると、コンテストにはドラマがあるように思う。ドラマには主役がいる。それがチャンピオンであるかも知れないし、また、出場選手全員かも知れない。
しかし、いかに主役があろうと、それだけではドラマは盛りあがらない。主役の陰にかくれて、とかく忘れられがちな裏方さんの努力、万全の競技環境に支えられて、はじめて感動するドラマが生まれることを忘れてはならない。そして、このドラマの評価を左右するのが審査員ではなかろうか。つまりコンテストを盛りあげるための大きな要素が審査員の双肩にかかっているのである。審査員の責任の重さ、そして審査のむづかしさをあらためて感ぜずにはいられない。
私は審査に当ってはつねに、過去のイメージにとらわれることなく、それまでの心象的な主観等はきれいに捨て去り、現時点における選手個々について、出来るだけ正確にその真実をつかまなければならないと考えている。
そのためには、油断なく「目をそそぐ」こと以外にはない。すべての選手を眺め、その1つ1つを余すところなく見てとること。出来るだけメモをとること。何ひとつ憶測することなく、すべての選手に対して、冷静に、正確に、その時点における状態を把握しようと心がけている。そして、自分ならではという発見を、自分ならではという審査技術を、自信と信念をもって開発努力することが重要であるとの考えのもとで、常に試行錯誤している。
体操の床運動や、フィギュア・スケート、水泳の飛込み等のように、その動きに細かい規定があり、減点項目が定められており、点数が表示されるような審査・審判とは異なり、ボディ・コンテストの場合、審査規定に示された概括的の枠の中で、主観の重点をどこにおくかは各自にまかされた現状では、見方の相違や採点等について、いろいろと議論の出るのは当然であろうが、出来るだけ具体的に説明でき、納得のいくようなものであるよう心掛けるべきである。
審査方法等についても、たとえ審査員構成が変わっても、同じような結果が得られるような権威ある審査方法の研究検討を積み重ねるべきであろう。良い方法があればお教え願いたいし、また多くの参考意見等も拝聴いたしたいと常に思っている。このような意味で、本誌9月号〝南海先生の独り言〟や沢田二郎氏のご意見は非常に興味深く読ませていただいた。
コンテストにおける審査は、常に出場選手の比較審査であり、出場時点における選手の状態を、できるだけ同一条件で、なんらの憶測なく、白紙の状態で比較することが大切であろう。
この意味からすれば、選手紹介もたんに氏名、年齢、出身地、または所属別等で充分であり、その他は不要と考える。身体の各部のサイズなどは、大会関係者によって実測されたものではなく、出場申込者の数字をそのまま紹介しても、中には不正確なものも多く見られるので、かえって誤解をまねき易い。
また、大会における紹介は、プロレスリングやボクシングのリング・アナウンサーのような紹介は、かえって好ましくない。このことは、コンテストの競技としての特殊性からみて、大会に出場する選手と、ゲスト・ポーザーとしての紹介とはおのずから区別されるべきであろう。
これからボディ・コンテストを観戦する場合、たんなる一選手のファン気質とか、ひいきの引き倒しで見るのではなく、できるだけ冷静に、公正な立場で、審査員になったつもりで観ていただきたい。
〔奥田孝美選手〕

〔奥田孝美選手〕

〔榎本正司選手〕

〔榎本正司選手〕

〔石神日出喜選手〕

〔石神日出喜選手〕

〔長宗五十夫選手〕

〔長宗五十夫選手〕

◇ミスター日本コンテスト展望

本誌が読者の手許に届く頃は、旬日を出でずして第22回ミスター日本コンテストが行われる。また、いつも私のこのコンテスト予想における選手に関する記事が、何かと問題にされているようでもあり、とくに今回は本記事による反撥練習の期間がなく、〝モウイクツ寝ルト、コンテスト〟と、選手諸君も闘志を燃やして、最後の調整段階に入っている時期でもあるので、ごく概略的に述べることにしたい。

<優勝を争う選手たち>
1972年にミスター日本に優勝。そして翌1973年ミスター・ユニバースに出場した時より、一段と大きく、そして凄みを増した杉田茂選手。今大会にはゲスト・ポーザーではなく選手として出場してもらいたい。
昨年度のミスター・ユニバースのクラス優勝で自信をつけ、上半身、下半身のバランスが良くなり、安定したプロポーションの良さを加えた須藤孝三選手。
真に鍛え込んだバルクとデフィニションの良さを増した石神日出喜選手。
非常にきびしい減量に耐え、プロポーションの良さとキレの良いデフィニションを持続して迫力抜群の榎本正司選手。
筋肉の量では抜群の奥田孝美選手。
以上の5選手がそろって出場となれば、予想はするだけヤボというもの。わが国のコンテスト始まって以来の圧観となろう。各選手ともそれぞれ特徴があり、そろって調子をくずさず、大会当日、いかにポージングするかによって勝敗が分かれるであろう。

<前記5選手を追う選手たち>
兵庫の長宗五十夫選手、石川の糸崎大三選手。大阪の木本五郎選手。ともに意欲を燃やし、闘志をみなぎらせて努力していることであろう。大会当日までの調整如何では、決して前記5選手に劣るものではない。

<入賞を狙う選手たち>
本年度のミスター・アポロ、ミスター関西で善戦した兵庫の東海林選手。大阪の鉾之原選手。ミスター九州、西日本と順調に制覇してきた福岡の牧島選手。昨年は体調のくずれで入賞を果たせなかったが、本年は中部日本、実業団と連続制覇した愛知の梅村選手。キレの良さをもって安定した実力の福岡の寺川選手。

<本年のダーク・ホース>
ミスター東北を制覇し、アポロでも善戦した福島の奥瀬選手。1973年度全日本学生チャンピオンで、プロポーションとキレの良さで定評のある東京の河村選手。1974年度JFBBオール・ジャパンでスケールの大きさを誇る東京の中川選手。
3人とも相当な活躍が期待され、優勝争いとは別に、上位入賞をかけて今大会の台風の目となろう。

<その他の期待される選手>
以上の他、富山の野崎選手。東京の古谷選手。福岡の村本選手。北海道の佐藤選手、静岡の鈴木選手等々が虎視眺々、決勝進出、あるいは上位入賞を狙っているであろうし、また、沖縄の知名選手、東京の宮畑選手らも健在の姿を見せ頑張ってほしい。さらに、東京の加藤選手。大阪の塚本選手も何とかスランプを脱出し、意欲に溢れた勇姿をぜひ見せて欲しい。
各選手とも、この1年間の努力の成果をいかんなく発揮できるよう、大会当日まで自重自愛、調整に万全を期し最高の状態で出場されるよう願ってやまない。
本年度ミスター日本コンテスト展望は、予想としては不充分かも知れないが、私なりに審査についての考え方を中心に、また反省をも含めて自問自答してみた。なんらかの参考になれば幸いである。
〔糸崎大三選手〕

〔糸崎大三選手〕

〔木本五郎選手〕

〔木本五郎選手〕

〔河村登選手〕

〔河村登選手〕

〔中川幸雄選手〕

〔中川幸雄選手〕

月刊ボディビルディング1976年10月号

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