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JBBAボディビル・テキスト37
指導者のためのからだづくりの科学

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月刊ボディビルディング1976年10月号
掲載日:2018.07.02

各論Ⅱ(栄養について)5-栄養素

日本ボディビル協会指導員審査会委員長  佐 野 匡 宣

5-5 無機質

物質はすべて有機質と無機質とに分けられ、有機質は炭素原子を中心とした化合物で,三大栄養素がそうであり、組織や物質を燃焼させると灰が残るが、これが無機質である。

 例えば、この無機質を含まない食物で動物を飼育すると死んでしまう。このことは、無機質が成長と生命に如何に重要であるかを示している。そして、これらは無機質、無機物、無機成分、無機塩類、塩類、鉱物質、灰分、ミネラル等々いろいろと呼ばれている。

5-5-1 人体の元素組成

 生体の99%は水素・酸素・炭素・窒素の4種の元素で占められ、その他の元素は1%程度しか存在していない。

 人体の元素組成表はテキスト⑥(1974年1月号48頁表― 1, 49頁表-2)で示したとおりであるが、生体元素として、炭素・水素・酸素・窒素・リン・イオウの6種類が代表的なもので、熱量素を主とする有機物と水の成分で、このほかのものはいわゆる無機質として、酵素などの機能に撮影を及ぼしたり、イオンとして存在するなどして生命現象に関与している。

 すなわち、無機質とは、栄養素として化学的な熱量は出さないが、体構成成分となり、生命機能の調節をつかさどるもので、我々の生存には絶対に必要なものである。生体内で合成や他の元素への変換も出来ない、各々みな必要な栄養素である。

 このように人体に必要な無機質は普通次の2群に分けられている。

 比較的量の多いナトリウム、マグネシウム、リン、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム等を微量元素と呼び、
これらより微量のホウ素、ケイ素、マンガン、コバルト、鉄、ヨウ素、モリブデン、バナジウム等を超微量元素と
呼ぶ。

 人体には微量、超微量元素としてほとんどあらゆる元素を検出することが出来るが、このように多種類の元素が生体に存在していながら、今日までその生理的意義が明らかにされたものは約20種類程度にしかすぎない。

5-5-2 無機質の生理的機能

 無機質の人体における機能は次の3つに大別される。

①硬組織の構成
 骨や歯の構成成分としてカルシウム、リン、マグネシウム等が関与し、骨格組織に剛性、耐久性を与えている。

②軟組織の構成
 有機化合物の必須要素として、鉄、リン、イオウ、カリウム、ヨウ素、塩素等が関与し、軟組織(筋肉、皮膚、臓器、血液)等の主要固形分をなしている。

③生体機能の調節作用
 可溶塩類として常に体液の中に存在し、カルシウム、ナトリウム、エンソ、カリウム、マグネシウム等が関与しており、神経の刺激感受性、筋肉の弾性の維持等興奮性の調節、消化液、其の他分泌液への酸性、あるいはアルカリ性の賦与、血液及び組織液の中性の保持、または浸透圧と量の調整維持、酵素の活性化、血色素及びホルモンの成分、等々の重要な役割を果たしている。

5-5-3 主な無機質の体内における分布

 人体には約3kgの灰分が含まれており、その83%は骨の成分であり、筋肉には10%、皮膚には1%、臓器等には2.8%,血液には0.7%、その他約2%と言われ無機質の4/5強は骨格にある。

A)比較的量の多い微量無機質
①カルシウム(Ca)
 カルシウムは骨、歯、筋肉、皮膚等、分布は広いが、成人で普通約1kgのカルシウムが体内にあり、骨には全体量の99%~98%がリン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムの形で存在する。血液中のカルシウムは血しょうの中にあり、その内約40%は蛋白質と結合しており、他はイオン状態で存在している。

 カルシウムを多く含む食品としては(イ)牛乳及び乳製品 (ロ)骨ごと食べられる小魚 (ハ)卵黄・海藻・大豆等 (二)根菜類・葉菜類の内、シュウ酸含量の少ないキャベツ・白菜・小松菜・しゅんぎく等。

②リン(P)
 リンは体重の1%を占めており、カルシウムに次いで体内に多く、やはりその80%は骨格中に含まれ、10%が筋肉に、残りは脳・神経・肝臓・その他にあり、無機塩として存在しているほか、多くの有機化合物中に含まれている。

 リンは体成分の構成要素であると共に生体の機能を調節するものとしても重要で、リン脂質は細胞膜をつくり、浸透圧調節に関与しており、リン化合物は、エネルギー代謝に不可欠で、ATP、あるいはビタミンと結合し重要な助酵素の成分となり、代謝の中間産物として多くの種類のリン酸エステルを生じ、また核酸の構成成分としても重要である。リンは広く食品中に分布しているので特に注意をはらう必要はないが、穀類からとるリンよりも、動物性食品からとるリンの方が、体内での吸収率は良い。

③マグネシウム(Mg)
 人体の全マグネシウム量の半分は骨格にあり、その他は筋肉・脳・神経・体液に分布しているが、体内量の3/4のマグネシウムはカルシウム、リンと結合して、リン酸マグネシウムや骨の複雑な塩類として存在し、他のものは欹組織や体液中に含まれている。

 マグネシウムの機能は生体内で酵素反応の活生化剤、あるいは酵素の構成成分として、また、アミノ酸よりタンパク質を合成するときにも必要である。

 成人で1日0.2~0.3g必要と言われているが、日本食では特に不足はなく、食品中のマグネシウムの1/2は吸収され、残りが腸管を経て排出される際,カルシウムを伴ってゆくため、マグネシウムの大量摂取はカルシウムの吸収に悪影響を与えると報告されている。

④ナトリウム(Na)塩素(CI)
  ナトリウムは塩素と結合して、普通、食塩、及びリン酸塩、または重炭酸塩等の形で体液にふくまれており、また、塩素はその一部がタンパク質と結びついて存在する以外は、すべてナトリウムと結合して主に体液中に存在している。血液中ではナトリウムは血漿中に多い。ナトリウムは神経の興奮を抑制する働きをもっており、また浸透圧を保持し、胆汁、すい液、腸液等アルカリ性消化液の材料となる。

 塩素はカルシウム、ナトリウム、カリウムと共に浸透圧の維持、体液の中性の調節に関係している。塩素は胃液中の塩酸の成分としてなくてはならないもので, HC1の形で胃液中に分泌され、消化作用に重要な働きをしている。

 一般に食品中にはカリウムが多く、ナトリウムが少ないから、その平衡のために食塩が要求されると考えられている。食塩の日常摂取量は2~6gとされているが、発汗の激しい時は8~12gを必要とする。
 なお食塩は高血圧、さらには脳卒中との関係が注目されているので、その所要量はむしろ過剰が問題となるため注意すべきである。

⑤カリウム(K)
 カリウムは、体内ではリン酸、夕ンパク質と結合しており、すべて細胞内液に多く、外液には少ない。細胞内液の浸透圧維持、筋肉の機能、神経の機能に関与しており、カリウムの濃度の高い時は抑制的に、低い時は刺激的に働き、また体内での解糖反応、尿素生成反応に関与する酵素の活生剤としても働いている。

B)量の少ない超微量無機質
①鉄(Fe)
 鉄は成人の人体では2~6g、平均4.5g含まれており、その大部分(70%近く)は血液中に、血色素鉄ヘモグロビンとしてあり、そのほか、筋肉中に筋血色素鉄ミオグロビンとして、肝臓、脾臓、骨髄等に貯蔵鉄として存在している。すなわち、血液中では大部分が赤血球の中のヘモグロビンとして存在しており、その他生体内では鉄はチトクローム、カタラーゼ、バルオ、オキシダーゼ等の酵素成分やミオグロビンとして全身の細胞に存在している。

 これらの酵素やヘモグロビンは、すべて生体内で呼吸作用に関係し組織に酸素を運搬する役割を果たしている。1日約1%のヘモグロビンが分解され、遊離した鉄は再びヘモグロビンの合成に利用される。従って1日の必要量は10~15mgである。発育期、思春期、妊婦、授乳婦等は鉄の需要が多い。

 食品中、肉類、肝、卵、魚、緑色野菜には鉄が多く含まれており、精白穀類、牛乳、果物には含有量が少ない。したがって、精白穀類を多く食べ、動物性食品や緑色野菜の不足する食事をしている場合、鉄欠乏症を起こしやすい。

 鉄不足は貧血としてあらわれ、鉄欠乏貧血では、赤血球の色がうすくなり、形も小さくなる。

②銅(Cu)
 銅はすべての組織中に存在するが、ことに脳及び筋肉の常在成分である。銅の生理的作用は今日でもあまりよく分っていないようであるが、ヘモグロビンの形成に関係している事が認められている。すなわち鉄の利用度を高めるような働きをするものと考えられている。

 アスコルビン酸酸化酵素、チロジナーゼ等の構成成分をなしている事等が明らかになり、銅タンパク酵素の構成成分としても重要である。

 我が国の日常食では、普通3mg~6mgの銅は容易にとれるので、一般には銅不足の心配はない。

③ヨウ素(I)
 成人の体内には20~25mgのヨウ素が含まれており、そのうち1/2~3/5は甲状腺に存在しており、残りは血液その他の組織にある。甲状腺にあるヨウ素はほとんどチロキシン、ジョードチロジン等として含まれており、チロキシンは甲状腺ホルモンとして知られている。故に、ヨウ素が不足すると甲状腺ホルモンが減少し、新陳代謝が低下し、甲状腺腫が見られる。

 海産食品はヨウ素を多量に含んでおり、コンブ、ワカメ、浅草ノリ等はヨウ素のよい供給源である。

④イオウ(S)
 生体内すべての細胞の中にあるが筋肉、皮膚に多く、主としてタンパク質の中に有機物のアミノ酸(メチオニン、シスチン)として成分になっている。そのほか、イオウを含む重要な物質としては、ビタミンB1、ビオチン、コンザイムA、コンドロイチン硫酸等がある。

 イオウの代謝はタンパク質の代謝に平行して行われているので、タンパク質の摂取量が、所要量に適合しているならばそれで十分であると考えられている。

⑤マンガン(Mn)
 人体のすべての組織の中にあり、特に肝臓に多く、各種酵素の作用基として酵素の活性化に必要な元素である。すなわち、糖分解の際のオキザロ酢酸および、ビルピン酸脱炭酸酵素や尿素形成のアルギナーゼ等の酵素が、マンガンの存在で活生化される。

⑥コバルト(C)
 人体内における量は極く微量で、主として肝臓に存在し、また、ビタミンB12の構成成分であり、アルギナーゼ等の活生化に働くと共に造血作用にも関係している。

⑦亜鉛(Zn)
 亜鉛は、タンパク質の分解酵素の活生化に役立っているもので、炭酸脱水酵素、ペプチターゼ、ホルモンのインシュリン等の中に含まれており、体内組織に広く分布している。

 その他、超微量元素としてモリブデン、臭素、フッ素、セレン、アルミニウム、ヒ素、ホウ素、ニッチル、ケイ素、等がある。


    ×   ×   ×

 水についてはテキスト㉗(1975年12月号58頁~)で記したので省略するが、水は身体の2/3を占め、細胞内水分と、細胞を取り巻く細胞開液に分かれて存在し、物質代謝の上で非常に重要な役割を果たしており、水分がないと数日以上生命を維持出来ない。身体の構成成分としてもまた栄養分としても他の栄養素と共に大切である。

5-5-4 無機質の補給

 以上、無機質について、その主なものをあげ概略的にのべてきた。我々は日常無機質を水および食品類から補給している。普通の食物を偏食せずバランスよく摂っておれば、無機質は大体それらの食品から供給されるものである。

 しかし食品の種類によっては、カルシウム、ヨウ素、または鉄分等、かなり不足を見る場合もある。そこでこれら不足の量を補給するため、牛乳その他の食品にビタミン類と共に無機質を強化する研究が行われ、多くの強化食品が作られている。

 然し単に発売されている強化食品を無条件にうけいれるのではなく、その基礎をつかむ事が指導者としては大切であろう。

 例えば、戦後、乳児に対し人工栄養育児か宣伝されたが、現在再び母乳による事が見なおされて来ている。これは、母乳が乳児に対する唯一の完全食品であるからで(ただし、母乳も人種、栄養状態、または分娩後の時期等によって、その成分にかなりの変動はあるが、その灰分は平均約0.2~0. 9%であり、乳児に対する一品としての完全食品である)、これは、乳児の成長経過に伴い、母乳が自然調整されており、無機質の量及び組成等も最も適した状態に保たれているためである。

 このように出来るだけ自然食品からとる事がのぞましい。

5-5-5 無機質と食品の酸度アルカリ度

 新陳代謝における食品の酸、またはアルカリ価は、食物そのものの真の酸度、アリカリ度とは非常に違ったものである。酸味を呈する果物が、かえってアルカリ性食品とされるのは、その中に含まれているクエン酸が酸味が強く、つよい酸性を呈するが、これが体内に入ると完全に酸化され二酸化炭素となり、後にアルカリ性を呈する炭酸カリを残すためである。

 食品の酸およびアルカリ価を定める普通の方法は、食品を燃焼灰化し、灰の組成を分析して、イオウ、塩素、リン等より生ずる酸の量と、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等より生ずるアルカリの量とを比較し酸生成度の方が多ければ酸性食品、アルカリ生成度が多ければアルカリ性食品とされており、食品の酸価、アルカリ価は、いずれも食品100gを焼いて生じた灰を中和するに必要な規定酸液のcc数、あるいは規定アルカリ液のcc数をもって示している。

 すなわち、食品のアルカリ価、酸価は、その食品の中に含まれている無機質の種類と、その量如何によって定まってくる。

 要するに食品の酸価、アルカリ価が体内で作用して、体液のPHに影響を与えている。

5-5-6 体内の酸、塩基平衡

 普通代謝によって過剰の酸が出来るにもかかわらず、血液の反応はほとんど一定している。すなわち健康人であればPH7.3~7.4の微アルカリ性である。

 激しい運動をした時、一時的にこの正常な範囲をこすこともあるが、調節作用で回復する。しかし、何かの原因で、ある器官に故障が生じるか、または片寄った食事のみをとっていると、反応がはなはだしく酸性またはアルカリ性に傾き、体内の調節作用では回復出来ない状態におちいることがある。

 食品中の糖質、脂質は体内においては、結局、炭酸ガスと水になる。タンパク質の窒素は中性の尿素となる。しかしタンパク質中のシスチンやメチオニンに含まれているイオウは、硫酸イオンとなり、炭酸ガスや脂質からくるケトン体と共に体液を酸性に傾ける。

 つまり、糖質、脂質は正常の場合は酸化されて炭酸ガスと水になり、炭酸ガスは肺から排除され、水は尿又は呼気等から排除されるので大した問題はない。しかし、問題はタンパク質によって出来る過剰の酸で、特にイオウの酸化によって出来る硫酸の排除である。

 この過剰の酸は、
 ①アルカリによる中和
 ②タンパク質の窒素がアンモニアに変わって中和する
 ③緩衝作用、すなわちリン酸が酸性リン酸に変わって、自分の相手のナトリウムを硫酸に与えて尿中に排泄する
等の方法によって除かれている。

 アチドージスは、脂肪酸が体内で酸化がうまく行われず、完全に酸化されて炭酸ガスと水になるはずのものが、アセトン、アセト酢酸、B-オキシ酪酸等の中間代謝物が出来て、これらが体内で蓄積される一種の病的状態である。

 正常栄養の場合の酸、アルカリの平衡の問題は、身体をほぼ中性に維持するように働く酸をつくる要素と、アルカリ性をつくる要素との問題で、アルカリをつくる要素は、食品中のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等であり、酸をつくる要素は、食品中のリン、イオウ、塩素等である。

 血液が酸性に傾くと、神経緊張その他、代謝の面にも種々障害をもたらすので、過度の酸性食は注意すべきである。

 実際問題としては食品の酸性、アルカリ性のみに注目するよりも、むしろ栄養素のバランスに注意すればいちじるしい酸性に傾く事はないと考える。
(次回はビタミンについて)

 ◇お知らせ◇

 本誌9月号の玉利斉JBBA理事長と深谷隆司衆議院議員による「青年とスポーツ」の対談記事に出てくる「腕相撲協会」は、正式名を「日本アーム・レスリング連盟」といい国際式ルールによる腕相撲の普及発展を目的として設立されるもので、従来からある「日本腕相撲協会」とは別の組織であることをおことわりいたします。
月刊ボディビルディング1976年10月号

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