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チャンピオンへの道 <心理学によるトレーニングの効果> 1976年11月号

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月刊ボディビルディング1976年11月号
掲載日:2018.06.20
川股 宏

自分に合ったトレーニング法を開発せよ

 ときどき、自分は1年間にどのくらいトレーニングを実行したのか、そしてその結果、各部のサイズはどのくらい増えたのか、外見や迫力はどのくらい違ってきただろうか、等々と、ふと自問自答してみることがある。1日のスケジュールやセット数はわかっていても、年間セット数や年間トレーニング時間はほとんどの人が計算したことがないのではなかろうか。

 トレーニングをより多く実施し、性根こめて1セット、1セットを真面目に練習せよ! というのが一般的にいわれているトレーニングの鉄則である。

 では、このようなトレーニングを1日どのくらい、1年間でどのくらいやっていれば、何年後には一流ビルダーといわれるような体になれるのか。もちろん、そんな統計もデータもない。誰でも同じようなカーブを画いて筋肉がついてくるものではないからだ。
 
 シュワルツェネガー、コロンボ、オリバ、杉田、須藤、このような超一流とまではいかなくても、コンテストで上位に入賞するような逞しい逆三角形の人は沢山いる。しかしこれらの人達の数も一般の愛好者に比べると氷山の一角にすぎない。

 その底辺は、健康管理のためにやっている練習者から、せめて人並みの体になればいいという人、夏場だけ女性の目をそそがせようなどという人まで何万、何十万とひしめいている。だがこのような底辺の人達も、その練習法をみると一流選手とそれほど変わらないのである。

 こうした人の中から、やがてある者はどんどん筋力、筋量が発達し、ある者は十年一日のごとく発達しない。また早く発達した人が途中でピッタリ発達が止まったり、苦節数年、まったく芽の出なかった人が、急に発達して見違えるように良くなることもある。

 また、近い将来、日本のトップ・ビルダーになるに違いない、と注目された人がだめだったり、案外、こんな人がという人がトップに躍り出たりすることがある。

 コンテストで優勝した選手に「何か特別の練習でもしたのですか」と聞いても、普通の人とほとんど変わらず、判然としない場合が多い。つまり、チャンピオンが自分の体験からあみ出して、自分の体に適合した、その人のみが知るトレーニング法を実施したからである。したがって、これを一般の誰にでも納得できるように言葉でいい表わすことが出来ないのである。

 よく勝負の世界では、勝った理由の簡単な言い方として、それは根性、ファイトの違いだ、などという。ではこの根性、ファイトはどうしたら養われるのか。そして、この精神的なものとトレーニングをどう結びつけたらよいものか。

 この勝負の世界に何か経験的にも実際的にもチャンピオンになれるという具体的に説明できるような法則はないものだろうか。練習1つをとってみても、重要なのは量なのか質なのか。あるいは精神の集中度合なのか。このようにいろいろ考えてみると、そこには最大公約数的な法則はあるだろうが、これこそ絶対だ、というような法則はないに違いない。そこには人それぞれに体質、体型、生活環境の違いがあるからだ。

 窪田登教授もいつかこのことについて「だれにも共通するようなベストなトレーニング法はない」と述べておられた。チャンピオンたちの話に耳をかたむけ、研究と努力を重ね、試行錯誤をくりかえしながら、自分に適したトレーニング法を早く見つけ出した者こそ、最後の勝利者になるのである。
月刊ボディビルディング1976年11月号

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