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<緊急特報!!スタミナ栄養特集版>
ミスター日本出場選手の腹囲と皮下脂肪厚

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月刊ボディビルディング1976年12月号
掲載日:2018.08.29
野沢 秀雄 (ヘルス・インストラクター)

1.なれるものならなってみろ

 ボディビルで鍛えて筋肉をつくりあげる苦労は並々ならぬものである。

 ところが何も知らない人たちは「ビルダーのようにモリモリした体にはなりたくない。だからバーベルのトレーニングをしようとは思わない」とか、 「ウワーよして!女性があんなになるとたいへんだからボディビルはごめんよ」と、いとも簡単にいう。

 これほど失礼な発言はない。筋肉を大きくし、これを維持することがいかに困難で、時間と労力と汗を伴うものか、実際に懸命に努力した人でないとわからない。私自身、逢った人から言われることがある。「野沢さんはもっと大きいかと思っていました。いまでもボディビルをやってるんですか?」と。失礼な人は「ボディビルをやった経験はあるのですか?」と尋ねる。やってきたキャリアは長くて10数年になるし、その間ミスター大阪コンテストの舞台にあがったこともある。ベンチプレス100kg、胸囲105cm、体重64kgがベスト記録だからたいした結果ではないが、現在もこの記録を更新するためと健康・体力づくりのためにバーベルに取組んでいる。これをきくとみんなは納得した顔をしてくれるのだが。

 だから私はミスター日本コンテストに出場できるような、立派な筋肉の持ち主になるまでには、青春の全エネルギーを注ぎこんだ尊い苦労があることをよく知っている。テレビ・映画・マージャンなど享楽の時間を多くの若者たちが楽しんでいるときに、彼らは黙々とバーベルにとりくんで汗を流している。夏の暑さ、冬の寒さ、仕事の忙しさ、友だち付合いまで時には犠牲にして……。

だから他のスポーツをやっている選手たちが「クェッ、クェッ!こんなすごい筋肉になりたくない」とでもいおうものなら「なれるものならなってみろ。こんな体には甘い気持じゃあ絶対になれないよ」と即座にいうことにしている。

2.根気のある者とない者

 「胸囲1メートル。上腕囲35cm」を私は一つの水準にしている。胸囲が100を超す人は500人に1人いるかいないかだ。腕囲を加えるともっと貴重な割合になる。懸命に毎日トレーニングすれば個人差はあるだろうが約2年で達成されるのではなかろうか?

 自分の体に自信が持てる人は幸福である。単に「健康」というだけでなく人生のあらゆることに「自信」がわいてくる。

 だがここに残念な数字がある。東京の新橋トレーニングセンターの山城会長から伺ったのだが、「ジムに入会してくる人の80%が1カ月以内でやめ。90%が2カ月以内で去る。続くのは残り10%で、3カ月やれる人がビルダーとして成功する」という事実だ。大森ボディビルセンターの佐々木会長も同じ傾向であることを教えてくれた。

 ということは「ボディビルがそれだけ苦難の多いたいへんなトレーニングだ」といえるし、反面「せっかく意欲をもって入会したのだから、挫折しないでがんばりとおして男をあげてほしい」とも思う。

 ボディビルはつらい運動だけど、やったらやっただけ正直に報われる運動である。サボれば筋肉はこたえてくれないが、気合いを入れてがんばればパンプアップして大きくなる。栄養や休養をうまく配慮すれば誰にでもそれなりの効果があることは確実だ。途中であきらめたり、投げだしたりしないで、「一流選手も同じ人間だ」と考えて今日もがんばろうではないか。

3.感動したこの事実

 さて機会が与えられて去る10月11日大阪毎日ホールで開催されたミスター日本コンテストで、出場選手の腹囲と皮下脂肪を測定することができた。みなさまのご協力に厚く御礼申しあげたい。科学的に解明して、ボディビルの進歩発展に役立つようにデータが蓄積できれば何よりである。

 私が心から感動したこと、それはどの選手の腹部にも懸命な苦労のあとがありありと数字で現われていたことだ。皮下脂肪は5~6ミリ。最も少ない岩手県の新沼選手はへその横1cmで3.8ミリ、サイドの脇腹で4.0ミリ。三重県の浅野選手は中央部3.8ミリ、サイド3.8ミリというすごさだ。

 腹囲がまた感動的だ。優勝した須藤選手が73cm、2位奥田選手72.5cm、3位石神選手73cm、4位宮畑選手70cm、5位長宗選手70cmという結果である。75~80kgで、胸囲が120cm前後という圧倒的なボリュウムの大きさで、かつ腹囲をここまで引締めているのだ。

 これを読んでいるあなた自身、腹囲は何cmだろうか?ブヨブヨした脂肪を貯めこんではいないだろうか?

 「やればここまでできる」という極限の姿を私はここに見たのだ。新沼選手の場合「一週間で減量してデフィニションをつける方法」(本誌7月号・9月号)を実行して、実際に2.5kgの皮下脂肪(体重)を落としたという。どの選手も同様な苦心を自分なりにしたうえでの出場だ。甘い気持ではできないことだ。

4.腹囲と皮下脂肪に注目

 メジャーが1本あるだけで、腹囲と皮下脂肪は簡単に計れる。今回は本格的な英国製のファインメーター(いつも同じ10kg/㎠という圧力ではさんで測定できる計器。約5万円)で皮下脂肪を測定したが、自分で計るときはへその横1~2cmの中央部とサイドの脇腹を指でつまんで、厚さをメジャーで読みとるとよい。

 脂肪がどう付着しているかで体が完成しているかどうか、トレーニングが十分であるかどうかが判明する。

 ある人は次のように語っているが。まさにこれは重大な問題だ。

 「私は現在身長170cm・体重84kg・胸囲109cm・腹囲88cm・上腕囲38cm……である。25才当時と比べて体重は変らないが腹囲は8cmも増えている。いささか気になっている」と。結局、腹囲88cmにふえている原因はほとんどすべて脂肪である。とすれば同じ体重があっても筋肉はそれだけ落ちているわけだ。これでは意味がない。

 現実にこんな例はよくおこる。体重はコンスタントに保たれているが、トレーニングをやめていると「腹囲」や「皮下脂肪厚」に正直に現われる。懸命に練習すると、脂肪がへって筋肉の各部分のサイズが大きくなる。

 これからは筋肉の発達と同時に一つの重要な目安としてぜひ腹囲と皮下脂肪に注目してほしい。

5.ボディビルの発展のために

 今年のミスター日本コンテストのアナウンスには選手の体位発表がなかったようだ。例年なら名司会者の山際さんにより「ただいまポーズをとっている○○選手は胸囲115cm、腕まわり42cm……」という紹介があるのだが………。私はぜひ発表してほしいと思う。もちろん、この場合、正しく実測された数字であることが条件である。

 ボディビルは科学に基づいた現代的トレーニング法として評価と実績の高いものである。なぜなら、段階的にバーベルの重量・回数など、数字によって明確に把握して活用していくトレーニング法だからだ。その結果として体重・胸囲・腕囲・腹囲などを数字で追跡してとらえることが、同時にまた科学的に正しい方法である。実際に「○○kgふえた。△△cmふえた」ことが努力の目安であり、トレーニングのやりがいや生きがいになっていることはいうまでもない。それだけ重要な数字だ。たとえ1cmといえども大切なことである。

 従来、プログラムに記載されている体位は、とかく実測より大きい数字を発表するビルダーがあって不信感を持つ人も少なくない。だが、これだけ重要なのだから、正しく実測して公表し、多くの人が役立てたり、目標にしたり良い方向に活かしたい。誰だって「どの位のサイズがあるか」は知りたいにちがいない。

 コンテストの開始前や予選の間にテキパキと正しく測定できるようにすればできると思う。ボディビルの正しい普及発展のためにも、ファンに対するサービスの面からも、ぜひ実施していただきたいと思う。もちろん私も喜んで協力し、お手伝いしたいと考えている。
月刊ボディビルディング1976年12月号

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