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チャンピオンへの道
<心理学によるトレーニングの効果> 1977年1月号

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月刊ボディビルディング1977年1月号
掲載日:2018.07.10
川股 宏

岸体育館での記者会見語録

 NABBAユニバースでついに世界制覇をなしとげた杉田、須藤、榎本の3選手は、帰国早々の11月4日、東京の岸体育館で記者会見を行なった。

 ――ボディビルを始めた動機は?

 杉田――小さい時から強い遅しい体にあこがれていましたが、たしか中学3年生ごろ、ミスター日本になった土門さんの写真を見て、これだったら将来、自分も日本チャンピオンになれるなあとそのとき思いました。

 私は子供のころ体が弱く、なんとか強い体になりたいと思ってボディビルを始めました。そして、筋肉がついてくると同時に体も丈夫になり病気もしなくなりました。

 ――ボディビルをやっていて、精神的な悩みとか、あるいは収獲とかはありましたか。

 杉田――ボディビルを始めて十数年になりますが、その間にはいやになったりしたこともありましたが、自分自身の心をだましだましやってきました。なんといっても僕はボディビルが好きだったんです。

 須藤――私は何事によらず、いったんやろうと決心したら必ず最後までやり抜くという長所を持っているように思います。そして、長くやっていれば必ず大き収獲があるということを、ミスター日本、ミスター・バースに優勝してつかみました。

この両選手の二言、三言の中に大きなことをなしとげる秘密があるように思う。どんな強い鉄のような意志でも時にはぐらついたり、自信を失いかけたりすることはある。そんなとき意志の弱い人は始めの目的や希望を投げ出してしまうが、意志の強い人は、敢然とこれに向って突進する。

 杉田選手が自分をだましだましやってきたといっているが、一見、いかにも弱さがあるように聞えるが、決してそうではない。何か大きな壁にぶちあたったとき、簡単に自分自身をだませるものではない。杉田選手がいともあっさりと自分をだますことができたのは、その大きな壁を乗り越えるに足る強い意志が心の底にあったからにほかならない。すなわち、自分は将来、必ずミスター日本になるんだ、という信念があったからである。


 須藤選手の逞しい体と温和な顔、真面目で礼儀正しい態度からは、小さいころ体が弱かったとか、劣等感を持っていたとはとても想像できない。劣等感は、ときには人間をますます卑屈にしてダメにするが、また時には人間を大きく成長させることもある。

 劣等感や屈辱から這い上がろうとするには強い信念と大きな努力がいる。大きく成長するためには、劣等感や屈辱はまたとない踏み台なのだ。このチャンスをよけてとおるようでは大成することはできない。真正面から堂々とぶつかっていくべきである。

 自分は目的に対して忍耐強い性格だという須藤選手は、非常な計画性と強い信念を持ち合わせている。それは「会社の仕事やゲスト・ポーザーなどで、どんなに忙しくても、予定した練習だけは睡眠時間をけずっても絶対にやりました」と語っているのをみてもよくわかる。

 目標と希望のある人間だけが成功する。そして、その目標を達成するためには、いかなる障害も踏み台にする強い意志を養おう。どんな苦境に立とうとも、決してあきらめず、少しの可能性にでもかけて努力することだ。こうして1つの目標を達成したら、さらにもう一段高い目標を定めてそれに立ち向うのだ。

 筆者は同標に向って努力した3人の話を聞いて強い感動と敬意を払わずにはいられなかった。日本の選手は、今後追われる立場となったが、さらに後世に残る大ビルダーを目指して頑張ってもらいたい。チャレンジこそ男の生きがいである。プロに移る杉田選手、総合優勝をねらう須藤選手、明日に向って進む榎本選手に心から拍手を送りたい。
〔記者会見のあと記者団に上半身を披露する三選手〕

〔記者会見のあと記者団に上半身を披露する三選手〕

月刊ボディビルディング1977年1月号

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