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「強い選手になるために」②
“赤い筋肉”“白い筋肉”

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月刊ボディビルディング1977年3月号
掲載日:2018.08.30
野沢 秀雄(ヘルス・インストラクター)

1、第2の迷信にチャレンジ

「もうこれっきりこれっきり」「あなた変りはないですか」とついこのあいだ紅白歌合戦をきいたばかりなのにもう2月。キャンデーズの「もうすぐ春ですね〜ちよっと気どってみませんか〜」「ひとつ大人になって忘れませんか〜」という去年のあの歌がおかしくない季節になってしまった。今年はピンクレディちゃんがモテモテ。「ペッパー警部」「SOS」につづいてどんな曲がヒットするかな?

さてスポーツ全般にボディビルをもっと普及させようと研究しているが、昨年から「赤白問題」で頭を悩ませてきた。「エッ赤白って何ですか?」――まあまあこれからゆっくり読んでください。ビルダーのみなさんに関係が深い内容ですよ。「筋肉を発達させるとスポーツにマイナス」という迷信にチャレンジするわけですから。

2.筋肉を発達させるとマイナス?

ボディビルが日本に紹介された昭和30年代に「野球や水泳の選手がバーベルで筋肉を発達させると、記録がかえって悪くなる」という人たちがいて、「そうじゃない。オリンピックをみなさい。世界のどんな種目の選手でも、バーベルを使って筋肉を鍛えるのが当り前になっていますよ」とわかるまでたいへんな逆宣伝をしてくれたものだった。昭和50年代になってバーベルトレーニングを否定するスポーツ関係者はいないと思っていたら、またまた新しい理論で「ボディビルはよくない。重いバーベルはとくにマイナスだ」という説がジワジワ出はじめた。「赤い筋肉・白い筋肉」がそれである。

筑波大学陸上競技部でハイジャンプに明け暮れている真木敏裕君がくれた手紙を紹介しよう。私が県立長野高校へ講演や実技にいったとき知りあった好青年で、2m2cmの記録を持つ有望選手。昨春筑波大体育学部に入学してからもときどき手紙をくれて、トレーニングや食事方法について教えたり教えられたりで、お互い参考になっている。(写真は同選手のジャンプ踏切)
〔筑波大の真木選手。2メートルのハイジャンプを跳んだときの踏みきりの瞬間〕

〔筑波大の真木選手。2メートルのハイジャンプを跳んだときの踏みきりの瞬間〕

「大学院の先輩にきいた話ですが、筋肉には赤筋と白筋があって、赤筋は持久運動に耐えられるが瞬発力は弱く、白筋はその逆に瞬発性が強いというらしいのです。持久的な運動や、ゆっくりした運動をしていると赤筋が多くなってしまうので、フルスクワットなどのトレーニングはやめています。上体もベンチプレスより鉄棒で練習するようにいわれています」――こんな内容で意見を求められたのが昨年11月。

「うーむ。これはいかに、と思いあぐんでいるうちに、相模原の坂本直芳さんから「ソフトボールのクラブを結成したのですが、バーベルで筋肉を発達させると、打つ・投げる・走るなどにジャマだといわれ、採用されません」という電話。「ウム、ゆゆしきことだ早速くわしく調査しよう」と下記の調査研究をおこなった。

3、赤、白?わっかんねえな

「運動するときに作用する筋肉に、緊張筋と相性筋があって、両者は性質がちがっている。魚などの下等動物では赤身・白味とはっきり区別できるが、人間の筋肉は両者がいりまじっているので区別はつかない。だがその性質ははっきり区別できる」――体育生理学の本をわかりやすく表にまとめてみよう。
(小野三嗣著「健康をもとめて」児童思春期編より要約)

(小野三嗣著「健康をもとめて」児童思春期編より要約)

つまり重いバーベルを持ちあげてトレーニングすると、赤筋は鍛えられるが白筋は刺激を受けないので、赤筋の割合が多くなり、速いスピードや瞬発力を必要とするスポーツにマイナスというわけだ。「重いバーベルで低回数おこなうとバルクアップでき、軽いバーベルで回数を数十回やればデフィニションがつく。ランニングをとりいれたらデフィニションがつく」と経験的に言われていることと、一脈通じるところがあるかもしれない。

だがどうも筆者はフにおちない。ピンとこないのだ。

4絶対的な筋肉の太さが必要

「パワーを出すには筋肉の太さをふやすこと以外にない」と私は信じている。猪飼道夫氏らの研究によれば、筋肉の太さ、つまり断面積1㎠あたり出せる力は一定の4〜6kgときまっている。子供でも女性でも屈強なスポーツマンでも共通だ。だから強いパワーを出すには筋肉を太く大きくしなければならない。

猛スピードで走ったり、高く跳んだりするときは、グラウンドを脚で思いきり力強くけるパワー(筋力)が必要だ。それには大腿四頭筋をはじめ脚や臀部の筋肉を大きく太く発達させた方が有利である。脚の太い選手ほどラグビーやサッカーなど優秀である。釜本選手の脚は65〜66cmもあるのだ。

長距離ランニングの場合は、瞬発力よりも長時間持続する力が必要であるが、そうかといってバーベル重量を増して脚を太くしているかというと、むしろ逆でバーベルトレーニングよりひたすら走りこむトレーニングが主体であろう。筋肉の太さより、筋肉に酸素や栄養素を効率的に送りこみ、筋肉内で燃焼するサイクルがどこまでうまく続くかが勝利のポイントだからである。とすると、赤い筋肉・白い筋肉の学説と矛盾するように思えてならない。

もちろん長距離選手の脚は、筋肉がよく発達していて、一般のわれわれよりすばらしいことはいうまでもない。ウェイト・トレーニングで脚をもっと太く鍛える選手が、これからは有望だと私は考えている。

5.みなさんの体験や意見を寄せてください

運動部の練習といえば、「花の応援団」をみるまでもなく、うさぎとび、階段の登りおり、腕立て伏せ、シットアップ、ランニングなど、繰返し、繰返し、同じことの連続である。だが同じ水準の練習をいくら繰返しても筋肉の太さは増さない。徐々にプレートを重くして、負荷を増した練習をしないとパワーは自分のものにならない。

いやむしろ「同じ条件で繰返していると人間の筋肉は、その負荷に使う量をへらして効率よくしようとする」という事実がある。慣れてくると、たいしたパワーを必要とせずに目的を果すようになる。ワザとか技術だ。だがそれでは筋肉が発達しないで、小さく固まってしまう。望ましいのは筋肉も大きく発達しそのうえに技術が伴うことだ。両方共に伸ばす努力がいるのではなかろうか?

うさぎとびを毎日100〜200回やるよりバーベルをかついでスクワットを3~5セットずつ重量をふやしながら練習したほうが脚力の増加にずっと効果的だと考える。「ボディビルをとりいれてスポーツの記録向上に成功した」という実際体験を、これからはどんどん集めてゆこう。それが普及のための有力な資料になる。

私自身、指導して成功した例を本誌上に発表してゆくが、これを読んだみなさんも、自分やまわりの体験をぜひ私にお知らせください。意見や参考となることも大歓迎です。

(筆者は「健康体力研究所」代表)
月刊ボディビルディング1977年3月号

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