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◇一般社会人の体力づくり◇
 ウェイト・トレーニングのすすめ

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月刊ボディビルディング1977年4月号
掲載日:2018.08.27
日本ボディビル協会事理 名城大学 鈴木正之

I はじめに

 一般社会人の基礎体力の養成や健康増進等の問題は、いわゆる体力づくりと呼ばれる手段で広く行われている。とくに壮年層の体力問題は、ここ数年体育学研究報告やマスコミ関係が広く伝えているが、必ずしも積極的意見ばかりでなく、一面においては消極的な研究報告もある。

 しかしながら現実は、現代社会の要求や基礎体力づくり、健康管理、予防医学の問題等から、あるいは保険体育審議会の答申を見てもあきらかなように、一部筋力を除き体力の低下を指摘し、疾病状況については、心臓疾患、高血圧、糖尿病等の増加を指摘している。これらの諸問題に対して、各種スポーツの実施や、種々のトレーニング手段が生まれてきている。それが最近のエアロビクスやトリム運動、そしてフィールド・アスレティックなどの運動方法であると思う。

 また一方、条件の完備した、手近なところで行える室内トレーニング場における体力づくりも盛んである。そこで、社会体育としての体力づくりの実践指導の立場から、私が過去5年間、B社において試行錯誤しながら実施してきた体験をもとに、ウェイト・トレーニング、サーキット・トレーニングのトレーニング手段の是否、およびその成果や問題点について報告したい。

Ⅱ トレーニング室設立より現在までの経過

47.2 B社体育館落成。サーキット・トレーニング室できる。トレーニングは日曜を除き週6日。サーキットトレーニングの指導の依頼を受ける(週に1回指導)。

47.3 サーキット・トレーニングの指導を始める。登録会員は28歳以上の男子と女子で合計200名。始めのころは週1回の私の指導日の受講者は40~50名で満員であった。

◎開始に当って説明および注意したこと。
a 入会者全員に体力テストを実施し体力の現状を把握させ、6ヵ月後にその成果の確認を行う。(6ヵ月点検、1年点検)
b 種目はアダブソン・モーガンのサーキット種目を基本に、他は独自の種目を配置する。
c トレーニング種目の最高能力を測定して、その1/2反復回数で3セット・サーキットを実施し、1ヵ月またはトレーニング回数が20回に達するまで基礎コースの実施をさせる。
d トレーニング頻度は平均週2~3回で、ゆっくりと総所要時間の短縮を試みさせる。

47.4 1ヵ月後、私の指導日の受講者は20名程度に減少する。

47.6 3ヵ月後、夏場に入ったこともあり、受講者は10名前後となる。

47.8 受講者はさらに減少し、5名程度となる。

47.10 秋になって再び会員は増し、受講者も10~15名程度となり、メンバーが固定しだす。

48.1 冬になって再び受講者は5~10名ぐらいに落ちる。

48.3 会社側のPRのため新会員が入る。

48.4 指導方針を変える。サーキットは目標がつかみにくく、マンネリ化しやすいので、ウェイト・トレーニングに力を入れて指導することとする。サーキットは初心者の基礎コースのみ残す。

※この1年間トレーニングを続けた会員は50名、その内、週1回以上トレーニングした人は23名。

48.7 再び受講者が5~10名ぐらいに減る。ウェイト・トレーニングにもマンネリ化の原因があると考える。
(記録挑戦の発想)

48.10 会員がやや増し、ウェイト・トレーニングの会員が固定してくる。延べ登録会員数300名をこす。

49.1 15名位の会員は完全に固定し、ウェイト・トレーニングの指導体系も確立してきたが、オイルショックのため、会社がトレーニング室に力を入れなくなる。当然、会員数の減少が予想される。

49.4 4名のベテラン会員にサブ・コーチの資格を与え、会員の体力テストや指導をまかせる。
サーキット・トレーニングは希望者のみとし、ウェイト・トレーニングの指導方法の1つとして、トレーニング効果を知るために記録会(パワーリフティング)を実施する旨通知する。

49.6 第1回記録会を行う。参加者より大変好評を得たので、以後1年に2回(4月と10月)記録会を実施することに決定。記録会はトレーニングの基本種目、すなわちベンチ・プレスとスクワットの2種目とし、簡単な賞も出す。

49.2 愛知県ボディビル協会設立にともない、ウェイト・トレーニング愛好グループをクラブ組織としてこれに加入、ウェイト・トレーニングを本格的かつ競技的に始める。(クラブ部々員20名でスタート)

50.4 日本ボディビル協会、日本実業団ボディビル協会に加盟。依って、ウェイト・トレーニング(ボディビル)を中心として実施している。この方法がトレーニングとして継続しやすいと思われるので今後も続けてみる。
サーキット・トレーニングはそのまま基礎コースとして残し、新入会員に実施させていく方針。

Ⅲ B社のトレーニング実施上の成果と問題点

 こうして48年3月、サーキット・トレーニング希望者200名(壮年140名、青年20名、女子40名)でスタートし、約1年後の49年4月までの間、完全に継続できた者が23名(壮年15名、青年8名)で、40~50名が時々という現実である。

 このトレーニング離れの傾向は、どこのトレーニング場でも見られる傾向で、トレーニングを継続させることの難しさがでている。この点に体会体育の体力づくりとしての大きな課題があると思う。とくに実践指導の立場からいえば、義務観念のない一般社会人の場合は、トレーニングがいやになればそれが必要だとわかっていても直ちにやめてしまう。ここがきわめて難しい問題である。

 そこでB社の場合は、継続し易いウェイト・トレーニングに指導体系を変えたわけであるが、その成果は次の表のとおりであった。
壮年体力テストの結果(種目=反復、垂直、握力、ジクザク、急歩)

壮年体力テストの結果(種目=反復、垂直、握力、ジクザク、急歩)

 この平均得点89.5点の持つ意味は、総合的体力づくりについては、サーキット・トレーニングにこだわることなくウェイト・トレーニングでも総合的基礎体力がかなり育成されることが明らかである。よってウェイト・トレーニングは、ボディビル・トレーニングも含めて、学校体育はもとより、社会体育としても極めて有効なトレーニング手段であるといえる。

Ⅳ B社のパワー記録会の変化

 前述したように、トレーニングは確かな精神的位置づけや動機づけがなければ継続しないので、指導者はそれを与えていかなければならない。そこでトレーニング目標(大会や記録会)や代償(体力の向上、健康)を与えようという発想から、トレーニングの基本種目である。ベンチ・プレスとスクワットの記録会(パワーリフティング)を始めたところ、会員は目標が把握でき自己記録向上を楽しみにトレーニングに打ち込むようになった。

 記録の延びも大変良好で、別表のように継続者の記録を追ってみると、開始時の平均記録がベンチ・プレスで44.5㎏、スクワットで69㎏、トータル113.5㎏であったものが、4年後の現在ベンチ・プレスで100㎏、スクワットで142㎏、トータル242㎏と大きな記録の伸びを示し、トレーニング目標の上で、また大量増強の確認手段として成功している。

 このことは、ボディビル・コンテストのように身体の変化を求めてトレーニングを継続させるより、刻々と筋力が変わるウェイト記録に挑戦させた方がトレーニング効果の目安が把握しやすいからだといえよう。そこで会員に対しては年に2~3回ぐらいの記録会を実施するのが望ましいように思われる。

 記録会としては、ときにパワーリフティング種目にこだわることなく、スタンディング・ローやデッド・リフト、あるいは、懸垂や腕立屈伸、シット・アップ、ヒンズー・スクワットの反復回数等への挑戦などもおもしろみを持たせ、励みをもたらすことと思う。
(つづく)
B社の記録会成績

B社の記録会成績

月刊ボディビルディング1977年4月号

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