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<ボディビル入門講座>その3
トレーニング・スケジュールの作り方、考え方

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月刊ボディビルディング1977年5月号
掲載日:2018.07.27
 国立競技場指導主任 矢野雅知

④最上級者のトレーニング

 トレーニング強度が増すにしたがって、筋肉は常に新しい刺激を求めるようになる。したがって、コンテストを目指すような最上級者になると、前号の「経験者のトレーニング」の項で述べたよりもさらに強い刺激を筋肉に与えることが必要になってくるかも知れない。

 そこで、世界のトップ・ビルダーのように、高度の体力と回復能力を持つボディビルダーが採用しているシステムをここでは紹介する。しかし、この方法はトレーニング経験の浅いボディビルダーは用いない方が賢明である。彼らトップ・ビルダーにしても、1年中同じような激しいトレーニングを続けているわけではない、ということを銘記しておいてもらいたい。

 たとえば、フランク・ゼーンなどは「スプリット・ルーティンは、あまりに長く続けるべきではない」と述べている。強度のトレーニングを長く続けていると、結局そのためにからだに蓄積した疲労を除くために、長いレイ・オフをとらなくてはいけないことになってしまう。

◎トレーニング・コース作成の基本的なシステム

 経験者のトレーニングでは、スプリット・ルーティンを採用することによって、各筋群には多種目、多セットのトレーニングをできるようになったが、さらにトレーニング強度が高まってくると、それ以上にエクササイズもセット数も増えてくる。そうすると、スケジュールの終りの方では疲労がたまってきて、充分に集中することができなくなってくることもあろう。そこで、ダブル・スプリット・ルーティンが用いられることになる。

◎ダブル・スプリット・ルーティン

 スプリット・ルーティンでは、たとえば上体・下体とコースを分け、それを日を変えてトレーニングしたが、ダブル・スプリット・ルーティンではさらに午前と午後に分割してトレーニングする。上体のトレーニングをする場合には午前中に上体の前半のトレーニングをやり、後半のトレーニングは午後(夕方)にやることになる。つまり、1日に2回トレーニングするシステムなので、それだけに1回に行うトレーニング強度はかなり強いものをやることができる。

 では1例として「世界トップ・ビルダーのトレーニング法」(窪田登)からフランク・ゼーンのとったトレーニング・コースを記してみよう。
<月・水・金の朝>

<月・水・金の朝>

<月・水・金の夜>

<月・水・金の夜>

<火・木・土の朝>

<火・木・土の朝>

<火・木・土の夜>

<火・木・土の夜>

 以上のコースはかなりのトレーニング量であるが、ダブル・スプリット・ルーティンなのでこれだけの量をこなせるのである。それでも「8週間以上にわたって使うことはよくない」とフランク・ゼーンは述べている。

◎スペシャライゼーション

 つまり集中法である。かなり長期間にわたってトレーニングを続けていると、必ず発達の遅れている筋肉部位というものがあるはずである。たとえば、上腕三頭筋の発達は著しいが、上腕二頭筋は物足りないとか、とくにべンチ・プレスに力を入れてトレーニングしていても、思ったように胸のバルクはつかずに腕や肩の方がどんどん発達してしまうとかいうことがある。

 そのために、発達の遅れている筋群を集中的にトレーニングする必要がある。あるいはまた、ある期間にわたってそれぞれの筋群を集中的にトレーニングして、一筋群ごとにもっと大きく発達させていこうということもある。そこでスペシャライゼーション(集中法)を採用することになる。たとえば各筋群のスペシャライゼーション・コースは次のようなものとなる。

<胸のコース>
①バーベル・ベンチ・プレス
②ダンベル・ベンチ・プレス
③べント・アーム・ラタラル・レイズ
④インクライン・ベンチ・プレス
⑤ディップ(またはデクライン・プレス)
⑥ダンベル・プルオーバー

<肩>
①バック・プレス
②ダンベル・プレス
③サイド・レイズ
④ベント・オーバー・サイド・レイズ
⑤ハイ・クリーン
⑥アップライト・ローイング
⑦ショルダー・シュラッグ

<上背>
①チンニング
②ベント・オーバー・ローイング
③ラット・マシーン・プルダウン
④ベント・アーム・プルオーバー
⑤エンド・オブ・バー・ローイング
⑥ワン・ハンド・ローイング

<腕>
①ツー・ハンズ・カール
②フレンチ・プレス
③スコット・カール
④ライイング・トライセプス・プレス
⑤インクライン・カール
⑥ラット・マシーン・プレス・ダウン
⑦ワン・ハンド・コンセントレーション・カール
⑧ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション

<脚>
①スクワット
②レッグ・プレス
③レッグ・エクステンション
④シッシー・スクワット
⑤レッグ・カール
⑥カーフ・レイズ

 以上のコースを実施するにあたっては、各自の能力に合わせてそれぞれのセット数、レピティションを決定しなくてはならない。これはセット法になっているが、それぞれスーパー・セットやトライ・セット、あるいはバーンズといったものを必要に応じて組み入れるとよい。

<スペシャライゼーションの実施上の注意点>
 スペシャライゼーションで注意しておかなくてはならないことは、一筋群にばかり集中していると他の筋群が衰えてしまうので、現状を維持できるだけのトレーニングはやっておく必要がある。

 たとえば、胸のスペシャライゼーションを行う場合、月曜・水曜・金曜というように1週間に3回実施するとすれば、マッスル・プライオリティ・プリンシプル(筋肉優先法)にもとづいて胸の運動をやったあとで、各筋群のエクササイズを1種目だけとり出して2~3セットほどやるというようにする。また、1週間に6回、もしくは5回行うという場合には、胸の運動だけを月・水・金に行い、火・木・土(あるいは火・木)には他の筋群のトレーニングをするという方法もある。

 このように、スペシャライゼーションは、一部分の筋肉を徹底的に多角的に鍛えようというものであるから、あまり長期間にわたって同じ筋群にばかり集中することはよくない。各人の個人差はあるが、およそ1ヵ月ぐらいまでがよいであろう。

 このスペシャライゼーションによく用いられるシステムに、スーパー・セットやトライ・セットをさらに強烈にしたジャイアント・セットがある。

◎ジャイアント・セット

 これは別名スーパー・ダブル・トライ・セットといわれるように、6種目ぐらいの同一の筋群を鍛えるエクササイズを休みをおかないで連続してトレーニングしていく方法である。

 たとえば、上腕三頭筋のジャイアント・セットとして

①フレンチ・プレス
②クローズ・グリップ・ベンチ・プレス
③ラット・マシーン・プレス・ダウン
④ライイング・トライセプス・プレス
⑤トライセプス・プッシュ・アウエイ
⑥ワン・ハンド・トライセプス・プレス

 以上の6種目で組んだら、①~⑥までのエクササイズを連続して行なってこれで1ジャイアント・セットが終了したことになる。そこではじめて休憩をいれる。これを普通2~5ジャイアント・セット繰り返していく。もちろん、あまり重いウェイトは使用できないが、徹底したパンプ・アップを狙うので、筋力の向上よりも筋肥大に適しているトレーニング法といえよう。

 また、スペシャライゼーションで用いたコースはそのままジャイアント・セットのコースとなるので参考にしていただきたい。

 このほかにもいくつか上級者によく用いられるトレーニング・システムがあるので、それらを次に紹介することにする。

◎チーティング法

 反動を全く使わないで、終始、正しい運動動作で行う方法をストリクト・スタイルという。それに対して、反動を利用してウェイトを持ち上げる方法をチーティング・スタイルと呼んでいる。初心者の段階ではストリクト・スタイルで行うことが原則であるが、経験者のトレーニングになると、チーティングを用いて重いウェイトを使用することがある。それは次のような理由による。

 たとえば、上腕二頭筋の運動としてバーベル・カールを行う場合に、ヒジ関節の角度が90度ぐらいになると、テコの関係から最も強い抵抗が加わる。つまり、バーベル・カールの運動中、この位置が最もキツイところとなるので、これをスティッキング・ポイントと呼んでいる。ということは、バーベル・カールで用いる重量は、正確なストリクト・スタイルで行うには、このスティッキング・ポイントを通過させられるものでなくてはならないことになる。

 仮にヒジ関節の角度が90度の位置では30kgの筋力しか発揮できなくて、35度の位置なら60kgの筋力があっても、使用できる最大重量は30kgまでということになってしまう。したがって、ヒジ関節が90度以外の位置では最大限まで筋肉を働かせていないということになる。そこで、重いウェイトを用いてスティッキング・ポイントはチーティングを使って通過させ、それ以外の関節角度における筋肉に十分な刺激を与えようというのがチーティング法の大きな目的になる。だから、チーティングを用いる場合には、反動をつけてバーベルを持ち上げたら、上腕部に緊張を感じながらゆっくりとおろしていくのが効果的である。しかし、これには意識の集中力がなくてはならないので、上級者向けのテクニックといえよう。

◎ストリクト・プラス・チーティング・スタイル

 ストリクト・スタイルで運動を開始して、疲れてきて正確な動作で運動ができなくなったらチーティング・スタイルに切りかえて、さらに数回くり返すという方法である。

 このタイプのもので、チーティングをあまり用いないで行うテクニックにマルティ・パウンデッジ・システムやフォースド・レプスがある。

◎マルティ・パウンデッジ・システム

 バーベルの挙上を続けていって疲れてきたら、重量を次々と減らしていくという方法である。重量を減らすためにパートナーがバーベルの両サイドについて、最初の重量が持ちあげられなくなったら、す早くプレートをはずしてやる。疲労が限界に達するのを次々とくり返していくトレーニング法なので、かなりキツイものである。だからそれだけオーバー・ワークの危険性もあるので注意しなくてはならない。

◎フォースド・レプス

 これはマッスル・パウンデッジ・システムと似ている。違っている点は、フォースド・レプスでは疲れてきて持ち上げられなくなったら、重量を減らしてもらうのではなくて、パートナーがバーベルをささえて挙上を助け、さらに数回くり返すのである。ベンチ・プレスの場合なら、パートナーは両サイドにいて挙上を助けてやる。パートナーが1人の場合には、バーベルの真中を持って補助する。

 このトレーニング法もかなりキツイものなので、長期間にわたって採用するとオーバー・ワークの危険性がある。

 ボディビルディングは、単に外見上の筋肉の大きさだけをひたすら追求するのではなくて、同時に持久力(スタミナ)も獲得してこそ「正しいボディビルディング」といえるであろう。そのためにウェイト・トレーニングを行なったあとで、ランニングや縄跳び、あるいは休日にはサイクリングなどをするトップ・ビルダーも少なくない。

 この全身持久力をみるバロメーターとして最も適切なのは脈拍数である。「エアロビクス」のケネス・クーペーは、全身持久力を高めるために次の条件を示している。

①運動が充分に激しく、心拍数が1分間に150以上である場合は、運動開始後約5分でトレーニング効果があらわれ、その運動が持続される限り長く持続される。
②運動があまり激しくなく、心拍数が1分間に150に達しないか、あるいは毎分150のレベルを維持できないが、それでもかなりの酸素を必要としている運動の場合には、運動は5分間で終わらずに、さらに長く持続する必要がある。そしてその持続時間は、消費される酸素の量によって決まる。

 その他、脈拍数については、運動生理学者は、いろいろな意見をもっているが、おおむね、スタミナを向上させるには脈拍数が130以上になる運動を続ける必要があるようである。

 以上のことを考慮してウェイト・トレーニングをみてみると、一般にはセット法が中心に用いられており、セット間の休憩が長くとられるので、運動時に高まった脈拍数が休憩の間にもどってしまうことになるので持久力は向上しないということがいえよう。そこで、筋力も向上させ、なおかつ持久力も高めようというオールラウンドの体力づくりの方法として考えだされたのがサーキット・トレーニングである。

◎サーキット・トレーニング

 これは1953年頃にイギリスのリーズ大学講師であったモーガンとアダムソンが考案した著名なトレーニング・システムである。現在では、ほとんどのスポーツマンが基礎体力づくりの有効な手段として用いているといっても過言ではない。それは次のようなものである。

①種目の選定
サーキット・トレーニングはオールラウンドの体力を向上させ得るが、何を重点的に鍛えるかということで種目も違ってこよう。
たとえば、持久力の向上に重点を置くなら「折返し走」や「ベンチ・ステッピング」などのように、呼吸循環器系統に負荷のかかるような種目を多くして構成するのがよい。また、筋力などに重点をおきたければ重いウェイトを使って「ベンチ・プレス」や「ツー・ハンズ・カール」などのエクササイズを用いるのがよかろう。筋持久力の向上に重点をおくなら、軽いウェイトを用いてくり返し回数を多くすればよい。

②種目の配列
6~12種目程度の種目を選び出したら、これを同一筋群を連続して使わないように配列する。たとえば、腹を鍛える運動を行なったら、次は腹以外の、脚とか背の運動などを行うようにする。

③負荷の決定法
まず各種目の最大重量(最大負荷)をテストし、その半分がこのサーキット・トレーニングで用いる負荷となる。たとえば、ベンチ・プレスで最大100kgまで出来るなら、使用する重量は50kgということになる。あるいは、ベンチ・ステッピングのように何十回とくり返しができるようなエクササイズでは、1分間とか45秒間というように一定時間内での最大反復回数をテストして、その半分を用いる。
また、これはアメリカでよく採用されているやり方だが、最大負荷の2/3を用いる方法もある。これだとさらに筋力は向上しやすくなるだろう。

④トレーニングの進め方
かりに8種目でサーキットを組んだとしたら、配列順序にしたがって、8種目を連続して次々と行なっていき、原則としてこれを3循環する。そして、そのときにかかった所要時間の70~80%を目標タイムとする。たとえば、20分間かかったという場合なら、目標タイムは14~16分間ということになる。この目標タイムに到達するようにトレーニングを続けていくのである。こうして、この目標タイムに到達したら、再び①②③に述べたような手順で種目の選定、配列、負荷を決めてトレーニングを進めていく。

◎シークエンス・トレーニング

 サーキット・トレーニングを発展させた形としてシークエンス・トレーニング(あるいはP.H.Aシステム)がある。これは1965年頃に運動生理学者のアーサー・スタインハウスのアドバイスにより、ボブ・ガイダが開発したものである。これも筋力、持久力等のオールラウンドの体力を養成することができるが、ボブ・ガイダはミスター・アメリカのタイトルを取ったほどなので、筋肉を肥大させる効果も大きいものがある。

 トレーニングの進め方は、5~6種目の運動からなるグループを2つ以上用意して、1つのグループを何循環かしたら休憩をとり、次のグループに移っていくというシステムである。グループの数や、各グループごとの循環する回数などは各人の体力に合わせて行う。トップ・ビルダーの中には5つのグループをつくって、それぞれ5~10循環する人もいる。

 各グループのエクササイズは、サーキット・トレーニングと同様に、連続して同一の筋群を使わないようなものを配列する。
(おわり)
月刊ボディビルディング1977年5月号

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