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女の独り言①

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月刊ボディビルディング1977年5月号
掲載日:2018.05.27

いまから10年前〝これは何だ〟

ボディビルなるものの存在を知ったのはもう10年も前、早稲田の文化祭を見に行った時のこと。
女の子3人でペチャクチャおしゃべりしながら、にわかづくりのおでん屋をひやかしたり、オチ研の落語をヤジったり。ブラリブラリとやってまいりました、ミスター早稲田とやらのコンテスト会場。ミスターというからにはきっとイイ男が集まるに違いない、見よう!見よう!と、即意見一致でなぜかそぞろ浮き足だって会場に入るが、一歩踏み込んで驚いた。

なんと、そこにはパンツ1丁のむくつけき男どもがライトに照らされて並んでいるではないか。これは悪夢か幻覚か。まるで異質の別世界。ナンタルことぞ!!と我が目を疑いつつも、足は前方に向って一歩進んでいた。

連れの1人は、見てはならないものを見てしまったかのごとく「いやぁねぇ」と、顔赤らめてうつむきつつ、我が新調のセーターをひっばる。その手を「こうるさや」とはたきおとして、また一歩。もう1人は「エログロナンセンス」と耳うちしながらニヤニヤ。私はなぜか恥ずかしいとも、いやらしいとも思わなかった。ただ「これは何だ?」という疑問あるのみ。???とクエスチョンマークが頭の中をグルグルまわりはじめる。

夏の浜辺ならともかく、大都会の真中の普通の建造物の中にハダカがズラリ。たしかに異様ではある。でも、こう堂々と並んでいるとナマナマしさはなく、なにかの物体……ギリシャ神像のようにとはいえないが、まあ、素人づくりの彫塑くらいにはみえる。

舞台では、メロディーにのったり、のりそこなったりしながら、1人ずつポーズをとっている。あ、力こぶだ。脚の力こぶもある。(のちにカーフという言葉を知った)
こんなに力こぶが出るぞ、と誇示しているのかな。それにしても、ミスなんとかのコンテストとはえらい違いようだ。マスクとスタイルがよくて、ちょっと気のきいた趣味があって、エスプリに富んだ会話ができる。そんな男が集まっているものと、かってに決めていたものだから、とまどってしまうよ。

私たちと同じように、わけもわからず入りこんできた見物人たちも、どう反応していいのかわからなくて笑ったりする者もいる。ハダカの男たちはもちろん笑ったりはしない。お愛想なしに口をへの字に結び、いたって真面目に動作を続ける。
顔立ちも知性も抜き。とにかく筋肉が大きくついているのが良いのだろうか。(なにせ、最初の印象のことゆえ無知と偏見に満ちているのはご勘弁)男の価値感には、こんな基準もあったのかと新鮮な驚きでいっぱいになる。

会場を出ると、キャンパスをゆきかう男たちが、ヤケにひよわに見えた。

女の独り言②
そして10年後のいま
〝ほめるべし〟

等身大の鏡の前、ビルダーのMは、飽かずに己が姿を眺めている。300ワットの撮影用のライトをこうこうとつけて、しげしげと胸を見る。じっと腹を見る。裏を返して背を見ることしばし。ちょっとポーズをとってみたりする。

こんな時、一言二言ほめてあげるととても喜ぶのだ。落語には、子ぼめ家ぼめと出てまいりますが、ボぼめではおおむね「大きくなりましたね」というのがよろしいようで。同じ言葉を何度言っても、そのたびに喜んでくれるからやりやすい。

「やせましたね」「太りましたね」はタブー。やせたと聞くと肉が落ちたとガッカリし、太ったといわれれば、食べるだけ食べてトレーニングをさぼった怠け心を非難されているようで胸が痛むのだそうだ。ホントはもっと細かく、二頭筋がどうのこうのとか、バルクがこうつくといいとかアドバイスできるといいんだけど、なまじ知らぬことを口走って、ポイントを外れていると逆効果なので、もっぱら九官鳥。
「メリハリがついてきたでしょ?」
「そうね、メリハリがついてきた」
「ホラ、肌につやが出てきた」
「とてもつやつやしていること」
きょう腹筋の練習をやったといえば「フーン、そういえば腹筋がしまったみたい」とか、首をやったといえば,「首が太いと迫力出るわ」などと言っていればマチガイない。(ハハハ、手の内を見せてしまった。これからほめにくくなるなァ)

ボディビルはまったく個人的なスポーツではあるが、お互いにほめあうという意味からだけでも仲間は必要だ。女性たちが、スルドイまなざしを相手の全身に走らせて、オシャレをほめたりけなしたりしながら、センスを磨きあうように、仲間の一言が刺激となって、期待に応えるべく一層励むようになるかも知れないのだ。目に見える成長が止まっても、やる気マンマンで練習を続けていれば、またグンと伸びるそうだが、この「やる気マンマン」を持続するのがむずかしい。
ともあれ、身近にいる人が言葉惜しみをせずに、どんどんほめてあげるのがいいと思うのです。要は、ビルダーが気分よくトレーニングできるようにと願うのみ。
(大賀愛子)
月刊ボディビルディング1977年5月号

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